第097話:遠藤美々VS組紐銀醸
組島銀醸:東郷派閥の侯爵家の孫。
雫:組島四天王の1人で、紅一点。武器は短刀。
天海:組島四天王の1人。武器は野太刀。
岩山:組島四天王の1人。武器は棍棒
前田:組島の仲間。司会
■東郷流:
東郷源十郎が開祖の武術、関節毎の力のロスを極限までなくし、力、体重その全てを集中させた一撃を打つ。極めた者から放たれる攻撃は全て1撃必殺であり、小手先の技など不要。
その手段から体の各部位が全て同時に動くため、先の先を見逃せば勝機は無い。しかし、使い手を選ぶ欠陥武術であり、開祖である東郷源十郎であっても使いこなせなかった。
遠藤美々は赤ん坊の頃から源十郎から東郷流を命がけで叩き込まれており、そのうえドラッグを使った肉体改造もされているため唯一東郷流を使える人間である。
■組島流:
DRD世界の東郷源十郎の一番弟子である組島与平が開祖となる武術。東郷源十郎が欠陥であるため東郷流を名乗らなかった。
そのまま行方不明となったため、組島流として調整したもの。
「火事と喧嘩は江戸の華、組島銀醸の喧嘩屋チャンネル~~」(前田)
いつもの前田の声が11層最初のセーフルームに響く。階層エレベーターのおかげでいままでよりは人がいるが、昼を過ぎ夕方の手前であるこの時刻では上の階層から降りてくるか、元の階層に戻る人だろう。
転移柱は全て入口付近ではない場所に設置されているため組島達がいる場所は多少迷惑くらいの場所だ。それくらいのことで侯爵家に盾突くことなど出来ない。
『はじまった』
『ちは~す』
「今日の対戦カードは四天王の紅一点、雫!」
『おお! 雫様だ!』
『ひさしぶり!』
『踏んでください!』
充分コメントが流れたのを確認して、対戦相手を紹介する。
「と今噂のダンジョン学園1年F組、遠藤美々だ~」
画面には加藤達と登校する美々の姿が映し出される。他の人と間違わないように、美々だけクローズアップされている。口にはいつもの煙管がくわえられている。服もゴスロリ服を着ている。
他の写真もあったが、全て美々の視線はカメラを向いており、どうにもやらせ臭くなってしまう。他の人からもカメラを向けられていたあの日しか写真が無かったのだ。
『ちっちゃい子に煙管、ゴスロリとか属性もりすぎ』
『属性が渋滞起こしてるぞ』
『どうみても仕込みです本当にありがとうございました』
写真に写る美々の奇妙な出で立ちにコメントが湧きたつ。
『あれ、写真の人花籠白雪じゃね?』
『あ、本当だ普段からガスマスクつけているのかよ』
「はい、リスナーの皆さんもご存知のとおり、彼女は1年F組です」
『おいおいまじかよ』
『遂に落ちるとこまで落ちたな』
『やっぱやらせじゃね、周りの人達の視線も彼女向いてるし』
『そりゃゴスロリだからだろ』
「なんと彼女は火喰い鳥を2人で倒したという噂があります!」
『はぁ』
『なにそれ』
『今回は盛り盛りやん』
「こちらの写真をごらんください」
写しだされたのは階層エレベーターが発見されたときのダンジョンテレビの画像だ。紅雀と思われる部分に丸で印がつけられている。
「この写真の武器! これがその紅雀なのです」
『いやいや嘘だろ』
『確か数億とか』
『おいおいまじかよ』
『いやネットで今調べたけど本当だ』
実はリスナーの中に何人かサクラがいる。
「おーっと説明はここまで、対戦相手のお出ましだ~?」
『写真よりもちっちゃいな』
『やっほー見てる~?』
『目つきの悪さはそのままだな』
『紅雀どこ~?』
美々は自分に向けられている感情に気付いている。煙管の灰を携帯灰皿にいれながら、11層の出口に向かって歩いていく。
美々の進路上を雫が塞ぐ。
「邪魔じゃ、のけ」(美々)
「口悪」(雫)
「人の進路を塞ぐよりはましであろう」
「……それもそうね。ここを通りたければ私と戦いなさい」
雫は決闘カードの片方を持って美々に差し出す。
「くだらん、他でやれ」
「断るんだったら、お姉さんに対戦相手になってもらうしかないかなぁ」
『え? お姉さんいるの?』
『うっわえげつな』
『なにお姉さんいるの?』
『さすが町田きたない』
舌打ちした美々が雫の出す決闘カードに向かって手を伸ばす。
「えっ!?」(雫)
決闘カードへ延ばされた手は、決闘カードをすり抜け、下から上に付き上がるように肘が伸び、彼女の鳩尾に突き入れられる。八極拳の頂肘と呼ばれるものへと変わる。
「がっ、は……」(雫)
凄烈な衝撃に雫の体がくの字に曲がる、さらに自動的に下がった頭を迎撃するかのように膝が顔面へと付き上がる。
突き上げた足が地面に付く前には、逆の足が地を離れ、腰が回り、軸足を交代した回し蹴りが、胸を打ち、冗談か何かのように雫を吹き飛ばした。
(……)(組島)
その動きを前に、組島は自分の目を疑った。今の彼女の動きは間違いなく組島流だ。
東郷流は力のロスを極限まで無くしたものだ、当然それは特徴的な動きになる。組島流も考え方は同様だ、東郷流の弟子が開祖なのだから当然だが。
ありえない、自分以上の使い手など。その気持ちのぶれが美々の姿を視界から消えさせていた。あるいは無条件に目を逸らせたのかもしれない。
「「銀醸様!」」
珍しく焦った声に意識が戻ると、自分の前を護衛2人が塞いでいた。
しかし、美々のスピードを損なわない蹴りが護衛の一人をよろめかせる。F組しかも1年生に雫が吹き飛ばされるという異常事態に皆が呆然とする中、美々は一直線に組島に向かって走っていた。
ボスは最後にといった思考など、美々には無い。いや、ヘッドだからこそ潰す、のこのこ前線に出る大将など美々からすれば格好の的でしかない。
『は?』
『え?』
『は?』
『は?』
護衛の声に雫を映していたカメラも吟醸の方へ向く。その時には、組島の目前に美々がいた。
組島から見た、美々の顔からは、何も読み取れない。恐怖も嘲りも笑いも無い。
ぞわりと組島の背筋が凍る。
その本能的危機感に組んでた腕をほどいた時には、蹴りが顔面を貫いていた。
「そこまでです!」
女性の護衛が銃を抜いて、美々に銃口を向けている。
「確かに最初にけんかを……!?」(女性護衛)
確かに今回けんかを売ったのは組島側だ、加害者側はこちら側だが、それでも護衛の仕事は別だ。
だが、言い終わる前に、美々の後ろ回し蹴りが護衛の手を刈った。通常なら、銃を向けられたら探索者であっても怯むはずだ、しかし、美々はそんな通常など無視する。
予想以上の衝撃に、護衛は銃が弾き飛ばされる。素早く横を抜け美々が銃を奪うと、逆に銃口を護衛に向ける、護衛がそれを認識したときには既に2発の弾丸が頭を吹き飛ばしていた。
東郷流を応用して反動を抑え込み、すぐにもう片方へと銃口を向けると驚くもう一人の護衛に向けて発砲。そのままその護衛の銃も奪い取る。2丁をそのまま組島に向ける。
『なにこの人』
『こわい』
『仕込み?』
「ちょっと待」(組島)
モンスターを怯ませるために作られた大口径の弾丸、それは1発も外れることなく組島に命中する。
いくらガードしても関係無い。いくら探索者であっても関係無い。組島はその組島流免許皆伝の腕を披露することなくあっさりとロストした。
「「「銀醸!!」」」
空海と岩山、そして周りが近寄ってくる。美々も彼等に目を向ける。
「やめろっ!」(組島)
ロストした銀醸が叫ぶ。彼の思惑ではこちらが止まれば、向こうも止まってくれるはずだ。既に組島はロストしている。これ以上の戦いは意味などない。
「ですが!」(天海)
だが、天海は言葉を切る切らざるを得ない。組島は止まっても美々は止まらない、既に自分に敵対の意志を持ったものは彼女の中でロックされている。
足を止めた天海に、全弾撃ち尽くして無用となった銃本体が飛来する。東郷流は武術だ、適応されるのは徒手空拳のみだが、美々はその戦闘行動全てに利用する。
東郷流を応用して投擲された2kgを超える物体は、充分な殺傷能力を有する。それが2つだ、話しをしている余裕などない。
意表をつく攻撃だが天海はそれに対応してみせた。が美々本体には対処できなかった。全体重を乗せた蹴りは天海の胴体に吸い込まれる。
「がはっ」(天海)
「待て!」(組島)
必死の組島の制止は意味をなさず、天海の首に腕を巻きつけると躊躇なく跳躍、首は横や上に折るのではなく顎を斜め上にねじ上げ、関節を外すように折る。
空中で【2段ジャンプ】のスキルを使って小さい体の不利を克服した首折りは成功し、天海から力が抜け手から刀が抜け落ちる。
「天海!」(組島)
それが地面に落ちる前に手にもった美々は天海の首を切り飛ばす。
「やめろっ! やめてくれっ!」(組島)
未だ混乱の最中にある岩山の腹を横一文字に切り、反応するまえに逆袈裟に切り上げ、上から真下に1ミリのぶれなく切り降ろした。
悲痛な組島の叫びにコメントすら止まるが、美々は次々と残党を刈っていく。無謀にも武器を向ける者、逃げようとする者、土下座をする者。一切の躊躇も言葉も無く殺していく。
最後に残った前田の元へと向かう。
『ひどい』
『さすさがにこれは……』
『さっきからこの子、一言もしゃべってないよ』
「ちょっ、ちょっと待って!」(前田)
その言葉に返事することなく前田の足を払うと、倒れた前田の腹を思い切り蹴り上げる。
「ごふっ」(前田)
そのまま再び腰のあたりを踏みつける。
「助けっ」(前田)
再び踏みつける、固いものが折れる音がした。
「がっ……ふっ」(前田)
そのまま近くに落ちていた剣を引き抜くと、前田の右胸に突き刺す。心臓を敢えてはずして痛みを伸ばす殺し方だ。顔色一つ変えず、表情も変えず、言葉も無くそれを完遂した。
リスナーが集中して見ていた画面揺れて地面に落ちる。撮影していた人間が殺されたのだろう。
美々は何事もなかったように煙管を取り出しに火を点けると、組島達を一瞥することなくダンジョンの奥へと向かって消えていった。
(醜い……)
組島の素直な感想だった。今回のことに関してではない、彼女に関してだ。その容姿について言っているのではない。生き様とでもいうのだろうか。
組島は組島流の免許皆伝を改組である祖父から許されている。だが、その結果組島は力に飲まれた。
いや、今ならわかる、飲まれたのではなく、飲まれかけたのだ。今日、完全に力に飲まれた時のその結果を見た気がした。
武術は人を効率良く殺す手段としか考えていない戦い方。
確かにその動きは美しい、乱打などという無粋なことなどせず1撃1撃に込められる必殺の殺意。自らが納めた武術の完成形、そこから生まれる美貌。
だが、組島が抱く感覚はそれと真逆の感想。
(なんて醜いんだ)
殺すためだけに振るわれる攻撃、素手で充分なのに銃を奪い、剣を奪い、戦意を無くした相手にも容赦なく振り下ろす。
興奮も熱気もなく、血が通っていないとすら思える冷徹な拳。そこに道などなく、術があるだけ。
(そうだ、俺は武術を見せたいんだない、武道を見せたかったんだ)
貴族のしがらみがあったからこそ四天王に戦わせていたんじゃない。無意識に自分の拳が醜かったんだ……。




