第091話:非常に珍しいシリアス白雪
■近藤昭彦:
前世の須藤の親友であり木下清美の幼馴染。今世では清美の婚約者でもある。清美の趣向に辟易としつつも縁を切らないあたり、面度見の良い性格である。
須藤より1歳年上で、須藤とは高校入学時に清美が原因で知り合うことになった。清美共々、震災に見舞われ、瓦礫に埋もれていたところを自衛隊によって助けられた過去を持つ。両親とはこのときに死別している。
以来、自分も困っている人を助けようと自衛官になることを決意する。清美も同様の理由だったが、マッチョがたくさんいるだろうからという真の理由を見抜いている。
須藤を自衛隊に誘ったのもいい体をしていたからと、真面目な性格を見抜いてのこと。自衛隊に入ってからメキメキと頭角を現し少尉となったときに、FDSによる救護訓練の特務小隊の隊長に任命された。
「ねぇ、優君、そこの計算間違えてるよ」(織姫)
「え!? あ、本当だ」(五十嵐)
「織姫さんは、それだけできればBランクでも良かったんじゃないか?」(柳)
「私は、英語と物理が苦手だから難しいよ」(織姫)
「伸、これで良いか?」(風音)
「どれどれ……うん、良いと思う」(柳)
「そうか。しかし、こういうのは受験までだと思ってたんだがな」(風音)
「そうだね、僕も最初はEランクでいいかなと思っていたよ、1年の学費は貰っているし」(五十嵐)
ダンジョン学園の学費は全て自分で稼ぐことになってはいるが、大抵は家族がある程度のお金を持たせている。
「ただ、思った以上に生活ってお金がかかるんだね」(五十嵐)
「そうだね、ちょっと余裕かなってくらい持って来たんだけど」(織姫)
「私もだ。そのせいでCランクに挑戦せざるを得なくなった」(風音)
「とはいってもCランクでも5万くらいしか安くならないけどね」(五十嵐)
「それは捕らぬ狸の皮算用ではないか?」(柳)
「うっ」(五十嵐)
「まぁEランクの2万を超えられれば恩の字だな」(風音)
「そのためにも頑張らないとね」(織姫)
……………………………………………………
「それじゃ勉強会を始めようか」(白雪)
「何気に勉強会なんて人生初だな」(加藤)
「兄弟は勉強会に入るかにゃ?」(ミーナ)
「ノーカンだな」(黒田)
「そんにゃー」(ミーナ)
「わしは学校自体初めてじゃな」(美々)
「なんで?」(皆川)
「スラムに学校なんぞあるまい」(美々)
「……」(須藤)
「で、須藤君は何に悩んでいるんだい?」(白雪)
「い、いえ、そのようなことは」(須藤)
「きみ、前世で顔に出やすいって言われたことない?」(白雪)
「う……」(須藤)
(図星って顔してる)(加藤)
(図星だな)(黒田)
(めっちゃ図星)(陽子)
「解り易いにゃ」(ミーナ)
「美々さんの事かい?」(白雪)
びくりと須藤の方が撥ねるが。それほど衝撃があるわけではないように思える。
(ちょっと違うような)(加藤)
(当たっているけど少し違うって感じ)(長谷川)
「何か違いそうだね」(白雪)
美々も声が聞こえる程近くで楓に勉強を見て貰っているが、自分の話題が出たにも関わらず我関せずを貫いている。目線すら向けない。
彼女の中でE組の件は完全に片付いたことであるため蒸し返す気もさらさらない。
「何か違うようだね、前世絡みのことであれば詮索したりはしないけれど……私達に関わることだね!?」(白雪)
須藤の肩が先程より大きく撥ねる。
(あ、図星)(小町)
(当たったっぽい)(皆川)
(正直な人だな)(長谷川)
(可哀そうになるくらい、隠し事が苦手な人ですね)(千鶴)
「さぁ吐きたまえっ」(白雪)
「……」(須藤)
「吐かないというのならこちらにも考えがある。こまっちゃん、かつ丼プリーズ」(白雪)
「えー……あれ作るの大変なのよ」(小町)
「じゃぁ牛丼」(白雪)
「あれはもっと時間かかるわ、焼き肉丼にしなさい」(小町)
「さぁ、こまっちゃんが焼き肉丼を作ってしまう前に話した方が身のためだよ」(白雪)
「それは……」(須藤)
「それにそういうことは、時間が経てば経つほど苦しくなるもんだよ」(白雪)
「…………電話を掛けて来てもいいでしょうか」(須藤)
「いいよ」(白雪)
『晃か、どうした?』
『すまない、その自衛隊入りの事なんだけどみんなにばれた』
『……』
(まぁ昔から隠し事なんかできない奴だったからな)
『いや、別に話しても困る事じゃないだろう。俺から直接いって説明しようか?』
『すまない』
『確認するが、みんな晃と同じ前世の記憶がある人達でいいんだよな』
『そうです』
『わかった。明日向かう』
『助かります』
「明日、紹介したい人がいるのですが、会って頂けますでしょうか?」(須藤)
須藤の居た所にはにはどんぶりが置かれている。
「いいよ、彼女かい!?」(白雪)
「まじで」(加藤)
「いえ、その前世での私の上官に当たる人といいますか。親友だった人であります」(須藤)
須藤の居た所にはにはどんぶりが置かれている。
「なんだ、違うのか、前世?」(白雪)
「前世の!?」(加藤)
「俺達以外にいたんだ……」(黒田)
「まぁすでに10人以上いるんだし、いてもおかしくはないか」(皆川)
「考えてみればそうか……そうかぁ?」(長谷川)
「上官ってことは自衛隊の人か」(白雪)
「うぐっ」(須藤)
須藤の居た所にはにはどんぶりが置かれている。
「まぁ会ってみればわかるし、いいんじゃね?」(加藤)
「まぁそうだね」(白雪)
「わしはいかんぞ。めんどくさい」(美々)
「お姉さまが行かないのでしたら私もいきません」(楓)
「私も色々肉とか狩って来るから行かないわよ」(小町)
「はーい」(白雪)
須藤の居た所にはにはどんぶりが置かれている。
「……ところでこれは?」(須藤)
「ご注文の焼き肉丼。折角おごったのだから食べてくれたまえ」(白雪)
「……」(須藤)
……………………………………………………
翌日近藤は徒歩でF組の寮まで1人で来た。まず驚いたのは昔見た時より随分綺麗になっている所だ。昔は腰までの草が映え、寮にも蔦が絡まり、雨だれが酷かったが今では綺麗になっている。
先頭の寮だけそれで他は昔のままなのが異様だったが……
「なんで今日は素顔なんだ?」(加藤)
「うん、いい機会だからね」(白雪)
「いい機会? あと何で後ろに隠れているんだ?」(加藤)
「うん、いい機会だからね」(白雪)
「答えになっていないぞ」(加藤)
須藤は何故か白雪から目を背けている。自分でも理由は解らなかったが、何故か目にいれたくなかった。
向こうから近藤が歩いてくるのが見えた。
「昭彦」(須藤)
「晃、こちらの方々が?」(近藤)
「はい、そうです」(須藤)
「皆さんこんにちは、前世の須藤君の上官の近藤昭彦です」(近藤)
「こんにちは加藤浩平です」(加藤)
加藤を始めに挨拶をしていく。なお、七森は鍛冶部屋に引き籠っている。
最後に白雪が加藤の後ろから顔を出して挨拶する。しばらく首を傾げながら白雪を見ていた近藤だったが段々と顔をしかめ……
「晃! そいつから離れろ!」(近藤)
白雪の正体が判明した瞬間木刀を抜く。戸惑いながらも須藤は前に出てなんとか白雪に切りかかろうとする近藤を止める。
近藤が木刀を持って来ている理由は、相手を警戒させないためだ。須藤がいるのもあるし、敵地に来たわけでもない。ただし、日華の中は日本のように安全なわけではないため丸腰とはいかない。
「え!? どうしたのでありますか!?」(須藤)
「そいつは、そいつは! 俺達を喰った敵だ!」(近藤)
「ええっ!?」(須藤)
須藤もその言葉に驚いて振り返る。須藤はあの時すでに白いスライムもどきになった白雪しか見ていない。だが、近藤は誰も取り込んでいない白雪(正確には白雪AI)と戦っている。
「落ち着いてくれないかい? その理由もちゃんと説明するから」(白雪)
「喋った!?」(近藤)
混乱する加藤達を少し落ち着けて一旦談話室へと通ってもらう。
「さて、落ち着いた所で、話をしようか」(白雪)
「ああ、頼む」(近藤)
「なんの話が始まるんだ?」(加藤)
「みんなはFDSがまだ開発段階だったときに自衛隊で事故が起きたのはしっているよね?」(白雪)
「自衛隊員仮想空間漂流事件だっけか?」(黒田)
「そうそれ」(白雪)
大抵の人は知っている有名な事件だ。知らないのは小町や美々くらいだろう。
「実は私はその事件の当事者でね、他には須藤さんと近藤さんだね」(白雪)
「須藤さんは元自衛隊員ってことでもしかしてと思ってましたが、あの事件の生き残りだったんですね」(千鶴)
「……はい」(須藤)
須藤の顔は浮かない、いきなりこんな所で過去の古傷に触れられるとは思っていなかったのだから。そして白雪がその加害者側だったとは、非常に複雑な心境だ。
「あと浩平も一応範疇に入るのかな?」(白雪)
「なんでだよ、当時小学生か中学生だぞ」(加藤)
「いや、関係あるんだなぁ、浩平の父親が」(白雪)
「親父ぃ!?」(加藤)
「まず事件のあらましを加害者側である私が説明しようかね」(白雪)
「それは本当なの?」(千鶴)
「あぁ、白雪はおかしい奴だが、そんなことを起こすような奴には見えない」(黒田)
これには須藤含めて全員が頷く。
「はい、どういうことなのか話してください」(須藤)
「……」(近藤)
「近藤さんは、竜造寺玲子という人物は知っているよね?」(白雪)
「当然だ。やはり彼女が黒幕なのだな」(近藤)
「まあね」(白雪)
「竜造寺……なんか親父がそんな名前言っていたような?」(加藤)
「今世もだけど、前世の私はアルピノ体質が影響しているのか重度の紫外線アレルギーでね、日光の下では5分と生きれない体だったんだよ、今は探索者だから問題ないけどね」(白雪)
「当然両親はそんな私を持て余してね、健常な弟が生まれたら完全に放置されていたよ。そこに目をつけたのが竜造寺玲子だ」(白雪)
「私を医療ミスで死んだことにしてFDSの被検体として確保したのだよ、当時の私は3歳だったからよく覚えていないけれどね」(白雪)
「まじかよ」(加藤)
「なんか聞いてしまっていいのでしょうか?」(千鶴)
「前世のことだから問題ないよ、というか聞いておいた方がいいよ」(白雪)
「?」(千鶴)
「で、実験体として確保された私は此処から上をぴーっと切除して脳だけを露出した状態にされてだね」(白雪)
自分の鼻と唇のところから頭の後ろまで両指で線をひく。
「うわぁぁぁ」(皆川)
「痛い痛い痛い」(長谷川)
「ひぃぃ」(陽子)
「切り取った部分を電極的なものが付いた機械の装置で覆ってね、FDSと私を直結したわけだ」(白雪)
「うひぃ、まじマッドサイエンティストじゃねーか」(加藤)
その後、事件までの経緯を白雪は話した。FDSの礎として扱われ、データを取り終わったあとは様々な実験に扱われ、最後に自衛隊の訓練に3体の白雪AIが放り込まれて、あの事件が起きたことを。
須藤と近藤は黙って聞いていた。
「うわぁ……」(加藤)
「なんというか」(陽子)
「ジーザス」(メリッサ)
「つまり花籠君は、私達の記憶を持っていると……」(近藤)
「そうだね、全てではなく断片的なものだけどね」(白雪)
「竜造寺玲子の動機はなんだったのでしょうか?」(須藤)
「親父が、親子喧嘩がどうのって言っていたな……」(加藤)
「えっと、君のお父さんは?」(近藤)
「加藤達也って言います。FDS研究チームの主任だとか言っていましたけど知っています?」(加藤)
「ああ、加藤博士か! 知っているよ、何度か会った事もある。それで親子喧嘩というのは?」(近藤)
「私も詳しく聞いたわけじゃないんですけど、なんか竜造寺さんの父親が、彼女の研究データを盗もうとしたらしくて、それに気づいた彼女がデータにロックを掛けたみたいです。でもその前にウィルスが侵入してて、今回の事件に発展したしまったと言っていました」(加藤)
「親父たちの研究チームもなんとか止めようとしたのだけど、ロックが掛かってて操作ができずにどうしようもなかったらしいです」(加藤)
「それが、ウィルスではなく私だったわけだね」(白雪)
「それでその後の竜造寺玲子は?」(近藤)
「ええと、アメリカにいたのを引き戻しに向かったのですが、多分殺されています……」(加藤)
「殺したのはたぶーんキラーリリーですねー」(メリッサ)
「君は?」(近藤)
「前世では浩平の従妹でルイジアナ州に住んでマシタ、当時の達也さんをうちに泊めーてマシタ。ワターシのパパンがリュウゾージ氏の場所までタクシーしたソーデス」(メリッサ)
「殺し屋を差し向けたのは多分彼女の父親だろうね。事件は建前だろうけど研究成果を狙って彼女の会社を買収しようとしていたのは本当みたいだし」(白雪)
竜造寺玲子は日本で研究を進めるにあたり、政府と深いつながりを持つ母親を頼った。そこで母親は自分の持つ会社の子会社として研究会社を造りそこの社長として据えた。
そのため母親の研究チームと、玲子の会社の社員の2チームが存在していた。父親のアダムス・ミラーは玲子の会社を買収しようとしていた。
「そうか……殺されていたか」(近藤)
「……」(須藤)
須藤も事件のあと真相を調べていたが、結局なにも掴めずじまいだった。
「ちなみに竜造寺玲子の本名はライラ・ミラー、父親はアダムス・ミラーだよ」(白雪)
「え……マジ?」(浩平)
「マジ」(白雪)
「うちの社長じゃねーか……」(浩平)
ちなみに加藤の父親は竜造寺の父親がアダムス・ミラーであることを知らない。竜造寺の居場所を知ってたあたりなんらかの繋がりはあるのだろうとは思っていたが。
「うわぁ」(黒田)
「あとで健兄に聞かせてやろ」(ミーナ)
「前世では未解決事件だったよね?」(長谷川)
「そだね、色々テレビで特番は組んでたけど」(皆川)
「てかなんでそんな所まで知ってるんだよ」(加藤)
「FDS直結マンなうえにAI3機搭載だぞ、世界唯一の電脳世界の住人にとっては、お散歩感覚でハッキングしまくりさ」(白雪)
「うわぁ」(加藤)
「まぁそんな私をもってしても、そこまでしか判らないんだけどね」(白雪)
「色々とありがとう。そしてすまなかった」(近藤)
「いやいや、こうなることは予測済だったしね」(白雪)
「教えてくださり、ありがとうございました」(須藤)
「須藤君もごめんね、さすがに初日にこういう話をするわけにも行かなかったからさ」(白雪)
「いえ。やっとすっきりした気分です」(須藤)
「さて、ことの真相は明らかになったわけだが、須藤君の要件はなんだったんだい」(白雪)
「あ、そういえばその話もあったんだった」(加藤)
「まぁその話がメインだったわけだけど」(白雪)
「ああ、実は彼を自衛隊にスカウトしたい。いいだろうか?」(近藤)
「それは……別に個人で好きにすればよくない? いい大人なんだし。意義ある人~?」(白雪)
「基本クランから抜ける場合、装備の返却だとか育成資金の支払いとかあるんだが」(黒田)
「別に無いからなぁ」(加藤)
「感覚的に中の良い仲間で集まっている草野球チームみたいな感じだし?」(皆川)
「だね」(長谷川)
「なかなか上手い例えっすね」(陽子)
「え、えっといいのでしょうか?」(須藤)
「須藤君は、我々をなんだと思っているんだい? 秘密結社でも悪いことしてるわけでもないんだよ。あれだろう、君は自身に後ろめたい気持ちがあると悪い方に考えすぎるんだろう」(白雪)
「うっ」(須藤)
「はっはっはっは見抜かれているな、いや、私も取り込まれてるのだからわかるか」(近藤)
「今すぐ連れ行くんですか?」(加藤)
「いや、進路の1つだからな基本的に卒業してからだ。但し準備や日本に再び帰化する形になるから2年生の途中から一緒に居られる時間が無くなると思う」(近藤)
日本人から防衛大学を通して自衛隊になる方法も普通にある。この場合一般人の自衛官としてダンジョンとは関係ない自衛隊員になる。無論本人が希望すれば探索者の自衛官になることもできる。
ダンジョン学園、日華からの移籍は当然探索者自衛官となることが義務付けられる。
「だからお前は考え過ぎだといつも言っているだろう」(近藤)
「う……すまん」(須藤)
「まぁ須藤君みたいな人にはこっちの世界は厳しそうだしね」(白雪)
「そうだな、私は12歳のときにロストしたときに前世を思い出したのだが、こちらでも育ってきた記憶を持っていても戸惑うんだ君達はどうだい?」(近藤)
「えっ? 俺達は最初から記憶を持っていたというか、こちらで生きてきた記憶はなかったですけど?」(加藤)
「そういえば?」(陽子)
「確かに、俺こっちでの記憶ないな」(黒田)
「えっ!?」(近藤)
「本当です、ダンジョン学園の入学式で自我を得たというか、意識を取り戻したのですが。こちらでの記憶は持っていませんでした」(須藤)
「多分転生時に死んでいなかったからじゃないかなぁ?」(白雪)




