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DRD ~転生者が多すぎた~  作者: ふすま
第3章:一ヶ月が経ちました
84/96

第084話:五十嵐VS犬山

 村田(むらた)空馬(くうま):特待生、五十嵐が気に食わない。レベル7:【狂戦士】

 犬山(いぬやま)信二(しんじ):かませ犬君、攻略対象の1人。レベル6:【シーフ】

 嵐山(あらしやま)(さとる):D組隋一の実力者、蒔苗という病弱な義妹がいる。

 大熊(おおくま):嵐山の取り巻き。嵐山を裏で操る深谷(ふかや)恭介(きょうすけ)のスパイだった。

 島津(しまづ):嵐山の取り巻き。戦闘力だけでいえば嵐山以上。

 沢渡(さわたり)麗華(れいか):鵺の一員

 根岸(ねぎし)黒羽(くろは):鵺の一員



 ■ロシア連邦:


 兵役として探索者になることを求めていないにも関わらず探索者が非常に多い国。理由は単に寒いから。熱くも寒くもないダンジョンは極寒のロシアからすれば避寒地として最適だった。


 このため世界で最もセーフルームが発展している国といわれている。5層までの全てのセーフルームに街か村が作られており、発電機まで持ち込まれている場所まである。


 最近は料理人、階層エレベーターのおかげでさらに発展が進んでいる。


 反面、小ダンジョンに対する対処はやりたがらないため軍や警察が出動する事が多く悩みの種だ。またセーフルーム内での治安も悪化しており、こちらも悩みの種だ。


 実のところロシアだけに留まらず、避暑地、避寒地としてダンジョンを利用する国は多い。だがそういった国もまたロシアと同じ悩みを抱えている。


 約束の日、五十嵐は貴族用の演習場に立っていた。普段F組が使っているよりも頑丈な造りで、2階にスロープが巡らされておりそこから観戦も出来る。


 加藤達も2階の一角にいた。美々は興味ないといないし、楓さんも用事があると不参加だ。メリッサさんも居ない。


 観客はE組とF組の生徒が大多数だ。嵐山はD組なのだが、実際のところD組はあまり関係が無い。



「弁当~弁当はいらんかね~?」(小町)



 小町は宣言通りお弁当を作って来た。宣言通り有料だ。




 五十嵐の前に対峙するのは嵐山……なのだが、彼の後ろに見知らぬ人間と見知った人間の2人が立っていた。



「よう、逃げずに来たようだな」(嵐山)


「ああ」(五十嵐)



 後ろの人も気になるがとりあえず嵐山に応じる。



「まず、おまえに良い知らせだ。今日お前達と戦うのは俺じゃねぇ」(嵐山)


「なに!? 逃げるのか!?」(五十嵐)


「逆だ、つい先日俺達は11層に到達した」


「なっっ!」



 五十嵐達はまだ5層にすら到達できていない。にも拘わらず、嵐山は5.5層のボスも10.5層のボスも倒していることになる。



「ふっ、勝ち目がない事が充分伝わったようだな。お前にどれだけ勝利の女神が微笑もうが絶対的な実力差は覆せねぇ。それじゃつまらんのでな、お前に相応しい相手を用意してやった」(嵐山)



 出てきたのは見覚えのない少年と、もう一人は村田だった。



「村田! 一体どういうつもりだ!」


「あぁ、てめぇを痛めつけるために決まってんだろうが!」


「そいつらはF組全体の敵だぞ」


「そんなことは知らねぇよ!」



 村田と話していると見知らぬ少年が話しかけてくる。こちらも始めから喧嘩腰だ。



「おいっ、俺のことを無視すんじゃねぇ!」(犬山)


「えっと……誰?」(五十嵐)


「ふっざけんな! 俺のこと覚えてねーのかよ!」



「探索者センターでドスケベ音頭踊ってた人だよ」(白雪)


「踊ってねえよ! そこのガスマスク野郎ぶっ殺すぞ!」(犬山)


「私は女の子なんだけどなぁ、声聞いてわからないのかな?」(白雪)


「ならそのガスマスク外したらどうだ?」(加藤)


「断る!」(白雪)



「優君、ほら探索者センターで、その……私に……」(織姫)


「思い出した! 織姫をナンパしてた奴か!」(五十嵐)



 観客の視線は声を発した織姫に、織姫の胸に集中した。そして大部分が理解した。なるほど、それは判ると。



「つーわけだ、俺ら2人でてめーをぼこぼこにしてやる」(犬山)


「二対一とか卑怯だぞ!」(五十嵐)


「『正々堂々16対1で勝負だ』とか言ってたのは誰だよ!?」(犬山)


「そんなこと言ってない」(五十嵐)


「いいや、言っていたね」(白雪)


「え?」(五十嵐)


「私がね!!」(白雪)


「……」(五十嵐)



 E組の生徒は思った、あのガスマスクやべぇと。F組も思った、いつも通りだと。



「そういや言ってたな」(加藤)


「まさかあの言葉が巡り巡ってこんなことになるなんてにゃ~」(ミーナ)


「そっすね」(陽子)


「じゃぁしょうがないな、すまんが責任は五十嵐にある。頑張れ!」(黒田)


「なんでだよ!」(五十嵐)


「同じF組の仲間じゃぁないか、連帯責任だよ」(白雪)




「安心しろよ、俺達は正々堂々戦うのは1人だからよ」(犬山)


「?」(五十嵐)


「いくぜ!」(犬山)


「ちっ、今回は特別だからな!」(村田)



 今2人の心が1つになった!



「「フュージョン!」」



 犬山と村田の体が揺らいだかと思うと1つになる。ダンジョンが出来てから70年、色々なスキルがこの世に出てきたが、このようなスキルは始めてだった。嵐山だけでなく、E組の生徒まで言葉を失っていた。



「なっ……」(五十嵐)


「まじかよ」(加藤)


「あんなスキルねぇよな?」(黒田)


「ないよ、DRDでも見たことない」(白雪)



『これで一対一だな』(犬山)


「いや、それでも二対一に変わり無いじゃないか、五十嵐君も誰か入れる権利はあるんじゃないかい?」(白雪)


「どの口が言ってるんだ?」(黒田)


「おいおい、やめてやれよ二対一じゃないと勝てないんだからさ」(加藤)


『なんだと!』(犬山)


「五十嵐君にももう1人呼ぶ権利あるんじゃないかなー?」(白雪)


『いいだろう』(犬山)



「ちょろくね?」(長谷川:小声)


「ちょろいライバル。ちょろいばる」(陽子)



 実際まるめこまれやすいのか、ちょっと白雪が突いただけで犬山達の言動は行ったり来たりしているように見える。



「需要あるのかそれ?」(加藤)


「相手が女なら?」(黒田)


「うまくキャラ付けしないとツンデレと同じになっちゃいそう」(七森)



「じゃぁ柳君だな」(皆川)


「僕かい!?」(柳)


「伸、頼む」(五十嵐)


「わかった」(柳)



「準備はいいな」(嵐山)


 

 嵐山が決闘カードを取り出す。



「決闘参加者はカードを持て」



 片方を犬山(村田)が、もう片方を五十嵐、柳が持つ。



 決闘のフィールドが展開されるとすぐに犬山が突っ込んでくる。犬山が持つのは大型のバスターソードだ、この点は助かった。加藤達との訓練が無駄にならなかった。


 すぐに間合いを詰めると無策にも見えるような横振だ【スラッシュ】のスキルも使っていない。五十嵐は持ち前の反射神経で、柳も一応【集中】のスキルで躱す。



(なんだ……? なにかのフェイントか?)(柳)


『躱すなっ!』



 ……どうやら本当に無策な横振りだったようだ。いや、そりゃ躱すだろうと誰もが思った。



『くらえっ』



 その後も何度も無意味な素振りに、E組から落胆の声が上がる。



「ヒュージョンしても基本的な性格は犬山だな」(加藤)


「そうだな」(黒田)


「ゲームでもあんな感じ?」(長谷川)


「ゲームの方がまだ、ましだった気がするにゃん」(ミーナ)


「うん……なんだろう、村田とフュージョンして頭の悪さが染った?」(皆川)



「どうした、ゴブリンソルジャーの方がまだ厄介だったぞ。ファイアーボール」(柳)



 攻撃をしようとしていた犬山があわてて防御態勢を取るが柳の手からは何もでてこない。その隙に五十嵐が切りつける。犬山がにげるがその先には柳が居てさらにダメージを与えていく。



『ぐっ』(犬山)


「フェイントだよ」(柳)


「このまま追い込むぞ」(五十嵐)


「ああ」(柳)




「買ってきましたよ」(大熊)


「おう、早くくれ。ありゃだめだな」(嵐山)


「スキルにはびっくりしましたけど、単調すぎますね。あ、この弁当美味い」(大熊)


「語るにおよばず」(島津)


「まじでうめぇな」(嵐山)


「っすね」(大熊)



 島津も無言で弁当を掻きこんでいる。少なくとも試合よりも弁当の方に興味が行ってる。



「この美味しさは料理スキルのおかげなんですかね?」(大熊)


「なんだ? 料理スキルでも取ってみるか?」(嵐山)


「勘弁してくださいよ。それに俺が作った弁当たべたいですか?」(大熊)


「パス」(嵐山)


「ごめん(こうむ)る」(島津)


「おい!」(大熊)



 時間が経つにつれ柳の頭に懸念が浮かび上がって来る。



(おかしい……相手はあんな大剣を振っているのにスタミナ切れを起こす気配が感じられない)(柳)



 柳が感じたように五十嵐もまた奇妙な感じをうけていた。向こうの攻撃は何度も躱しているし、こちらの攻撃は何度も当たっている。にも拘わらず犬山の攻撃は衰えない。



『ふざけやがってぇ』



 切られる度に犬山は怒り剣を力任せに振るってくる。激しく動いているにも関わらず犬山には息が上がる様子が見られない。



融合(フュージョン)ってことは2人分のスタミナってことかね」(白雪)


「あーそういうことか。ってことは筋力も耐久も2人分か」(加藤)


「可能性はあるな」(黒田)



(あせるな、こちらの方が与えてるダメージはこちらの方が多いはずだ)(柳)


(不味い、こっちは息が上がってきているのに、向こうは全然その気配がない)(五十嵐)


「くっ!」(五十嵐)



 柳はそう自身に言い聞かせるが、五十嵐が勝手に前に突進していった。



「いかん! あせるな優!」(柳)


『もらった!【兜割り】!』


「しまっ!」(五十嵐)



 横振りの体勢だったのがスキルの効果によって急に上段からの振り下ろしに攻撃が変わる。知らず知らずの内に横振りにならされていた五十嵐は反応しきれないでいる。



『まずは1匹』


「伸!!」


「がはっ」



 寸でのところで柳が五十嵐を突き飛ばすが、柳は代わりに縦に切り裂かれる。犬山と狂戦士の称号を持つ村田の筋力はたったの1撃で柳のHPを削り切った。



「僕のことは気にするな! 闘いに集中しろ!」(柳)



 柳の言葉にあわてて五十嵐は犬山に意識を向ける。やられた柳は決闘フィールドからはじき出されてる。



「優! 焦るな集中していけ」(風音)


「頑張って!」(織姫)



 風音達の声が響くが、五十嵐はどうにも攻めあぐねいている。柳がやられてからあからさまに避け方が大げさになっている。



「ちょっとだめだね」(白雪)


「あきらかにダメージを受けることを怖がってるにゃん」(ミーナ)


「五十嵐! 落ち着け! そのままだとバテるぞ!」(加藤)



 一方の犬山の方は五十嵐以上に大剣を振り回していいるのに、まったく息切れした様子は見えない。



「だめだ! 防ぐな!」(加藤)


「ぐぅ」(五十嵐)



 犬山の横薙ぎを五十嵐は盾で防ぐ。大きな金属音が響き五十嵐が吹き飛ばされた。防いだ盾が無残にひしゃげている。剣も取り落としてしまった。



『【エアスラッシュ!】』


「かわせ!!」(柳)



 剣を取りに行こうとしていた五十嵐が慌てて飛んで避けるが、一歩遅かった。その足に空気の弾が命中する。



「ぐぅ!」


『死ねぇぇ』


「このっ!」



 壊れかけた盾を強引にもぎ取って犬山に投げつける。そのやけくその一撃は見事に犬山の顔に命中した。



「うごっ」



 すぐに剣を拾って一気に詰めると犬山に剣を振り下ろす。



「おおおおお!!」(五十嵐)


「【バックステップ】」



 村田が寸での所で引いたため浅く切り裂いただけだが、五十嵐は追いすがるように連続で攻撃を加えていく。



(このまま攻め続ける、もう一度防御に回ったら耐えきれる自信が無い)(五十嵐)



 荒い息を吐きながらも五十嵐の攻撃は続いていく、犬山は必至に耐えていたが、ついに大きくのけぞった。



「いまだっ」(五十嵐)



 一気に心臓めがけて剣を突き刺そうとした……だが、ここで先程の柳が縦に裂かれて死んだ姿が重なってしまう。決闘カードとはいえ人殺しへの躊躇、それに五十嵐の剣はあと一歩のところで鈍ってしまった。



『くそがぁぁぁ!【デッドソード】!!』



 犬山が剣を乱暴にふるっただけで五十嵐が吹き飛ぶ、完全に切れた犬山の攻撃は知らず知らずの内に、剣を振る度に強化【エアスラッシュ】を発していた。五十嵐がピンボールのように何度も吹き飛ばされる。


 何度か吹き飛ばされた先で、遂に糸がきれたかのように血を吐き五十嵐は崩れ落ちた。



「いや!」(織姫)



 決闘フィールドが解除され、犬山の頭上にWInの文字が輝く。五十嵐は負けたのだ……。



「僕は負けたのか……」


『死ねぇぇぇ!!【デッドソード】!』

 


 もう決着はついている。しかし、犬山には関係ない。元々犬山には五十嵐はそれ程憎い相手ではなかったが、今はフュージョンしている村田と村田の持つ【狂戦士】に同調してしまっている。


 再び【デッドソード】を使うと(決闘カード内で使用したスキルは終了と共にリセットされる)容赦なくエアスラッシュを使う。



「ぐぅっ」



 完全に虚を突かれた五十嵐に直撃し、先程と同じく吹き飛ばされる。



『なに寝てんだコラァ!』


「待て、試合は終わりだ!」(嵐山)



 嵐山の制止を聞かず犬山【エアスラッシュ】を撃ちまくる、陸に狙いを付けていないのか五十嵐だけでなく他の観客に向かって飛んでいく。



「ちっ暴走してやがる」(嵐山)


「まずいっ」(須藤)


「島津!」(嵐山)


「心得た」(島津)



 須藤が駆けだそうとするが、須藤が居たのは2階、到底間に合うはずがない。


 観客が文句を垂れながら逃げるなが島津が走って間合いを詰める。気づいた犬山が向き直る。



『邪魔をするな!』



 繰り出される【エアスラッシュ】による見えない空気の塊を全て躱して犬山に肉薄すると、居合一閃村田の腹を左から右に横一文字に切り裂く。



「がはっ」



 そのまま右下から左上に切り上げ。そのまま両手で大宇上段から振り下ろした。骨などまったく感じさせない鋭さを持った刀が一気に頭頂から股下まで振り下ろされた。


 縦一文字に血を吹き出しながら2、3歩よろめいた所に、刀を突きの姿勢に構えると一気に心臓を貫いた。


 犬山はそのまま白目をむいて倒れる。あまりの凄惨さに誰もが言葉を失うが、犬山と村田に別れると同時に血も傷跡も消えた。まるで一瞬の夢のように……


 だが倒れた2人からは明らかに何かが失われている。魂がないとかではなく生きている人の持つ生気というべきものだろうか? これがロストと言うものかとまざまざと理解させられた。



「やりす「これでわかったろう! お前等F組は弱いっ、これからはE組の彼等が代わりに鍛えてくださる。ありがたく世話になるんだな」


 

 須藤が言葉を発するよりも早く嵐山が場を納めた。




 試合が始まったときから窓に1匹の蝙蝠が留まっていた。一見すると普通の蝙蝠なのだが、まるで墨でも被ったのか全身が真っ黒だった。



「あーあ、ロストしちゃった」(麗華)


「だめね、スキルの覚醒はあるけどパラメーターの上昇は無し。ダンジョンへの執着はあるけど、ダンジョン人にはならなそうね」(黒羽)


「いいじゃない彼等にこっち側こられても困るだけだし」


「そうねー。ペットにするのはいいけど同僚にはいやね」


「やっぱり人造ソーマは無理そうかしら」


「あそこまで造れたのは凄いと思うけど、ダンジョンへの依存性が今一なのよね」


「そうね、学園にも普通に通ってたし」



 ■正々堂々16対1で勝負だ:


  第39話参照。

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