第008話:探索者ルール
五十嵐優:ゲーム中の主人公。仲間思い。
吉野織姫:ヒロインの1人、世話焼き体質であり、五十嵐の幼馴染ポジ
平岡昭義:F組担任
■モンスター:
ダンジョンに出てくる異形の生物の総称。本当に生物の定義をクリアしているかは不明。
闇の渦のようなものが発生しそこから出てくる。倒すと灰のような粒子になって消えるのが特徴。
銃火器は4層からがほぼ効果が無くなるため探索者は皆時代が逆行したような武器を装備をしている。対して防具はケブラー繊維のジャケット等近代防具である。
ダンジョンの宝箱から武器や防具が入っていることはあるが、近代的な物が出た記録はない。
今日からダンジョンに入るはずだが、まず座学から行うようで全員教室に集合していた。教壇に立つのも昨日に引き続き平岡先生が担当している。
「さて、今日の午後から君達は探索者になる。尤も既に探索者になっている人もいるが今日は一般人として扱うので我慢して聞いてくれ」(平岡)
「まず探索者という存在についてだが、知らずにここにいる者はいないだろう」
「戦えば戦う程強くなり、文字通り人間離れした動きをし、スキルと呼ばれる超常的な力を使うまさに人間とは別の存在だ。君達は今日からそういった存在になることになる」
「当然人とは違うのだから社会のルールそのものも違う。詳しいことは追々授業で行うがまずは特に重要な事柄3点を覚えてほしい」
「まず1つめ、既に知っていると思うが探索者になると国籍が日本国から日華共和国に変わる」(平岡)
「尤も入学している時点で君達の国籍は日華共和国のものだ、なお国籍まで分けて管理しているのは世界中見ても日本だけだ」
重要なことだが生徒から驚きの声が上がることはない。既にこちらの世界の日本で生きてる人には当然のことだからだ。
加藤達も内心驚きで目を見張っているが声は出さずにいる。
(う~ん吉野さんって主人公が心配だから探索者になったって設定だけど、こっちだと違うのかな? 国籍変わってまでついて来るって相当覚悟いるぞ……)(加藤)
「ここまでする理由としては探索者が強すぎることだ。これから探索者になる君達には失礼だが、隣に化け物がいるようなものだ」(平岡)
「一般人から見れば恐怖以外の何者でも無いだろう。次に述べる探索者ルールという強制力はあるが、それと『安心』は別物だからな」
先生の言葉は事実ではあるが一番の理由は国営的な理由である。どこかの企業に雇われていない探索者は職業的に日雇労働者と変わりない。
収入も安定していない上に、死亡率も高い。日本の国営に含めてしまうと、人口、税収、GDPすべてに難が出る。
そこで探索者の運営を軸とした国を新たに日本の中に作り日本の属国として扱うことで緩衝材にしようとした、そうして出来たのが日華共和国だ。
無論海外からは国として認められていない。また、日華共和国は旅行者の入国も認めていない。
「2つめが先ほども言った『探索者ルール』だ、こちらも既に知っていることだろう。もう一度言うが一般人にとって探索者は化け物でしかない」
腕力からして段違いなのだ。高レベルの探索者が本気で一般人を殴れば相手はザクロのように弾けてしまうだろう。
「しかし、探索者が一般人に危害を加えることは出来ない。なぜなら探索者となった者が、探索者で無い者、一般人を攻撃するとそれがそのまま自分に返ってくる制約がつくからだ」(平岡)
「顔を殴れば自分の顔に、腹を殴れば自分の腹にダメージが返ってくる。殴られた方はもちろん無傷だ」
「一体何故? と疑問に思うかもしれないが理由は誰もわからない。そのため一部の人は『神様ルール』なんて呼ぶ人もいる」
(探索者って免許みたいなものが発行されると思ってたけど違うの!?)(加藤)
『探索者ルール』についてもこの世界では常識である。
一般人にとっても重要なためネットを調べればすぐに上がってくる。これは格闘に限らず武器を使っても同様だ。さらには銃のような遠隔武器にも適用される。
「だが、このままだと探索者は一般人に対して一方的に弱くなってしまう。そのためか、一般人がルールを悪用したり、殺意があったりするとルールが外れてしまうことがあるようだ」(平岡)
「これも何故かはわからない。なにせ『神様ルール』だからな。多分一般人の害意、殺意の有無によってルール適応が決まるらしい」
「こういった点からも不慮の事故が発生しないように日本と日華の国境は壁によって隔たれ、お互いの行き来を制限している。だからといって日華に一般人がいないわけではない」
そう言って黄色いカードを見せる。加藤達が初日に入店したレストランの店員も掛けていたものと同じ物だ。
「この黄色いカードは日華に出稼ぎに来ている一般人を示すカードだ。基本日華は店員も探索者だが、一般人の店員もいるので注意するように」
「また、君達が一番関わり深くなるのは5教科の先生だろう。彼らは日本の講師で授業の時のみ来国してもらっている」(平岡)
日本は日華との国境を物理的に壁で隔離し探索者と一般人との関わりを極力避けている、しかしアメリカを筆頭に探索者と一般人が混在している国もある。
先ほど平岡先生が話したように一般人にとっては非常に危険ともとれるが、『探索者ルール』により治安はいうほど悪くない。
むしろダンジョン発生前よりもよくなったとも言う人すらいる。
例えば強盗が銃を向けた相手が一般人ならいいが(いや、よくはないが)探索者であれば逆に絶望するのは強盗だ、十中八九返り討ちにされるだろう。
そのためおいそれと暴力すらふるえない、かといって自身が探索者になると今度は一般人相手に攻撃できなくなる。
相手が一般人か探索者か分からないためお互いに牽制しあう状態になり犯罪が減少したのだ。
「ちなみに、子供は探索者による攻撃は無効になるだけで反射されることはないようだ、何歳くらいまで? と言われると不明なんだがな」
例え探索者同士であっても子供は一般人として生まれてくる。赤子にまで探索者ルールが適応されると困るからだろう。
「最後の3つ目、これが一番重要だ。現在のダンジョンの状況だな。基本的に無法地帯だと思っていい」(平岡)
「「「無法地帯!?」」」
クラスがざわつく。
「あ~落ち着け、無法と無秩序をはきちがえないでくれ。まず無法地帯なのだが、これは単純にダンジョンだからだ」(平岡)
「考えてもみてくれダンジョンは広大で入り組んでいる上にモンスターまでいる。そんなところを監視なんて出来るわけないだろう?」
幾人かの生徒がなるほどと頷く。
「でも無秩序ではないんですよね?」(五十嵐)
「そうだ、秩序は保たれている。実際モンスター以外で事故に遭う確率は1%未満だから安心してほしい」(平岡)
「しかし、これはパーティを組んでた場合の数値だ、1人だったりするとこの確率は跳ね上がるため必ずダンジョンに潜るときはパーティを組むように」(平岡)
「なお、一番多い犯罪は窃盗でダンジョンで発生する犯罪のほとんどを占める、最も多いのがダンジョン内で宿泊しているときに取られるパターンだから荷物を置くときはくれぐれも注意するように」
「次が探索者同士のトラブルだ、狩場のバッティング、宝箱の奪い合い、モンスターを故意に誘導する等様々なパターンがある。窃盗の方が多いがこちらにも気を付けてくれ」
(まぁうちらの中でそうそう目をつけられるようなことをする人なんて……あぁ狂人(美々)と化猫 (ミーナ)と漫才師(白雪)が肩組んでダンスしてる……うん、無理。巻き込まれてもなんとかできるように早々に力をつけないと)(加藤)
「続いてダンジョンについてだ、君達がこれから潜るダンジョンは【東京大ダンジョン】と名称がついている。他に日本には【大阪大ダンジョン】、【仙台大ダン…あ~………………【宮城大ダンジョン】がある。全て合わせて日本3大ダンジョンと呼ばれている」
(宮城……)(加藤)
「本当は大ダンジョンではなくセントラルダンジョンというのが世界的な正式名称なんだが、この名称が決まる前から日本では大ダンジョンという名称で呼ばれていたせいで、『大ダンジョン』と呼び名が定着してしまった」
「まずダンジョンで注意すべき点は荷物の扱いだ、ダンジョンに最初から存在していない物、つまり外から持ち込まれたものはどんなものでも放置されてから30分経過するとダンジョンに吸収されてしまう」
「これを防ぐためには何でもいいから体と荷物が密着させていれば問題はない。例えば紐でリュックと服を結ぶとか、シートを敷いてその上に荷物と一緒に座るとかそういった感じだ」
「しかし、これが厄介でな、水や食料、宿泊道具、武器防具以外にも探索には様々な物が必要だ。モンスターと戦闘しながらそれらを護らなければならない」
「日華が誇るクラン『扶桑』であっても20層を目指したつもりが、思わぬアクシデントで10層付近でやむなく帰還することも多いのは知っているだろう」
「その最たる原因が荷物の紛失だ、基本荷物持ちは戦闘員に比べて弱いからな、モンスターの襲撃を荷物を護りながら退けることは難しい」
「まだ皆は深く潜ることは無いだろうが荷物の取り扱いには十分注意するように」
(おかしいな、ダンジョンには5層毎にショートカットエレベーターがあるはずだ、16層以降ならわかるが10層ってことは毎回最初から潜ってるのか?)(加藤)
「ダンジョンにはモンスターが入れないセーフルームが存在する、荷物の消失もセーフルームでは起こらない。これについては午後実際にダンジョンに入ってから説明しよう」
「最後に華族の方々との付き合い方についてだ。まず爵位についてだが上から公の爵位で公爵、同じ読みだが漢字の違う侯爵、伯爵、子爵、男爵、また漢字が違うが同じ読みの武士の士から士爵がある」
「まぁ基本書くことはないが爵位の間違いはそれだけで怒らせることになるからな、特に子爵と士爵は全く違ってくるのでくれぐれも気を付けるように」
旧日本では男爵までだったが、探索者に爵位が適応されるにあたって士爵が追加された。また公爵は侯爵の寄親で、侯爵は伯爵を寄子に持ち、伯爵は子爵を寄子に持っている。
「日華共和国のトップは『十一公爵家』と呼ばれ、彼等公爵家がトップとなり共和制を敷いている」(平岡)
「日華は日本の属国の扱いだが爵位を得たり、世襲すると日本国籍を再び得ることになる。つまり日本から華族様が派遣されて日華を治めている形だ」
「ダンジョン学園には華族のご子息、ご息女様と一緒に学ぶことになる。華族の方と顔をつなぐことは非常に有利になる」
「気に入られれば卒業と同時に召し上げてもらうことも可能だ。是非有効活用してもらいたい」
基本子爵以上の貴族は領地の代わりに会社経営をしている。
この世界の日本にある会社はほぼ全てが貴族の出資や投資を元に経営をしており、新規に会社を立ち上げたいと思ったときはまず出資貴族を探すことから始めなければいけない。
「逆にトラブルを起こすのはおすすめしない。将来にも関わるし華族の方は君達よりも幼い頃からダンジョンに通っているからレベルも高い、そのうえ大抵護衛の方がついている」
「逆らっても痛い目見るのは君達だ、まぁ元々華族の方々の目的はダンジョンのモンスターを倒すことだ、狩場が被った程度のトラブルしか起きないだろう」
「華族にとって最も重要なのは面子だ、平民からアイテムを巻き上げた等の醜聞は向こうも避けたいだろうからな」
(DRDでは漫画みたいに親の権力を笠に着た横暴な貴族もいたけどな……)(加藤)
「他細かいことは追々授業でやっていくが基本的に知っておかねばならない内容は以上だ。最後に重要なことを話そう、今日以降、日華共和国内では現金の使用は出来なくなる」
この発言にクラスからは驚愕の声が漏れる。
「え!? それじゃ買い物とか今後はどうなるんですか?」(五十嵐)
「まぁ落ち着け。現金での支払いができなくなるだけで昨日配った探索者カードから支払いができるようになっている」(平岡)
「今から封筒と用紙を配るからそれに自分の名前と生徒番号、お金を入れておいてくれ」(平岡)
「探索者に登録したときに一緒に金額の登録を行う。銀行に口座がある人は口座と探索者カードの登録ができるのでこちらもしておくように」(平岡)
「なんでそんな面倒なことを……」(五十嵐)
「さっきも言ったように盗難対策だ、それに君達だってじゃらじゃら煩い貨幣を持ってダンジョンに入りたくないだろう? ダンジョンに吸収されても困るだろうし」(平岡)
昨日加藤達がファミレスで食事出来たことからわかる通り、現金取引が可能な店もある。
しかし、出稼ぎで日華で働いてる一般人も探索者カードと同様の決済能力のあるカードで買い物をするため現金取引は基本行われない。
「探索者カードはいつも持ち歩くものだし、指紋登録もしてあるからな。盗まれても悪用される危険性は低い」(平岡)
「これから1時間休憩とする。その間に寮にお金を置いている人は持ってくるように。銀行に預けている人は下ろさなくても自動的に変更できるので、通帳もしくはキャッシュカードを持ってくるように」(平岡)
「あと、既に探索者登録している人間にはこの後の授業は不要だ、自由にしてかまわない。一足に先にダンジョンに入ることも許されている」(平岡)
「おっしゃー! おいっ! 弁当買って先にダンジョン潜ろうぜ!」(村田)
自由にして構わないと言われた途端、村田が他の特待生を連れて教室から出て行った。
「あー! 明日の授業で使うからなにか攻撃系のスキルを必ず1つセットしておけよ! ……まぁいいか、あいつらなら1つはセットしているだろうし、問題はないだろう」(平岡)
■GDP:
国内総生産(Gross Domestic Product)。一定期間内に国内で産出された付加価値の総額。簡単に言えば国の生産力=経済力。在庫も含まれてしまうため、今一正確では無い。
お読みいただきありがとうございます。拙い文章ですが次話も楽しみにして頂ければ幸いです。よろしければ、ブックマーク、評価、感想なんかもお願いします。