第077話:自衛隊の事情
組島銀醸:東郷派閥の侯爵家の孫。
芹澤隆司:五十嵐の父親と同じパーティだった。五十嵐の父母失踪の秘密を知っている?
宮古:天皇の直孫、生徒会長。ヒロインの1人
山下清美:宮古直属の部下、西城家派閥の侯爵家4女。筋肉愛好家。須藤の前世の婚約者とうり2つ
河中葵:宮古直属の部下、北条公爵家分家の長女。
嵐山悟:D組隋一の実力者、蒔苗という病弱な義妹がいる。
大熊:嵐山の取り巻き。嵐山を裏で操る深谷恭介のスパイだった。
島津:嵐山の取り巻き。戦闘力だけでいえば嵐山以上。
■ビッグギャッド:
7層にいる巨大なアブのモンスター、4層のジャイアントビーと同じく肺に変わるアコーディオン器官をもっている。
ジャイアントビーと違い7層を割と自由に飛んでいるため、探索をしていると高確率で鉢合わせることが多いモンスター。
空を飛び、ホバリングから一直線にノコギリ上の口で刺してくるモンスター。攻撃は直線的で躱しやすいが空を飛んでいるため攻撃がやりずらいモンスター。
弓矢、もしくは魔術系のスキルがほぼ必須なモンスターだ。弓矢を持つ探索者は少ないため魔術で闘うのが基本戦術となっている。
「納得いかねぇ!」(岩山)
「納得も何も、ね……」(雫)
「油断だろ」(天海)
「残心を忘れる方が悪い」(立花)
『おっさんやるじゃん』
『かっこよかったぜおっさん』
『四天王辛辣すぎて草』
黙って去ろうとする芹澤に岩山が待てをかける。
「まちやが……ごはっ」(岩山)
「これ以上恥ずかしいまねをするな。勝負に納得も何もねぇんだよ、勝ったか負けたかだけだ」(組島)
「あ、こちらどうぞ」(前田)
「……」(芹澤)
前田から50万の振り込み送信がくる。慰謝料となっているため受け取れば謝罪を受け取ったとみなされる。
とはいえ受け取らなければ貴族ともめることになるだけなので平民として受け取る以外の選択肢はない。
…………………………
須藤、宮古、清美、葵の4人は今5層にいる。宮古の方から白雪達の方へ5層の採掘ポイントを案内してほしいと依頼があり、須藤が派遣されることとなった。
時系列的には加藤達は5層へ挑んでいるときだ。須藤も案内が終わり次第ボス層へといくことになる。
今回の階層エレベーター、生産職は自衛隊についても相当なインパクトだった。
自衛隊の本来の役割は日本を護ることだ。だが共にダンジョンに対して挑む貴族に対する姿勢は微妙だ、勿論戦場主義と資源主義の違いはあるのだが、彼等からすると貴族達は信用できない。
警察を探索者にするわけにはいかない以上もし、貴族達が反旗を翻したときには、自衛隊で彼等を抑え込めなければならない。
「いやー悪いわねー」(清美)
「い、いえ、そ、それ程では。お安い御用というか」(須藤)
「私からも礼を言わせてもらおう」(宮古)
「……」(葵)
「それには及びません、光栄です」(須藤)
「なんか私のときと対応違いますねー」(清美)
「うぐ……」(須藤)
赤人親王依頼続いている皇族の留学だが、彼等も失っても痛くない皇族、もし人質にされても問題ない人物が選ばれている。このため大体留学生に選ばれるのは女性が多い。
問題は日本の企業がほぼ全て貴族達に取られていることだが、残念ながらこれについては手の打ちようが無い。国家予算を裂けない以上貴族達には自分で稼いでもらわねばならない。
現在貴族達は自分の騎士団から鍛冶師達の選出、採掘部隊の編成などを行っているようだ。
自衛隊としても今回のことは捨て置けない。貴族達に対する抑止力を保つためにも自分達の戦力増強は必要になる。
ただ、ダンジョン資源に対する認識は低かったため採掘ポイントや伐採ポイントの認識が甘く、慌ててその知識を集め直している最中というわけだ。
自分達でも調べているが宮古達にも依頼が行ったため、詳しそうな人間として加藤達に白羽の矢が立ったというわけだ。
「ふっ!」(須藤)
須藤のローキックでボーンラットが吹き飛ぶ。飛び掛かってきたもう一匹を拳ではたき落とすと、もう一匹に回し蹴りを食らわせる。
「あらためて見ても強いな」(宮古)
「ですねー相変わらずいい筋肉です」(清美)
「あなたの感想はそれでいいのですか」(葵)
「……大殿筋と、大体四頭筋の躍動、大体二頭筋と下腿三頭筋の見事な張り具合、いい筋肉しています。はぁはぁ」(清美)
「……」(宮古)
「……もういいです」(葵)
現在自衛隊は日本唯一の大ダンジョン北海道大ダンジョンを占有している。
階層エレベーターについてはこれといって問題はない。むしろ毎回1層から潜りなおさなくてよくなるのだ、隊員のストレス軽減にもなるし予算削減にもなる。
派閥だの上下関係だの大きく考えなくてもよい自衛隊には朗報である。
問題は生産系の称号だ、探索者の強さはパラメーターと武器によって決まる。当たり前の話だが。
料理人については構わない。こちらも自衛隊にとっては朗報だ、現地でモンスターを捌いて食べる方法が判った。持ち込む食料が減るし探索者としても強化される。
身体バランスが崩れてしまうとかなり困るが自衛隊が現在攻略している階層ではそれほどのバフがなされる料理はなさそうだ。
薬師も別に問題ない。自衛隊は市場に流す事なく3層のポーション部屋で取れるポーションは全て自衛隊で囲っているが、自前でポーションを取得できるのは嬉しい限りだ。臭い、味に目を潰れば。
鍛冶系に関しては困っている、自衛隊が囲っている職人は居ないし、囲うわけにも行かない。自衛隊は銃器、兵器の使用が許可されるが、国内でそんなものを使うわけにもいかない。
こちらの世界では戦車は廃れる傾向にある。兵士が探索者化したことで相対的に地上兵器の有効性が下がったのだ。
戦車よりも早く動き、成形炸薬などを張り付けてきたり、跳躍一つで戦車を登り上から対物ハンドガンを撃って来る。棍棒で戦車砲を折ったりもする。
高レベルの探索者にとっては戦車など動く棺桶としてしか見ていないだろう。そのためこの世界の主力兵器は戦闘ヘリや戦闘機、爆撃機だ。
当たり前だがそんなものを街中で使うわけにはいかない。探索者が強くなるに従いこちらの兵器も強化せざるを得なくなり、それに伴い周囲への被害も大きくなってしまう。
まだ探索者が出来たての頃は良かった、探索者化してもちょっと丈夫な兵士レベルだった。だが、時代が進むにつれ、探索者のレベルが上がるにつれ冗談ではなくなってきた。
戦車と鬼ごっこできるようになった探索者が現れたのがターニングポイントだっただろう。
一応魔灰コンクリートを使った建物は年々増加しているがそうでない建物もまだ多い。結局のところ剣や盾の前世代の戦闘に帰結することとなってしまった。
最悪銃器を使う想定として称号としての鍛冶がどれくらい耐えられる防具を作れるかは把握しなければならない。
ダンジョンモンスターと同じく火器を完全無効化するような防具の出現は切り札の1つを失うこととなる。未知に対する対応ほど困難なものは無い。
「ここで全てか?」(宮古)
「はい、私が聞いた限りでは5層はここで全てです」(須藤)
「わかった。ありがとう」(宮古)
「結構な数あるんだな」(宮古)
「思った以上に多いですねー」(清美)
「そうですね」(須藤)
自衛隊は現在18層まで到達している。部隊として攻略しているくせになぜこの程度なのかといえばボス層の存在がある。
DRDと同じく、こちらもボスもBPに5%以上のダメージを与えた探索者でなければ次の層へ進めない決まりがある。
つまり最大でも20人までしか次の層へしか移れない、もっともそこまできっちりダメージ管理できる人などいないが。
こちらの世界でも正確な数値は判らないが、さぼってた人間は次の階層へ進めないというのは知られている。
自衛隊、というより兵士は個としての能力ではなく隊としての能力を求められる。そのため人数制限がある場所というのはどうにも苦手であり思ったより進めていない。
…………………………
「ポーションは持ったな」(嵐山)
「はい」(大熊)
「問題ない」(島津)
「行くか」(嵐山)
「まさか1年で10.5層に挑めるとはな」(島津)
「そうだな」(大熊)
10.5層に入っていくと時雨のときと同じくタイニートロールが片膝をつき待ち構えている。
ミーノータウロスが筋肉質とするならこちらは脂肪質だ、ミーノータウロス以上の大きさを誇るがその太った体からは素早い動きが出来るとは思わない。顔もまたどこかとぼけた表情だ。
嵐山が大熊、島津が付いてきてるのを確認すると、背中のバスタードソードを抜いて迫る。片刃だが信濃が使っていた剣と同じく腕2本分くらいの太さがある。切れ味ではなく重さで圧し切る武器だ。
島津はタイニートロール用に野太刀、大熊は十文字槍だ。対するタイニートロールは原木を削っただけの棍棒だ。
トロールが飛び出した嵐山に向かって原木棍棒を振るう。嵐山は【バックステップ】で躱すが目の前をすごい風圧の物体が通り過ぎていく。
「おお怖」(嵐山)
その隙に大熊が十字槍をわき腹を切り裂く。BPがあるとはいえ、全くこたえた様子がない。
「ちったぁ反応してほしいなぁ」(大熊)
反対から島津が深く切るが、やはり効いた感覚がない。反応が全くないのだ。
「ちっ」(島津)
嵐山が再び詰めようとすると振り返して再び原木棍棒が過ぎる。
「ちっ、俺にも攻撃させろよ」(嵐山)
先ほどと同じように大熊、島津が攻撃するがやはり反応は何もない。
苛立ち交じりに大熊が大振りに深く刺したときに唐突に原木棍棒が大熊を打ち飛ばした。
「がはっ」(大熊)
原木そのままの棍棒だ、当然重量もそれだ。大熊は本当にボールかなにかのように吹っ飛び、地面にバウンドしてころがる。
「生きてるか!」(嵐山)
「……ういっす。ってーBPの半分持ってかれた」(大熊)
「すぐ飲め」(嵐山)
言われた通りに大熊はレッサーポーションを飲み干す。
「うっわ、すっげぇ苦いっす」(大熊)
「文句いってんじゃねぇ。蒔苗が頑張って刻んだんだぞっ! 俺が独り占めしたいのを配ってやってるんだ。文句を言うな!」(嵐山)
大熊と島津がポーションを飲んだ時よりも苦い顔になる。
(いつから悟さんはこんなに気持ち悪くなってしまったのか……)(大熊)
ただレッサーポーションの効果は確かで半分削られたBPが全て回復する。現在嵐山達はレベル10に達している。これが7,8だったら一気にLPを全て持っていかれていただろう。
またレッサーポーションを飲んだ時の代償はMPー3とかなり少ない。ポーションはー10と多めであるためがぶ飲みしすぎるとスキルに支障がでてくるため、こちらも低レベルには嬉しい。
「このとぼけ面野郎が!」(大熊)
しかし、大熊の突撃に対して返礼ともいうべきか、軽々と原木棍棒を振り上げて叩きつけられた。
「ちょっっ!」(大熊)
「らぁ!」(嵐山)
嵐山がバスタードソードを一気に振り下ろす、原木にはさすがに劣るがバスタードソードもかなりの重量だ、さすがにこの攻撃は堪えたのか、僅かではあるがよろめいた。
すぐに島津が背中の薄い部分に向かって振り下ろす。
「いつ間でへばってんだぁ? このままだとお前だけ居残りだぜ」(嵐山)
「だぁっくっそ」(大熊)
振り下ろされたときにとっさによけて潰れるのをよけた大熊が勢いよく起き上がる。
「たるんでるのではないか?」(島津)
「うるっせぇ」(大熊)
嵐山の攻撃が当たるとトロールは僅かに怯む。そこに島津と大熊が切りかかる。特に島津は馴れてくると2回攻撃を行っている。
かといって嵐山に攻撃をすると、大熊が切りつけ、島津も同様に後ろから切りかかる。だが、トロールはやはり効いているようには見えない。棍棒を振る勢いも衰えたようには見えなかった。
島津は刀を振る度に、棍棒を避ける度に口角が上がって来ているのを自覚していた。どうにも実家はそういった血が流れているらしい。
兄は特段それが濃く出たせいでやりすぎて実家に監禁されているが、兄のようにならないよう、上手くやろうとしているが、なかなかどうして難しい。
1年のあの女、ミーナとか呼ばれていたか? 雑魚だと思ったのに一撃当ててきた。意表を突かれただけだが、逆に意表を突くだけの技量があるということ……あとあのチビ、まぁいい、今はこいつだ。
しかし、深く切りつけようとすれば、待ってましたとばかりに、棍棒を横に薙いで来る。
効いているのかもわからない攻撃が続くなか、唐突にトロールがジャンプした。
「なっ」(嵐山)
「ほう!?」(島津)
「あっ」(大熊)
飛び上がったトロールが着地した瞬間立っていられない程の地揺れが発生する。ダメージはないがバランスが崩れたところに棍棒が薙ぎ払われた。
今度は嵐山と島津が吹き飛ばされる。今度は位置的に大熊が無事だった。
「油断しましたか?」(大熊)
「いや、不可抗力だ!」(嵐山)
「ちっ」(島津)
ニヤニヤ笑って話しかける大熊に嵐山達もじゃっかん苦い顔をしながら起き上がるとポーションを飲む。
「あれがダメージを受けるとやってくる技か」(嵐山)
「ですね」(大熊)
「いいな、楽しくなってきた」(島津)
手ごたえの感じられない戦闘が続くが、効いていることが判るので攻撃を続けていくと、唐突にトロールが唸り声を上げて倒れた。
「気を抜くなよ」(嵐山)
「わかってます」(大熊)
(さぁこい、立ち上がってこい)(島津)
無言で島津が頷くなかトロールが立ち上がる。赤いオーラを纏い原木棍棒を粉砕する。脂質だった体が赤く筋肉質になっていく、とぼけていた顔が怒りに染まっていく。
嵐山が早速切りかかるが全くよろめかず、豪快に切りかかってくる。爪は両手にはえているので単純に手数は倍だ。
だが、振られた爪をバスタードソードを盾代わりに防ぐ。
「ふっ、棍棒よりもこっちは軽いな」(嵐山)
「こっちからの攻撃に対して全く怯まないのは厄介ですけどね」(大熊)
「いいな、ちゃんと皮膚を切る感触がある」(島津)
「そろそろ行くぞ!【威圧】!」(嵐山)
嵐山が【威圧】のスキルを使うとビクリとトロールの手が震え攻撃が緩まる。その隙に3人全員が一気に攻撃を加える。3秒間相手を怯ませ、攻撃、移動速度を遅くする嵐山のレアスキルだ。
「【ダブルスラスト】」(大熊)
「【兜割】」(嵐山)
「【兜割】!」(島津)
だが、元々タフなタイニートロールだ、【威圧】の効果が切れるとすぐに何事もなかったかのように攻撃を再開してくる。
「次は?」(大熊)
「あと10秒待て!」(嵐山)
島津が腕を野太刀で切るがお構いなしに振られた爪が島津を掠める。それでも島津は張り付いた笑顔で狂ったように刀を振るう、だが狂っているように見えて致命傷はさけ太刀筋は鋭い。
「くそっ」(大熊)
長い射程を持つ槍でもトロールは巨体だ。爪を振るうようになり攻撃頻度もあがりどうしても攻撃=反撃の構図が出来上がってしまい体力勝負になってしまう。
「もう一度行くぞ!【威圧】!」(嵐山)
嵐山の【威圧】の間は反撃を喰らわないで済むが、3秒しか効果が続かず、欲張ればまともに攻撃を喰らってしまい、大胆に攻めることが出来ない。
「くそっ、あと少しだってのによ」(嵐山)
こちらのポーションも尽き、MPもほとんど残っていない。嵐山と大熊に敗北の2文字がちらつき始めたときだった。
「甘いぞ!!」
トロールの横振りを紙一重で躱した島津がお返しとばかりにその腕を縦に綺麗に切り裂いた。そこで初めてトロールが叫び声を上げたのだ。
さらに切られた腕から大量の血を流し、明らかに攻撃が緩くなった。
「ははははは! 良い声だ、その声が聞きたかった」(島津)
「こええよ」(大熊)
「気にしたら負けだ。とにかくチャンスだ」(嵐山)
出来上がった隙に攻撃が殺到する。そしてついに。
「おらぁ!」(嵐山)
嵐山の攻撃が胴体を袈裟切に一直線に切り裂いた。
「もう終わりか」(島津)
「おっ、当たりだ」(大熊)
大熊が宝箱からポーチのようなものを取り出す。アイテムポーチ(5kg)、ポーチの中に5kgまでなら自由にアイテムを入れることが出来る。
入れた物の重量は1/10になる。
「いいじゃねぇか、くれよ」(嵐山)
「さすがに嵐山さんのお願いでもこればっかりは聞けませんな」(大熊)
「大宝玉か」(島津)
「明日もう1週だな、今度はやりすぎるんじゃねぇぞ」(嵐山)
「さて、『手加減』という言葉はどこに落としてきたか……?」(島津)
「おいっ」(嵐山)
「こいつにそれ求めるの無駄ですよ」(大熊)
「ポーション……あんだ当てつけか!?」(嵐山)
「さっさと帰りましょうよ」(大熊)
「その前に薬草摘んでくぞ」(嵐山)
「またですか? ポーションの味どうにか出来ないんですか?」(大熊)
「たしかにな、味の改善を要望する」(島津)
「うるせぇ、我慢しろ……と言いたい所なんだが蒔苗も苦そうにしてるんだよな。あまり頼りたくねぇがあいつらに聞いてみるか」(嵐山)




