第076話:実は76話って75話の次の話なんです
戦場主義:ダンジョンは侵略者だ、一刻も早く潰せ!(でも資金がピンチなんでしょ?(笑))
資源主義:ダンジョンは資源の宝庫だ。解析して技術発展させるべきだ(技術~?70年経ってるのに何1つ新技術開発の報告ないんですけどぉ?)
探索者ルール:探索者が一般人を攻撃するとダメージが自分に反射される謎ルール。しかし、一般人側に明確な悪意、殺意があると無効化される仕様。
■ダンジョン7層:
景観としては4層とほぼ同じ、森林マップと変わらない。セーフルームも7か所存在し、いくつかのセーフルームには湖もある。
ただし木の密度が4層より多く、道も狭くなっている。
出現するモンスターは2種類、ビッグギャッドとワイルドシープ。
ビッグギャッドは巨大なアブのモンスター。ジャイアントビーと同じく空中に浮いてるため攻撃が当てにくい。
ワイルドシープはアタックバードと同じく固まって存在するタイプと徘徊するタイプの2種類存在する。仲間が戦っていると参戦してくるので戦う場所は注意が必要。
まれにワイルドシープのレアモンスター、ゴールドシープが出現する(ダイスタイプ)
「よぉおっさん、18層事件の当事者って本当かよ?」(岩山)
「……」(芹澤)
(いやなことを思い出させる……)
2017年、18層、表向きは大規模な事故が発生したことになっている。2017年の7月、18層で大規模なトレインが発生。
(トレイン:モンスターに負けそうになった探索者が、逃げた先で新たなモンスターと遭遇。
それらを引き連れて逃げる内に、その増えたモンスターがあらたなモンスターを呼び寄せ、何匹ものモンスターを引き連れている様がまるで列車のように見えることからトレインと呼ばれている)
18層のセーフルーム近くは、18層ほぼ全域のモンスターを巻き込んだ大規模戦闘が発生し、18層にいた多くの探索者を巻き込んだ戦闘が発生したと言われている。
だが、裏では違う。まだ日華が発足する前、探索者達は現在の扶桑の持つ記録よりもさらに深くまで探索を進めていた。
今よりも強かったのかモンスターが弱かったのかは判らない。まだ探索予定を提出する義務も無かった時代だ、多くの者が勝手に潜り戻らなかった。
今でも彼等の遺品が深い層のセーフルームに残っている。中には遺書やダンジョンカードが入っている。
何故彼等が無理をしてまでそんな深い層まで探索をしていたのか理由は解らない。だが、いつ拾われるかも分からない品がそれを置いた人物が確かに存在していたという痕跡だった。
問題はその遺留品の中にとんでもないアイテムがあったことだ。
『神酒ソーマ』
飲むと不老不死になりパラメーターの上昇、スキルの強化等様々な恩恵が得られるらしい伝説のアイテム。だが代わりに人類の敵になるのだとか。
それを友人が飲んでしまった……、彼の妻から連絡を受けた俺達は五十嵐夫妻ともう一人のパーティメンバー、さらに他の仲間と共に駆けつけた、残ったのは俺含め数人だけだった。
(清一郎さん……)
「唐突になんなんだ君達は?」(芹澤)
「知らねえのか? 組島銀醸の喧嘩屋ちゃんねる。有名だぜ」(岩山)
「私には関係ない。失礼する」
「おっと、残念だが戦わずに逃げるのはできない相談だぜ」
岩山が芹澤の行く手を遮る。同時に組島の取り巻きたちも回り込むように動く。
こういったとき平民は不便だ。子爵以上の貴族であれば実家を頼ることが出来る。だが平民では何もできない。警察は日華には存在しない。
「それに俺達は別にリンチしようってんじゃねぇ、おい」
「はい。決闘カードです」
「というわけだ、受けな」
「……」
暴行でもあれば他の貴族も難癖つけることはできる。別に芹澤を助けようという言うわけでは無く、問題を起こしたということでその実家の評判を落とすためだ。
だが、決闘カードでの戦いだ。時間を潰した程度であってとくに外傷は残らないため、「いやぁ、うちの子が悪いね、でも遊びくらい付き合ってよ」と貴族に言われては平民としては頷く以外の選択肢はない。
実際組島も勝っても負けてもファイトマネーとして10万程渡している。視聴者からそれ以上のお金は受け取れるし、組島は侯爵家であり会社を1つ任されたりしている。10万などはした金にもならない。
尤も彼の祖父含めて家族はいい歳なんだからそんなことするなと忠告はしているが、それに銀醸は反発している。
岩山の持つ武器は棍棒だ。ゴブリンソルジャー並みの体躯をもつ彼が持つのだから大きさもかなりの大きさになる。
対する芹澤は以前五十嵐と戦ったときと同じ鉄棍だ、長さでは芹澤の方が長く、太さで言えば岩山の方に軍配が上がる。
岩山の放つ棍棒を芹澤は苦い顔で防ぐ。わざと負ける選択肢もあるがそんなことをしても相手は納得しないだろう。
一見力任せの一撃に見えるが、その奥には確かな修練に裏付けされた鋭さが見える。そんな誰でも出来るようなことでは四天王は名乗れない。
それに組島は貴族である。彼にとっては体躯などなんの意味もない。貴族にとってはパラメーターが正義であり、信じるものはレベルとスキルだ。
岩山の人並外れた脊力は芹澤を容赦なく吹き飛ばそうとしてくる。しかし、芹澤も苦しそうにしながらもそれを華麗に防いでいく。
『お、すげえ』
『おっさんやるじゃん』
『岩山の一撃で吹っ飛ばない人初めてみた』
『前の人凄かったよな』
『ほんと、ほんとサッカーボールみたいに飛んでたよなー』
探索者達の活躍はテレビと共に広がっていった。しかし、カメラマンがダンジョンに入って内容を放送することはほとんどなく、民間の探索者を募集する華族の騎士団募集の放映がほとんどだった。
そのため子供達も夢中になったのはプロレスや野球だった。最もテレビ自体が民間に広まっていなかったが。
本格的に探索者に注目が集まったのは1971年に始まったバッタがモチーフの変身ヒーローの特撮アクション番組だった。
それまでも光の星雲からきた特撮ヒーローものでもアクションタレントとして採用する案は出ていた。しかし、戦場主義の貴族から待ったの声が掛かってしまう。
戦場主義の貴族からの主張はこうだ「探索者とは日本を護るためにモンスターと戦う戦士であり兵士だ。それを娯楽に使うとは何事か?」。
筋が通っているだけにスカウトは難航、結局起用は見送られてしまった。しかし、1971年にはそれがすんなり通ることとなった。
理由としては連日によるモンスター討伐により戦場主義の資金繰りが悪くなり発言力が低下していたこと。
逆に資源主義が台頭し、探索者のメディア露出が増えたこと、モンスター討伐により瘴気の危険度が下がり人々の中のダンジョンン脅威度が薄れたことが挙げられる。
これによってアクション俳優が採用されたが、たまたまその俳優がイメージにピッタリであることから本編にも主役として登場していた。
この特撮ヒーロー番組が当時の子供達に大いに受けた。本物の【跳躍】スキルによる人間では実現不可能なアクション、怪人モンスターから放たれる本物の【ファイアボール】。
さすがに一部は脚色されているがそれでも子供達に夢を与えるには充分なものだった。
俳優本人は戦場主義に属する人間だったが、資金稼ぎにと既存の会社とタイアップして発売したドリンクが売れに売れた。
当然資源主義がこれを目を付けないわけも無く多くの探索者ヒーローが企画されることとなった。戦場主義は自らの主義に対してツバを掛けたことになってしまった。
だが、冷や水を浴びせられる事件が発生する、1971年のあさま山荘事件である。
日本赤軍の探索者による警察署襲撃、銃器の収奪が発生。そして籠城したあさま山荘で警察、探索者の連合軍と激戦を繰り広げることになる。
この頃は探索者ルールも世間には深く知られておらず警察にも死傷者を出すこととなった。
探索者の脅威が世間に知れ渡ることとなったが、探索者が減ることは戦場主義も資源主義も求めるところではない。
それにこれは貴族のみからず日本にとっても問題だった。赤人親王が自ら探索者となり、募らなければ現在の探索者はもっと少なかっただろう。
また赤人親王が探索者になりモンスターを倒すシーンを撮影するためにダンジョン内部に初めてカメラが入った。
これを皮切りにダンジョン内の映像が放送されることとなりまた資源主義達の後追い特撮番組が放送されることで探索者はさらに注目を浴びることとなった。
しかし、探索者の動きは激しく、当時のカメラ技術含めてうまく撮影することは困難だった。撮影機材の向上は必須の課題だった。
2000年代にあがり撮影技術は飛躍的に上昇し、驚異的な手振れ補正技術に始まり最近はドローン技術の向上により半自動撮影までもが可能となった。
さらに視聴者側の技術も高速化し、言葉を文章化する技術が強化され最近ではAI機能により本人の言葉のイントネーションから予測入力まで出来るようになった。
『お、岩山押されてる?』
岩山の横振りを一歩下がって躱すと同時に突きを放つと同時に鉄棍の持つ場所を拳2つ分後ろへずらす。
芹澤の棍術は振らずに突くことを主体としている、線で攻めるよりも点で攻める方が躱しにくいからだ。特に棍棒は重く点で攻められると防ぎにくい。
鉄棍は長柄の武器だ、長く持つほど少し角度を付けるだけで先端は倍以上変わる。芹澤は手元の角度をうまく変え防御しにくい所を的確に突く。
『すげえ、岩山に攻撃の隙あたえてねぇ』
『何者だよ』
『18層事件の生き残りだろ』
探索者に一番売れている武器は日本刀だ。大抵の日華の探索者はまず日本刀から入る。日本人としてはやはり使いたいと思うのだろうか。
しかし、すぐに槍や薙刀など長柄の武器に転換する人が多い、特にゴブリンや狼と戦ったあとはその傾向が強い。
剣という物を効果的に振るというのは案外難しい、特にモンスターは人とは違う、硬い皮に効果的に刃を立てて切るというのは非常に難しい。
しかも、自分を本気で殺そうとしてくる相手と至近距離で闘わなければならないのだ。
突きというのは案外楽だ。本格的な突きは技術がいるが、それでも未熟な者でも効果的なダメージを与えられる。そして長柄であれば距離を空けて戦える、これらが槍への転向者の理由だ。
だが、こうして選ばれた槍だが、大抵が棍棒系に再び転化されてしまう。問題となったのが手入れだ、刃物は手入れをしなければすぐに鋭さは落ちてしまう。
さらに長柄の刃物は味方を傷つけてしまうことが多い。多少手入れをさぼったところであまり影響もなく、味方を引掛けてしまうこともない。
さらにBPの仕様による迷信だ。常識で考えれば突けば血が出てダメージを与えられたことが目に見えて解る。
しかし、BPがあるこちらではBPとパラメーターが抵抗となり憑きを弾いてしまう。初心者では槍を弾かれるように見えてしまうだろう。
そういったこともあってか、メンテナンスがほぼ要らず、何も考えずに津から任せに触れる棍棒系に着地してしまう人が多数なのだ。芹澤も元々はそうだった。
岩山に攻撃の隙を与えず、有効に攻めている芹澤であるがその顔は浮かない。
(くそっ、息が上がる。やっぱり昔のようにはいかないか)
芹澤も年齢は50近く、あの18層の事件から必要最低限のお金を稼ぐ以外はダンジョンに潜ることも無くなってしまった。
パラメーター的には下がっていないはずだが、長い間に錆ついていた棍術、岩山から感じる圧迫感が無駄な力が多く余計に体力を使わせていた。
だが、岩山も見た目の通り素早い動きができず防御も苦手のようだ、右と思えば左、左と思えば上と的確に防ぎにくい所にくる攻撃に翻弄されていた。
岩山も最初は「お?」「おお」と余裕を見せていたが、攻撃が続くうちに次第に口数が減っていく。
やがて我慢できなくなってきた岩山が無理に間合いを詰めようとしてくる、足元を払ってそれを牽制する。
(大丈夫だ、問題ない、冷静に対処できている。焦るな、確実に詰めていけ)(芹澤)
……なぜ俺は勝ちにこだわっている? 別にただ挑まれたから戦っているだけじゃないか。勝っても負けても得られるものなど……
そのとき、五十嵐優の顔が脳裏にちらつく……そうだった、彼と再戦の約束をしたんだったな。ここで負けては愛さんに申し訳が立たないな……
『おっさんがんばれー』
『今回は挑戦者勝利か?』
『またやらせじゃね?』
『また? やらせはねーってこないだ結論でたはずだが?』
『指示があっても岩山は熱くなると忘れちまうからなぁ』
決闘カードを使っての戦闘ではBP、LPはHPに纏められ、部位も全体で統一される。代わりにHPが減少するたびに、衝撃が大きく感じるようになり、痛みも長引くようになる。
芹澤の攻撃が右肩に当たった瞬間、岩山が大きくぐらつく。
チャンスと見た芹澤は素早く間合いを詰めると【四連突き】を放つ。
しかし、その視線の先の岩山はニヤリと笑っていた。スキル【硬化】10秒間ダメージを半減するスキルだ。岩山は後半これを使い攻撃を耐えていた。
「【パリィ】」
横に振られる棍棒が【四連突き】を横に弾いた。連続攻撃系は強力だがモーション時間が長く、途中で止めることも出来ないためスキルの内容を知っていると反撃され易い。
勝利を焦った芹澤は、スキルに頼りそこを岩山に付け込まれる形となった。重量武器である棍棒に思い切り叩きつけられれば鉄棍だろうが大抵の武器は大きく弾かれてしまう。
『くるぞ』
『おわったー』
「【タックル】」
肩を前に出した岩山の体が芹澤を吹き飛ばす。
「【強打】!【兜割】!【乱打】ァァ!!」
倒れた芹澤に向かって棍棒が振り下ろされ、止めとばかりに何度も棍棒が叩きつけられる。
「試合終~了~」(前田)
『あーおしい』
『いけそうだったのになー』
『あれ、でもフィールド解けてなくね?』
『え?』
『え?』
後ろを向いた岩山にゆっくりと立ち上がった芹澤が詰め寄る。スキル【硬化Ⅱ】、たった3秒間だけだがダメージをほぼ0に抑えることが出来る。
「【炎纏い】【四連突き】!!」
『おおおお!』
『すげぇぇぇ!』
『勝ったーーー』
『おっさんすげぇぇぇ』
「へぇ」(組島)
「馬鹿が、相手が武器離すまでは油断するな」(立花)
「ま、もり上がったからいいんじゃない」(雫)
「今度こそ!!試合終了!!」(前田)




