第071話:加藤VSボーンラットクィーン
EMP:装備マジックポイント、ダンジョン産の装備で必要になる。獲得称号数×5+5
MP:スキルを使うために必要。消費したMPは時間経過で回復するが、スキルを使うたびにMPの最大値も減少する。最大値は周囲に敵がいなくなると徐々に回復する。
■日本の病院:
国立病院以外は、親(成人している場合は本人)が就職している会社が所属する企業の派閥と同じ派閥の病院で診てもらう。
違う派閥の病院の場合、診てもらえない。もしくは露骨に差別される。
順番を飛ばされても文句は言えないし、余程重症でなければ診療も満足にしてもらえない。重症である場合は貴族のプライドにかけて治療はしてもらえる。
そのため保険証は必ず自身が所属している派閥が記載されている。ちなみに飲食店やスーパーでは緩い。多少のサービスはあるが。
5層岩山、光など届くことは無いのに不思議と暗くない。3層の洞窟はやや黄色がかった土色の岩肌だが、こちらは灰色の岩というよりは石に近い肌を晒している。
今加藤達が居る場所は頂上付近の部屋だ。敵も出ない上にかなりの量の採掘ポイントが発生するため採掘者でごった返しそうだが、まだまだ採掘ポイントの探索や採掘隊の編成などの準備に時間が掛かるだろう。
現在、その小部屋に巨大な骨ネズミ、ボーンラットクィーンが現れた。新参者のくせに存在感を醸し出しており、その巨体で部屋の四分の一を占有している。
本来は地下にあるボーンラットクィーン専用の部屋に出現する。部屋一杯にネズミの骨が散らばっており、それに擬態するように伏している。
「逃げるかい?」(白雪)
「逃げれる?」(加藤)
ボーンラットはゲームではアンデットモンスターという位置付けだった。現実もそう推測されていたが、白雪によりタコのような寄生体ということが判明した。
クィーンには黒い肉塊のようなものが張り付いているが、それがその寄生体だろう。分類的にレアモンスターのように見えるが、ユニークモンスターとなっている。
クィーンの一番の特徴でありユニークモンスターと分類される所以は、自らの体からボーンラットを発生させることだ。
ボーンラット自体それほど強くはないが、際限なく呼び出してくるのが厄介なところだ。はぐれ狼以上に頻繁に多数呼び出してくる。
闘う場所も岩山の中という狭い場所だ。逃げ場のない場所で数で押してくる。
クィーン自身も巨体を生かした踏み潰すような突進を行ってくる。だが他の行動は一切せずにひたすら出産だけしてくる。
ドロップアイテムの闇の魔石は魅力的だが、そのためだけに狙うかと考えると悩んでしまうような相手だ。
「うまく入口脇に寄せれればいけない?」(白雪)
「無理だろ、子供が大挙して襲って来るぞ」(加藤)
加藤達は採掘をしていたため疲れている。小町も「今日はマトンカレーよ、美々さんと7層にいるから用があっても連絡しないでね」と言葉を残し別行動だ。
「てか、数多くね」(加藤)
「例のマイナスチートだろうね、もしくはリアルだからか」(白雪)
「どちらにしても最悪じゃねーか」(加藤)
クィーンのお腹にある肉塊から、黒い寄生体が生み出され、ネズミの形を成していく。既にゲームの限界を超え、10匹以上のボーンラットが生まれている。
「うげ、なんすかあれ」(陽子)
「フライハーイ」(メリッサ)
さらに背中からも寄生体が生まれ、自身の体を被膜状に広げ骨の蝙蝠を形成して飛び立つ。こちらはゲームでは存在しない。
「ボーンバットってところか?」(黒田)
「ラットだのバットだの洒落かにゃ?」(ミーナ)
「でも逆にゲームみたいに無限湧きってのもないと思うよ、なんにしてもエネルギーを使うからね」(白雪)
「なるほど」(加藤)
「そこまで体力持つ?」(皆川)
「私は持たないよ!」(白雪)
「自信持って言うなよ」(加藤)
「つまり花籠さんの話なら時間を掛ければいけるけど、そこまでしていられないと」(長谷川)
「ジリ貧になるのは目に見えているね」(皆川)
先陣を切ったのはボーンバットだ、4匹が空から襲い掛かってくる。まずは長谷川がスリングショットをお見舞いする。
強力なゴムで作られたボールベアリングが命中したが、寄生生物に口は無いため悲鳴はない。
しかし、骨は砕け相手は墜落した。さらに別の個体には千鶴が放った矢が刺さった。
簡素な矢で、矢羽根の替わりにリボンが結ばれているだけの簡単な造りだが、それでも深々とめり込み撃ち落とした。
「有効射程は短そうですが、いけますね」(千鶴)
矢だけでなく弓もまた彼女が自作したものだ。4層で切った木材とアルラウネの蔓から作り出した。
【薬師見習い】である陽子に手伝ってもらい【乾燥】のスキルで完全に蔓を乾かす。これを裂いて繊維を取り出し、紙縒りのように撚り合わせて弦を作った。
木材は西洋のショートボウを参考に削り出している。
さらに隣を【ファイアショット】、【ウィンドアロー】が撃ち抜き、その隣を一回り大きい水球がバットを吹き飛ばした。
「やった、当たったすよ!」(陽子)
「!!」(七森)
陽子の隣で七森も頷いている。しかし……
「シュコーシュコーシュコー」(白雪)
「白雪さん!」(陽子)
「どうしてっ、あ……」(千鶴)
「戦う前からへばってたからな」(加藤)
「白雪さんは、戦力に数えない方がいいっすね……」(陽子)
白雪戦闘不能……しかし、彼女の顔はガスマスクだった。
バットに続き地上からはラットの進軍が始まっていた。
「このっ」(黒田)
黒田がラットを蹴散らす、武器は七森が作った大振りの剣に変わっている。得意とする武器だったが、狭い部屋が災いし満足に戦えていない。
近くでは加藤もラットとの戦闘が始まっている。武器はショートソードで取り回しはよいが、数が多いため余裕は無い。
元々加藤は1対1の闘いが得意であり、複数相手は苦手なようだ。皆川も武器が槍であるため黒田同様、満足に戦えていない。
「やりにくい!」(皆川)
「……や、槍だけに? シュコーシュコーシュコー」(白雪)
白雪戦闘不能……しかし、彼女の顔はガスマスクだった。
「せめて静かにしてろ!」(加藤)
安定して戦えているのは須藤とミーナだけだ。須藤はナックル、ミーナは棍棒に持ち替えている。そして案外善戦しているのがメリッサだ。
メリッサも、盲目という環境から廃DRDプレイヤーだった。彼女の趣味は一人でベストスポットを巡ることだ。
一人でモンスターひしめくダンジョンを巡るために選んだスタイルは素手と回復。自らを回復しながら相手を殴り倒すスタイルだ。彼女もまたナックルを装着している。
しかし、善戦しながらもほぼ無限ともいえる量のラットとバットに徐々に壁際に追いつめられていく。
「やばい、突っ込んでくる!」(皆川)
「あ、まず」(加藤)
警告を発したときには遅かった、クィーンがその図体のまま突っ込んできていた。子供まで巻き添えになっているところをみるに、彼女に母性はないようだ。
「くっ……あっ!」(皆川)
皆川が割り込み、盾を構えるが、疲労のせいか力が入らない。そのまま盾ごと吹っ飛ばされてしまった。
「ぐはっ」(黒田)
「がっ!」(加藤)
「きゃ!!」(楓)
「ぐへぇ」(白雪)
「皆さん!」(須藤)
「健兄ぃ!」(ミーナ)
須藤、ミーナ以外のほぼ全員がクィーンに轢き潰されることになった。
BPがあるためぺちゃんこになることは免れたがそれでもかなりのBPを減らすこととなった。不幸中の幸いはダメージがかなり分散したことか。
しかし、逆に考えればクィーンが自らこちらに来てくれたことになる。
「このぉ」(加藤)
「へへ、ここなら何処に撃っても当たるぜ」(白雪)
白雪がMPを空にするのをためらわずにゼロ距離で魔法を連発する。多少クィーンが後退するとミーナと須藤が追いすがり、他が続く。
「コシューコシューコシュー」(白雪)
白雪戦闘不能……しかし、彼女の顔はガスマスクだった。
メリッサや楓は皆にヒールを入れていく。単体にしか効果がないため1人の大怪我よりも多人数の怪我の方が困る。
【範囲化】のスキルもあるが残念ながらすぐに手が届くところにない。
「やばいな、あの攻撃はまずい」(長谷川)
「ソルジャーといい、何で子供を大切にしないのか」(加藤)
「だが、今のでかなり打撃を加えられたはずだ」(黒田)
「追撃するぞ!」(黒田)
「子供が一掃された今しかない!」(加藤)
「あそこ! うっすらヒビ入ってない!?」(長谷川)
「どこ!?」(皆川)
「額! 中心!」(長谷川)
「もうBP抜けたのか!」(加藤)
「子供産むたびにBP減るんじゃね?」(黒田)
答えてくれそうな白雪からの返答はない。
再びクィーンから子供が湧き出てくる。加藤や黒田が追いすがって何度か追撃を入れるが、生産速度に追いつけずに膠着状態に陥っている。
「くそっ、疲れて追い付けねぇ」(黒田)
「もうちょいなんだがな」(加藤)
皆の息づかいが荒くなり、それに比例して被弾が増えていく。そしてついに……
「ノー! 今ノーデMPスッからかんネー」(メリッサ)
「私もです」(楓)
「どうする?」(皆川)
「須藤君【強打】? だっけ? 持ってる?」(長谷川)
「あ、はい。格闘家の称号を取った時に、役立つと言われて入れたままになっています」(須藤)
「一か八か、それで特攻かけてあのヒビ叩いたら砕けないかな?」(長谷川)
「多分いけると思うにゃ」(ミーナ)
「何もしなけりゃジリ貧なんだ、それで行こう」(加藤)
「たのんだぞ」(黒田)
「了」(須藤)
須藤がボーンラットクィーンに向かって突進する。【タックル】を使えば楽に距離を詰められるが、須藤も【採掘ポイント可視化】のスキルを付けているため【正拳突き】と【強打】しか使えない。
皆川も【チャージ】は使えるが、周りにはラットやバットの骨が散乱しているため、転倒を恐れて発動を躊躇している。
「纏わりつかせるな!」(黒田)
加藤、皆川が露払いのため、前に出て寄って来るラットを振り払っていく。長谷川や千鶴、陽子達は続けてバットの処理に努めている。
突進してくる須藤に危機感を覚えたクィーンが逃げようとするが、今度は逆に大きい体が邪魔をして逃げ場がない。
あと1メートルまで距離を詰めたときだった。
「【強打】」(須藤)
「不味い! 早すぎる!」(加藤)
須藤はDRDの経歴は少ない。ほぼ0といっていいだろう。そのため、まだスキルを使うタイミングを十分に理解していなかった。
【強打】を使いクィーンに向かって攻撃を繰り出そうとしたとき、1匹のラットがその前に飛び出てきた。須藤がそれを手で振り払ってしまった。
倍の力で振り払われたラットは不自然な程の強さで壁にぶつかり、爆ぜるように黒い染みを作るが、【強打】はそれで切れてしまった。
「あっ……」(須藤)
責任を感じた須藤がそれでも取りすがろうとするが、ミーナがそれを止める。
「引くにゃ!」(ミーナ)
「ですが!」(須藤)
「いいからもどれ!!」(ミーナ)
「はい……」(須藤)
「どうする?」(皆川)
「最後の手段だ、突進を誘発しよう」(加藤)
「さっきの二の舞じゃ?」(皆川)
「俺も一緒に防ぐ、それなら耐えられないか?」(加藤)
「わかった」(皆川)
「外れたら終わりか」(黒田)
「あぁ、全員ロスト覚悟だ」(加藤)
「とりあえず【強打】のクールタイムが明けるまで耐えるぞ」(黒田)
「それまでに突進きたら?」(皆川)
「そうされないために、前にでる!」(加藤)
「30秒か」(黒田)
「いや、1分だ! 須藤さん、悪いけど確実に仕留めたいから【強打】2重掛けでお願いできる?」(加藤)
「できるのですか?」(須藤)
「うん。効果時間1分、クールタイム30秒だから。その代わり、かなり危険で、反動で骨折の心配もあるから勧めづらいけど」(加藤)
「……いえ! やります!!」(須藤)
ラットの数もすっかり先程と同じ数まで復活し、ポーションを飲んだり、メリッサ、楓に代わり皆川、陽子も回復に努めているが、そろそろ限界も近い。
メリッサ、楓は既にMPの最大値が【レッサーヒール】を下回りヒーラーとして役に立つことはないだろう。
「【強打】!」(須藤)
「あと30秒!」(長谷川)
「あ、やべ!」(黒田)
一番前に出ていた黒田が運悪くちらばった骨を踏んでしまい、バランスを崩してしまった。思わず後ずさったことでクィーンとの間に僅かな隙間ができてしまう。
「やばい! 突進の姿勢取ってる!」(長谷川)
「【強打】は!?」(ミーナ)
「すみません、もうちょっとです!」(須藤)
「くっ、なんとかするしかないか」(加藤)
再びクィーンがその質量で押しつぶそうと、子供を轢き殺しながら突進してきた!
「加藤!」(皆川)
「おう!」(加藤)
2人がかりでクィーンの突進に正面からぶつかる。それでも質量が違い過ぎる、後ろへ滑るように後ずさりしてしまう。
「……うぐ!!」
2人が崩れそうになったとき、我武者羅に七森が走って皆川を後ろから支える。それを見たミーナも駆け寄ろうとする。
「健兄い!」(ミーナ)
「ミーナは攻撃!」(七森)
七森の言葉にミーナが思いとどまると、代わりに他のメンバーが次々と皆川と加藤を後ろから支えてクィーンの突進を押さえ込むことに成功した。
突進を止められ、クィーンは距離を開けようと後ずさろうとするが……
「【ウォーターショット】!」(白雪)
狙いすましたかのように後ろの軸足に水が飛んでそれを妨害した。
「もうちょっとゆっくりしていきたまえよ」(白雪)
止めていた加藤達が脇に転がるように避け、須藤がその巨体でそこを通る。
何匹かのラットが須藤とクィーンの間に分け入ろうと飛ぶが、今度はその横面に鉄鉱石がめり込み、矢が他のバットを撃ち落とす。
「へへ、良い弾丸みっけ」(長谷川)
「邪魔はさせません」(千鶴)
「【強打】!【正拳突き】!」(須藤)
須藤の拳は今度こそボーンラットクィーンの頭蓋骨を捉えた。その威力は戦車砲もかくやというほどで、凄まじい衝撃音が空気を震わせる。
だが、それと同時に何かが折れる音が響いた。
「ぐぅ」(須藤)
【強打】は筋力を2倍にする。それを2度掛けしたのだ。骨や腱はそのままで、筋力だけが4倍の力を発揮すればどうなるか。その音が物語っていた。
しかし、骨が耐え切れず、クィーンの頭蓋を完全に砕くことは叶わなかった。なおも攻撃を加えようとする須藤をミーナが止める。
「無理すんな!」(ミーナ)
すかさず割って入って、メイスをひび割れに叩きつける。その一撃で遂に骨の鎧が砕けた。
「ぐっ……もう一発」(ミーナ)
「ミーナこそ仲間頼れよ!」(黒田)
黒田が割って入り、大剣を力いっぱい突き刺す! クィーンが痛みにのたうち、振り落とさんと藻掻くが、黒田は最後の力を振り絞って一気に押し込め、ついに貫通させた。
「すまん」(ミーナ)
ラット達が大剣に群がるように駆け寄ってくる。
「抜かせるな!」(黒田)
まだ動ける全員が最後の力を振り絞って、もがくクィーンに駆け寄ろうとするラットを阻む。皮肉にもそれは、クィーンを守ろうとしているように見えた。
長谷川、陽子、七森が援護し、加藤、皆川が盾で打ちのける。MPの切れたメリッサ、楓までも戦線に加わりラットを排除する。
運よくクィーンによじ登れた個体もいたが、千鶴が弓で的確に撃ち落として大剣を守る。
わずか1分にも満たぬ攻防、ついにラット達の動きが止まった。
クィーンは動かなくなり力なく倒れ伏していた。張りを失ったように寄生体は黒い水たまりを作り、端からは灰化が始まっていた。
ラット達も、地面に散乱した骨も灰になり静寂が訪れる。部屋内には乱れた呼吸だけが響く。
「終わったか……」(皆川)
「あぁ、かちどーき」(加藤)
「「「ぉー……」」」
「……」(白雪)
クィーンが消えたあとには、大量の闇の魔石と宝箱が残っていた。
「あ、錆びた剣だ、誰か要る?」(皆川)
「……」
誰からも手が上がらなかった。
『錆びた剣』の正式名は『錆びし英雄の剣』。能力的には低い武器だが、誰もがその名称から、何かあるのではないかと訝しむ。
その感覚は正しく、2,3回のクエストを経てその剣は『在りし日の英雄の剣』に変化する。
苦労に見合った力は有るし、さらにスキルを使わずとも【エアスラッシュⅡ】を使うことが可能になる破格の性能を見せる。
だが、装備に必要なEMP50。実に9個称号を獲得しなければ装備することは出来ない。必要な魔石の数にして最低1,800個が必要になる。
攻撃力だけなら同等の剣がSKハンズで買えてしまう。それにその剣はEMPも20と半分以下で済む。これも探索者を余計に悩ませる一因となっている。
尚、現実ではその剣はSKハンズで売っていないし、『在りし日の英雄の剣』に戻す方法も当然知られていない。
ボーンラットクィーンは複数人で挑めば比較的楽に倒せるモンスターだ。すでに討伐報告が上がっているし、『錆びし英雄の剣』も何件かドロップ報告がある。
名前も鑑定眼鏡で見れるため、何かあるだろうと推測されているが調査は進んでいない。
「まあ、捨てるのもなあ」(黒田)
「持って帰るか」(加藤)
「記念ですかね……」(千鶴)
貧乏性を発症してしまう皆だった。きっとどこにしまったのかも忘れるだろうことを想像しながら。
「正直闇の魔石の方が価値高いっすよね」(陽子)
「うん」(皆川)
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