第067話:あれ、次の話が始められないぞ……
西城瑠璃子:西城公爵家の次女。姉の他兄が1人、弟が1人いる。主人公と同じく1年。【剣聖】のレア称号持ち
信濃海斗:瑠璃子付の護衛、信濃伯爵家の4男。表の顔はさえないおっさんだが、かなりの実力者。
■ライトニングダガー
切:36 刺:18 打:0 重量:0.6kg EMP:8 PAS:0 刃渡り:16cm 元幅:3cm 健力+6
ダガーと名付けられているが柄は無く苦無に近い形状、7層のライトニングシープが特殊枠で落とす武器。そのため希少性は非常に高い。
紅雀のような目立つ効果は無いが、スライディングのような移動系のスキルが0.5秒分持続時間が伸びる特殊能力がある。
日曜日、F組の寮は掃除から始まる。最近はクラスの皆が協力するようになりあっという間に終わる。
千鶴は【木工見習い】の称号と共に【ひび割れ修復】のスキルを手に入れた。この間、お風呂場で見つけたタイルのひび割れに何気なくこのスキルを使った所、そのひび割れが綺麗に治ったのだ。
ザA型とも言わるほど几帳面な千鶴は狂喜し寮にあるひび割れにスキルを使って回った。
そのおかげで千鶴の手が届く範囲のひび割れは綺麗に駆逐されている。今度は命綱つきで外壁のひび修復をすると息巻いている。
…………………………
寮の庭に新たに建てられた炉とそれを囲むプレハブ小屋、とはいえ防音壁に3重に囲われているため、周囲へ漏れる音はだいぶ小さくなっている。
ただし壁と壁の間には空気の空間があるため3重の扉をくぐらなければならないが。
プレハブ小屋ではこの部屋の主である健が働いている。炉が出来てから七森は生き生きとしている。【保温】のスキルを使い次々と鉄鉱石を炉に入れていく。
本来鉄の融点は1500度以上であり、アルミの660度の2倍以上の温度が必要になる。
熱というものは高い方から低い方へと移っていく。つまり炉内の温度が低ければいつまでたっても鉄が溶けることはない。そこで有効になるのが【保温】だ。
このスキルを使うとBPと同じように周りに保温の幕が張られることになる。
【保温】という言葉に語弊があるが例えば料理にこれを使用すれば、料理は際限なく冷たくなっていく。
70度であればずっと料理の表面は70度で固定されるため周囲の24度を下回ってもずっと70度と見なされ熱が放出され続けるのだ。MPさえ続ければ絶対零度近くまで下げることが可能だ。
ダンジョンから産出される鉄鉱石は不純物が多く酸化鉄で構成される赤鉄鉱と砂鉄と同様に不純物の少ない磁鉄鉱(黒鉄鉱)の2つが混在して産出される。
低層は当然赤鉄鉱の割合が多い。まだ転炉が無いため鉄鋼には遠いがそれでも対魔物に対してはそこそこ有効な武器になる。
片方の炉で鉄鉱石に【保温】を掛け鉄にすると共に、既にインゴット上にしている鉄を熱してホウ酸を加え、折り曲げ鍛接をしてハンマーでたたき鍛接をしていく。
電動プレス機と旋盤機が欲しいと思う健だ。
それでも世話になりっぱなしでは無く自分にしか出来ないことがあるのは有難い。こちらに来てミーナがいてくれてよかった。
いなければ最初から加藤君達のグループに入れることも無かっただろう。
一心不乱に鉄を叩く健と、その脇にある長椅子に胡坐をかいて座り煙管を吹かして静かにしている美々がいる。
この小屋と炉の建造にも参加してから時々こうして黙々と健の作業を見ているのが日課となっている。
健も最初はびびっていたが自分から話しかけることは出来ないし、作業を始めると没頭するし、美々も何も喋らないため健が中断することもない。
かなり音がうるさく良い空間とは言えないのに何が楽しいのかいつの間にか部屋に居座っては煙管を吹かして静かに眺めている。
…………………………
ダンジョン2層の灰の海、今日も多くの探索者がバケツを片手に魔灰を集めている。
1人の探索者が持って来ていたポリタンクに一杯に灰を入れ終えリュックに詰めるとそれを背負う。
そのまま立ち上がったときにふと見上げるとなにやら似つかわしくないものを見た。
その女性はイーゼルを立てかけ、木製の椅子に座ってイーゼルに掛けた画紙になにやら手を走らせていた。こちらからは見えないが格好から見るに絵を描いているのだろう。
「なぁ、あれなにやってるんだ?」
「うん、どこだ?」
「あれ、あの先」
崖の上を指差すと、その女性は煙のように消えていた……などということは無くさっき見ていたそのままに画板とにらめっこしていた。
……別に変なことではない。ここがのどかな公園ならばわかる。だが残念ながらダンジョンだ。
(やってみたかったんですよネ。ゲームでは出来なかったこと)
メリッサが視力を失ったのは一瞬の出来事だった、別の州の大学に通っていた夏休み、久しぶりに帰省して両親とキャンプに行った帰りだった。
好きな音楽を聴きながらストリートを歩いていたときだ、何かが破裂したような音を聞いた。その後前から押されたような衝撃、そこから先の記憶は無い。
気が付いたときは闇の中にいた。
目を開いても映るのは暗闇ばかり、指先で顔に触れたときに包帯に触れた。安心とともに何故と思いながらも乱暴に包帯を剥した。
しかし、光は入ってこなかった顔に触れても何もない。パニックに陥っていると誰かに押さえつけられた。あとで看護婦だったと知った。
医師と名乗る声から絶望的なことを告げられた。近くの飲食店でガス爆発が発生、その衝撃で椅子だか机だかの破片が飛散、運悪く両目にとのことだった。
家族は生きていることが一番と言ってくれたが私には絶望しかなかった。
瞼を開いてもずっと目をつぶったまま、右も左も闇のまま。世界から全てを奪われ孤独に囚われた気がした、悲しくて、でも声が出なくて、寂しくて、でも歩けなくて、死にたくて、でも立てなくて、全てが怖かった。
何もできないまま、2年経った頃に転機が訪れる。どこか聞いたことろがあるような声が聞こえてくる。
「えっと」(???)
「?」(メリッサ)
『こんにちは、久しぶり』「で通じるかな?」
『……誰?』
『えー覚えてないの? ショックだなー。ほら、昔会った事あるでしょ? 君のお母さんのお兄ちゃん』(加藤)
『おじさん……何の用?』
『お母さんから連絡が来てね、君の目を僕の務める会社の技術ならなんとか出来るかもと思ってね』
その後両親に連れられてベッドのような物に寝かせられた。頭になにかをかぶせられて、手渡されたものを両手に付ける。
『それじゃいくよ』
その声と共に不思議な感覚が私を襲った、ずっと逃れられない闇に閉じ込められていたのに強い光に目を閉じる、再び目を開けると広がるのは一面の草原。
私は久しぶりに本当に久しぶりに光の中にいた。
あまりの光景に目を見開いていると、自然に涙が流れてきた。不思議だった、手で拭っても涙の感覚は無かった。
呆然としていると空中にウィンドウが開く、唐突に未来に来たような不思議な光景。そこには少し老けた両親と隣には知らないおじさんが居た。
『お父さん! お母さん!』(メリッサ)
『メリッサ。なんか不思議な感覚だね、同じ家の中にいるのに、今メリッサはモニターに映る画面の中にいるよ』(父親)
『メリッサ! どう? 変なところない?』(母親)
『う、うん。お父さんとお母さんの顔が見える……見えるよ……』(母親)
『どうやら感覚は正常なようだね。もー酷いよね、数泊しただけのお返しにうん十万ドルのものを請求してくるなんてさー』(加藤)
『なによ、ぜひ協力させてくれって言ったのお兄ちゃんじゃない!』(母親)
『ありがとう、ありがとうー! ※●×■□◆ーーーー!!』(父親)
『ちょっ、マークさん痛い! 痛い! 潰れる―』(加藤)
その後、今自分がいるのは仮想空間であること。この空間内なら目が見えることを聞いた。
その後メリッサは1日のほぼ全てを仮想空間で過ごすことになった。元々母親から日本語は教わっていたので、仮想空間でも出来る翻訳の仕事を紹介してもらった。
英語版DRDの翻訳を手掛けたことからDRDの存在を知り、すっかりとその綺麗な景色に魅せられて、気が付いたときにはあの講堂にいた。
ログアウトをし忘れていたのかと思ったが感覚が正常なこと視力が戻っていることから号泣してしまい、先生に連れられてトイレで泣き晴らしていた。
(加藤父が持ってきたのは第3世代型FDSボルテクス、解体されそうになったものを持ってきたものだ。初期バージョンであるためDRDプレイのためには拡張パーツが必要になる)
「イーゼル!!」(メリッサ)
「知ってるにゃん、椅子は?」(ミーナ)
「モった!」
結構しっかりしたイーゼルは千鶴から余った木材と工具を借りて作ったものだ。木材を貰う際に何に使うのかを聞かれて、絵を描きたいがイーゼルを安く仕上げたいと言ったところ、千鶴が手伝いを申し出てくれた。
2人でどう作るかを悩んでいたところ、気付いた長谷川が図面を起こしてくれて、いつのまにか全員が手伝ってくれた。
気が付けばイーゼルだけでなく折り畳み式の椅子まで完成していた。こうして皆が手伝ってくれるような環境に入れたことはとてもありがたかった、あのとき誘ってくれた白雪には感謝だ。
「それじゃイってきまーす」(メリッサ)
「いってらっしゃー、後で見せてにゃー」(ミーナ)
「ハーイ!」
(唯一の心残りはお父さんとお母さん、それからおじさんですが、こちらにはいるのでしょうか? 私は大丈夫だからお父さんとお母さんも安心していてね)
転生したあと電話を掛けてみたが日華から国際電話は出来ないとのことだった、両親と連絡が取れないのは不安だが、きっと両親もやりたいことをやれと言ってくれるはずだと思い白い紙に木炭を走らせるのだった。
…………………………
ダンジョン探索者育成学園 東京校 特2演習場
3棟からなる特別演習場は貴族のみが使用を許される演習場。現在この場に居るのは西城瑠璃子とその侍女、信濃海斗。対するは皆川、長谷川。
「前回はありがとう。助かったわ」(瑠璃子)
「「いえいえ、どういたしまして」」(長谷川・皆川)
「ええと、それでこれは?」
お礼がしたいと瑠璃子から呼び出されたが、待ち合わせ場所に付いたら「ではこちらに」と侍女からここに連れ込まれたのだ。
いや「武器を持ってくること」と書いてあったのでなんとなく予感はしていたが。
3人で決闘カードを持ち、フィールドを発現させる。なおフィールドに入り体が義体化したときは部位がなくなりBPは体全てに統一される。
■西城瑠璃子
レベル9:紅雀、瑠璃子専用戦闘ドレス
称号:【剣聖】【ー】【ー】
スキル:
【武器耐久値上昇(大)】:武器の耐久値が高くなりほぼ破損しなくなる。
【剣魂開放】:武器の持つ力を大きく引き出す。
【縮地】:まるで瞬間転移の如く高速移動する。
■皆川勝
レベル7:アイアンランサー、アイアンシールド 素材D赤鉄鉱:七森健(作)
称号:【戦士】【ー】【ー】
スキル:
【チャージ】:武器を構えて一直線に相手に特攻するスキル
【エアスラッシュ】:空気の塊を武器から放出するスキル。武器の攻撃力が威力にプラスされる。
【正拳突き】:空手の正拳突きを放つスキル。
■長谷川遥
レベル7:スリングショット 素材D赤鉄鉱:七森健(作)、強力ゴム、市販ボールベアリング
称号:【弓師見習い】【ー】【ー】
スキル:
【ストーンバレット】:石礫を相手に向かって放つスキル。他の属性のものよりダメージは高いが反動が若干大きい。
【パワーショット】:次回の射撃の攻撃力+10%
皆川が瑠璃子の前に盾を構えて立ちはだかり長谷川が距離を取る。
「準備はよろしいかしら?」(瑠璃子)
「おーけー」(皆川)
長谷川から挨拶代わりにボールベアリングが飛んでくる。同時に皆川からも鋭い突きも繰り出される。しかし瑠璃子も多少慌てたもののベアリングを刀で弾き、後ろへ下がり槍を躱す。
(!?)
下がった瑠璃子を追って、なおも皆川が追撃しようとしたが、それを慌ててやめて盾を掲げる。甲高い金属音が場内に響く。重心を後ろにずらして下がったように見せかけた瑠璃子が急に重心を前に戻し刀を横薙ぎに振るったのだ。
「あっぶな、釣られる所だった」(皆川)
「ちょっと信濃! 見破られたじゃない」(瑠璃子)
「俺に文句言わないでくださいよ」(信濃)
長谷川から飛んだベアリングを今度こそ後ろに飛び下がって躱す。
「やっかいね」(瑠璃子)
「どうも」(長谷川)
皆川が短く息を吐き槍を2回、3回と突き出す。しかし瑠璃子は刀で華麗に弾く。捌きにくい「点」の攻撃である突きに対して見事といえる。
これも剣聖による称号のせいなのか、自身の努力による賜物なのかはわからない。
あっさりと美々から銃を返してもらい、なんとかお咎め無しで両親にも報告しないと約束してもらえたが、今のままではいけないという気持ちは収まらなかった。
ロストの明けた信濃を問い詰め模擬戦をしてみたがまるで相手にならなかったのだ、信濃がではなく瑠璃子がだ。
本気を出した信濃はかなり強かった。そしてそんな信濃を一蹴して見せた遠藤美々という少女に改めて恐怖した。
今迄戦った人はみな弱かった、だが瑠璃子は自身が公爵家の人間だから手加減してくれてたのだとそう考えた。
(まじかよ、F組と戦って自身の強さを確認してもらいたかったんだが……最近のF組ってあそこまでやるの!? それとも彼等が特別!?)(信濃)
しかし、瑠璃子の感じたこと、それは勘違いだ、【剣聖】のレア称号というものは伊達ではない。本当に手加減抜きで相手にならなかったのだ。信濃と美々だからこそぼろ負けしたのだ。
このままでは手加減というものが解らなくなってしまうと思った信濃は、侍女に自身の強さを再認識してもらえる相手を相談した。
だが既に知っている相手ではだめだ、未知の相手で弱い者、そこで白羽の矢が立ったのがあの2人。
侍女の話では美々と話すときに助言をもらった恩人ではあるが仕方が無い。元来のわがまま瑠璃子が災いし、丁度良い相手というより友人が居ないのだ。
結果は火を見るよりも明らかだが金銭などで補填してあげれば相手は解ってくれるだろう。
瑠璃子も最初は渋ったが、【剣聖】ある瑠璃子と戦える機会というのは逆に貴重で、相手にとっても得難い体験になると説得して納得させた。
槍の長さを活かし、瑠璃子の近づけないように闘い、いざ潜り込まれても盾で確実に防ぐ。
彼女の攻撃が乗ってきたタイミングに丁度良く長谷川からのベアリングが飛んできてリズムを崩される。
皆川は魅せプレイ勢と言われる配信者だ、DRDは配信こそしていないがいずれ配信をしようと各ボスとは何度も戦闘してその攻撃パターンを研究している。
長谷川もDRDこそ無いが様々なFPSゲーム経験は高く、本来の仕事の方が好きなためプロゲーマーになってこそいないものの、その腕はプロゲーマー顔負けである。
さらにボルテクスアーケードでのFDSゲームの経験もあるうえに、皆川とも何度かコラボの経験もあり連携も初めてというわけでは無い。
(なにこいつら、どんどん攻撃速度が上がって来る!)(瑠璃子)
何度も刃を交えるにつれ、両名とも攻撃、連携共に急速に上昇し徐々に瑠璃子を追いつめつつあった、皆川は瑠璃子の攻撃を的確に防ぎ、長谷川の攻撃は確実に瑠璃子の逃げ道を奪っていった。
遂に攻撃が追いつき、ベアリングと槍どちらかは防げない状態に陥る。
「くっ【縮地】!」(瑠璃子)
追いつめられた瑠璃子が【縮地】を使い長谷川の目前にまるで瞬間転移したかのように現れる。しかし……
「【チャージ】!」(皆川)
【縮地】を読んでいた皆川がほぼ同時に【チャージ】を発動させて後ろから迫る、その速度は瑠璃子が刀を抜く前にその背中を捕らえていた。
「あぐっ」(瑠璃子)
「【ストーンバレット】!」(長谷川)
「ぐっ」(瑠璃子)
2人の攻撃に体勢が崩れそうになるが寸で踏ん張る。
「舐めるなぁぁ!」(瑠璃子)
ダメージを受けてもなおも叫ぶ、それに呼応すかのごとく紅雀から炎が吹き上がり、2人を舐める。その威力は2人のBPを一気に4割奪っていく。
「あああああああ!」(瑠璃子)
とどめとばかりに炎の刀は皆川を真っ二つにせんとその炎をさらにたぎらせ振り下ろされる、が……
「【チャージ】!」(皆川)
しかし、炎の中から再び叫び声が上がると、盾を両手で持った皆川が飛び出し、その刀を突き飛ばす。
「あああああ!」(皆川)
槍を離し空いた手で【正拳突き】を瑠璃子の腹に打ち入れると同時に【エアスラッシュ】を発動する!
「フタエノキワミアーーー!!」(皆川)
「【パワーショッ】!!」(長谷川)
赤く輝いたベアリングが吹き飛んだ瑠璃子をしっかりと捕らえた! 「皆川、長谷川Win」。その文字と共にフィールドが解除され実体に戻っていく。
(まじかよ……勝ちやがった……)(信濃)
その横で侍女も目を見開いて驚いていた。
「「対ありっした!」」(皆川・長谷川)
「やっぱり、皆強いのね……」(瑠璃子)
負けた瑠璃子だが思ったより顔はすっきりしていた。前回と違い戦わずして負けたのではなく、持てる力を出し切った上の負けだ。
「いやいや、こっちは2人でしたし」(長谷川)
「それでも負けは負けよ」(瑠璃子)
「なんで【エアスラッシュⅡ】とか使わないんです? 【剣魂開放】紅雀と合わせたらかなり強いのに」(皆川)
「そんな組み合わせあるんですの!? というかなんで【剣魂開放】のこと知っているのかしら? 誰にも言っていないのに」(瑠璃子)
(あ、やべ)(皆川)
「えっ言ってませんでしたっけ? なぁ」(皆川)
(あ、これは口すべらせたな)(長谷川)
「え、うん言ってた言ってた」(長谷川)
「いえ、そんな「「言ってました!!」」「「とっても言ってました!!」」」(瑠璃子・皆川、長谷川)
「そ、そうだったかしら……」(瑠璃子)
「とりあえず、使ってみてくださいよ」
「え、ええ。ちょっとダンジョンまで行ってくるわ」(瑠璃子)
「御供致します」(侍女)
「いやーまいったまいった。君達強いねー」(信濃)
「いえいえ」(長谷川)
「はぁー、マジ……まいった」(信濃)
「どうかしたんですか?」(皆川)
「おじさんの悩み聞いてくれる?」(信濃)
信濃から今回なんで戦闘したかと、その目的が瑠璃子の誤解を解きたいことと打ち明けられる。
「「あーーーー……」」(皆川・長谷川)
「なんというかすみません……」(皆川)
「悪いね、ぐち言っちゃってこっちから無理やり戦わせちまったのに」(信濃)
「いえ、こちらも戦ってる間に楽しくなっちゃって……」(長谷川)
3人でどうしようか話していると、程なく瑠璃子達が戻って来る。
「戻ったわ。付けてきたけど本当に使えるのかしら?」(瑠璃子)
「こう、居合みたいな感じで放つんですよ」
「こうかしら」
居合抜きを放つ、紅雀の炎の線が虚空に刻まれる。
「発動してないですね」
「難しいわね」
その後何度も居合抜きを行うが赤い線が虚空に刻まれるだけだ。
「信濃! 全然発動しないじゃない! 私のこと騙したんじゃないでしょうね!?」(瑠璃子)
「えっ! 俺ぇ!?」(信濃)
「あらごめんなさい、つい」
「えっと【エアスラッシュⅡ】のイメージって頭にでてます? それに居合のモーションを合わせるような形で」(皆川)
「う~ん」(瑠璃子)
目をつぶって瑠璃子は集中する。
「やっ!」(瑠璃子)
掛け声と共に放たれた攻撃は、明らかに今までと違う効果を現した。壁に赤い線が刻まれたあと爆発したのだ。
魔灰コンクリートでなければ大穴が空いていたと思う程の爆発だった。
「……なにこれ なにこれなにこれ! 凄い! 凄いじゃない!」(瑠璃子)
「「おおぉーーー」」(皆川・長谷川)
一度コツを掴んだのか3,4回に一度は発動するようになり爆発が空気を震わせる。
「あはははは、凄い! 凄いわ!」(瑠璃子)
「うぉい! 何吹き込んでんだよ! よけい手加減から離れたじゃねえか!」(信濃:小声)
小声で叫ぶといいう器用なまねで文句を言う信濃。
「あ”……つい」(皆川:小声)
「ついじゃねー!!」(信濃:小声)
【エアスラッシュⅡ】はレベル30からの称号で覚える戦士系称号のスキルだが【剣聖】のレア称号を持つ瑠璃子はその称号を開放するために必要な称号が持つスキルは使うことができる。
【エアスラッシュ】は空気の塊を放つスキルだ。通常の風魔術と違い武器の攻撃力を乗せることが出来る。
【エアスラッシュⅡ】はそれを純粋に強化し、スピードと威力を増したものだ。
使用MPも【エアスラッシュ】とほぼ同じでコストパフォーマンスは高い。当然【縮地】に比べればかなりリーズナブルに使える。
これに瑠璃子の持つ【剣魂開放】は武器の性能を引き上げるスキルだ、当然【エアスラッシュ】の威力も上昇する。
さらに加えて紅雀は炎の威力まで上がる上、このエンチャントまで【エアスラッシュ】に反映されるのだ。
ただの刀よりも2乗で効果が上がるうえ、居合でのスピードに合わせることで【エアスラッシュⅡ】で上がったスピードをさらに上乗せできる。
【居合抜き】のスキルでは魔力によるスピード増加効果がある上さらに増加するのだ。
「「じゃぁ僕達はこれで」」(皆川・長谷川)
「待ちなさい」(瑠璃子)
ギギギと軋む音をさせながら瑠璃子を見る皆川達2人に笑顔で決闘カードを差し出す瑠璃子。
「「えーーー」」(皆川・長谷川)
このあとカードが無くなるまで戦闘に付き合わされた。
…………………………
開けて月曜のいつもの放課後、村田のように速攻で帰る人もいるが、大抵はトイレに行ったり、少しだべりながら帰り支度を始める人がほとんどだ。
そのF組の引き戸が壊れんばかりに大きな音を立て開かれる。その音と共に異様な威圧感を持って3人の生徒がF組に入って来た。
全員の注目を浴びても怯む様子もなく3人は教壇に陣取った。
「喜べ、F組の者共よ! うだつの上がらないお前達を見かねた嵐山様がお前達を直接指導して下さるそうだ!」
「ただいま」
「あらお帰りなさい」(西城久子)
「え!? 母さん!?」
「思ったよりも元気そうね」
「いいの!?」
「あら? 来たら困るのかしら?」
「そうは言ってないけど、ばれたらまずいでしょ!?」
「私がそんな愚行犯すわけ無いじゃない」
「……まぁそうだろうけど……それでどうしたの?」
「別にちょっと顔を見に来ただけど」
西城久子によって追放された瑠璃子の兄はすっかり話題に上がらないことから一説には死亡したと思われているが、実は久子により名を変え大阪日華で一般探索者として活動している。
瑠璃子は脳無しと思われれば追放されると思い込んでいるし、久子もそれを正す気は無いが、実はこうして時々様子を見にいくほど気に掛けていた。




