第060話:さぁ生産だ。生産か?
東郷時雨:関東四家の1つである東郷家の息女、DRDストーリーモードのラスボスであり、ヒロインの1人
斎藤静流:時雨の侍女。
花籠白雪:物語の主人公。ZZ美人。
■FDSアーカイブ:
■第一世代:
痛みを感じるのは脳だ、であれば痛みとおなじ信号を与えれば脳がそれを再現するはず。
■第二世代以降:
第一世代と違い痛みなどを脳に再現させるのではなく自身の記憶から呼び出させる方法が取られている。殴られたら痛いだろ? JK(常識的に考えて)。
時雨は10.5層へと挑んでいた。護衛は静流のみだ。待ち構えているのはタイニートロールだ。幼体となっているくせに大きさはミーノータウロスよりも大きい。
5.5層のミーノータウロス同様片膝をついて微動だにしない。時雨は鉄製の八角棍に収まった宗直を構える。静流も2刀を構え対峙する。
静流の持つレアスキルは【見稽古】ゲームでは時雨の前で使ったスキルを模倣して使用するスキルだ。加えて時雨自身の所持するスキルも合わせて使用してくるため一見厄介に見える。
だが、ボス含めてゲームでのNPCはAIのような自己学習はせず、プログラムに従い攻撃を決定する。
そのため、時雨の戦闘パターンは相手との距離を基に計算される点、時雨の持つ基本スキルは近接寄りで中遠距離は少ない点、【縮地】のように距離を縮めるスキルは所持しているが攻撃スキルが優先される点。
それらを含めて中遠距離で硬直の長いスキルを敢えて覚えさせ、さらに時雨の使う刀よりもリーチが長い槍等の武器を使用し、スキルを撃たせて硬直の隙に攻撃するのが必勝のセオリーとして確立されている。
現実でもスキルの模倣は健在だが、スキルを覚えてから48時間までしか使えないという制約がある。しかし、動きの模倣というDRDでは無かった能力もスキルに含まれている。
この動きの模倣も48時間の制約に含まれるが、その間に反復練習をして動きを自分のものにすれば完璧ではないまでもある程度は身に着けることが出来る。
時雨が不完全ながらも東郷流を使えるのは静流を何度も【見稽古】したからである。そしてキャンプで東郷流の完成形、さらにその先である美々を視た。
静かに棍棒を構えてタイニートロールに近づいて行く。その殺気に気が付いたかの如くトロールもゆっくりと立ち上がる。
手にもつのは原木から持ち手を削り、目立つ枝葉を削っただけという無骨な棍棒だ。幹や小さな枝までそのまま残っている。
タイニートロールの売りはミーノータウロス以上の打たれ強さだ。後に雑魚として出てくるトロール族は得てしてBPタンクを内蔵している。
BPの再配置に基づきまずこのタンクからBPを補充してくるため限度はあるが場合によってはいつまでも闘いが終わらないという無限地獄に陥る。
再配置までの時間はミーノータウロスと同じ5秒。BPもミーノータウロス以上にあるためミーノータウロス以上に過密な攻撃が必要になってくる。
攻撃も棍棒をスイングする他、ヒップドロップにより範囲攻撃をしてくる。
ヒップドロップのための飛び上がりと着地後の地震によって再配置までの5秒の大半を消費されるため探索者の間では体力回復技ではないかと誤認されている。
間合いを詰めた時雨が棍棒が届くか届かないかのギリギリから突きを放つ、美々を視てさらに磨かれた東郷流の攻撃はトロールの肩をえぐりわずかによろめかせる程の力を見せた。
東郷流の真髄は関節ごとの力のロスを無くすこと、つまり使いようによっては武器にも適応できる。
よろめいたトロールを背面から静流が切りつけ注意をそらす、その間に時雨は【強打】を発動させる。
【強打】:称号【格闘家】を開放することで覚えられるスキル。発動させた腕の筋力が2倍になる。効果時間は1分間だが、攻撃が当たれば即解除される。クールタイムは30秒間。
非常に強力で最後まで使えるスキルだが、称号依存スキルであるため【格闘家】系の称号を入れる必要がある、そうすると他の称号もそれに合わせるため大抵は【戦士】で埋める形のガチ前衛になりがちだ。
さらに【格闘家見習い】から【格闘家】まで育てないと覚えられない。【格闘家】系の称号は素手によるモンスター撃破が必要になるため非常な危険が伴うため使いたがる人は少ない。
だが、スキルスクロールからも覚えられるので大抵の探索者はそちらから取得を狙う。需要は高いがそこそこ取得しやすいため価格は1千万前後。
時雨は【強打】を含めた【兜割】でトロールの頭の真ん中を真上から穿つ。それは打撲ではなく破砕に近い音を響かせる。が対するトロールは立ち眩み程度としか感じていないのか頭に手を当て顔を左右に振る程度だ。
過去に時雨はタイニートロールをクリアしている。静流だけでなく他の東郷家の探索者と向かったのだが、その頑丈さに苦労した。攻撃を受けても平気な顔で反撃してくるのだ。
だが、今回は違う明確に怯ませ隙を作れた。回復したトロールが怒りの咆哮を上げながら乱雑に棍棒を振るおうとするが時雨はそれを待たない。
叩きつけの初撃を躱すと同時に武器を持つ右肩の付け根を冷静に突き、連続攻撃の隙を与えない。2度目3度目は防御されるが、時雨の意図をくみ取った静流が後ろから何度も切りつける。
攻撃しようとすれば方の付け根、軸足、頭を狙って鉄棍が飛んでくる。どれも食らえばその巨体が揺らぐ程の威力だ。
「良いな、前回では今一力が足りずに攻撃を許してしまったがこれなら!」
「時雨様、そろそろです!」
「判っている!」
その声と共にトロールが飛び上がる。
「合わせろ!」
「はい!」
時雨、静流2人の手から放たれた空気の塊が同時にトロールの頭に命中し、哀れトロールはバランスを崩し落下する。
【ウィンドボール】威力は今一だが衝撃は大きく大抵の敵を怯ませる攻撃だ、トロールと戦うに至って予め【見稽古】で習得していたスキルだ。
「半分といったところか?」
「だと思います」
そのまま攻撃を続けるも、再び起き上がったトロールが振り回す棍棒を避け、それと同時に反撃を試みる。しかし、しっかりと防御された上さらなる攻撃にさらされる。
「くっ、まだまだ動きは完全に取り込めていないか」
それでも静流のフォローがあり順調にトロールを削っていく。再びトロールが飛び上がる。
「静流!」
「はい!」
再び息の合ったコンビネーションで叩きおとす。今度は【強打】のみでより美々をイメージして棍棒を振るう。先程よりも更に強い手ごたえが伝わってきた。思わず反動でよろける程だ。
「っ!」
「【トリプルスティング】!」
碌に防御もできず2人の集中攻撃を受けあえなく沈むトロール。
(なんということだ、スキル以上の強さだぞこれは)(時雨)
良いものを見せてもらったと思う反面、それを使いこなす美々を恐ろしく思う。もし敵対したときに果たして勝てるのだろうか。
「静流」
「はい」
静流に鞘を持たせ宗直を抜き去る。同時にトロールも緑色だった肌が赤くなり筋肉が肥大化し、さらに爪が異常に発達し長く鋭くなっていく。
先程の咆哮とは比べ物にならない咆哮を放ちタイニートロールが復活する。
最終モードへと突入したタイニートロールは棍棒を捨て爪による攻撃になる他に一切怯まなくなる。またBPが無くなる代わりに表皮が硬くなる。筋肉も肥大化しより強力な攻撃を放つようになる。
それに対峙する時雨も右下段脇構えの姿勢のままトロールをしっかりと見据える。
先に間合いを詰めたのはトロールだ、怒りの顔と共にまっすぐ時雨に突っ込みその右爪を前に突き出す。まっすぐ突き出された爪は時雨の胸を突き破るはずだった。
時雨はその左に居た。目測を誤ったのではない、ただ高速で左に移動しただけだ。構えられた刀は上に振られている。
トロールの腕に赤い線が走る、出血、しかし、なおもトロールはその爪を横に掻きこむかのように振るう。が、時雨にはかすりもしない、逆に攻撃したはずのトロールには切り傷が増えていく。
夥しいまでの血を流しながら肩で息をしながらも爪を振るうトロールの姿はいっそ哀れである。
しかし、時雨は顔色一つ変えずにあいかわらず下段に刀を構えている。ここにきて初めて時雨が動く。
黒い髪を後ろにたなびかせまるで滑るかの如く高速でその右脇をすり抜けるとトロールの右腹が裂けた。トロールが腕を振り回すがその動きには以前の獰猛さは一切感じられない。
後ろに回った時雨は上段突きの構えから、トロールの心臓を一気に貫いた。
刀を振り抜くと共にトロールは消えていく。
「遠藤美々か……」(時雨)
「できれば敵対はしたくないものです」(静流)
「そうだな、知らない人が聞けばF組の後輩相手に何をと笑いそうだがな」
宝箱をあさりながら時雨がぽつりとつぶやく。
「私は呪われているのだろうか……?」
「またですか……」
「グレートクラブ、使うか?」
「要りません」
おおよそ宝箱に入りきらないであろう棍棒を抜き出すとそのまま近くに放りすてる。
…………………………
月曜日 朝 学食にて
「これ何?」(五十嵐)
「見て解らないかい? ポーションサーバーだよ」(白雪)
「効果あるの?」
「多分。日曜に探索者センターに色々な割合で混ぜたもの持って行って、鑑定眼鏡で見てもらって、ちゃんとレッサーポーションって出た割合のものを入れてるからね」(白雪)
嘘だ、料理人同様に薬師見習いのスキルにも薬品専用のアイテムボックスが存在する。
当初は茜に協力してもらい鑑定眼鏡で判別する予定だったが、薬品でなければアイテムボックス(薬品)に入らないのではと思い、試してみた所本当に効果のある薬品でなければ不思議な壁に阻まれ入れることが出来なかった。
「あ、ちなみに味は悪いっす」(陽子)
本当だ、薄い青汁の味がする。
レッサーポーションに使う薬草は本来5層と6層に群生している。そのため作るためにはミーノータウロス討伐というハードルがあった。
しかし、DRDは後のバージョンアップで3層のウネ部屋から6層の薬草が少数だが取得できるように変更された経緯がある。
ミーノータウロスで引っかかり進めない人が多かったためだ。そのためこちらでも3層から薬草を摘むことが出来たのだが、今度は別の問題が首をもたげることとなった。
ゲームであればレシピに基づき薬草を適量使えば合成ができた。温度管理も割合も関係なかった。
しかし、現実ではそもそも適量が解らないのだ、ゲーム中の製薬道具から多分こうだろうという製法を白雪と陽子で推理し、それに基づき作ったポーションだ。
寮の門の前に2年の特待生が張っていた。
「最近毎朝、パンの良い匂いが漂うんだよな」
「わかる。腹減って来るよな」(元山)
「しっかり見張ってろよ、お前しか顔わかんないんだから」
「わかってるよ、だがガスマスク外されたらさすがにわかんねーぞ」(元山)
「そのガスマスクってあれ?」
指さした先には確かにガスマスクを含んだや集団がいた。白雪達だけでなく愛宮姉妹も含んだ大所帯だ。
「マジでガスマスクしてるな」
「だろ」(元山)
「おいっ、そこのガスマスク!」(元山)
「おや、昨日のドスケベ先輩じゃん」(白雪)
「ちっ」(ミーナ)
「……」(須藤)
「変なあだ名つけるんじゃねぇ!!」
ふと何かを感じ取ったのか美々が元山に見据える。
「……お主達麻薬やっておるな、末端のバイヤーか何かであろう?」(美々)
「な、ばっ、そ、そんなことは無いぞ」
「解るの?」(加藤)
「匂いで解る……そいつは右のポケット、そっちはズボンの後ろか」(美々)
匂いと表現しているが、雰囲気と言った方が近い、アメリカのスラムで過ごしてきた美々にとって麻薬は馴染みのものだった、そのため麻薬中毒者の放つ雰囲気というものが解る。
後は、話しかけたときの反応と、向かったその視線からの推測だ。
「……麻薬ですか」(須藤)
その言葉に須藤の雰囲気も変わる。美々とは短い付き合いだがわかる、彼女は嘘をつくような人間では無い。
「適当なことを言ってるんじゃねぇ!」
「では、ポケットの中確かめさせてもらえませんか?」(須藤)
「っ!!」
ナイフを抜いて美々に切りかかって来るが割り込んだ須藤が背負い投げで叩きつける。
「ちょっ、やっちぐへぇ!」(元山)
「ほら見ろ、私のカンはやっぱり正しかったじゃねーか!」(ミーナ)
ミーナのローキックが右足にさく裂する。痛みに怯んだところにボディブローが決まる。喰らった元山は完全に混乱の極致だった、まだ4月だというのにこいつらの異常な強さについてだ。
いくら特待生とはいえ(誤解だが)せいぜいレベル6位である、それに対して元山達はレベル9。負ける要素など無いのに。
「何をやっているんだ!」(五十嵐)
「何って、麻薬のバイヤーをやっつけている」(白雪)
「本当か!?」(風音)
「美々さん情報」(白雪)
「なら本当だな」(風音)
「だからって殺すのは」(五十嵐)
「大丈夫手加減してるよ、それにロスト状態があるから大丈夫だよ」(白雪)
数分後彼等は無事に拘束された。
「で、これどうする? 警察が有る場合じゃないし、ここで拘束するのもねぇ」(加藤)
「……なるほど、警察がないとこういう事になるわけですか……」(須藤)
「麻薬関係のを見つけたら探索者センターに知らせてとか言っていなかったっけ?」(白雪)
「そういえばそんなこと言っていたね」(加藤)
「受け取ってもらえなかったらどうする?」(加藤)
「殺す?」(白雪)
「いや、さすがにそれちょっと」(須藤)
「じゃぁ放逐する?」(白雪)
「う……」(須藤)
「すいませ~ん」(加藤)
「なんだ? 喧嘩ならお門違いだぜ」(警備員)
後ろで縛られてる2年を見て警備員は返す。
「いえ、この人達麻薬のバイヤーでして、それはこっちでやってますか?」(加藤)
「ほう」(警備員)
「違う! そいつらがバイヤーだ! 俺達に押し付けようとしてんだ!」(元山)
「どうします? 俺達を調べて貰ってもいいですよ」(加藤)
無線を取り出してどこかに連絡すると他の警備員が走ってやってくる。
「探索者カード出せ」
加藤達全員の探索者カードに機械を付けている。そのあと2年の探索者カードを探して同じ機械に取り付ける。
「どうやら嘘は言ってないようだ」
「こいつらはこっちに任せて、もう行っていいぞ」
「わかりました」
不愛想だが、どうやら疑いは晴れたようだ。
■ゾンビアタック:
復活薬や回復薬を大量に用意し、死のうがHPが減ろうがお構いなしに復活&攻撃を繰り返す。




