第006話:夕食後のひととき
五十嵐優:ゲーム中の主人公。仲間思い。
柳伸:五十嵐のルームメート、女性主人公の場合攻略対象の1人
村田空馬:特待生、五十嵐が気に食わない。
吉野織姫:ヒロインの1人、世話焼き体質であり、五十嵐の幼馴染ポジ
三島風音:ヒロインの1人、曲がったことが嫌いな性格、自信の剣術に誇りを持っている
愛宮由美:双子の長女。ヒロインの1人、白雪の同類
愛宮沙耶:双子の次女。ヒロインの1人、白雪の同類
日陰忍:ヒロインの1人、目隠れ美少女
水無瀬伊織:小麦肌少女、ゲームでは不明。少なくとも出てきたことはない
■花籠白雪 FDSアーカイブ2
前世の花籠白雪は戸籍的にも肉体的にも死亡している。彼女が戸籍的に死亡したのは3歳の時。
重度の紫外線アレルギーにより陽光の下では5分と生きられぬ彼女を両親は持て余した。2年後に健常な弟が生まれると両親は白雪の育児を完全に放棄する。
そこに目をつけたのが竜造寺玲子という研究者だった。
彼女は白雪が3歳のときに事故死として戸籍から抹消し、専用の施設へと輸送した。両親は多額の慰謝料を貰いほくほく顔で死体のない葬儀を行った。
当時日本政府はFDSの開発に心血を注いでいたが、研究は難航していた。精神を仮想空間に送るだけで精一杯でありその先、脳波による操作の段階で行き詰まっていた。
白雪は施設に収納後すぐに頭蓋を切除、脳とシステムを物理的に結合させ直接的なコントロールを行う実験に活用されることになった。
実験は成功し、白雪のデータを元に2年後ついにFDSは完成した。さらに2年後(白雪7歳)第一世代FDSが完成。
世界中で運用テストが実施される中、白雪の研究は第2段階に進むこととなった。
実験の内容は体感時間の倍増、システム内の時間経過を増加させる実験である。
システム内の時間を高速にすること自体は可能であるが、問題はそれに脳が耐えきれるのか? 果たして効果はあるのか? という点であった。
実験自体は成功した、しかし結果は脳自体は耐えられるものの効果は無い、むしろ悪くなる方が多いというものだった。
だが、これにより人が物を覚える速度には限度があることが分った。
竜造寺達研究チームはこの結果を元に別の手法を考案した、体感時間の増加を直列とするなら、これは並列。
3歳から取り続けている彼女のログから完全に白雪の思考をトレースする白雪AIを作成、別々の内容を学ばせてそれを合併、融合しようとする試みだ。
目をつけたのが夢だ。人間の脳は睡眠中に記憶の整理をしている、これが夢となって現れる、そこにAIの学習結果を混ぜるのだ。
元々のFDSの原理は明晰夢を見せるようなもの、ならば記憶を書き込むことも可能なのではという推測だ。
最初はAIと白雪に同じ内容を学習させ、記憶を合併。合併した場合としない場合の”忘却”の頻度を確認する。
それから徐々に別々の内容を学ばせ合併させる、この実験は見事成功し、最終的には3台の白雪AIによる4倍の学習に成功した。
ただ副作用なのか学ばせた内容によるものなのか性格に顕著な変化が見られるようになった、そしてこの実験の成功が後の悲劇に繋がることとなる。
■202号室■
五十嵐優 ・ 柳伸
五十嵐が自室に入ると既に先客がいた。彼は探索者カードで何かやってるようだ。
「悪いね。勝手に左側のベッド使わせてもらうよ」
「あ、うん別にいいよ。僕は五十嵐優。君は?」
「僕は柳伸。よろしく」
「昼来た時いなかったけど買い出し?」
「まぁそんなとこ」
「さっきから何してるんだい?」
「探索者カードは普通にスマフォとして使えるからね、データを移してたんだ。君もやった方がいいよ、2つ持ってると邪魔だろうし」
「たしかに。けどその前に荷ほどきしないと……」
「ずいぶん持ってきたな、そんなに要らないだろう?」
「いや、じいちゃん達が持っていけって。あ、これ父さんが使ってた。……まいったな自分の分はあるからいいって言ってたのに」
父の物らしき剣を取り出したとき五十嵐は非常に複雑な表情をしていた。綺麗な所を見ると大事にされていたんだろう。
(そういえば両親についてなにかいってたな。多分未帰還だったんだろうな……)(柳)
■207号室■
加藤浩平 ・ 黒田竜司
「う~む、ふ~む」(加藤)
「何鏡見てにやにやしてるんだよ。気持ち悪い」(黒田)
「いや~自分の顔が前世の俺なのかDRDのアバターなのかどっちかなと」
「むう」
黒田も鏡を覗き込む。
「……わからん。自分の顔なんかまじまじ見たことねーし」
「朝とか歯磨くときとか見ねーの?」
「それなら、加藤はなんですぐに自分の顔の判別がつかねーんだよ?」
「生前30越えだしな、若い時の顔なんか覚えてない」
「何、お前そんな歳だったのかよ俺23だぜ」
「は? なに、お前就活もせずにゲームやってたのかよ!?」
「残念~ちゃんと内定もらいました~」
「おのれ、俺は就職に苦労したというのに」
■210号室■
長谷川遥 ・ 皆川勝
「ほとんど探索動画だな~、やっぱりゲームと同じで日本最高到達階層は21層か」(皆川)
「最終層が100層だったっけ? 四分の一も走破されてないのか」(長谷川)
「そうそう、設定と同じなら1950年にダンジョンできてるから72年は経ってる計算になるね」
「やっぱり、実際命がかかると及び腰にって感じなのかね」
「そんな感じだろうね」
「……そういやなんで配信やめたんだよ」
「……DRD始めたからだよ。お、思いのほかはまっちゃってさ」
「……そうか。ユアクラまたやらない? こっちでもあるみたいだしさ」
「まぁそのうちな」
「……」
■ユアクラ:
前の世界でも人気だったサンドボックスゲーム。ちなみにフルダイブゲーム化はささやかれる程度だった。
■215号室■
須藤晃 ・ 七森健
「…………」(七森)
「…………」(須藤)
(な、なにか話なさなきゃ……でもいきなり地雷踏んで殴られるかも……)(七森)
(なにか話すべきでしょうか……いや話さないといけないでしょう、こちらが年上だったと思いますし……ですが話題が思い浮かびません)(須藤)
(土木関係……さすがにありえません、しかし、アニメやマンガなんかはほとんど見たことないですし……)(須藤)
結局明日の天気などあたりさわりのない話題のあと、早い就寝となった。
■603号室■
吉野織姫 ・ 三島風音
「あ、えっとよろしくお願いします。吉野織姫です」(織姫)
「あぁよろしくお願いする。三島風音だ。好きなように呼んでもらってかまわない」(風音)
「では風音さんで。私も織姫でいいです」
「さん付けもいらないんだがな」
「さすがにいきなり呼び捨てはできないかなぁ。優君じゃないし」
「優? あぁ一緒にいた男か」
「あ、うん、幼馴染なんです。風音さんは誰かと?」
「いや、一人だ」
「えっと、もしよかったら一緒にパーティ組みませんか?」
「いいのか?」
「はい。私と優君だけじゃちょっと不安で」
「前衛タイプだけどいいのか?」
「はい。私は後衛タイプっていうか真正面で戦うの苦手なので……」
「そうか、よろしく頼む」
「私もよろしくお願いします」
■604号室■
遠藤楓 ・ 遠藤美々
「ふむ。やはり家族には繋がらんか」(美々)
「はい。使用されてませんでした」(楓)
「音楽家じゃったのじゃろう? そっち方面はどうじゃ?」
「だめですね。父母のいる楽団は見つかったのですが、父母だけが抜け落ちてました」
「ほう、楽団はあったのか」
「寂しいですが逆に良かったのかもしれません、旅行中に殺されたのがこの年の夏でしたから……」
「そうか、まぁ楓がそれでよいなら何も言うまい」
「えっと、お姉さま、今日一緒に寝てもらえませんか?」
「……しょうがないやつじゃの」
「ありがとうございます!」
■610号室■
メリッサ・オーランド ・ 七森瑠々朱(ミーナ)
「どっちのベッドにベットしますか~?」(メリッサ)
「何を賭けるつもりにゃ? 私は左使っていいかにゃ?」(ミーナ)
「オーケーじゃぁ右のベッド使うネー」
メリッサもミーナもそのままベッドにダイブする。
「はー、いまだに実感わかないにゃ、昨日までは普通にOLやってたのに。それがいきなりゲームの世界なんてにゃー」
「………」
「そういえばメリッサは……」
「………」
「メリッサ?」
「………」
「寝てるにゃ。……私もねるか。猫言葉も疲れたし……やっぱしやめた方がよかったなー。でも明日からやめるのもなー。何もかにも名前が悪い!」
「くそ親父め……あーくそ、もうぶん殴れねーのか……」
■611号室■
花籠白雪 ・ 相馬陽子
「こんばん~」(由美)
「なにしてんの~」(沙耶)
「いらっしゃいっす」(陽子)
「巣作りさんだ!」(白雪)
白雪は地面に固定しないタイプのテントを張りながら答える、寝る時にはフードを取るため翌日の朝日から身を護るためだ。
「これでよし」(白雪)
「「わーい」」(由美・沙耶)
さっそくとテントにすべり込む双子。
「はいは~い布団入れるからしいて~」(白雪)
「「は~い」」
「なんでこんなの作ってるの~?」(由美)
秘密基地っぽくて双子はちょっとテンション上がってるようだ。
「私はバンパイアだからね日光を浴びてしまうと灰になってしまうのだ」(白雪)
「カーテン閉めるだけじゃだめなの?」(沙耶)
「なんかそれだけだとだめらしいっす」(陽子)
「迷惑かけるね~」(白雪)
「あ~いや大丈夫っす」(陽子)
「あとはこのくろっぽい布をかけて完成!」(白雪)
「「「いえ~い」」」(白雪・由美・沙耶)
ハイタッチをする3人。
(よくあのテンションについていけるな~。白雪さんて私より年上なのに)(陽子)
■620号室■
三段崎千鶴 ・ 日陰忍
「え……えっとよろしくお願いします」(忍)
「ええよろしくね。日陰忍さんでいいのかしら?」(千鶴)
「は、はい。えっと……」
「三段崎千鶴よ。読みにくいだろうから千鶴でいいわ」
「わ、私も忍でいいです」
「ええよろしくね、忍」
「は、はいっ!」
(優しそうな人でよかった……)(忍)
■714号室■
間宮小町 ・ 水無瀬伊織
「やっほ~私水無瀬伊織よろしくね~」(伊織)
「私は間宮小町よ。よろしく」(小町)
「カレーまじうまだったよ。ごちそうさま」
「どういたしまして」
「料理、趣味なん?」
「趣味といえば趣味ね。実家が小料理屋やってたのよ」
「へー納得。それでお願いなんだけどー、明日の朝ごはんもつくってほしいなーなんて」
「別にいいわよ。元々作るつもりだったし」
「ありがと~ふれにも伝えてくる~」
了承得た瞬間、伊織は部屋を出て行った。小町はそのまま今日の売り上げを計算する作業を続ける。
(う~ん、足りない。誰か無銭したみたいね。4人くらいかしら?)
■713号室■
愛宮由美 ・ 愛宮沙耶
返事がない、ただのお出かけのようだ。
■504号室■
村田空馬 ・ 村田の友1
「なっ、うまくいったろ」(村田)
「おう、全然気付かなかったな」(友1)
「うまくいくもんだな」(友2)
「おうよ、ああいうのは堂々としていれば案外気付かないもんなんだよ」(村田)
「しかし、値段の割に料理はかなり美味かったな」(友1)
「よしっ。俺達のパーティの専属料理人にしてやろうぜ」(村田)
「いいね。顔も結構可愛かったし」(友1)
「なんだ、ああいうのが好みなのかよ?」(友2)
「いいだろ、民間学校じゃ野郎ばっかなんだから」(友1)
「そーそー、まじあっちむさかったよなー、変な臭いもしたし」(友3)
「で、そういうお前は好みとかいないのかよ?」(友1)
「俺は三島とかルルーシュとかかね、名前はあれだが」(友2)
「えーでもあいつ語尾ににゃとかつけてる痛い女じゃん、弟もなんかオドオドしててムカつくし」(村田)
村田は弟と勘違いしているがミーナと七森健は従妹である。あと健の方が生まれは早い、
「いいだろ、ああいう勝気な顔すきなんだよ」(友2)
「遠藤のちびの方は?」(友3)
「ありゃ小さすぎだ、胸もねーし。間宮の方もだが」(友2)
「いいだろ別に」(友1)
「俺は吉野かなぁ、あの巨乳の子」(友3)
「あの顔であの乳は反則だよな~」(友2)
「あれって五十嵐と付き合ってんじゃねーのか?」(村田)
「寝取りゃいいじゃねーか」(友2)
「そういや、五十嵐って誰かに似てね?」(村田)
「そーか?」(友2)
「顔ってわけじゃねーんだけど、雰囲気?」(村田)
「雰囲気なー……あー新庄じゃね?」(友1)
「あいつかーーーーーー!」(村田)
「うんだよ、気付いてなかったのかよ」(友2)
「そーそー、一番に気付いてそうだったのに」(友3)
「どーりでに気に食わなかったわけだ。機会があったらぶっ潰してやる」(村田)
「八つ当たりでボコボコとかかわいそー(笑)」(友1)
なお、村田の友人2~3は505号室。
深夜……人気もなく電気一つ点いていない風呂場で一人の少女が床に寝そべっている。
(は~ひんやりして気持ちいい~)(白雪)
手を自分の目の前にかざす。当然真っ暗で輪郭すらわからない。
(う~ん痛みからして火傷深度1いくかいかないかってとこか。さすがにあれだけがっちり固めればこの程度で済むか……探索者の回復能力に期待だね)
(それにしても初めて自分の力で動いたけど動けるもんだね。さすがフルダイブシステム、さすがのリハビリ効果ってことかな? いや、関係ないか)
転生自体興味深いが、この体も不思議だ、過去の記憶が残っているか探ってみるが、何もわいてこない。記憶の残渣も、体に残る癖すらもだ。
(今日意識が戻った所からの記憶は全て残ってるから記憶力に問題なし。やはりこの体は抜け殻だね)
(有名サイバーパンクアニメ的に言うとゴーストの無い脳殻ってとこかね、いったいどんな感じで生活してきたのか? 私の体はさぞ生きづらかったろうに)
(まぁ誰かの人格を踏みつぶして乗っ取ったわけじゃないのは心が痛まないからいいけど、そうすると誰が何の目的でこんなことをしたのか謎は深まるばかりだなぁ)
「さてっと、左に20度、前にいち、にぃ、さんしーごーろっぽっと」
服を脱ぐ前に覚えた記憶を頼りに光一つ無い中を進み、シャワーにたどり着くと洗髪を始めるのだった。
…………………………
「……変な時間に起きてしまいました」(メリッサ)
となりのベットではミーナが寝息を立てていた。
「……星でも見るとしましょーか。バルコニーもあるみたいですし」