第059話:とりあえずポーションを作ってみよう
■ボーンラット:
骨だけで構成されたネズミ型の魔物。爪による攻撃と噛み付きによる攻撃ただし見た目通りの体重なので攻撃が全体的に軽い。
4層のモンスターよりレベルが低いが、非常に仲間意識が強く1匹に攻撃すると、4~8匹が一緒に戦闘に参加してくる。非常にすばしこく、攻撃が当てにくい。
また、骨以外は空洞であり叩き攻撃以外が当てづらい。
貴重な闇の魔石をドロップするがドロップ率は非常に悪い(約2%)。他にネズミの爪というアイテムを落とすがこちらも装飾具程度しか使い道が見いだされていない。
白雪と小町の活躍により寄生虫の1種であることが判明した、骨被りというべき寄生虫は身を護るため骨髄の中に自身を伸ばすように伸びて成長していくと思われる。
どのくらいで宿主が死亡するかが解らないが食べられる心配の無い骨の中で成長し、死亡してから新たな宿主を求めて骨を動かすのではないかと考えられる。
「まぁまぁ、一旦お互いの主張をちゃんとしようじゃないか」(白雪)
さっきまでドスケベ音頭がどうのと言ってたやつに言われたくないセリフである。
「まずここは、鍛冶やら調薬やらをする施設だね、ちゃんと先生の許可は得ているよ」(白雪)
「だからってなぁ、先輩への敬意ってものがあるだろう」(元山)
「無いよ」(白雪)
「無いね」(黒田)
「無いっす」(陽子)
「ねーよ、敬意つーもんは何かやって初めてつくもんだろうが」(ミーナ)
並みの1年であれば、2年というだけで委縮するものだ、1年長くダンジョンに潜っているのだから当然1年である自分よりかなり格上の相手ということになる。
元山は返す言葉も無かった、ここまではっきり言われたら閉口するしかない。
こちらの世界の人間は貴族含めてレベルに主眼を置いていて、相手のレベルが2,3でも高ければ絶望するレベルだ。
だが加藤達DRD側からしたら重要なのはスキルの相性であってレベルはそれほど大きなアドバンテージにならない。
その背景としてDRDの防御は盾が主点であり、鎧はあまり役に立たないように調整されている。
鎧ごとBPが覆ってしまっているので、体に当たった時点でBPは減るし、鎧が強すぎて立ってるだけでノーダメージに抑えられるようではゲームとして成り立たなくなる。
つまりDRDにおける防御手段は躱すことが最上位で次点が盾となる。
閉口したせいか元山の思考にも少し余裕が出来る。彼が持つ裏の顔、それは薬のバイヤーである。
鵺とは対になる郭公という組織、その末端の使い走りが彼等だ。トカゲの尻尾のその先端だ。
ミーナがいきなり反応していたのも表沙汰に出来ないやばい事をやっているのを敏感に感じ取ったからだ。だが理由は言ってしまえばカンだ。
まずは殴ってわからせないとだめな奴と思っているだけで、何故かと問われても詳細な内容を答えられない。
村田と同じく2年の特待生も、元山含めて4人パーティで全員がそのバイヤーだ、今回1年を連れていたのはいずれ薬に依存させ高額で売るためだった。
従来探索者に通常の麻薬は効かない、だが郭公の売る薬は特別性で探索者に効果が出るようにスキルで作られたものだ。
他の1年も、と物色しようとした帰りに加藤達と会っただけなので無駄なことに時間を掛けたくは無い。しかし、「出る杭」は打っておかねばならない。
突飛なことをする加藤達に声を掛けたのも出る杭だったからで基本的には無駄な時間だ。
自分と同じく特待生と思われるミーナに、筋肉達磨の須藤、さらに流れるように参加してきた加藤達、さっさと切り上げて撤退するのが良さそうだと方針を決める。
「覚えてやがれ」(元山)
「逃がすかよ!」(ミーナ)
追撃しようとするミーナを須藤が立ちはだかり止める。
「止めんじゃねぇ」(ミーナ)
「追い打ちは行き過ぎです」(須藤)
「てめぇ」
「まぁまぁ、待ちたまえ」(白雪)
「まぁどちらの言い分もわかるよ、ミーナちゃんは何故あいつはダメだと思ったんだい?」
「私と健2人の共通の友達がいたんだがな、私をはめるためにあいつのような奴に良いように使われてな。そいつ自体にはヤキ入れたんだが、その友達ともケチがついちまってそれきりだ」
「なるほどね、私怨に基づくのは良いとは言えないけれど、犯罪が起きる前に潰すと言うのは悪いことじゃない。犯罪者を止めたとしても何人もの犠牲者を出した末にでは意味が無い、死んでしまったものは生き返らないのだから」(白雪)
須藤としても痛い言葉だ、何度あの事件の前に止められたかと考えなかった日は無い。
「でもまぁ須藤君の考えもわかる、何もしていないのにかじりつくようでは狂犬と変わらない。そう言いたいのだろう?」(白雪)
「……そうです」(須藤)
「だが、まぁ日華にそぐわないことは確かだね」(白雪)
「……」(須藤)
「警察も裁判も存在しないのだから捕まえたところで、殺せない以上リリースするしかない」(白雪)
「それは、確かにそうです。ですが」(須藤)
「解っているよ、最初に言ったように大義名分無しにぶん殴るようではこちらがそれと同類になってしまうからね」(白雪)
「じゃぁどうしろっていうんだよ!?」(ミーナ)
「言ったじゃないか、どっちも間違っているし、正しいって。両方とも正しいんだから好きにすればいいじゃないか。2人ともいい大人だったんだしそれぐらいの折り合い付けれるでしょ」(白雪)
「……まぁ、それもそうだな。酒買って来る」(ミーナ)
「……そうですね」(須藤)
そんなやり取りとは離れた所で加藤は元山と一緒にいたクラスメートに話しかけていた。
「うんで、あの先輩って知り合い?」(加藤)
「いや、3層の隠し部屋へ向かっていたら話掛けられて、無理やり4層へ連れてかれた」
「なんか狼を一人で倒して凄いだろって言ってきてさー」
「まぁ、凄いは凄いんだけど、俺達キャンプのとき遠藤さんと同じグループだったからな」
「あれ凄かったよなー、こうばばばってさ」
「な、あれ見ちゃったらな」
「A組の人までびびってたもんな」
「あと、苦労していないかとか後悔していないかってやたら聞いて来ていたな」
「確かに、やたらネガティブな方に持って行こうとしていたな」
「なるほどねー」
元山も2年だ、後輩を篭絡するノウハウは蓄積されていない。そのためあからさま過ぎて逆に引かれてしまっていた。
……………………………………………………
「やっほ~……って臭っ」(伊織)
「なにも臭わないっすよ」(陽子:ガスマスク)
「そうかな~臭い?」(白雪:ガスマスク)
「「ううん、全然」」(愛宮姉妹:ガスマスク)
陽子がダンジョンから拾ってきた薬草を乾燥させて粉にしたものを煮立ったビーカーに入れている。白雪はノーパソに何やら打ち込んでいる。
新エリア発見の報酬で得た50万は個人に1万づつ払ったあと残りのお金でピッケルやノコギリ等生産に関わるものに使用することで同意している。
「ガスマスクしてるからじゃん。何やってるの?」(伊織)
「ポーション作ってる」(陽子)
「はい!?」(伊織)
「ポーション」(陽子)
「えっと、ポーションってあのポーション?」(伊織)
「そのポーションっす、本場より効果は落ちるっすけど。でもその分MPの減りは少ないっすよ」(陽子)
■この世界のポーションの仕様:
飲むとBPは回復し、LPも僅かに回復する。致命的でなければ出血や骨折も治る。がぶ飲みゾンビアタックをさせないために一時的にMPの最大値が減少しMPが残ってなければ飲んでも効果は減らない。
とはいえ、DRDではレベル40当たりを基準に設計されているため、低レベル帯は割と緩く設計されている。
ポーションのMP減少は5程度だが、1ランク上のハイポーションになると減少MPが40くらいに跳ね上がる。なお、陽子が作っているレッサーポーションのMP減少量は1。
「ポーションを作ったなんて話聞いたこと無いけど?」(伊織)
「そりゃ私達が初めてだからね」(白雪)
「はぃ!? いいの?」(伊織)
「逆に聞くけど、やっちゃだめなのかな?」(白雪)
「あ~、いやそうは言ってないけど」(伊織)
「探索者は自己責任で何やっても構わないんだからやらなきゃ損じゃないかい?」(白雪)
「普通そんなことやらなくね?」(伊織)
「やだね、私達が普通だと思うかい?」(白雪)
白雪に目がいき、次に愛宮姉妹に目が行き、煙管を吹かしながら陽子を見ている美々に目が行き、隣にいる小町に目が行き、最後に陽子を見る。
「……」(伊織)
「なんで否定しないっすか」(陽子)
「とりあえず臭いから外でやった方がよくね? 臭いで眠れなくなくなくない?」(伊織)
「……外でやるっす」(陽子)
「ごめんね~」(伊織)
機材道具をバルコニーに向かって運び出していく、何故か美々も手伝い外へ出ていく、美々が手伝うので楓も同じく手伝い、さらに一緒に来た小町も手伝う。
バルコニーへと出た陽子は再び機材を並べ直し、再びアルコールランプに火をつけポーション作りを再開する。美々は何も言わずに煙管を咥えながら見ている。小町も何も言わずに陽子の作業を見ている。
ポーションの作製方法は、薬草を薬師のスキル【乾燥】で乾燥させ、切断しお湯に入れて煮出すことで完成する。
「え~と、なんか見られていると緊張するっすけど」(陽子)
「あ、気にしないで気にしないで」(小町)
「……」(美々)
「お姉さまは案外好奇心旺盛なんですよ」(楓)
「そうなんっすか……小町さんは」(陽子)
「料理に使えるかなと」(小町)
「小町さんも薬師になったらどうすか」(陽子)
「そうね~、干し物作りに使えそうなのよね……う~ん、フードドライヤーを買うのが先か、どこでも出来るスキルがいいか、干し肉干し柿干し椎茸……」(小町)
出来上がった緑色の液体を見ている。
「う~ん、ポーションかどうかわからないんすよね」(陽子)
「飲めばわからない?」(小町)
「そのためにはBP減らさないといけないんすよ」(陽子)
「なるほどねー?」(小町)
いまいちBPの仕様はよくわからない小町だった。
「鑑定眼鏡が早くほしいっすねー」(陽子)
「あ~あの虫眼鏡みたいなあれ」(小町)
「それっす」(陽子)
「何層からだっけ?」(小町)
「10層からっす、色々なもんが出るのが10層あたりから色々出るっす」(陽子)
「料理の効果も判るかのう」
「テレビ局の人も見ていたしわかるんじゃないかしら」
……………………………………………………
「ってことがあってよ~」(元山)
「ふ~ん、で、薬は売れたのかよ」
「いや、それが売る前に絡まれてな」
「あ、どうすんだ? 期限来週だぞ」
彼等は元山と同じ2年の特待生達だ、彼等は現在レベル8に至っている。
「お前らの実績分けてくれね?」
「分けるわけねーだろうが!」
「落ち着けよ、あの人達は『ブラックパイソン』だぞ連帯責任とか言い出しかねねーぞ」
「くそっ、言っとくが貸しだからな」
そのタイミングで電話がかかってくる。
「もしもし! はっ、はい、なんでしょうか?」
「……」
「え、テレビですか? はい」(おい、テレビ点けろ、テレビ)
元山がテレビをつけると……芸人が漫才をしていた。
「チャンネル回せ、馬鹿」
「何チャン?」
「す、すみません、何チャンネルでしょうか?」
『1チャンに決まってるだろーが! ダンジョンチャンネル以外どこみんだ馬鹿野郎!』
「すみません! すみません! 1チャンだ、1チャン」
そこでは、つい先ほど見たばかりのガスマスクが映っていた。
『死なないから大丈夫だよ』(白雪)
『アーメン』(加藤)
『死ぬようなもの食べさせないでください! 芸人リアクション選手権じゃないんですから! スタッフも笑うな!』(奈々美)
『スタッフの方々にもどうぞ(にっこり)』(小町)
『よくやりました! 地獄にいくなら道ずれです』(奈々美)
「えっ、これを調べるんですか?……来週までにですか? はい、はいっ、わかりました……」
「調べるってこれを」
画面は既にCM中だ。
「何をどう調べればいいんだ……?」
「わかんねーよ」
「じゃぁどうするんだよ?」
「どうするって、電話掛けて聞くか?」
「特殊な電話アプリでこっちから掛けれねーだろうが! なんで切ったんだよ」
「だったら何をどう調べるんだよ」
「あのガスマスクなら心当たりある」(元山)
「本当か!?」
「ああ、F組の1年だ、そいつに聞けば何か解るんじゃないか?」(元山)
「これから行くか?」
「やめた方がいいだろ、夜だし多分ダンジョン行ってた奴も帰ってきてる」
「だが1年なんてどうせレベル1か2だろ」
「いや、おれらと同じ特待生が1人いる」(元山)
「1人か、3人で他を相手するのもきついか」
「明日の朝学校行くときに門の前で張るか」
「それだな」
「早起き苦手なんだけどな」
「それくらい我慢しろ!」
「わかってるよ!」
「明日日曜じゃね……?」
「…………」
「…………」
「…………」
……………………………………………………
日曜の朝、庭で須藤とミーナが対峙していた、立会人は風音だ。
「すまないにゃ、結局こういう形でしか決められないにゃ」
「いえ、自分もです。世界が変わったのについていけていませんでした」
須藤の言葉に風音も頷く、立ち会うについてお互いの言い分を聞いている。日本と日華での違いに風音も今一ついていけていないからだ。
確かに警察がいない以上犯罪を行うには適している、迎撃するのを迷っていれば取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。
だからといってなんでもかんでも攻撃するのもまた否である。
ある程度のラインについての話は話し合いで片付いていたが、それでもお互い思うところがあるため互いに戦ってすっきりしたいとのことだ。
つまりは勝ち負けは知った事ではない、ただの喧嘩である。
「両者準備はいいな?」(風音)
頷くミーナと須藤。
「始め!」(風音)
その声と同時に須藤もミーナも互いに間合いを詰める。須藤の巨体はそれだけで迫力が半端ない。
ミーナは転生してから自身の体が若返ったことに大きく影響を受けていた。どうにもこの体をみると高校時代を思い出す。
ミーナ自身何度も名前でからかわれた事を思い出す。自分のことはぶん殴って判らせればなんとかなる。
だが自分に敵わないと知るといくらかの人間は健を初め自分の周りを標的にする。
親父たちが居ればどうにかなるがこちらの世界にはいない、当てには出来ないがいざという時の警察も居ない、しかもその気になれば容赦なく傷つけられる武器を持っている。
つい酷いことを言ってしまったが、須藤にははぐれ狼で健を庇ってもらった恩もある。
それに誰かをかばうなど前世の健を知る自分からすれば考えられないことだ。自分だけ変わらず健だけが成長しているような気分になる。
自分はどうすべきか見守るべきか声を出すべきか答えの出ない悩みに狂いそうになる。
須藤としてもそうだ、自衛隊を除隊して20年経ってもあの日のことを忘れたことは無い。そしてそれはあのときから須藤の年齢は止まっていることを示していた。
いつまでも自衛隊気分が抜けないのではなく、抜けだすことが出来ないのだ。
そして転生したこの世界で清美と再会した、あちらの清美でないことは解っている。だがどうしても惹かれてしまう。
誰かに相談したい気持ちもある、だが誰に相談できるだろうか? 加藤であればFDSに関わっていそうなので相談できるだろうか?
だが話の節々から自分とおなじ世代の人間ではない。相談したところで余計な混乱を与えるだけになってしまう。
花籠はどうだろうか? だが何故か彼女を見ていると得たいの知れない恐怖が沸き上がってくる。
そいれぞれの思いを乗せながら、若干の八つ当たりを含みながら互いに拳を交差させる。
■あやふや:
うすらぼんやり、怪しい、語源も良く解っておらず「怪しい」と「有耶無耶」が合わさった、「あやふし」に助詞の「や」がついた「あやふしや」が変化したも、
中国語の「啊」(語尾につけるとどっちなの?と疑問の意味になる)と「乎」(そうなの?とこちらも疑問の意味)に「呀」(助詞で、口調をやわらげたり、感動を現す)がくっついてできたという説がある。
■あからさま:
散るが語源で「少しの間」「かりそめ」という意味で使われていたが、「明る」と誤解された結果、全てを明らかにするとも誤用されるようになった。




