表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DRD ~転生者が多すぎた~  作者: ふすま
第2章:1週間が経ちました
53/96

第053話:キャンプイベント(前編)

 西城(さいじょう)瑠璃子(るりこ):西城公爵家の次女。姉の他兄が1人、弟が1人いる。主人公と同じく1年。【剣聖】のレア称号持ち。美々に負けて拳銃を奪われる。

 東郷(とうごう)時雨(しぐれ):東郷家公爵家長女にしてシナリオのラスボス。

 宮古(みやこ):天皇の直孫、生徒会長。ヒロインの1人。

 山下(やました)清美(きよみ):宮古直属の部下、西城家派閥の侯爵家4女。超が付く筋肉愛好家。須藤の前世の婚約者とうり2つ。

 河中(かわなか)(あおい):宮古直属の部下、北条公爵家分家の長女。


 ■魔術適正値:


 魔術スキル毎に保持するパラメーター補正に自身のパラメーターを加算し、魔術スキル適正値を掛けたものが最終的な値となる。


 探索者になったときのパラメーターを基に決定され、変化することは無い。パラメーターが高い場合、魔術適正値は1.0になり1.0を下回ることは無い。


 逆に白雪のように著しく低い場合、魔術適正値が高くなる。これはレベル=各パラメーター合計×魔術補正値によって算出されるためだ。



 こちらの世界でも魔術適正値が高い=身体能力は低いことは常識として知られている。


 魔術適正値が高いということは、将来探索者になるための体づくりをさぼったか、体が生まれつき弱い役立たずのレッテルを張られることになる。



 特にほぼ確定でダンジョンで闘うことになる貴族達にとって魔術適正値が高いことは不名誉とされ見下される原因ともなる。


 魔術という要素は人類史に無いためパーティでの役割が確立されず、敬遠されがちになってしまう。



 DRDではコマンダーとしてもアタッカーとしても万能に役立つが、現実ではBP再分配の法則が知られていないため役立たずとみられがちだ。


 また、魔術の効力を高める武器は人の手で作り出せずダンジョンからの出土に頼るしかないため見下される要因にも拍車がかかっている。

 真っ暗な空間の中、赤毛の死神がゆっくりと近づいて来る、どんなに走っても走っても距離は縮まらない。瑠璃子の出来ることはただ必死に逃げ惑うことだけだった。



「きゃっ」(瑠璃子)



 何かに(つまず)いて地面に腹からダイブする。憤慨しながらも見た何かは、倒れて身動き一つしない信濃だった。



「ひぃっ」(瑠璃子)



 あわてて周りを見ると、護衛が、1人、2人、さらには侍女まで次々に暗闇から浮かび上がってくる。皆身動き1つしない。必死に揺すっても、叩いても、目を覚ます者はいなかった。



「おねがい起きてよ! 信濃! 後藤! 矢野! 琴子!! 起きて! 起きてよ!! 起きなさい! 命令よ!!」



 しかし、それでも彼等が目を覚ますことはなかった。涙ながらに見上げたそこには死神が居る、信濃の大剣を持って1歩、2歩とゆっくり歩いて近づいて来る。


 表情は見えない、ただその光る双眸(そうぼう)は、はっきりと瑠璃子に向けられていた。



「嫌、嫌……」



 立てないまま必死に身じろぎして後ずさりしようとする。しかし、何かが足元に絡みついて後ろに下がれない。


 震える目で足元を見ると暗闇から伸びた血まみれの手が瑠璃子の足首を掴んでいた。


 必死に引きはがそうとするがその手は外れない、どんなに力を込めても、どんなに叩いても、その手は瑠璃子の足を掴んで離さない。



「るりこぉぉ」



 声が聞こえる、自分の名を呼ぶ声。恐怖を感じる低く暗い声、声にならない悲鳴をあげ半狂乱になりながら振りほどこうとするが、一向にその手は離れない。


 離れないばかりか、もう片方の腕が伸びて瑠璃子の脛のあたりを掴む。そのまま瑠璃子の足を紐がわりに何かが浮き上がる。


 前腕だけだったのが、二の腕が見え、肩が見え、ついには顔が暗闇のなかから浮かび上がった。


 それは兄の顔だった。幼い頃に家から追放された自分の1つ上の兄の顔。生気のない顔がこちらをじっと見ていた。


 その後ろの大剣を構える死神の姿はいつのまにか母親の姿に変わっていた。



「……あなたのような脳無しは追放……いいえ、生きている価値もないわ!」



 躊躇もなく振り下ろされた大剣が瑠璃子に迫る。



「いやぁぁぁぁぁ!」



 大絶叫と共に起き上がると、慌てて侍女の琴子が駆け込んでくる。



「大丈夫ですか瑠璃子様!?」



 荒い息を整えながら周りを見回す、自分の知る寮の部屋でも無かったし実家の部屋でも無かった。



「はぁっ、はぁっ、はあっ……夢? ここは?」


「私達侍女と護衛の者達が暮らすセカンドハウスです」

 


 瑠璃子には兄が2人いた。1人は瑠璃子より10歳年上の長男、既に一社を任され経営ノウハウを学んでいる、もう一人は5つ年上の次男……もし生きていれば1社まかされていたかもしれない。



 西城家は公爵家の中では珍しく女性が当主を務める。瑠璃子の母親である西城(さいじょう)久子(ひさこ)は若くにして当主の座に就いた。



 彼女が当主に就くまで、西城家の財政状況は逼迫(ひっぱく)していた。元々西城家は北条家の分家であったと言われている、西城家の言い分では北条家の方が分家だが、財政状況は如実(にょじつ)にそれが嘘だと表していた。



 しかし、久子は斬新な案を出しては実行させ、全て成功に導いてきた。たったの5年で財政を立て直した彼女に西城家の寄り子達は(ひざまず)かざるを得なかった。



 その性格(ゆえ)か、実績故か、能力の無いもの向ける視線は誰よりも厳しい。



 次男は長男、長女に比べると見劣りした。レアスキルも無く、成長値も公爵家としては低い。久子からの視線は冷たく『西城家の恥』と容赦なく彼を追放した。



 瑠璃子はそれを目の当たりにした、力を見せなければ悲惨な追放をされる厳しい現実を突きつけられたのだ。



 それから瑠璃子は死に者狂いで訓練に打ちこむ。その成果か偶然かは不明だが、神は【剣聖】というレア称号、世界に数人としか居ないレア中のレアを瑠璃子にもたらした。



 震える手で差し出されたダンジョンカードを見たとき久子は狂喜乱舞した、どこか冷たかった兄姉(きょうだい)達もこのときばかりは、特に長男は彼女を祝福してくれた。だがそれゆえに彼女は期待にこたえなければならなくなった。



 力の証明を続けるうちにいつしか忘れていた、しかし、美々に負けたことで思い出してしまった。



 追放されたときの愕然とした兄の顔とどこまでも冷たい母の顔。一度思い出したそれは脳裏にへばり付いて離れなかった……



…………………………



 金曜日ダンジョン第1層のセーフルームは多くのダンジョン学園生で賑わっていた。


 生徒でない一般探索者も居るが彼等は心なしか足早に去って行く。なにせ貴族の子息、息女が揃っているのだ、下手に関わりたくないのだろう。


 一方の成人した華族の探索者は気楽なもので、久しぶりにあった兄弟と会話をしたり手を振ったりと気楽に交流していた。



「それで、これってどんなイベントなの?」(長谷川)


「貴族の令嬢との出会いイベントだね」(皆川)



「へー、どんなの?」(長谷川)


「各自班分けされて4層に潜るだけ。イベントが始まると「どこの班だっけ?」って感じで貴族令嬢の名前と立ち絵が出てきて選ぶと偶然その班になったことになる」(皆川)


「ふーん、内容的には何をするの? バトル?」(長谷川)


「そだね、フォレストウルフを共闘で狩ってあとは食事イベントを挟んで終了って感じ」(皆川)


「なるほど」(長谷川)



 オリエンテーションの内容は1年、2年混同で4層へ向かいセーフルームで一泊キャンプをして帰るという内容だ。


 趣旨としては、いずれに備えてダンジョンでの寝泊まりの体験となっているが、真の目的は貴族達の交流や売り込みだ。


 貴族の子供であっても低い爵位の3男、4男あたりは将来が微妙になる。爵位が高ければまだ任せる会社があるが、低い爵位ではそんな余裕など無い。


 そのため行先はいずこかの貴族の騎士団の団員くらいしかない。


 女性もまた同様である、嫁に行く、婿を取るどちらにしても子供の成長値に関わる以上、ダンジョンでの活躍が重視されることになる。


 となると学生の頃から一緒にパーティを組み寝食を共にした方が潤滑に進みやすい。


 DRDの場合、先程皆川が言ったとおり単に主人公と貴族令嬢の出会いイベントだ。


 このイベントで選ばれなくとも後に出会いイベントがあるが、先にこちらで出会った方が手っ取り早い。



…………………………



「こんにちは、ボクは一条男爵家が長女一条(いちじょう)雛乃(ひなの)です。ダンジョン学園2年D組に在籍しています」



 美々や小町と比べても遜色無い程背の低い女生徒が精一杯胸を張って自己紹介をしていた。


 護衛と思わしき人は見えず、侍女が一人控えているだけだ。ダンジョン産の杖に制服の上にローブを纏い魔女帽子をかぶった様は見習い魔術師といった様相だ。



「一応華族に属してますが男爵家ですから、ほとんどあなた達と変わりありません。だから好きなように呼んでもらってもいいですよ」(雛乃)


「それこそ呼び捨てでも構いません、ただでさえ危険なダンジョン、そんなやり取りのせいで怪我なんかしたくないですから」(雛乃)



 彼女もまたヒロインの一人だ、残念ながら戦闘力は低くヒロインの中では断トツの最下位。



 ・殲滅力は低いくせにやたら範囲魔術をぶっ放して常に敵に囲まれる迷惑女


 ・介護しなければ真っ先にやられるダメヒロイン


 ・ワンパン女王(される方)


 ・戦犯女王


 ・オーダー イズ オンリーワン 「寝てろ」



 数々の称号をほしいがままにする女性(ヒロイン)、それが一条雛乃だ……だが、それが良いと言う人もまた多い。


 彼女の班に配属されたのは、五十嵐、柳、加藤、黒田、白雪、陽子、ミーナ、メリッサだ。



(あれ……こいつどこかで……)(ミーナ)



 七森を見ると、別の班の彼もまた雛乃を凝視していた。ミーナの視線に気が付くと慌てて視線を戻す。それを見てミーナもまた思い出した。


 DRDの販売に際して株式会社セニーが行った販促(はんそく)活動でモブキャラ募集というものがあった。



 優勝者には賞金だけでなくヒロインOR攻略対象昇格という特典がついたイベントだ。


 そして、それを見事射止めたのが七森健が作成した雛乃だった。自分で作ったものがゲームに、さらには現実として現れたのだ、健の心情は推して知るべしだろう。


 だが極度のコミュ障の健が果たして会話できる日はくるだろうか?



(ま、無理だな)(ミーナ)



「じゃぁ、雛乃…………先輩」(五十嵐)



 DRDの主人公は顔はイケメンの設定のようで……



「ひうっ」(雛乃)



 雛乃は耳まで真っ赤にして身悶え(みもだえ)していた、それを見てにやにやしている侍女、窘め(たしなめ)ないあたりかなり対等な関係に近いと伺い知れる。



「あ、えっと一条先輩の方が良いですか?」(五十嵐)


「い、いえ雛乃のでいいですよ。ちょっと驚いちゃっただけで」(雛乃)



 顔を真っ赤にして帽子の裾を掴んで目元まで下げている姿が可愛らしい。だが五十嵐は主人公補正でそれに気が付かない。




「じゃぁ私は


 『女車掌はチンチン電車、バックで連結発射オーライ』


って呼ぶね。あ、発射は車のほうじゃなくて射撃の方ね」(白雪)



「……」(五十嵐)


「……」(加藤)


「……」(雛乃)



 さっきまで真っ赤だった顔が一瞬で真顔になる。


 ゲームでは呼び方に『雛乃』『雛乃先輩』『一条先輩』『ガキ』の四種類があった、一応好感度の差はあれ1~3はどれを選んでもハッピーエンドに辿り着けるが4番目は論外だ。白雪の回答は……議論にすら値しないだろう。



「さ、さすがに冗談ですよね、あは、あははは」(雛乃)



 懸命にとりなそうとするがガスマスクから白雪の表情は読み取れない。しかし、彼女と付き合いが長い加藤ならわかる。



「……白雪」(加藤)


「なんだい? 彼女が好きなように呼べと言うから呼んだだけだよ」(白雪)


「ものには限度というものがあるだろう?」(加藤)


「大丈夫、私の限度は地球一杯分くらい広い!」(白雪)


「お前の限度じゃない! 大体お前がそう呼ばれ……た……ら……」(加藤)



 気付いて口を塞いだ時に遅かった。白雪のガスマスクのレンズがキラリと輝いた気がした。



「そうだね! その通りだね! フェアじゃないね! 代わりに私のことは


『ボクっ子は奥をかきまわされるのが好き、18センチが僕を蹂躙するまで』


 って呼んでもらってかまはないよ! 人前で! 大声で! 大丈夫、私の限度は地球一杯広い!」(白雪)



「自分で良い呼び方じゃないって認めてるじゃねーか!」(加藤)


「それがどうした! そんなことは1ミリたりとも気にしない!」(白雪)


「気にしろ!」(加藤)


(うわぁ、たち(わり)い)(黒田)



「一条様だ! 彼女のことは一条様と呼ぶように! そして一条様! これは花籠白雪、花籠でも白雪でもどちらかで呼んで下さい!」(加藤)


「う、うんわかったよ」(雛乃)



「あ、あの、彼女はいつもこうなんですか?」(雛乃)


「いつもこうですよ」(加藤)


「まぁ……確かに」(黒田)


「……」(五十嵐)



「ガスマスクも?」(雛乃)


「いつもこうですよ」(加藤)


「学校もこうだよな」(黒田)


「……」(五十嵐)



「……彼女とどう接すればいいかわかりません」(雛乃)


「接しなければいいと思います」(加藤)


「はっはっは。接しなければこちらから絡むまでだ」(白雪)


「たちわりぃ」(黒田)


「よせやい。照れるじゃないか」(白雪)


「たちわりぃ」(加藤)



「では、改めマーして、メリッサオーランドです。よろしくデス女シャーショーはチンチンデーン車、backで連結ハッシャーall light先輩」(雛乃)


「メリッサさん、あなたもか……」(加藤)


「ミーナにゃ、よろしくにゃ」(ミーナ)

 

「えっと、お二人は外国の方ですか?」(雛乃)


「いや、ミーナさんは違「本名言ったら殺す」」(加藤・ミーナ)



「そういうことにしといてください。あ、自分は加藤浩平です。よろしくお願いします一条様」(加藤)


「俺は黒田竜司だ、よろしく一条先輩」(黒田)


「よろしくお願いします。えっと加藤さんはそんなにかしこまらなくても良いですよ」(雛乃)



「いえ、ここで崩すとまた白雪が暴走するので」(加藤)


「失礼な、私はまだ通常運転だよ。暴走したら今より5割ましだ!」(白雪)



 ため息を吐く加藤を見て、『苦労してそうだな』といたたまれなくなる雛乃だった。



…………………………



「東郷時雨だ、公爵家の長女をしている。以上だ」(時雨)


「遠藤美々じゃ、よろしくの」(美々)


「遠藤楓です」(楓)


「間宮小町よ」(小町)


「え、えっと、あの、み、みみ、水無瀬……伊織です。お、おあ、お会いできて光栄です、東郷様」(伊織)



 公爵令嬢を前にいつも通り煙管を口に咥え、あまりにあっさりとした挨拶をする。一番最後の伊織だけがまともに見える。


 当然一緒にいる他の貴族から向けられる視線は冷たい。



「……」(時雨)


「……」(美々)



 他の貴族家が次々と跪くように挨拶をしていくが時雨の視線は美々を見たままで返答もおざなりだ。

 


 時雨が生まれたときには源十郎はすでに行方知れずになっていた。そのため時雨は画像の向こうでしか源十郎を知らない。



 時雨の侍女静流(しずる)は驚きを隠せないでいた。煙管を咥える仕草、口調もイントネーションも自分が教えを受けていた時の源十郎そのままだった。



 源十郎の生まれ変わりと言われたらそのまま信じてしまいそうなくらいに。



 だがそれはあり得ない、そもそも年齢が違いすぎる。もし源十郎が実は生きていたとしても日華の壁をどうやって超えて人知れず美々と会えたというのか。



 では何故会ったこともない彼女の仕草が源十郎と一致するというのか。


 

 美々から源十郎に会いに行くのは、なおさらあり得ない。孤児院所属と聞いているがそんな彼女がどうやって源十郎とコンタクトを取れたというのか。



 しかし、ならどうして見てもいない源十郎と仕草が一致するというのか。



 答えの出ないループに静流は落ちいっていた。



…………………………



 須藤はきおつけの姿勢で直立不動のまま冷や汗を流していた。



 「宮古だ、生徒会長をやっているが私は日本からの留学生だ、卒業後君達と顔を合わせる機会は無いだろうが、それでも在学中は精一杯学びたいと思っている、よろしくお願いする」(宮古)



 宮古の挨拶など耳に入らない、清美の視線を痛いほど受け止めているからだ。挨拶が終わりひと段落した頃清美が話しかけてくる。



「あなた前に私と会いましたよねー」(清美)


「な、なんのことでありましょうか?」(須藤)



 清美と会った時須藤はガスマスクを被っていた。別人ということで通そうとしているが、そうですかとはいかない。



 須藤のような体格を持った人間がそうそういるわけなど無い、むしろガスマスク程度でどうやって追及を逃れられると思ったのか。



「それにその服の傷もあの時のものですよねー」(清美)


 

 あのときとは風音を庇ってゴブリンソルジャーの大鉈を身を挺して防いだときだ。


 その時の傷がアーミージャケットの腕にはしっかりと残っていた。慌てて後ろに隠しても遅い。



「で、なんであなたは私の顔と名前を覚えていたんですかねー?」(清美)


「い、いえ、それは……」(須藤)



 言い淀むのは当然だ、前世の婚約者でしたと言ったところで信じる人など居ないだろう。


 一方の清美もまた内心穏やかでは無かった。



(はぁ、はぁ、はぁ、良い、良いですね、実に良い筋肉です。ですが服が邪魔です、ポージングも取ってくれないですかねー)(清美)



 別の意味で。



「サイドチェスト」(清美)



 思わずもれた清美の言葉(よくぼう)に須藤の着ていたアーミージャケットが宙を舞う。



 右の手首を左手で握り、上腕全ての筋肉を膨張させる。まさに見事なポージングに思わずまわりの女性からもキャーとの声が聞こえる。



 散々前世で筋肉愛好家の清美からの要望でポージングをしてきた須藤にとって、それは半ば条件反射だった。



「おおおおぉぉぉおおお」(清美)



 清美が探索者カードを出して写真を撮り始める。



「なにをやっているんだ……」(宮古)



 葵も額に手をやり呆れている。




 しかし、須藤の頬を暖かいものが流れていた。



「お、おいどうした! 泣く程のことか!?」(宮古)


「ええっ! いったいどうしたんですか!?」(清美)


「いえ、何でもないです、何でもありません……」(須藤)



 清美が笑い、明彦が呆れかえる。かつては有りし日の日常、今では2度と望めない光景……須藤は涙を止めることが出来なかった……

 お読みいただきありがとうございます。拙い文章ですが次話も楽しみにして頂ければ幸いです。よろしければ、ブックマーク、評価、感想なんかもお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ