第045話:もう1人の転生者
■探索者と体格:
探索者はパラメーターによって強さが変わるため、探索者にとっては体格は当てにならない。
例えば筋力のパラメーターが同じであれば、須藤と白雪が腕相撲をしても互角となる。無論、戦い方となれば話は別になる。
須藤のような体格による威圧が効くかどうかは人による、例えば日本から探索者になったF組や成人探索者は日本で生きた記憶に引きずられて威圧が効く可能性が高い。
逆に貴族達はそういったことを目のあたりにしているので威圧が効くことは少ない。
小野田のようなびびりもいるため一概にはいえないが。
「静流」
「はい、時雨様」
静流と呼ばれた侍女が時雨に鉄棍を渡す、対するミーノータウロスはまだ片膝で座したままだ。
1歩、2歩とミーノータウロスに近づいていく、慎重に間合いを計るわけでもなければ、一気に距離をつめるわけでも無い。自然と近づいていく。
ミーノータウロスもまた眠ったかの如く動かない、死んでいないことは僅かに上下する体を見ればわかる。
一閃
一瞬の間に二本の銀線が交差する。一つはミーノータウロスの持った巨大な戦斧、一つは上体を逸らし躱しながら放った時雨の鉄棍による突き。
無理な体勢から放たれたにも拘わらずその一撃はミーノータウロスを確かによろめかせる。
自らの体重に加え重量感のある棍棒を押し込めるような突きがさらに三回、胸、腹、顔へと音を立てる。
一撃一撃で一歩一歩と後退を余儀なくされるミーノータウロス。しかし全長4尺(約120cm)にも上る鉄棍はその射程から放さない。
四度の攻撃の末やっと離れた間合いを逃さずミーノータウロスはその戦斧を地面に叩きつける。
轟音と土煙と共に無数の石礫が時雨に襲い掛かる、高速で飛来する礫に時雨は動くことは叶わない。だが、その顔に焦りは無かった。
無数の礫の内そのベクトルの先に時雨を捉えた礫だけが子気味な破砕音とともに砕け散る。
その不思議な光景にミーノータウロスは目を見張ったことだろう、全ての礫を喰いつくし、おまけとばかりに土煙の中から飛び出た鉄棍の先が頭を直撃した。
ミーノータウロスはその耐久の高さが有名になる程で、大抵の攻撃であればすぐにカウンターが如く反撃が飛んでくる。
格闘ゲームでいう常時スーパーアーマーを纏っているようなボスモンスターだ。
しかし、鉄棍の尋常ならざる重さに振り回されることなく放たれる時雨の攻撃はそれを無視するかの如くミーノータウロスを完膚なきまでに打ち据えていた。
攻撃らしい攻撃を許されず一方的に打ち据えられたミーノータウロスは地に倒れ伏すが、そこでは終わりではない。ミーノータウロスの体が赤く染まっていく、最終モードへの移行の合図だ。
「静流」
「はい」
先程とはわずかに異なる声色。しかし、侍女は主が何を望んでいるかを正確にくみ取る。
静流は両手を差し出すと鉄棍を恭しくしっかりとつかむ、そのまま時雨が逆の方へと引くとそこから見事な刀身が姿を現す。
駿河國百留蓮華作越前宗直
風音の持つ国住の製作者百留蓮華の晩年時に作られた刀である。
直刀でありながら長い刀身とかなりの切れ味を持つ。鞘となる鉄棍は作成時のものでは無く最近に作られたものだ。
右袈裟切り、まるで骨など無いかのように一気に振り抜く。続けざまに腹を横一文字に裂き、片膝をついたミーノータウロスに時雨は宗直を上段に構えると……
「うわぁぁぁぁあ!」
ベッドから慌てて上体を起こす。
「…………ここはどこだ?。俺はいったい……?」
(そうだ俺は逆恨みで刺されて、いや、違う、ダンジョンでモンスターに負けて……いや、違う……なんだこれは、他人の記憶? いや俺の記憶か?)
「目が覚めたようね? 東郷史郎君」
飛び起きて、腰に手をやるが、そこには何もなく手は空を切るばかりだった。
(なんだ? 武器? なんで脳裏に武器とか浮かぶ?)
おおよそ普段の自分ではやらない行動に驚きながら声がする方を見る。そこには白衣を来た女の人が笑いながらいた。
「あらあら。あなたの武器はそこよ」
そういって指をさす方を見ると剣が置いてあった。俺が使っていた……ような気がする剣だ。
(なんで俺は剣なんか持っているんだ? 銃刀法違反だろ? いや、持たない方がおかしい?)
俺の持つ常識とは別の常識が混在して意味が解らない。
「……ここは?」
「見てわからない? 保険室よ、自分がどうなったか覚えてる?」
いまだ混乱が収まらないが、自分の思いとは裏腹に脳裏に今までの記憶が勝手に再生される。薄暗い洞窟? 目の前には犬のような頭と毛むくじゃらの体。
(モンスター? ダンジョン? なんだこれは?)
剣を振る手だけが見える。
(俺の手か? フルダイブゲームみたいだな)
犬の体を切る、浅い。もう一度、頭に衝撃。後ろにもう1体、逃げる、パニックかホラー系の映画のワンシーンのようだ。
(いや、ゲームでも映画でもなく俺の実体験だ)
後ろからずっとついてくる足音、犬の浅い呼吸音、力尽きた、だめだ、捕まる。体中を殴られる、痛い、痛い! 死ぬ。そのとき不意に俺の最後の記憶が蘇る)
(そうだ俺は、彼女の元カレに刺されて……)
意識が闇に飲まれる直前に急に引き戻される。体からも痛みが消えて、犬もなにかきょろきょろしている。そのチャンスに必死に逃げて……。
そうか、俺はロストしたのか、いやロストってなんだ? 俺を刺した奴は? 何がなんだか意味が解らない。
「気持ちはわかるけどそんなこと繰り返してたら本当に死ぬわよ」
「ほっといてくれ!」
何故だか衝動的にそんな言葉を吐いてしまう、愛剣を手に取り先生のため息を背に受けながら保健室から出て行った、とにかく家に帰って記憶を整理したい。
そのまま昇降口に向かって歩いていくと途中3人組と鉢合わせる、いまだ記憶が混乱しているが、「嫌な奴だ」直感的にそう思った。
こちらは無視しようとするが、向こうはその気はないようだ。嫌らしい笑いを浮かべながらこちらに向かってくる。
「よぉ! またダンジョンに一人で突っ込んでいったそうじゃないか、しかもその体なんだよ、ははっ、ついに無様にロストしたのかよ、ざまぁねーな。なぁロストするってどんな気分だ? 後学のために教えてくれよ」
ぎゃははと、とりまき2人と一緒に笑う。
(誰だこいつは!? 小野田勝? なんで知ってる?)
とにかく無視して家に帰ろう、無言で横を抜けようとすると腕を掴まれる。その瞬間腕がつぶれるかと思うほどの痛みが体を走る。
「おい!何しかと決め込んでるんだよ!」
「あああああぁぁぁぁ!」
尋常ない痛がり方にその手緩められる。
「おっと悪い、悪いロスト中だったっけ」
「そういやロスト中に受けた傷ってロストから回復しても治らないらしいぜ」
その言葉を聞いた小野田の顔がよけいに嫌らしく歪む。
「へーそいつはいいことを聞いたな、ちょっと試させてくれよ。いいだろ腕一本ちょっと絞るくらいだからよ、元々絞りカスなんだ問題ねーだろ?」
再びとりまき2人と下品に笑う。
「俺は搾りかすなんかじゃない!」
再び脊髄反射のように言葉が喉を衝いて出る、だが2度目は言葉だけですまなかった。
「搾りかす」その言葉が呼び水となったかのように様々な記憶が噴出しその奔流が脳内を目まぐるしく駆け巡る。
「姉の搾りかす」何人もの人間に浴びせかけられた言葉、そのたびに言い返してきた。まるで口癖のようにそのたびに否定する。
しかし、否定すればするほど自分の心にその言葉がのしかかってくる。
「何を騒いでいるんですか!」
「あ!? なんだ仁堂かよ」
「また東郷に絡んでたのか」
「はっ、親の七光りのエセ貴族が何言ってやがる」
「貴様、言わせておけば……」
「兄貴そろそろ時間ですぜ、さっさと行かないと乗り遅れちまいます」
「まじか、これからだってーのによ、あばよカスとエセでせいぜい仲良くな」
「おいっ! 話は終わってないぞ! まて!」
誰かが話してるが俺はそれどころではなかった。ふらふらする頭をなんとか支えて歩いていく。
「おいっ、どうした東郷? 気分でも悪いのか? おいっ」
なにか聞いてくるが答えている余裕なんか無い。元の俺の記憶に知らない俺の記憶が混ざってくる。
知らない街並み、知っている道、知らないアパート、知っている玄関。
倒れないように必死に歩いてきたがそこが限界だった。そこで記憶は闇に飲まれた。
…………………………
そう俺だ、俺なんだ、名前は同じだが苗字は違う、顔も違う、生まれももちろん違う、しかし俺だ、一卵性双生児とかそんなものじゃない。
俺と同じ考え方、俺と同じ価値観。こういうシチュエーションならこうする、こう言う。すべてが俺とまったく同じなのだ。
目覚めたときには3日程立っていた、玄関で倒れてそのままだったようだ、体中が痛いがそれよりも腹が減った。
(とりあえず現状を整理しよう)
冷蔵庫にあった冷凍チャーハン1袋分を皿に開け、温めてるレンジを見ながら考える。
どうやら俺は小説なんかでいう転生をしたようだ。前世では女の元カレに逆恨みされて刺されて死んだのだろう。
この体の持ち主がロストしたときに乗り移ったのか思い出したのかはわからない。
ロストというのもよくは解らないが、一度死ぬとこのロストという状態になり、この状態で死ぬと本当に死ぬらしい。
寝ている間に、元の体の俺の記憶を追体験して分かったことだが、前の俺と転生者の俺が完全に同一ということだ。生まれも育ちも全然違うが、お互いに解るこいつは「俺」だと。
漫画やアニメで主人公に感情移入して読んでいる時に主人公が自分と違う選択したり、イメージとかけ離れた行動をされると萎えることがある。
だが、もう一方の俺は自分が脚本を書いたと言わんばかりに『自分だったこうする』と思ったのと同じ行動をし、同じセリフを吐く。それががひたすら続く。
つまり元の俺は俺で俺は元の俺、まぁ要するに(俺+俺)÷2=俺ということだ。
転生後の俺は東郷史郎、公爵家の次男だが成長値が低すぎて家から追い出された人間だ。
せめてもの情けなのか1千万という大金を手切れとして渡されている。まぁ公爵家からすればはした金にもならない金額だろう。
各言う元の俺も家庭のごたごたで一人暮らしをしているが親から月100万は貰い金に困っていない生活をしていた。
……東郷公爵家? 成長値? ダンジョン? もしかしてここDRD? マジ!?
知っている世界であることは有難いが、まぁそれは置いておこう。今考えないといけない問題は今後どうするかだな。
希望をいえばこのまま終わるつもりはない、成り上がりたい。1千万だけではこのさき生きていけないし、せっかく知り尽くしているゲーム世界に転生したんだから、ゲーム知識を生かして俺TUEEEEしたい。
だが、問題なのは俺がよりにもよって東郷公爵家の人間だということだ。追放されているとはいえ、勘当されたわけではない。
もし成り上がれば実家からのやっかみがくるだろう、しかも俺の姉である東郷時雨はシナリオモードのラスボスなのだ。
しかもシナリオによっては東郷家に復讐を企てる……もしその時俺が成り上がっていたら彼女は明確に俺を敵とみなすだろう。
そもそも時雨は東郷家の人間ではない、分家の一人っ子で俺との関係は「はとこ」にあたる。
ラスボスでもあるが攻略対象の1人でもある、一番問題なのはDRDのメインストーリーは主人公が2年になったときに一番好感度が高いヒロインによって決まることだ。
どのシナリオでもラスボスは時雨になる。どのシナリオでも時雨が誰かを殺そうとし、それに気づいた主人公がそれを阻止するという流れになる。
まず1つ目、F組のヒロインが対象の場合だ、このときの対象は俺の兄、つまり東郷家の長男になる。
時雨は分家なので東郷家から冷遇されている。祖父の東郷平八と、時雨の祖父は兄弟でありながら仲が悪く跡目争いのすえ敗れた時雨の祖父側が分家として別れた。
DRDで名は出てこなかったが源十郎というらしい。
当時源十郎は国民からの人気が高く、配下の華族も源十郎を慕っているものが多かった。
跡目争いに敗れたからといって冷遇すれば源十郎派の派閥がどういった行動を取るか予測できない。
へたをすれば東郷家が真っ二つに割れることさえある、それを恐れた平八は分家として侯爵の地位を与え重用するしかなかった。
しかし源十郎がダンジョンで行方不明になると共に事件が立て続けに発生する、時雨の母、美々(こちらもDRDでは母親としか出ていなかった)が何者かに殺され、父の清一郎が失踪する。
これを期に当時5歳の時雨を養子として引き取り、自分の息子(俺の父親)を侯爵代行とした。何を狙ってるかは明らかだろう。
兄を殺す理由は東郷家を乗っ取るためだ、DRDのシナリオでは俺は存在しない。つまり兄さえ殺してしまえば東郷家の次の当主は時雨しかいなくなる。
他にも親族もいるだろうが、継承権は2位であり成長値は200、しかも美人とくれば国民からの期待も人気も高くなるだろう。
平八が望む望まないに関わらず指名せざるを得なくなる。乗っ取ろうとする理由は不明だが時雨は本家から冷遇されておりそれが動機に繋がったのだろうか?
2つ目、1つ目をクリアし、攻略対象がF組のヒロインかつ、吉野織姫以外の場合このルートになる。最初に兄が織姫のレアスキルに気付いて無理やり召し抱えようとするイベントが始まる。
2つ目の対象は東郷清一郎、時雨の実の父だ。清一郎は源十郎の息子ではなく入り婿になる、妻を殺し東郷侯爵家を乗っ取ろうとし、殺すことには成功したがそれを見られてしまい失踪したらしい。
ここら辺はシナリオでは語られないのでよくわからない。
で、その父が顔を隠しダンジョンに入っているのを見つけ、母の仇を打とうと動いたところを主人公に止められてという流れだ。
母の仇の他に源十郎が手に入れて封印を頼んだ武器九泉村正を取り返す目的もあったらしい。このシナリオでは清一郎から村正を取り返さないとトゥルーエンドにたどり着けない。
3つ目、本命ヒロインが仁堂詩織の場合このルートになる。このルートの対象は日本最強のクラン『扶桑』のリーダーである仁堂勝正。
時雨の母美々の命を奪ったのが仁堂勝正で、父清一郎は妻の仇をとるため失踪したことになる。
かつて仁堂は誠一郎のクランの一員であり、友人でもあった。
しかし、仁堂は自身が庶民であることにコンプレックスを持っており、美々を殺し九泉村正を奪いクラン『扶桑』を形成した。
裏で仁堂に話を持ち掛けたのが東郷本家であることが示唆されている。
このルートでは主人公は時雨の父清一郎と戦うことになる。父の過去の罪を知り、落ち込んでいる詩織を守りながら戦わなければならず苦しい闘いを強いられる。
その後父の仇として全てを知った時雨と戦うことになり、なかなかに後味のよくない話だ。
4つ目、3つ目をクリアしたときに解禁される時雨ルートに入ると強制的にこのストーリーになる。
対象は東郷家だ、源十郎の失踪にはじまる一連の事件が東郷平八が全て仕組んだことであることを知り、東郷家を潰すのが時雨の目的になる。
目的は東郷平八だけであるが当主と敵対することは東郷家と敵対することと同義だ。
時雨ルートのため当然時雨と良い雰囲気になるが、時雨の目的を知り止めるために時雨と闘い、そして自らの手で殺めてしまう鬱エンドとなる。
あまりの苦情に生存ルートが後になって実装された。この場合主人公と全てを捨てて一緒に失踪する駆け落ちエンドとなる。
うーん、2つ目と,3つ目ルートなら何とかなりそうだな…、1つ目は微妙、4つ目は危ない気がするな。敵対する確率が0でない以上、撃退できるようにならないとだめだな。
せっかく転生したんだゲーム知識全開で高速レベルアップしてやるチン♪
そうだった、まず飯を食わねば。思考が現実に戻ってくると、思い出したかのように、胃がご飯を要求するかのごとく成大に大合唱を始める。
答えるようにチャーハンを口に含む、1口食べると止まらなかった。空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。かきこむように口に運んでいく。
数分と経たない内にあれだけあったチャーハンは綺麗に消えていた。
お腹の感触に満足しながら今後のことを考える。とりあえず3日も休んでしまったんだ、学校に連絡をしておこう。
学校に連絡を入れると3日も寝込んだことに驚かれた、探索者は基本病気とは無縁の存在になる。骨折や四肢が欠損しても日にちは掛かるが元に戻るのだ。
そのため3日も寝込むなんてことは起きないはずなのである。
だが今回俺はロスト状態だった。ロスト状態になったときは欠損、出血含めてまるで無かったかのように元に戻るらしい。
体質なんかも探索者になる前の状態に戻るし、処女膜や妊娠の状態も戻るため時間が巻き戻るのではとも思われている。
しかしレベル等は7日、正確には164.968時間で元に戻るためまるっきり戻るわけではないためまるっきり時間が逆行するわけではない。
問題となるのはロストしたときの状態で、脳を欠損した状態で元に戻ると記憶の混濁が発生した事例もあるため、今回のこともこれではないかと思われた。
まぁ本当の理由は俺が憑依というか同化したからなんだけどね。
明日には出席することを伝えると、ロスト状態が治るまでは休むように言われた。ロスト状態中は身体パラメーターも元に戻ってしまうのでちょっと叩かれただけで文字通り吹っ飛ぶ。
中学生なので高レベルの探索者がいるわけではないが、いつもの調子でかるく叩かれただけでも骨折することもあるため大事を取って休むよう言われた。
中学生では力加減を間違うこともあるし、ロスト中の怪我は探索者に戻っても続くからね……。あのときも、もし小野田にそのままやられていたらやばかっただろう。
1週間たち衰弱が明けたのだが、呆然とテレビを見ていた。いままで階層エレベーターが発見されていなかったらしい。
まぁこれは聞いて納得した、確かに現実で宝玉を使うなんていうコマンドはないからな。
だが問題はこれを誰が吹き込んだかだ、偶然という事も、もちろんあり得る、しかし問題に思っているのは、今まで気付かなかったことに「俺が転生したタイミングで気付いたか?」だ。俺以外に転生者いる可能性があるが……。
その疑問は後の【料理人】称号のときに判明した。DRDに存在しない称号も問題だが、この間宮小町の時に出て来たガスマスクの女性だ。
α鯖にいた俺からしたらすぐに気付いた、多分ホワイトスノウだこいつ。
アバターそっくりの美人が幻のF組美人としてニュースサイトでランクインしていたから間違いないだろう。
まぁ、『化け猫』とか『ラスボスアーリーアクセス』よりはましか。純魔タイプだからいざとなれば力づくで抑えられるし。
そのためにもレベルを上げないとだな。ロスト明けのステータスを改めて見る。
「レベルは1、身体パラメーターは並みより少し低めといった所か、うん、やっぱり魔術補正が高めの1.3か」
本命はレアスキル【純白の卵】だ、こちらの俺の記憶でこれを持っているのが分かった。もっともダンジョンカードを見れば一発だが。
このスキルは自分の持ってるアクション系スキルに変えることができる。本来であればそこまでほしいスキルじゃない。
持っているスキルへの変更だ、つまり自分が既に取得済のスキルの再取得ということだ、DRDで見たときもなんの意味があるんだ? と悩んだものだ。
だが人に聞いたところ「なるほど」と思った。例えばスキルのクールタイムは別々なので硬直は別にしてもスキルを連発することが出来る。
意表も突けるし高威力の魔法なんかはとかくクールタイムが長い、考えてみれば確かに便利だ。
さらにもう一つ、DRDのスキルには称号依存スキルというものがある。これはそのスキルの元となる称号を称号欄にセットしていなければ使えないスキルだ。
大概にして強力なため称号を聞くだけで大体のスキル構成が解るし、称号をセットしなければならないのだから、望まない補正も受けなけれがならない。さらに称号欄も3つだけだ。
【純白の卵】で複製されたスキルはこれを無視できる。スキルスクロールという同じ効果のものもあるがあれはドロップ率との戦いだからな、【純白の卵】自体スキルスクロールから覚えるものだったし。
と、利点を上げてきたがやはり微妙なスキルであることに変わりは無い、アクション系スキル限定なため大技は動作が長めだし、小技は複製するほどのものじゃない。
大魔法はクールタイム以上にMPが問題だ、称号依存スキルもほとんど複製には不向きなものが多い。
称号依存スキルだって、自分のスタイルに合わせて称号を取っているんだし、取るスキルの内訳も考察済みだ、このスキル前提で組むことはそもそも少ないだろう。
「だ・が、俺には確信めいた予感がある、俺がDRD時代に得たスキルも使えるんじゃないかってな」
若干緊張しつつ、目をつぶってダンジョンカードの【純白の卵】を押す。
………
俺は恐る恐るを目を開け、ニヤリと笑った。そこには俺がDRDで取得したことがあるスキルがずらりと並んでいた。
「ククク、良し良し良し、いいぞいいぞ」
スキル一覧をスクロールさせつつ目的のものを探す。
「あった、【召喚】!」
【召喚】それは称号【召喚士】を開放することで覚えることが出来るスキルだ、なんと各階層のボスを召喚して戦わせることが出来る。
DRDでは称号の取得難易度がばか高く、しかも召喚するためにはそのボスを1人で倒さないとならないため幻の称号とも言われる称号だ。
さっそく子ダンジョンに挑む、生憎俺のダンジョン攻略率は0なため民間学校の生徒側のダンジョンにまわされている。もっとも子ダンジョンは入るまでは難易度は謎なため違いは無いが。
それはさておいて一人になるために人とは別の道へいく。
「よし、誰もいないな。【召喚】【ミーノータウロス】!」
俺がスキルを発動すると目の前に5.5層のボス、ミーノータウロスが現れる。
「よしよしよし、MPの関係上まだこいつしか呼び出せないがここいらの相手なら充分だ。しかも召喚ボスはパーティメンバーに入らないから経験値も独り占め。最高だぜ」
「それでは戻って6層へ行ってますね」(静流)
「……宝玉出なかった……(´•ω•`)」(時雨)
「……(´•ω•`)」(静流)
大宝玉は一回取得する毎に25%づつダウンする。つまり各階層1人4個までの制限がかかる。小宝玉はー10%づつ。結局出るまでに3週かかった。
■九泉村正:
殺した相手のレアスキルを奪う武器。DRDにはシナリオモード専用の武器があり、これもその1つ。他のダンジョンや海外ダンジョンでも同じ物があるかは……不明。




