第043話:小料理屋小町
黛奈々美:日本ダンジョンテレビ局アナウンサー。探索者でありレベル12とそこそこ実力もある。
ああん、太くてギチギチ奥まで届いてるの:世間には隠しているが実は花籠さんさんSUNあらやだ歌みたいと同一人物。
■アルラウネ: レベル:15 危険度:B 属性:土
3層隠しエリアに出現するユニークモンスター、ゲームでは落とすアイテムも大していい物では無く、攻撃しない限り向こうから攻撃してくることも無かったため放置されがちだったモンスター。
なにがどう進化したのか、動物がベースでありながら葉緑素を持ち植物の特徴を持つモンスター。
めしべの部分が人の形をしているのは擬態で、その姿で人を引き寄せ食べるとされているが、知能がある人間に対してそれが進化の過程として残るかと言われると甚だ疑問である。
主な攻撃方法はガクに当たる部分にある蔓。これで打ち付けたり、薙ぎ払ったりする。内側にある雄しべに当たる蔓は主体であり弱点であるめしべを護るために使う。
特殊行動は、外蔓全てを激しく叩きつける乱打と、めしべから放たれる子実機雷。
ドロップアイテムは、霊樹の指輪とアルラウネの蔓。レアドロップは霊樹の槍。
■霊樹の指輪:
魔術適正+0.05 追加防御:0 重さ:1.8g EMP:1
■霊樹の槍:
3つの蔓がお互い絡み合いねじれたランス。ランス型であるため切ることは出来ず突き以外は打撃として扱われる。
攻撃力 切:0 突:10 打:5 重量:3kg PAS:0 EMP:3 刃渡り?:40cm 柄:12cm 耐久度自動修復。
木製であるためか軽く、攻撃力は低く勢いよくモンスターとぶつかると刃が折れてしまうこともある。
しかし自動修復があるため、柄を握ると自動的に蔓が伸び刃が復活する、その際MPが減少する。比較としてレンタルソードが切:12突:9 打:0。
小町はすっかり自分の城となった学食で料理の準備をしていた。冷蔵庫から取り出したのは昨日狩ってきたアタックバードの肉だ。すでに下ごしらえは済んでおり、後は揚げるだけの状態だ。
別に一人で食べようというわけでは無い。部屋には保険所の人、さらにはダンジョンテレビの黛奈々美アナウンサーを始めとしたスタッフがいる。他に加藤、白雪も控えている。
基本的に探索者になると、傷の治りが異様に早くなるほか、病気等にも掛からなくなる。それこそ白雪の紫外線アレルギーのような遺伝的なものにまで効果が及ぶ。
だが、探索者になればパラメーターとスキルが支配する蛮族のような世界に身を置くしかなくなるのだ、安全に生きるためには必死に危険なモンスターと戦いレベルを上げるしかなく、矛盾に苛まれることだろう。
法律というのものは、法律に背くと警察・軍隊という組織に所属する戦闘力を持った多数の人間に追い回されるから護るのであり、それらを纏めてぶっ飛ばせる力があれば法律に従う意味が無くなるのだから。
「つまり、探索者になれば当然のことながら食中毒とも無縁になるんですよね」(保健所の人)
「ですが、なぜ保健所のチェックが必要かというとですね、日華は日本人だった人が移籍する国なので、日本人であった頃の影響があるのと、やっぱり食べる方からすれば不潔な場所で作られた料理を食べたいかといえば嫌ですからね」(保健)
「それは当然ね」(小町)
「はい、というわけで問題はありません。厳密にはモンスターの肉については安全基準自体が無いため問題があるのですが、食べるのが探索者であれば問題はないでしょう」
「日本にも輸出となれば問題が出るのですが、まぁ輸出されることは無いでしょうね」
「なんか密輸・密猟者が出そうね」
「そこは検閲の方々に頑張ってもらうしかないですね、幸い鑑定眼鏡でダンジョン産かどうかはわかるので判別は楽だとおもいます」
「あと、モンスターについては希少種だとか、絶滅危惧種だとかもないでしょうから」
「それもそうね」
「はい、それではこちら認可証です」
「ありがとうございます」
「それでは私達はこれで、なるべく1年毎に受けてくださいね」
「わかりました。ありがとうございました」
保健所員が帰ったあと今度は日本ダンジョンテレビの取材が始まった。このテレビ局もまた日本と日華が別れる前に設立したため日本が引き継いでいる。
「改めまして、日本ダンジョンテレビの黛奈々美と申します」(奈々美)
「改めまして間宮小町と言います」(小町)
(小町ちゃんやっぱりいいわぁ、もう一人の小さい子は居ないのかしら)(奈々美)
「改めましてああん、太くてギチ ギチ奥まで届いてるのと言います」(ガスマスク)
「……」(奈々美)
「これは花籠白雪といいます。あ、自分のことはお気になさらず」(ガスマスク)
「はぁ……その何故ガスマスクなんですか?」(奈々美)
「まぁ趣味だね。別に取ってもいいよ」(白雪)
白雪がガスマスクを外すと黒フードが出てくる。
「気にせず話進めてください。いちいち付き合ってたらいつまでも終わりませんから」(加藤)
「……で、どうやってモンスターの肉を調理したのでしょう?」(奈々美)
「その説明は白雪ちゃんお願い、私説明とか苦手だし、唐揚げ作ってるわね」(小町)
「はいはい、引き受けよう」(白雪)
「まずモンスターは倒すと灰になって消えてしまう、つまり解体できない。それはいいね?」(白雪)
「はい」(奈々美)
「では、いつ灰になるか注意して見た事は?」(白雪)
「そう言われてみると……あまり見たことはないような、普通に死んだときでしょうか?」(奈々美)
「残念ながらそうではないんだよ。モンスターが灰になる条件は、モンスターが死亡していること、かつ、モンスターに誰も触れてないこと。この2つの条件を満たしたとき、初めてモンスターは灰になるのだよ」
「モンスターに触れてないことですか?」
「放置物と同じルールが適応されてるんじゃないかな? 荷物は何処でもいいから探索者と繋がっていればダンジョンに吸収されないだろう?」(白雪)
「今までの探索者の戦闘映像をいつ灰になるかを注目して確認してみるといいと思うよ」(白雪)
「槍で刺したモンスターを掲げたとき、槍にはモンスターの死体があったか? モンスターの首を撥ねて掲げたとき、モンスターの頭蓋は勝者の手にあったか?」(白雪)
「モンスターが消えていたという間抜けな映像はあったかい?」(白雪)
「言われてみれば……確かになかったように思えます……」
「モンスターの死体が消えなくなれば次はモンスターを肉に変える作業が必要になる、なにせモンスターはセーフルームに入れないからね」
「はぁ、肉ですか?」
「わからないかい? あなたは豚の死体を見たとき、それを『豚の死体』と認識するかい? 『豚肉』が落ちてると認識するかい?」
「それは………」
「大多数の人は『豚の死体』と答えるだろう? では『死体』と『肉』の閾はなにか?」(白雪)
「それは肉として加工したとき、皮をはいで内蔵を抜いて肉として認識できるレベルにまで解体したときに我々は死体ではなく肉と認識する」(白雪)
「つまり?」(奈々美)
「ダンジョンも同じということだよ、モンスターがセーフルームに入れないならその死体もセーフルームに入れない」(白雪)
「外に持ち出すためにはセーフルームを通らなければならないのだから肉になるまで加工する必要があるということだよ」(白雪)
「なるほど……」(奈々美)
「問題は誰がその認識をするのかが謎なところだけどね」
「やはりダンジョンなのでしょうか?」
「多分そうだと思う、正確にいえば鑑定眼鏡になるのかな。保健所の人が確認したとき鑑定眼鏡で見て確認してたし」
「【料理人】の称号はやはり肉に加工することが必要なのでしょうか?」(奈々美)
「そうだと思うよ、当然【料理人】というからには料理をするまでが条件だと思うよ。いや、食べるまでかな? 小町ちゃんもダンジョン内で料理はしたんだよね?」(白雪)
「ええ、したわよ。ゴブリンの肉を塩胡椒で焼いただけだけど」(小町)
「いわゆるキャンプ料理の基本バーベキューだね」(白雪)
「ゴブリンの肉ですか……」
「驚くことではないと思うよ、アタックバードだって狩れるんだから」
「……それもそうですね、解体と料理この2つが必要だと」
「もし、どちらかだけでいいなら既に発現していると思うんだよね。探索者だって料理くらいするだろう?」
「それは確かにあり得ますね、肉への加工はどうでしょうか?」
「う~ん、さっきも言ったようにモンスターは倒すと消えてしまうわけじゃん、その先入観から食事の現地調達とか出来ないと思いこむ人が大半じゃないかな?」
「なるほど」
「でも、本当に【料理人見習い】って初なのかなぁ?」
「と、いいますと?」
「いやさ、イメージ的に中国とかって何でも食べるイメージあるじゃん、つまり申告してないだけで既に何人か取得しているんじゃないかと思うんだよね」
「返答に困りますね……そもそもダンジョンはモンスターがうようよいる場所です、さすがにそこで解体というのも無いのではないでしょうか?」(奈々美)
「それに先程のお話だとセーフルームに死体を担いで入ることもできないでしょうから諦めたとか?」(奈々美)
「なるほど、確かに一理あるね」(白雪)
「ですが、それを踏まえても【料理人】は異色ではないでしょうか? 今までの称号といえば、剣技のスキルが使えたり、魔術が使えたりといわば戦闘に直結的なスキルばかりでした。ですが料理人はいわば間接的です」(奈々美)
「なるほど鋭いね。だが、料理人の称号は皆が確認している」(白雪)
「そうなんですよね……」(奈々美)
「発想を逆転してみたらどうかな?」
「逆転ですか?」
「そう、料理人が異色でもなんでもなくそういった系統の称号群があると」
「……」
「ま、これは意地悪な質問だったね、これを見たまえ、こいつをどう思う?」
白雪は自分のカードの称号を開いて称号の部分を指して見せる。
「…………【薬師見習い】……、えぇ! ちょっ、ちょっと! これ新称号じゃないですか!!」(奈々美)
「料理人と同じだね、発現方法は薬草を摘み取ることと、ダンジョン系の薬品を服薬すること」
「今回はたまたま小町ちゃんが作った薬草プリンがその役割を果たしたけど、多分本来はポーションなんかがトリガーになるんじゃないかな?」(白雪)
(薬草プリン? また知らない言葉が)(奈々美)
「つまり生産系とも言える称号群が存在すると思うんだよ、例えば鍛冶や革細工、裁縫といったね」(白雪)
「……」
(いや、いやいやいや、なんで料理人の称号紹介が生産系称号の話になっているんですか、これこのまま話してて大丈夫ですかね)(奈々美)
ちらりと困惑の目でディレクターをちらりと見る、その視線を感じたディレクターは少し考えたのち頷いた。どうやらこのまま行けということらしい。
「ですが、鍛冶なんかはどうなんでしょうか? まさか武器を食べるというわけじゃないですよね?」(奈々美)
「まぁそうだろうね、でも素材取得系のスキルは初期に3つあるからね、それは素材を取れということだと思わないかい?」(白雪)
最初から選べるスキルの中に【採掘ポイント可視化】【採集ポイント可視化】【伐採ポイント可視化】の3つがあり、これをスキル欄にセットすることで対応する素材がある場所が光って見えるようになる。
「それは、確かにそうですけれど……」(奈々美)
これはゲーム世界の弊害ともいえるだろう、そもそも現実の鍛冶師は採掘になど出向かない。DRDはゲームである、なので素材は買うなり自分で集めるように設計されている。
だが現実であれば買取一択だ、鍛冶師が「ちょっと一掘りしてくる」と鉱山へつるはし片手に行くことは無い。
それはそうだ、鉱山へ素人が立ち入ったら邪魔だし、危険以外の何者でもないだろう。
初期の素材取集スキルについても同じだ、採掘や伐採はわかる。そして実際にダンジョンから採掘した素材で武器を打てば他よりも高い効果があることは解っている。
だが、採集は今一解っていない、草が一体何の役に立つのかがわからない。鑑定眼鏡で採集したそれが薬草というものだというのは解る。
ポーションの作製が出来るのではと期待の目を向けられたが、成功の報告は一切ない。現在も細々と続けられているがいまだに成果があがることは無い。
そもそも最初の採集ポイントも5層まで行かなければ存在しないのだ(3層の隠しエリアにもあるがそれが知られたのは昨日のことだ)、そんな危険な場所へ戦闘のプロでもない研究者自身が行くことはまず無い。
探索者に採集を頼むことになるだろうが、探索者も探索者で採集のために貴重なスキル欄を1つ潰すことになるのだから受けてくれる可能性も低いだろう。
「唐揚げできたわよ~」(小町)
「えっと、貴重なお話ありがとうございました。……ところであなたは本当に学生ですか?」(奈々美)
「この姿のどこに学生以外の要素が?」(白雪)
「……しいていえば、そのフードでしょうか?」(奈々美)
「記者さんの年齢と体重とスリーサイズを公開したら素顔を見せてあげてもいいよ」(白雪)
「さぁ、さっそくアタックバードの唐揚げ、実食に移りましょう!」(奈々美)
「おお~美味しそうですね! 数多くの探索者を苦しめたアタックバードには見えません。ではさっそく実食!」(奈々美)
「……えっ? だめなんですか? あっ、そうでした鑑定眼鏡でのチェックがあるんでしたね。さっそく見て見ましょう」(奈々美)
鑑定眼鏡を取り出し、唐揚げを鑑定眼鏡越しにみる奈々美。当然鑑定の結果は使った人にしかわからない、見ていた奈々美が息を飲む。
「え、えっと鑑定結果にはアタックバードの唐揚げだけでなく、食事効果……BP上昇、効果時間6時間……これは非常に有効な効果ではないでしょうかあの、これはどういったことなのでしょうか?」
「さぁ?」(小町)
「私達が鑑定眼鏡なんかもっていると思うかい?」(白雪)
「つまりこの結果は予想外と」(奈々美)
「いや、予想はしているよ、【料理】なんてスキルがあるんだし。その効果がなければ【料理人見習い】の称号は何のためってなるじゃん」
「そうでした、つまり私は世界的瞬間に立ち会っていることになるのでしょうか、なんか感動です」(奈々美)
「昨日に続いて今日もおめでとう」(白雪)
「……そうですよね、昨日のエレベーターだって世界的瞬間ですもんね、というか先程の薬師見習いですら世界初なのですが」(奈々美)
「まぁそんなことより料理がさめる前に食べてほしいわね私は」(小町)
「そんなことより……と、とりあえずそうですね。それではいただきます!……美味しいです」(奈々美)
「ころもがさくっと揚っていて程よくお肉に火が入っていてお肉が硬くないのに油は程よく溶けだして。お肉自体も美味しいです味がすごい濃く感じます」(奈々美)
「てゆうか本当美味しいです、ビールかなんかありませんか?」(奈々美)
「取材中では?」(加藤)
「……はっすみません! 撮影中でした。今のカットでお願いします」(奈々美)
<だめです>
「だめですか、そんなー、じゃ今度食べに来ていいですか、えっ学食だから無理、そんなー」
「じゃぁ小町ちゃん開業してください。食べにいくんで」
「学生だから無理よ」(小町)
「ちゃん?」(白雪)
「……わかりました、来年ダンジョン学園に、んーーーー!!」(奈々美)
「どしたん? 小骨でも入ってたん?」(白雪)
「いや、鶏肉に小骨なんて、んんんーーーー!!」(加藤)
「当たり引いたね」(小町)
「当たり?」(白雪)
「塩ワサビよ、不意打ちはキクわ」(小町)
「お~。あ~確かによく見ると緑がかったのがあるね。ではいくか……つーんとくる、でも、わかってるとあっさりして美味しい」(白雪)
一瞬くるけれど一瞬で引く分量、風味を飛ばし過ぎないように、肉の深くに差し込むのがコツとのことだ。
このあと、夕飯でだされた『当たり』はそこそこのの被害をもたらしたがそれはまた別の話。須藤と美々、皆川、ミーナ等一部の人には人気だったことを追記しておく。
「最後にデザートをどうぞ。ゴブリン肉のソテーよ」(小町)
「あのっ、においが尋常じゃないんですが……」(奈々美)
「死なないから大丈夫だよ」(白雪)
「アーメン」(加藤)
「死ぬようなもの食べさせないでください! 芸人リアクション選手権じゃないんですから! スタッフも笑うな!」(奈々美)
「スタッフの方々にもどうぞ(にっこり)」(小町)
「よくやりました! 地獄にいくなら道ずれです」(奈々美)
当然全員地獄へいった。残ったゴブリン肉を捌けて小町もニコニコだ。
「……ごちそうさまでした。しかしここまでインタビューしてなんですが、世界初かもしれない称号の取り方を公開してしまっていいのでしょうか?」(奈々美)
「別にいいわよ」(小町)
「例えばお金を取ってその人にだけ話すとか考えなかったのですか?」(奈々美)
「さっきの『豚の死体』の話じゃないけど、そういった倫理で考えれば料理なんて最悪よ?」(小町)
「死体を切り刻んだり、叩いたり弄んでるのよ、そんなことの称号なんて、御大層に仕舞うものでもないでしょう?」(小町)
「う~ん……」(奈々美)
「本日はありがとうございました」(奈々美)
「いえいえ」(小町)
「い~え~」(白雪)
こうして取材は終わった。出演料の方も少額だが出るようだ。テレビ局以外からもWSAや、公爵家からも、もしかしたらお金が出るかも?
とのことだった。翌日には放送すると奈々美は言っていたが、結局放送されたのは一週間後の事だった。
■冷蔵庫:
1803年アメリカのトマス・ムーアが氷で庫内を冷やす道具を開発したことが始まり、和暦だと享和3年いわゆる江戸時代。
現在の冷蔵庫の仕組みは1834年になってから、沸点の低い触媒を減圧により気化させ気化熱で冷やす方式が始まった。
電子式という触媒も気化熱も使わないものもあるが、冷却効果が低いため小型冷蔵庫等で使用されていた。
■バーベキュー:
屋外で肉や野菜を薪や炭火で焼く事、燻製も含まれる、だがガスコンロてめーはダメだ。語源はbarbacoa、大元はハイチ語の「肉を焼くための台」それがスペインで「丸焼き」の意味になりバーベキューとなった模様。
■仕舞う:
語源は日本舞踊の「能」から、能の仕舞は一曲の見どころ、聞きどころを舞う略式の上演形態(いわゆる、ダイジェスト版)で、アンコール等に答えて舞ったとされる。最後に踊ることから物事の終わりとしての意味が生まれた。




