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DRD ~転生者が多すぎた~  作者: ふすま
第1章:転生者が多すぎる
38/96

第038話:土曜:美々 昼―夕刻

 朝隈(あさぐま)(いつき):朝隈伯爵家の4男。平民落ちしないために奮闘中、攻略対象の1人


 ■ダンジョン内の通信状態:


 ダンジョンの中は基本(そと)との通信は出来ない。セーフルームだけは特別で上下の層のセーフルームと通信が可能。


 このため1層のセーフルームからダンジョン外へコードを伸ばし探索者センターの中継施設と繋ぐことで通信を可能としている。


 ここから2層以降のセーフルームに中継器を置くことによって外部との通信が可能になった。



 また中継器には秘密裏に探索者カードが近づくと自動的に記録する機能があり、ある程度の探索者の行動が把握できるようになっている。


 現在中継器は15層まで設置されているが、バッテリーの交換が大変でありこれ以上の設置は難しいようだ。




 ■フォレストラプトル: レベル:13 危険度:C 属性:風


 5層の林エリアに生息する小型の恐竜のようなモンスター。後ろ足だけで自立走行でき、走る速度は非常に速く小回りも効く。


 攻撃手段はするどい鉤爪(かぎづめ)と牙。また()し掛かってくることもある。尻尾は長いが振り回して攻撃してくることはなくバランスを取るために活用している。

 

 非常に鼻がよく食料や血の匂いに敏感、フォレストウルフのように群れることはないが縄張り意識が低く林全体を自由に動いているため運が悪いと匂いにつられて永遠と襲われることになる。



 雌雄の差がほとんどなくどちらも同じような姿をしている。とさかがあるのが雄、ダンジョンではどちらも見るが個体差は無い。色は緑色と茶色の迷彩柄で主に狩のためのカモフラージュと思われる。


 ドロップアイテムは皮と爪。皮は狼と同じように日本での需要がある、一応防具としても使えるが加工が難しく、また加工品が蛮族のようであまり受け入れられないようだ。


 爪に関しては今の所使い道が工芸品程度しかなく、爪も皮もどちらも安く買い取りされるため好んで狩られるモンスターではない。そのくせ絡んでくるのだから探索者から嫌われている。

 朝隈を見送った美々達はセーフルームから弾き出されるかのように外にでた場所で炊事をしていた。


 セーフルーム内は時間が経過しても元に戻らないため焚火を直にすると地面に焦げ跡が残ってしまう、そのため決められた場所以外での直接の焚火は禁止されている。



 守るかどうかは本人の良識に委ねられるが破れば周りの探索者が喜々として武器を振り上げるため、そのリスクを犯してまで行う人はいない。


 6層は騒然となっていた。階層エレベーターが発見されたからではない。昼時は大体いつも騒然となるのが6層だ。


 5層からの階段から続々と弁当等食料を背負った探索者が降りてくる。


 彼等はそれぞれ適当な場所に陣取ると店員と思われる人に商品を並べさせる。同時に転移柱の周りに続々と探索者が現れ始める。



「お、野々村じゃん、ひさしぶりじゃないか、やっと店出せたのか」


「よう、ついに辿りつけたぜ……って結局は商隊に金払って入ったんだがな」(野々村)


「なんだついに諦めたのかよ」



 野々村と呼ばれた男は、アルバイトと思われる店員に接客を任せると知り合いらしき探索者と話始める。



「半年もすればさすがにな」(野々村)


「そうか、ミノタ討伐からもう半年か」


「ミノも大変だったけど、挑むまでも苦労の連続だったもんな」(野々村)


「4層の狼とか最初きつくなかったですか?」(バイト)



 アルバイトの1人が弁当の受け渡しをしながら聞いてくる、探索者のお金はすべて探索者カードで管理されているため専用の機器にカードを翳すだけで売買できる。残念ながら温めサービスは無い。


 この機器は昔は店舗として登録した人にのみ渡されていたが、最近では探索者による自己売買も増えてきたため一般に向けても販売されている。


 小町も近所のスーパーで購入し導入している、登録自体は白雪に手伝ってもらったようだ。



「あーあー苦労した、急に降って来るもんなあいつ」(野々村)


「降られたうえ、そのまま押さえつけて首噛み付こうとしてくるからな」(知り合い探索者)


「あのとき救ってやったの俺だかんな忘れんなよ」


「はっ、そのあと後ろから襲われそうになったのを助けてやったじゃねーか」



「はい、カツ弁当4つですね、ありがとうございます。5層はどうしたんです?」(バイト)


「岩登れば楽にいけるとか言う情報見て登ったまではよかったんだよ」(野々村)


「言うほど簡単には登れなかったけどな」(知り合い探索者)


「それな、足踏み外しそうになったり」



「でもって結局登ったは良いものの今度は降りる場所が見つからなくてな」(知り探)


「そうそう、岩の上で結局1夜明かしたっけ」(野々村)


「でもって、朝降りたまではよかったんだけどな、いきなり恐竜に出待ちされてるとは思わなかったぜ」



「あいつらどんどんわきやがるからな」(野々村)


「今考えるありゃ飯の匂いにつられたな」


「まじかよ、岩の上で焼肉なんかするからだ馬鹿野郎」

 


這う這うの体(ほうほうのてい)でなんとかルームついたらワープできなくて帰れなくてな」


「あそこはちゃんと岩中通って順番に開通しないと繋がらないんでしたっけ」(バイト)


「くそっ、思い出しただけでむかむかしてくるぜ。4層と同じだとか適当抜かしやがって、あのサイト運営してる奴見つけたらただじゃおかねーからな」(野々村)


「あそこまでの絶望は無かったぜ、ラプトルから逃げるのに食料は捨てちまったし、転移は出来ねーしで最悪だった」



「良く生きて帰れましたね」(バイト)


「そんとき助けてくれたのが、行商人だったのよ」


「こんなドジのために弁当袋開けてくれてな」(野々村)



「あーこの袋かなり厳重に包装していますからね」


「ラプトル対策だな、あいつは飯と血の匂いに敏感だから」


「そうして売ってくれた弁当のおかげでなんとか生き延びて、そのあと行商人達について5層終わりの転移柱からなんとか生還したって所だ」(野々村)



「あのあと1週間はダンジョンに入る気が起きなかったよな」


「まーな、限界感じてた所で今のパーティに誘われてな、ミノタウロスまで撃破出来たってわけだ」


「その後俺はあんとき食べた弁当の美味さが忘れられなくてな、パーティ抜けて弁当屋始めたってわけよ」(野々村)



 そのとき突然野々村と話してた探索者が蹴り飛ばされる。



「うおっ!」


「帰りが遅いと思って来てみれば……いったい何話し込んでんのよ!」


「あ! 杏子(あんず)ちゃん! 久しぶりじゃん」(野々村)


「あら、直人(なおと)! 直人(なおと)じゃない! 何話し相手ってあなただったの?」(杏子)


「悪い悪い、つい話し込んじまった」(野々村)



「ちょっとまってて皆呼んでくる!」(杏子)


「お! おい、何もそこまで……」(野々村)



 慌てて声をかけるが、既に杏子の姿は無かった。



「痛ってー」


「杏子ちゃんは相変わらずだな」


「まぁな」



 程なくして、杏子が男性と女性を一人づつ引き連れて戻ってくる。



「おー、ついに弁当屋開業したってな。おめでとう」


「リーダー! 久しぶりです」



「もう、俺らのパーティじゃねーだろ」


「夢叶えられてよかったわね、おめでとう」


「姐さんも、ありがとうございます。まだまだ中途半端ですよ」


「もう、その呼び方やめなさいよ」



 彼等のパーティとはミーノータウロス討伐の時に一緒になったパーティのメンバーだ、以降一緒にパーティを組んでいた。


 リーダーと呼ばれた男性と姐さんと呼ばれた女性は結婚しており、杏子はリーダーの姪に当たるらしい。


 

「そういや、そちらはどうなんですか?」


「まだこの層で探索しているな」


「え、まだここなんですか?」



「あぁ、アタックバードくらいしか獲物がいなくてな、細々とレベルを上げていたんだが『火喰い鳥』のやつがいつもの狩場に出ちまってな……」(リーダー)


「目に入っただけで迫ってくるから溜まったもんじゃないよな。逃げるのが遅かったらやられていた」(知り探)


「もう次の層への階段発見しているから、さっさと次行っちゃいましょうよ」(杏子)



「そうは行ってもミノタウロスで危険な目に遭ったじゃないか、お前に死なれちゃ天国の兄貴に顔向け出来ない」(リーダー)


「こんな感じで意見が纏まらなくてね」(姐さん)



「前の狩場までとは行かないが、それなりの狩場で一応レベル上げを頑張ってるって所なんだよ。だけどここまで(6層)来ると行き帰りがきつくなるだろ?」(知り探)


「そのせいで貴重な機会を無駄にしたくない杏子ちゃんと心配性なリーダーとで意見が割れちまってな」(知り探)



「確かに日帰りってわけにはいかないですね」(野々村)


「あぁ、泊りとなると準備がいるし、毎日のように潜るわけにも行かなくなるからな」(リーダー)

 

「お弁当はもう買ったの?」(姐さん)


「ああ!! 悪い! 弁当まだ残ってるか?」(知り探)


 

 バイトの方を振り返ると、すまなそうに首を振る。



「悪い、売れちまった……」(野々村)


「ちょっと! 何やってるのよ!」(杏子)



 杏子が再び拳を振り上げたときに広場が一際騒がしくなる、何事かと全員が騒ぎの方向を見ると小野田に連れられテレビ局のレポーターとテレビカメラが階層エレベーターから出てきた所だった。


 一行が呆然としている中、野次馬が次々と取り囲み人だかりが出来る。



「ちょっと行ってくる!」(杏子)


「あ、おい!」



 リーダーの制止も聞かず杏子が飛び込んでいった。数十分後、杏子が驚愕の表情をしながら戻ってきた。



「だ、大ニュースよ! ここから1層に戻る方法が発見されたんだって!」


「は?」


「なんだそれ?」


「さらに、1層からもここに来れるんだって!」



 その場にいる全員が見たことも無いような驚愕に染まった。



…………………………



「なかなか狼は美味い(うまい)の」(美々)


「うん、塩胡椒(こしょう)だけでもいけるものね」(小町)



 無論それだけではなく、影包丁や焼き加減など単純な料理であっても小町の技が光っている。おにぎりとフォレストウルフのステーキで食事をすませるとさっそく移動を開始する。



「【料理】のスキル使わないでよかったの?」


「体の感覚が狂うのはどうにも好かん」



 美々からのリクエストで【料理】のスキルは6層のセーフルームで外している。


 どうやら美々は唐突にパラメーターが上昇し身体感覚がわずかでも崩れるのを極端に嫌うよだ。



 メリッサ作のマップに従いアタックバードの屯所(とんしょ)へと向かう。6層も野外マップであり、切り立った崖が行く手を阻んでいる。


 荒廃はしておらず、所々石は転がっているものの一面草に覆われており、木もまばらであるが生えている。



 崖と崖に阻まれた道を進むと、開けた場所が見えてくる。



「あれがアタックバード?」(小町)


「そうじゃな、そういえばあんな姿であった」(美々)

 


 アタックバードはそのまま軍鶏(しゃも)だ、ただし大きさが違う、全力で首を上げれば成人男性の背を(ゆう)に超える。


 空を飛ぶことはないが脚力は健在で素早く近づき、嘴やするどい爪で攻撃をしてくる。



 まだ広場へと至っていないのにけたたましい鳴き声が響きわたる。



「きゃっ! なになに!?」(小町)



 赤く燃えるような羽根や体毛、他の個体よりさらに一回りおおきな体躯のアタックバードが1体が猪も格やというスピードで美々達に向かって猛然と走り寄ってきていた。



 『火喰い鳥』アタックバードのレアモンスターだ。



 だが対する美々もそれをそのまま待つようなことはしない。巨躯を活かして重戦車のように突進してくる火喰い鳥に対して逃げることも動じることも無く、一直線に火喰い鳥に向かって走る。まさかの行動に逆に面食らったのは火喰い鳥の方だ。



 一瞬止まるべきか、そのまま押しつぶすべきか迷いが生じる、その迷いを嘲笑うかのような後ろ回し蹴りが火喰い鳥の顔を横薙ぎに捉えていた。


 だが火喰い鳥も負けてはいない。強制的に横を向かされたまま飛び上がりカウンターとばかりに足に生えた爪を美々に向けて放ってくる。


 しかし、美々は片足の力だけで後方に飛んで躱す。


 躱されたが火喰い鳥だが即座に顔を美々とそれを追ってきた小町に向ける、そのまま口を開けるとその奥には炎が見えた。



「よけろ!」(美々)



 警告を上げ、咄嗟に横跳びに避ける。少し休んだことにより収まっていた右肩と頭痛が再びその鎌首をもたげる、しかし吐き出された炎は躱すことに成功した。


 だが小町は反応しきれない、吐き出された炎の塊を真正面から受けることになった。




 炎がやってくる、料理でつかうのとは違う制御のされてない炎の渦、私の家族の命を奪った炎。


 運命のあの日、夜中目覚めた私は母屋とは離れた場所にあるトイレに行くために布団を開けた。


 もうその時には始まっていたのだろう、トイレから出たときには炎の柱が家を包んでいた。


 何も出来なかった、どんなに叫んでも父も母も廸子(ゆずこ)も、答える家族は居なかった。



 私は遠くから見ることしか出来なかった。消防車が来ても、火が消えても、家からは誰も出てこなかった……私は見ることしか出来なかった………………許せない!



「ああああああ!」



 炎の中から涙を流しながら小町が飛び出してくる、そのまま力づくで鉈を横薙ぎに振るうが当たらない。


 しかし、小町は当たろうが当たるまいがかまわず鉈を振り回す。だがそんな滅茶苦茶な攻撃が火喰い鳥に通じれば苦労はない。



「父さんを! 母さんを! 廸子(ゆずこ)をよくも!」(小町)


(何を言っておる? まぁ良い)(美々)



 嘲笑うかのように小町の振るう鉈を躱すが、それに合わせるかのように回避出来ないタイミングを狙って美々の掌底が入った。


 恐慌状態に陥り無茶苦茶に振るわれるナタだ、本来ならば怖くて近寄れないはずだ。しかし美々はその鉈をきっちり躱したうえで回避先を潰すような位置に攻撃を加えてくる。


 美々の攻撃を躱せば小町の鉈が振り下ろされ、小町の鉈を躱した所には美々の攻撃が突き刺さり、吹き飛ばされる。


 炎を吐くが美々は躱すし、小町は炎を浴びてもその中から攻撃を仕掛けてくる。このままでは、どちらかのスタミナが切れるよりも先に自分が沈む……


 たまらず火喰い鳥は空へと逃げた。



「飛んで逃げられると厄介じゃの」


「降りて来なさい!」


 

 小町がミーノータウロスからのドロップで取得した石ころをぶん投げる。しかし、自在に飛ぶ火喰い鳥には悠々とそれを躱す。


 もう一発を小町は懲りずに投げる、当然これも躱すがそれに合わせたかのように、小町なんかとは比べ物にならない鋭く速い石ころが飛んでくる。

 

 その剛速球は完璧に火喰い鳥を捉えていた。そのまま飛んでいれば当たる場所、しかも一番よけづらく部位として大きい胴体を狙った一発だ。

 

 しかし、火喰い鳥はとっさに炎を吐きバックブーストを掛け強引に速度を落とす、危なかったものの美々の投げた石はその肩先をかすめるだけに留まった。



 だが、次の瞬間火喰い鳥は信じられないものを見る、もう1発石が飛んできていた。


 最初に投げられた3つに比べれば小さいが、最初の石の影になるよう投げられたそれは、頭を目指して一直線に飛んでくる。


 まだ火は吐けない、スピードも落とせない、これ以上落とせば失速する。一瞬でそれらを悟った火喰い鳥は頭を強引に引き上げると同時に羽ばたき、体の体勢を縦にする。


 目は完全に石に集中しその軌道を予測する、石の回転によるずれまで計算して懸命に羽ばたき、首を後ろにずらして頭を退避させる。



 時間にして1秒にも満たぬ攻防、それを制したのは火喰い鳥だった。石は頭上2mmをかすめていった、まさに紙一重だった。だがそれでも勝ちは勝ちだ。

 

 もはや奴(美々)に攻撃できる手段はない。悔しがる姿を見ようと見下ろすが、そこに美々の姿は無かった。


 逃げたのか? そう思考するがその考えをすぐに否定する。あれはそんなことはしない、会って数分にも満たない相手なのにそんな確信はあった。


 戦闘中に相手を見失う、これほどの恐怖は無い。発見が遅れれば遅れるだけ死は近づく。首筋がちりちり痛む、死神の鎌が迫っている。


 大丈夫だ、自分は上空にいる。相手が飛んだところで届かない、そう心に言い聞かせる、それでも痛みは消えない、死神は離れない。



 どこだ?


 どこだ、どこだ?


 どこだ、どこだ、どこにいる!?


 

 その全てを懸けて相手を探す火喰い鳥の耳がわずかな音を捉える、それは本当に小さな音だった。全身全霊を懸けていたからこそ聞こえた音だった。


 

 その方向を見やったときやっと探していた相手を捉えた。探していた相手は、愛しい相手は、恐怖の相手は、死神はすぐ横の壁を走っていた。


 否、飛んでいた、自分へと飛んでいた、捉えた音は壁を蹴った音だった。



 美々の右肩はもう動かせない、頭痛も酷く耳鳴りがする、探索者としての体がBPの最大値を減へらしてそれを緩和するが、まだレベル3の彼女のBPでは全てを費やしてもそれを緩和しきれない。


 一撃もらえば致命傷。それでも美々の顔に恐怖はない。



 瞬間的に首を回して火を吐く。しかし碌に照準すら定めず反射的に放った炎が捉えたのは影だけだった。


 体に重みを感じたときには首を掴まれ、足を絡め羽の自由を奪われる、片方の羽根ではまともに飛べず体が回転するだけだ。



 滞空も滑空も出来ない体は重力に捕らえられ地面に向かって落ちていく。


 もう少し火喰い鳥に力があれば、無理やり振りほどいてその呪縛から抜け出せただろう。


 あるいはクールタイムが終わっていれば地面に向かって悪あがきの炎を吐けていたかもしれない。


 しかし、何も残っていなかった。無い無い尽くしで重力に委ねた体は程なくして地面に激突した。



 火喰い鳥の体をクッションに降り立った美々は即座に掌底を叩き込み、追撃で蹴り飛ばす。衝撃と痛みで起き上げれない火喰い鳥はそれでも一矢報いようと首を上げ、ヒビだらけの口を開ける。


 しかし炎が吐き出される前に美々の遠心力、体重、筋力その全てが乗った(かかと)が真横からその首を吹き飛ばしていた。


 片目を陥没させ、その衝撃で反対の目玉を眼窩から飛び出させた火喰い鳥は、そのまま灰となって消えていった。

 

 残されたのは火の魔石と、宝箱だった。


 中には火喰い鳥と全く同じ赤色の地に金細工で装飾された鞘に納められた刀『紅雀(ぐんじゃく)』が入っていた。低階層では猛威を振るえる火属性を纏った直刀だ。


 刀を取り出した美々が、呆然としている小町に向き直る。



「あれは倒したぞ」


「ふーん」


「あまり興味なさそうじゃの」


「ちょっと昔のことを思い出していてね。それより体は大丈夫?」


「この程度大したことは無い」



 実際の所は割と厳しい、LPは6点消費し残り5、BPはすでに枯渇している。頭も酷く痛む。



「そういうお主もぼろぼろじゃの」


「うん、まぁ大丈夫」



 小町もまた無事ではない、BPを抜けLPを削り体のそこいらに火傷を負っていた。服も焼け焦げている。



「まぁ肉を取るくらいであれば問題はないの、こいつはいるか?」

 

「刀? うーん、私としてはこっちの鉈の方が好きね」


「斧よりかさばるものではなし、持って帰ってから考えるか」


 

 手を使わず蹴りだけで2匹アタックバードを仕留めると、さっそく小町が解体していく、血抜きし、内蔵を取り出し、羽根を毟っていく。



「本当はお湯につけてから毟った方がいいんだけどねー、【解体】スキルはいいわね、死体は消えないし、羽根を毟るのがなんか楽なのよねー」(小町)


「……」



 答えることなく美々は寝転がり煙管をふかしている、小町も答えを求めることなく無心で毛を毟っている。数時間かけ2匹の処理が終わった。



「帰りどうするー?」


「階層エレベーターを使いたいところじゃが、セーフルームの人数次第じゃ」



 きっちり結わいてリュックサックの上に積み上げるとよっこらせと背負い上げ、目標を遂げた2人は来た道を戻る。



「うーむ、人が多いの」(美々)


「普通に帰る?、あの岩山また登れるかなぁ」(小町)


「いや、5層の終わりに最初まで戻る転移柱があったであろう」


「あー」



 6層のセーフルームで休むことなく5層へと移動する。しかしそんな彼女達の姿は奇異であった。



 中学生にしか見えないような背丈の子供が2人、片方が煙管をふかし刀のようなものを雑に持っている。


 片方は服や髪が焦げており、リュックの上には鶏肉が2つも詰みあがっている。



 その姿からは何があったのか、どういう関係なのか、それを予想できる人は誰一人いなかった。


 4層でフォレストウルフに絡まれることもなく転移柱まで辿り着き3層へ。



「なんか3層の洞窟で懐かしさを感じるなんてねー」


「……タバコが……切れたじゃと……」


「……」



 その時美々はどんな状況よりも絶望的な表情をしていたという。


 美々をなだめつつ1層に戻ったとき、そろそろ生放送が終わろうかというときだった。

 ストック 38/44


 お読みいただきありがとうございます。拙い文章ですが次話も楽しみにして頂ければ幸いです。よろしければ、ブックマーク、評価、感想なんかもお願いします。

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