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DRD ~転生者が多すぎた~  作者: ふすま
第1章:転生者が多すぎる
32/102

第032話:帰り道

 もう主人公達の備忘はいいか。

 愛宮由美(まなみやゆみ):双子の長女。白雪の同類 レベル:3

 愛宮沙耶(まなみやさや):双子の次女。白雪の同類 レベル:3

 日陰忍(ひかげしのぶ):ヒロインの1人、目隠れ美少女、千鶴と同室

 水無瀬伊織(みなせいおり):元小麦肌少女。モブキャラ、小町の同室


 ■宮古イベント(出会い):


 シナリオモードでは1~5層のいずれかで、主人公のパーティより人数が多いモンスターを相手に戦うと一度だけ助太刀をしてくれる。


 これ以降、学園でイベントが発生するようになる。


 基本学園での授業はスキップされ15時まで飛ばされるが、イベントがあると教室や食堂等にシーンに移る。嵐山襲来もこのイベントの一つだ。


 宮古は食堂で見かけるシーンから始まり、ここで「話しかける」を選択するとイベントが進行する。


 最初は塩対応だが何度か話しかけるとだんだんと対応が柔らかくなっていく。一定以上の好感度になると逆に話しかけられるようになる。

「なるほどね~やっぱりネズミは入る空きはないか~」(白雪)



 ダンジョンから帰りながら五十嵐達の話を聞く。



「それでゴブリンソルジャーは無謀じゃね?」(黒田)


「う、面目ない」(五十嵐)

 

「なんでまたソルジャーに挑むことに? ゴブリンだけじゃだめなん?」(皆川)


「いや、行けるかな? って」(五十嵐)


「止めなかったのかい?」(白雪)


「う”っ……止はしたんだが、その村田達もやれたからって」(柳)


 

「私としてはレベル5になって全員称号を得てからの方がいいと思うよ」(白雪)


「いや、俺らもレベル3だろ?」(黒田)


「やれやれ、黒田君、そんなことを言っていたら何も言えなくなってしまうよ。言うべきことは言う! 自分を棚上げしても! 間違っていても!」(白雪)


「……加藤が普段どんな苦労しているかよくわかった」(黒田)


「花籠さん達はなにしてたの?」(五十嵐)


「普通に3層で経験値稼ぎだけど」(白雪)



「うん、6時間際で換金所が閉まる前に帰ろうってときに悲鳴が聞こえたみたいでさ」(長谷川)


「そうだったのか……ありがとう……って、君達こそ危なかったんじゃないか?」(五十嵐)


「何を言っているんだい? 私達はレベル3といったじゃないか」(白雪)


「その口からレベル5になってからという言葉が出たんだが」(柳)


「だいたいどうやってゴブリンをって……? ってそういえばソルジャー達を倒していたっけ」(五十嵐)


「まあ、駆けつけられたのは須藤君が気付いたからだからね、礼は須藤君に言ってやってくれたまえ」(白雪)


「わかった」(五十嵐)



 ダンジョンを抜けて探索者センターの中庭に戻って来ると五十嵐も柳も安堵の息を吐いた。数時間しか潜っていなかったのに随分と懐かしく感じる。


 ダンジョン周りは探索者で溢れていた、時間的にこれからダンジョンに入る人は少なく大半は帰宅組だ。


 中庭には照明が取り付けられ照らされている、見上げれば吹き抜けから見える空は既に夜の帳を下し始めていた。


 照明の光に照らされたのか五十嵐の背中で織姫が身じろぎする。



「……ううん、ここは?……えっ!? 優君?」(織姫)


「気が付いた?」(五十嵐)


「ゴブリンは!? (みんな)は? ひぃっ!」(織姫)



 ゴブリンに痛めつけられて起きたときに目に飛び込んできたのがガスマスクの集団だったらそれは驚くだろう。



「大丈夫、花籠さん達だよ、あのあと花籠さん達に助けてもらったんだ、風音も気絶しているけど命に別状はないよ。その……俺のせいでごめんな」(五十嵐)


「そっか……」(織姫)


「歩けるか?」(五十嵐)


「あ、うん。ごめん、重かったよね?」(織姫)


「あ、いやそういうわけじゃなくて」(五十嵐)


「いかんね五十嵐君、君のせいなのだから最後まで責任を負わねば、本来なら風音ちゃんも運ぶべきなのだよ。浩平だったら私ら全員を背負わせている所だよ」(白雪)


「僕は嫌だな」(皆川)


「乗る方も乗られる方も幸せにならないな、それは」(長谷川)


「そうだね、寮迄運んで行くよ」(五十嵐)


「う、うん。まだ体痛いからお願い」(織姫)


(これが、リアル当ててるのよかぁ)(白雪)


(温かそうだな……さすがに口にだしたら変態だが)(黒田)



 その後すぐに風音も目を覚ます。



国住(くにすみ)! 国住は!?」(風音)


「国住?」(五十嵐)


「これの事かい?」(白雪)



 ボロボロになった刀を見せる、いたるところに刃こぼれが見え、素人目にもわかる程曲がっている。



「…………」(風音)



 その変わり果てた姿を目に入れたとたん再び、口許(くちもと)が歪む。降りようとしているのを察したのか柳が自由にするとすぐに白雪が持つ刀に駆け寄る。



「……兄さん」(風音)


(……あれ、このイベントってもっと遅くなかったか?)(黒田)



 前提としてパーティメンバーの武器はプレイヤーが自由に指定することが出来る。しかし、一部のキャラクターは固定武装となっており風音はその1人だ。


 黒田が予測したイベントは風音の好感度に依存するが、本来なら1年生の中盤頃に発生するもので、無理が祟り風音の刀が修復不能(・・・・)レベルで壊れてしまう。


 風音はそれを自分が未熟だからと思い塞ぎ込んでしまいパーティからの強制離脱及び、パーティ加入が一時的に出来なくなってしまう。


 刀の残骸から刀匠を探し出し(何故か近くに住んでいる)、お使いイベントをこなして再び刀を製作してもらうとイベントクリアとなり好感度上昇と共に再加入が可能となる。


 刀が新しく出来ることで風音も表向きは(・・・・)元に戻る。この鍛冶師とはメインストーリー中でも関わることになるが、風音イベントを先にこなしていると最初のお使いイベントをスキップすることが出来る。



「なぁ、その刀ちょっと見せて……」(黒田)



 そこまで言いかけたところで、風音に睨まれた、まるで我が子を護る母親のような形相で。



(さすがに無理かぁ、まぁそうだよな)(黒田)



 探索者センターに着くと加藤達が待っていた。



「「「ただいま~」」」


「お帰りなさい。織姫さんは大丈夫ですか?」(千鶴)


「うん、体はまだ痛いけど大丈夫だよ」(織姫)


「やっぱり襲われてたんだ」(加藤)


「おう、とりあえず全員無事だぜ」(黒田)



「ゴブリンとの戦闘中なんかあったのか? 須藤さんがすごい勢いで走っていったんだが」(加藤)


「さ~? 生徒会長と会ったら走っていった」(白雪)


「へ? 生徒会長? なんで?」(加藤)


「さ~? ミーナちゃんと七森君は?」(白雪)


「腕が痛いから先に帰るってさ」(加藤)


「それで、換金は間に合ったか?」(黒田)


「ええ、魔石137個、1つ300円で売れたので、1人頭3161円になりました」(千鶴)


「おおおお……いや、おもったより少ないか」(黒田)


「うんじゃお金渡すよ」(加藤)



「愛宮さん達は魔石でのご所望でしたので、予め引かせて頂いてあります」(千鶴)


「今の次期は」(由美)


「とても安い」(沙耶)



 4月のこの時期はどうしても魔石を売る人が増えるため基本的に買いたたかれてしまう。とはいっても高くても500円程度が上限となる。



「背に腹は代えられないのは痛いね」(白雪)


「とりあえず帰ろうか、お腹も減ったし」(加藤)



 昨日とは打って変わって夕方のダンジョン街は騒がしかった、銭湯や飯処、弁当屋は大混雑状態だ。



「やっぱり発電にでも使えないと安いのかなぁ」(長谷川)


「そろそろそれ外したらどうです?」(千鶴)



 と顔を指す千鶴の問いに、忘れてたとばかりに白雪以外がガスマスクを外していく。



「前も言ったけど敢えて言おうナンセンスであると! そもそも日本の年間使用電力がどれくらいか知っているかね?」(白雪)


「知らない」(長谷川)


「覚えて無い」(加藤)


「そういえばどれくらいでしたっけ? かなり多かったのは覚えているのですが」(千鶴)


「日本の年間消費電力は1000!」(白雪)


「キロワット?」(皆川)


「そんなわけないでしょう」(千鶴)


「じゃぁ『ギガ』か」(加藤)


「単位が足りないよ、『テラ』ワットだ」(白雪)


「『テラ』ってどれくらいっすか」(陽子)


「『ギガ』の1000倍だよ、1テラのハードディスクとか使っていなかったかい?」(白雪)


「言われて見れば!」(陽子)


「1テラワットか~さすがに桁が違うな」(加藤)


「なにを言ってるんだい? 千・テラ・ワット・だよ。文字通り桁が違う」(白雪)


「マジか……」(加藤)


「いいかい、魔石が火力発電に使えたとしよう、しかも一番効率がいい天然ガス(LG)だ。天然ガスだと年間100万キロワットの電力を生み出すのに必要な量は95万トンかかる。しかし、日本の年間消費電力は1000テラワットだ」(白雪)


「あ~どれくらいだ?」(黒田)


「『テラ』が『ギガ』の千倍で、『ギガ』が『メガ』の千倍で、『メガ』が『キロ』の千倍っす」(陽子)


「つまりどれくらい?」(加藤)


「単位一つにゼロ3個(みっつ)だから『キロ』、『メガ』、『ギガ』、『テラ』でゼロが12個だね、1000テラだから最終的にゼロが15個」(長谷川)


「100万キロだと、『キロ』でゼロが三つ、万で7つ、100で9個か」(加藤)


「ゼロの差が6個だから……100万倍ってことっす」(陽子)


「つまり天然ガス換算年間95億トンかかるのだよ。1日あたり0.26億トン、2600万トン必要になる、魔石1個10グラムとしたら何個必要になるかね?」(白雪)


「いっぱい」(由美)


「たくさん」(沙耶)


「膨大」(皆川)


「めにーめにー」(メリッサ)


「260万個?」(五十嵐)


「いや単位は『トン』だ、さっきのたとえなら260万の後にゼロが6個つく」(柳)



「つまり2兆6000億個だよ、日本の電力を賄おうとしたら1日2兆6000億個もの魔石を稼がないといけない」(白雪)


「もし探索者1000万人いたとしても、1日26万個(・・)は稼がないといけないわけだ。あらやだ放送禁止用語を言わせるだなんて」(白雪)



「なんで言わなければ誰も気づかないことわざわざ言うのかな?」(加藤)


「1日26万個、君は稼げるかい?」(白雪)


「そこまでモンスターいないよきっと」(皆川)


「1パーセントでも2600個かぁ、うへぇ」(長谷川)


「実際に探索者は1000万人もいないからもっと増えるよ」(柳)

 


「濃縮ウランなら21トンで100万キロワットだせるから、1日約575個で日本の電力を賄えるよ。1パーセントなら6個だ!」(白雪)


「おお、それなら!」(長谷川)


「まぁ濃縮ウランを作るのにウラン鉱石が5,6個いるから3000個が目安だね」(白雪)


「現実は厳しい!」(長谷川)



「魔石ってどれくらいでるんだっけ?」(加藤)


「ゴブリンだと3匹に1個くらいっす」(陽子)


「つまり1万匹のゴブリンで日本は救われる!」(長谷川)


「1万匹のゴブリンの上に俺達の生活は成り立っている!」(皆川)



「まぁ問題は価格面だね、天然ガスは安くて1トン当たり9万2千円、グラム換算0.092円だ」(白雪)


「魔石をさっきと同じ10グラムとすると魔石1個の価値は0.92円にしかならないのだよ。そんなもんを1個300円で買うなんてしてたら破産まったなしだね」(白雪)



「全然成り立たなかった!」(皆川)

 

「さらにさらにウラン鉱石は0.1%含有の鉱石で1トン5000円、基本ウラン鉱石に0.7%含まれているので、同じとすると1トン3万5千円、つまり魔石1個0.35円だ、すごいね、天然ガスの三分の一だよ」(白雪)



「だめじゃん、1日1000円で生活するとしてもえーっと」(長谷川)


「約2857個ですね」(千鶴)


「生活できないな」(加藤)


 

「言っておくけど魔石だけの価値だからね、燃料として使えるようにする加工費、発電所の維持費、人件費、土地代エトセトラが差っ引かれる」(白雪)


「だから初日に言ったじゃないか、核燃料の数千倍は効率が要ると」(白雪)



「現実は厳しい」(長谷川)


「そっか、安いって文句いってごめんな」(黒田)


「うむ、探索者センターは充分頑張ってくれている」(加藤)



「何を話しているんだか……」(柳)


「花籠さんは頭がいいんだか、悪いんだかわからないな」(五十嵐)


「たちが悪いんだよ」(加藤)


「なるほど……」(五十嵐)


 

 五十嵐が苦笑すると、織姫も笑っていた。話しているうちに少しはショックが抜けたようだ。風音はあいかわらず俯き表情は見えない。

 

 寮に帰ると小町屋(学食)は既に開業していた。今日は牛丼(200円)のようだ。



「お帰り」(小町)


「「「ただいま~」」」


「かあちゃーん。一本つけてくれや」(白雪)


「なにをだよ」(加藤)


「あれ、なんかアルコールの匂いしねぇ?」(黒田)


「それは、私が飲んでるからにゃ~」(ミーナ)



 見るとミーナの周りにはビール缶が6本あった。



「あっ、ずり~、俺も買ってくるか」(黒田)


「おいっ、未成年だぞ!」(五十嵐)


「知ってるかにゃ~? レベルが上がる程酔えなくなるらしいにゃん」(ミーナ)


「なにぃ! これは買ってくるしかねぇ!」(加藤)


「よしっ行くか!」(黒田)


「僕も!」(長谷川)


「ミートゥー!」(メリッサ)


「おいっ!」(五十嵐)



「僕はいいや飲めないし」(皆川)


「未成年の会話とは思えんな……」(柳)

 

「お姉様は?」(楓)


「さっき食べてったよ。今はどこかで一服してるんじゃない?」(小町)



 その後、ビールを買ってきた加藤がウキウキで座ろうとしてケツの痛みに飛び上がったりしつつ夕食が終わった。



「うんで話は変わるけど君達はどういったロールでやってくつもり?」(白雪)


「ロールって?」(五十嵐)


「役割のことだな、パーティ内での役割という意味だろう」(柳)

 

「そうそう、称号はロールに合わせて五十嵐が命令するつもりなの?」(加藤)


「いやいやいや、そんなことは出来ないよ!」(五十嵐)

 


「まー私も浩平に命令されても自由に選ぶけど」(白雪)


「だろうな、そもそも命令するつもりもないけど」(加藤)



「そうすると構成に合わせて戦術を考える必要があるんじゃない? ゲームでもジョブ縛りとかあるしね」(長谷川)


「ゲーム? ジョブ?」(五十嵐)

 

「じゃぁゲームに詳しそうな長谷川君、役割分担のイロハを教えてあげたまへ!」(白雪)


「えっ! 僕!?、そうゆうのもっと詳しそうな七森君とかは?」(長谷川)


「……!?……!」(七森)

 


 七森は首を激しく横に振っている。

 


「酷いにゃ! 健兄いに知らない人と話せだにゃんて」(ミーナ)


「一応クラスメートなんすけどね……」(陽子)

 

「えー……、えーと、こほん、例えば、剣だけ持ってる人4人だったらどうやって戦う?」(長谷川)


「え? それはもう全員で攻撃するしかないんじゃないか?」(五十嵐)

 

「そうだね、でもそれって結局消耗戦になっちゃうよね、みんなが均等に殴られるようにできればいいけど、1人に集中しちゃうとその人は下手すると倒しきる前に死んじゃうでしょ」


「もし構成をいじれるんだったら1人に盾を持たせて前に立たせて、1人を回復役にすれば安定しない?」(長谷川)


「まぁ、そうだね」(五十嵐)



「でも構成をいじれないんだったら、闘い方を変えるしかないよね、例えばさっきの構成なら敵から狙われてる人は攻撃を諦めて躱すことだけ考える」(長谷川)


「他の人は攻撃に集中する、狙わてる人が変わったら役割を変える。こうすれば消耗を押さえられると思わない?」(長谷川)


「なるほど……」(五十嵐)



「「「おおおーーー」」」


「長谷やんまじめな話もできたんだな」(皆川)


「酷いことを言う。僕はいつも真面目だと言うのに」(長谷川)


「はいはい」(皆川)

 

「私はいつも不真面目だよ」(白雪)

 


 ふんぞり返りながらガスマスク(白雪)が言う。


 

「はりあうな、しかもよけい酷い」(加藤)



…………………………



 夕食や風呂も終わり白雪の部屋はいつものゲーム部屋へと代わっていた、人数も増えているようでさすがに少し手狭に感じる。


 普段なごやかな雰囲気の中、しかしそこでかしこまっている影が2つ。

 


「「千鶴さん!」」(愛宮姉妹)


「はい?」(千鶴)


「「私達の師匠になってください!」」(愛宮姉妹)


「ええぇ!? えっと、なんで?」(千鶴)



「ゴブリンとの戦闘」(由美)


「ウサギへの一撃」(沙耶)


「「見事でした!」」(愛宮姉妹)


「あの、白雪さん」(千鶴)


「うん~? はい、どろつー」(白雪)


「えっとどうしたら?」(千鶴)



「自分で決めていいよ~。私らの活動時間まで練習に割けって言うなら物申すけど、違うんでしょ~?」(白雪)

 

「もちの」(由美)


「ろん」(沙耶)


「朝の時間とかそんなのでいいので」(由美)


「なにとぞ~」(沙耶)



「え~…それじゃぁ6時から1時間だけ…でも大したことは教えられないわよ。あと師匠呼びはやめてね」(千鶴)


「「やった~~~ありがと~~~神よ」」(愛宮姉妹)


「神もやめて」(千鶴)

 


 そっと千鶴そでを引く手。


 

「うん?」(千鶴)


「あ…あの……私も…」((しのぶ)


(しのぶ)は槍使えるの? 結構重いわよ」(千鶴)


「うぅ」((しのぶ)


「短剣なら須藤君とかなら教えてくれそうだけど」(千鶴)


「い、いえ、いいです」((しのぶ)



「楓や」(美々)


「はい、何でしょうお姉さま」(楓)


「ゴブリンは【2段ジャンプ】のスキルを落とさなかったかのう?」(美々)


「【2段ジャンプ】ですか? う~ん、すみません。そういったことは疎くて」(楓)

 

「【壁走り】しかおとさないよ」(白雪)


「むぅ、わしの記憶違いであったか。【2段ジャンプ】を落とす敵はなにか知っておるか?」(美々)



「6層のアタックバードっすね」(陽子)

 

「アタックバードか」(美々)


「そそ、でっかい鶏」(白雪)


「鶏! からあげ! そしてドロツーリバース!」(小町)


「あーー!」(モブ女)

 


「今のままでは連れてゆけぬぞ」(美々)


「えーなんでー」(小町)


「ボス層を挟むからのう。わしだけならともかく、お主では攻撃通るまい」(美々)

 

「?? どういうこと? 危険ってこと?」(小町)


「楓、まかせた」(美々)


 「ボスに最低でも5%のダメージ与えないと次の層にいけないんですよ、多分今のままでは相手に攻撃が通らないのではと危惧しておられるのでしょう」(楓)

 

「えーそうなの?」(伊織)


「そうだよ。えーっとね、ほらこれ」(白雪)

 


 白雪が見せた記事には、とあるダンジョン研究者が高レベルの探索者を雇って6層まで行こうとしたが、ボス層から先に進めなかった話。


 パーティ同士で協力して24人で挑んだが、16人しか次の層へ行けなった話なんかが載っていた。



「へ~そんなことやった人いるんだ」(モブ女2)


「つまり楽しても先には行かせしまへんってことだね。ドロツー」(白雪)


「なんやけったいな話でんなー、ドロツー」(由美)


「けったいどすなー……お姉ちゃん酷い」(沙耶)


 

「というか道順知ってる?」(白雪)


「……むう」(美々)

 

「よし、じゃぁこうしよう、ちょっとお願い事あるから、明日皆で話し合う場にいっしょに来てくれない? そん時までに調べとくよ」(白雪)


「ま、よかろう」(美々)


 

…………………………



 風音がダンジョン学園を受験するまでには少し複雑な経緯がある。まず風音には2つ離れた兄がいた。


 本来なら彼が国住を受け継ぎダンジョン学園に入学するはずだった、しかしそれを前に彼は死亡することになる。他ならぬ風音自身の手によって。



 風音の両親が家を空けているときに盗人が入った。


 狙いは三島家の家宝である駿河國(するがのくに)百留(ひゃくどめ)蓮華(れんげ)道明(どうみょう)国住(くにすみ)だ、犯人は道場の門下生の沼田という男だった。


 兄と共に沼田と対峙することになったが、いかに道場主の子供とはいえ、沼田は成人している。まともに戦ってどうにか出来る相手ではない。



「風音、国住を持って逃げるんだ」(兄)


「そいつを寄こせ!」(沼田)


「きゃぁぁぁ」(風音)



 風音が覚えているのは押しつぶさんばかりの勢いで迫る沼田の姿だけだ。



「まて! 殺しちゃだめだ!」(兄)



 胸騒ぎがした父が駆けつけたときには遅かった、国住を手に呆然と立ち尽くす風音、2つ血だまりに倒れ伏す兄と沼田。



 風音が目覚めたとき彼女は別人のように変わっていた、兄が乗り移ったかのごとく今まで消極的だった稽古にも積極的に加わるようになった。


 しかし、事件のことは完全に記憶から抹消されており、何があったか思い出すことはなかった。



 沼田が国住を盗みに入ることを、彼との交流があった人物から明らかにされ(当人は手伝いに誘われたが断った)、事件の全容が明らかになった。


 風音自身は心身喪失が認められ、また辛い記憶を思い出させたくないという両親の意向により道場は老朽化が見つかったため立て直しのためという名目で封鎖された。


 しかし、国住が(ダンジョン)鉄鋼を使った第二種宝具であることが警察に知られることとなり、風音に探索者になることが求められることとなった。



…………………………



 明けて金曜日、通常通りであればオリエンテーションの日だが予定がないため休みとなっている。


 早朝、風音がいつものように寮の前に行くと、こちらもいつものように須藤と美々が柔軟体操をしていた。



「須藤君……」(風音)


「おや、三島殿、おはようございます」(須藤)


「あ、ああ、おはよう、その腕は大丈夫なのか?」


「はい。いや、探索者は凄いですね、あんなにざっくりいかれたのに起きた時にはすっかり元通りになっていました」


 

「すまないが、私と1試合お願いできないだろうか?」


「何故でしょう?」


「自分の未熟を晒すようで恥ずかしいのだが、私は狂犬のように心身喪失状態で敵味方区別することなく攻撃してしまうことがある」


「なるほど、いわば恐慌状態に陥いることがあると」


「ああ」



「わかりました、お役に立てるかわかりませんが、お付き合いしましょう」


「ありがとう!」



 風音と須藤が向き合って構える。美々は興味がないのか柔軟体操を続けている。



「いきます」(須藤)


「ああ」(風音)



 須藤から威圧的な気迫を感じるが、のどかな朝の雰囲気からだろうか? それとも須藤自身の紳士的振る舞いからなのかあまり恐怖は感じない。


 その後攻撃を受けてみたが、それでもソルジャーのような恐怖を感じることはなかった。



「お役に立てずすみません」(須藤)


「いや、ありがとうございました」(風音)


(だめだ、須藤君が真面目にやってくれているのはわかる。自身もゴブリン戦を重ねあわせてみたが恐怖を感じなかった……こんなのではだめだ、このままではまた優達に迷惑を掛けてしまう。迷惑では済まないかもしれない)



 脳裏に浮かぶのは兄の最後の姿。それを五十嵐、柳、織姫に重ねて見てしまう。


 このままではそれは決してありえない光景ではなくなってしまう。最早手段を選ぶことは出来ない。



「……その、遠藤さん」(風音)


「ちっ、どいつもこいつも、まぁよい。一応言うておく、寸止めなど期待せぬことじゃ」(美々)


「わかっている、私には残された手段は残っていないのだ」



 この流れで声を掛けられれば、何を望まれるかわからない人間はいないだろう。

 

 風音は木刀を両手でしっかりと持ち、礼をし正眼に構える。対して美々は両手を下げたままただ佇んでいる礼もない。



 ある意味ふざけているとも取れないが対峙する風音も、また脇に立ち見届人を務める須藤も何も言えない。


 少し離れた電線にいた雀すら逃げることも忘れてひたすら存在を消すことを選んでいた



 美々から放たれる圧倒的な殺気、それが圧となり風音の心を押し潰していた。横にいるだけの須藤ですら冷や汗が止まらない。


 本人に向けられたわけでもない須藤であってもこれなのだ、まともに殺気を向けられた風音の方はもっと酷かった。



(…………)(風音)


 

 ゴブリンソルジャーの圧はまるで叩きつけるような圧であったが、美々の放つ殺気は纏わりつくように風音を囲い締め付けてくる、逃げることも動くことすら出来ない圧倒的な恐怖。


 自分が今どんな状態かもわからない、立っているのか、倒れているのか、目は開いているのに何も見えない、息をしているのかもあやうい。



(あぁ、そうか圧倒的恐怖は破れかぶれになることすら許されないのか)(風音)



 終わりを告げるのは一瞬だった。なにかがお腹にさわった、最初に感じた感覚はそれだった。その後に感じたのは全身が揺さぶられるような感覚。


 体が痛みを感じることを拒絶した。気が付いたときには談話室の椅子を繋げてつくった簡易ベッドの上だった。今更に痛みが襲ってくる。



「くっ」(風音)


 

 痛む体を起き上がらせると須藤が近づいてくる。


 

「大丈夫ですか?」(須藤)


「あ、ああ」(風音)


 

 本来BPが残っていれば痛みはすぐ引く、しかしこの美々の一撃はBPを軽く吹き飛ばしLPにまで至っていた。


 内蔵にダメージを負わず痛みだけで済んでいるのは美々の加減によるものだった。



「遠藤さんは?」(風音)


「私に介抱を頼んだあと普通にマラソンに行かれました」(須藤)


「そうか……すまんな。昨日に引き続いて迷惑を掛けてしまった」(風音)


「いえ、ご無事でなによりです」(須藤)



「…えっと、それでは自分はもう行きますね」


「ああ、ありがとう」


「いえ」


 

 須藤が去ったあと時間を見る、6時丁度、どうやらそれ程気を失ったわけではなさそうだ。体の痛みは続くが変わりに頭はずいぶんすっきりしていた。


 結局根本的な解決には至っていない、しかしソルジャーをも超える圧倒的な恐怖を感じた今、ソルジャーに恐怖を感じ恐慌状態に至ることはないだろう。



(問題は国住をどうするかだ……今から百留さんに連絡を取ってもすぐに直してくれるなんてないだろう)


(受けてくれるかもわからない。百留さんとは会ったことはないが、素人でもどう使ったかわかる状態だ、自分の子をあそこまでされて助けてくれるだろうか?)

 ■風音のダンジョン学園入学:


 ちなみに風音が落第した場合、国住は没収となります。ゲームで登場する以上落第はありえないが。



 ■駿河國(するがのくに)百留(ひゃくどめ)蓮華(れんげ)道明(どうみょう)国住(くにすみ)


 昭和52年8月9日作 現代刀 第二種宝具 2尺8寸 通常の刀よりも少し長く野太刀に比べると短い。



 ■第二種宝具:


 ダンジョンから産出する装備は例えただのナイフであれ全て宝具となる。第一種宝具は直接ダンジョンから産出したもの、第二種宝具はダンジョンから産出した鉄鉱石等から製造されたもの。


 同じ木製の棍棒でもダンジョンの木を切り出して作成された棍棒は第二種宝具となり、ダンジョンの宝箱から出た木製の棍棒は第一種宝具となる。

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