第010話:パラメーター
五十嵐優:ゲーム中の主人公。仲間思い。
平岡昭義:F組担任
■スライム: 推定レベル:1 危険度:D 属性:水
ダンジョンの1層に出てくるモンスター。重力に負けておらず、少し潰れた球体の形を保っている。知能が無いのか近くに探索者が居ても襲ってくる気配がない。
打撃に耐性があるのか、叩いても撥ねるのみである。倒しても水の魔石しか落とさず、あまり積極的に狩られることのないモンスター。
全員ダンジョンカードの取得が終わったのか平岡先生もロビーに戻っており、生徒と雑談しながら他の生徒が登録から帰ってくるのを待っていた。
加藤達もそのまま皆と話していると平岡先生から点呼がかかる。
「さて、まずダンジョンカードの取得おめでとう。君達は晴れて正式な探索者となった」(平岡)
「「「ありがとうございます」」」
何人かから返礼が返ってくる。
軽く頷いた先生が続ける。
「まず手に入れたダンジョンカードについて話しておこう」(平岡)
平岡先生が自分のダンジョンカードを取り出す。探索者カードにセットされていない剝き出しのものだ。
「当たり前のことだがダンジョンカードは、ダンジョンという別世界の知識で作られた物で我々で管理することは出来ない」(平岡)
「色々と研究はしてはいるようだが残念ながら成果は上がっていない。まずこれを見てほしい」
ダンジョンカードに注目させてから先生は自らのカード握り潰す。生徒達が驚く中、割れたダンジョンカードの破片が床へと散らばっていく。
簡単に割れるだけでも驚きだが、さらに驚く事象が発生する。先生が手を開いた瞬間、ダンジョンカードの破片がまるで逆再生のように戻りだしたのだ。
粉々だったダンジョンカードはたった数秒で完全に元通りになった。
「このようにダンジョンカードは破壊されても元に戻るようになっている。探索者カードが壊れてもダンジョンカードは持ち帰るようにな」(平岡)
「探索者カードも探索者センターに申告すれば代えを用意してくれるはずだ。何度も壊しすぎるとさすがにお金を要求されるけどな」
「探索者カードに入っているお金についても安心してほしい。お金は探索者センターで管理しているから指紋認証すれば自動的に返ってくる」(平岡)
「では、パラメーターの説明をするから探索者カードを開いてくれ。さっき見てたと思うが横に開閉スイッチがあるはずだ」
「まず一番上、自分の名前はいいな。次の項目、『レベル』だが強さの水準となっている。同レベルの探索者は大体同じ強さだと思ってくれ」
「あの、自分のレベルが最初から2なのですが」(須藤)
「わしもじゃ」(美々)
「すごいな……須藤はその体を見れば納得だが、遠藤もとはな。さっきも言った通りレベルは強さの水準だ」
「身体能力がその水準に達していれば最初からレベル2ということもありうる。高校生では珍しいが初めてというわけではない」
「レベル2はそれほど苦も無く上がるからスポーツや軍隊経験者なんかは結構いるらしい。さすがに最初からレベル3という人は聞いたことがないがな」
「レベルの次の項目がHPだ、そのままMP、EMPと英語の項目が続く」
「その下は日本語なのになぜこれら3つが英語なのかは……はっきり言って謎だ」
「さて、HPだが……」
DRDにおけるHPは少しややこしい、まず[LP]ライフポイントと[BP]バッファポイントの2つの項目がある。
基本的にダメージを受けるとBPが減少し、BPが無くなるとLPが減少する。LPにダメージが入ると満足に動ごかせなくなるばかりか、酷い時には欠損する。
[MP]マジックポイントはいうまでもない。スキルを使うときにはMPを消費する。MPが無ければスキルは使えない。
[EMP]イクイップメントマジックポイント、装備MPと呼ばれるものだ。
テスターが指という指、腕という腕に装備を付けてボスをワンパンチキルしたため装備にEMPを設け、自信のEMPを超えて装備を増やせないようにした。犯人は陽子。
なお、この世界ではHPはHealth Pointと解釈されている。
LPはなんとなくだがライフかライブだと思われているが、BPについてはこれといった解釈がない、バリアポイントが今の所最有力候補となっている。
「自分のHPがどれくらい残っているか意識を向けてみてくれ」(平岡)
「うおっ、なんかわかる」
「うわっ、なにこれ気持ち悪い」
加藤のダンジョンカードのHPは15/305と表示されていて、意識を向けると脳裏に305(BP)が浮かんでくる、非常に不思議な感覚だ。
平岡先生が神妙な顔つきで話をする。
「LPが0になると探索者は死ぬ。しかし一般的な死亡と異なり一度は衰弱と呼ばれる状態になり、身体能力は著しく落ちる代わりに生きながらえることができる」
「だが、このロスト状態のときに死亡すると本当の死に繋がる」
「探索者の死は惨めなものだ、モンスターと同じように灰になって消える。そこには遺体すら残らない、残るのはダンジョンカードだけだ……」
衰弱状態はDRDには無かった。ゲームで死亡したときは自室まで戻される仕様だった。
「皆もダンジョンに入るときは必ずパーティを組むように、そして、もしも仲間がロスト状態になっても見捨てずに必ず連れて帰ってほしい」
(……でないと俺のように一生苦しむことになる)(平岡)
「では身体パラメーターの説明に入る」
DRDにおける身体パラメーターも他のRPGと毛色が異なる。筋力、腱力、体幹、持久力、骨力、感覚、抵抗値と、かなり細分化して設定されている。
ある程度のパラメーターは名前から想像がつくが、それだけでは解らないものも多い。
『感覚』は「罠」の位置が解るようになる。罠には隠蔽値がありそれと感覚を比較して感覚が高いと罠の位置が解る。
「感覚値が上がるとどうなるかは不明だ。一部の人からは相手の位置が解るようになるなんて話もあるが……目に見えて解る効果があったという声は聞かないな」(平岡)
『抵抗値』もまたゲーム故のパラメーターだ、こちらは毒に対する抵抗力を示す。また皮が強くなるようで出血が多少抑えられる。
「以上が身体パラメーターと呼ばれる項目だ。次は『魔術補正』だ、魔術スキルに関する何かだと思われているが詳細は不明のままだ」(平岡)
DRDには一般のRPG同様レベルが存在するが、一般のRPGのように経験値が一定値貯まるとレベルが上がりパラメーターが上昇するのではない。
逆だ。パラメーターが徐々に上昇しその合計値によってレベルが決まる。
だがパラメーターの合計値であるため、白雪のような見るからに虚弱体質はいつまでもレベルが上がらなくなってしまう。
そこで出てくるのが『魔術補正値』だ、この値はどんなにモンスターを倒しても一定で、身体パラメーターの合計値にこの魔術補正値を掛けたものでレベルが決まる。
そのため魔術補正値が1以下になることはない。
「最後が『成長値』だ、非常に重要視される値で、例えば成長値100の人と50の人が全く同じモンスターを倒した場合、成長値50の人は100の人に比べて、2倍倒さないとパラメーターが同じ程度成長しないことが解っている」(平岡)
「成長率が違えばパーティを組むのも大変だろう。1人だけどんどんレベルが高くなる、もしくは置いていかれることになるからだ」
「近年の研究、というよりこれまでの集計でわかったことだが『成長値』には親の頑張りが大きい」
「夜の?」(白雪)
一瞬クラスに沈黙が落ちる。数秒後先生がわざとらしく咳払いをして続ける。
「親が深い階層のモンスターを多く倒す程、つまり親のレベルが高い程『成長値』の高い子供が生まれる可能性が高くなる」
「ただ残念なことに下振れもするし上振れもする」
「特に有名なのが東郷公爵家のご息女様だ。去年入学してきた姉の時雨様は、日本史上最高値の200と言うのに対し、同じ親から生まれた史郎様は70とかなり下振れてしまった」
「ここまで差が開くのもかなり珍しい事例だな」
(でた、ラスボス! でも弟なんていたっけ?)(加藤)
(……東郷)(美々)
「本来なら『成長値』によってクラス分けするべきなんだが、『成長値』は探索者にならないとわからない」(平岡)
「だから華族様でもない限り事前に判明することはないんだ、そのためF組は殆どが平民となっている」
探索者は満10歳にならないとなれないため、貴族は10歳になるとすぐに探索者にされ、デビュタントと同時に『成長値』が公表される。
「もっとも『成長値』の最低値は70だ。先ほどの時雨様ではないが大体の華族様の成長値は100程度だ、そこまで差が開いているわけじゃないから気を落とさないでくれ」(平岡)
「ふむ、ということは20というのはかなり低いのか」(美々)
「え? 何がですか?」(楓)
「成長値にきまっておろう」(美々)
「うそっ、マジで?」(加藤)
「20!? そんな値みたことないぞ!?」(平岡)
「見せて見せて、わっ、わっ、本当だ」(白雪)
美々からの驚きの報告に先生や生徒が寄ってくるが美々の方は気にした様子もない。
後に先生が美々の許諾を得て事務員確認のもと写真を撮らせてもっらていた。ギネスブックに載るかもしれないそうだ。
DRDでも『成長値』のパラメーターは存在しており、プレイヤーは一律70である。
ストーリーモードでは貴族と戦闘することもあり、貴族は大抵主人公より上のレベルに設定される。
例えば相手の成長値が90であれば90-70で主人公のレベルの120%、つまり1.2倍が敵貴族のレベルになる。
実際にはここに選択された難易度による補正が入るが、貴族との戦闘は常に格上との戦闘になる。
「さて、ここまでパラメーターを説明してきたが、君達も気付いている通り精神に関わるものは存在しない」(平岡)
「つまり肉体的には強化されても精神的にはそのままということだ、どんなにレベルが上がっても常に正しい判断が出来るようになることはない」
「体が元気だからといっても集中力には限界が来ているということもある」
「ダンジョンは未知の環境だ、慢心しせず、かといって常に気を張もはらず常に平常心を心掛けるように」
「ダンジョンカードの説明は以上だ、他に『スキル』や『称号』といった項目があるがこちらはダンジョンに入ってから説明した方がいいだろう」
「次に探索者センターについて説明をする」
…………………………
「まず1階の説明をしよう、ダンジョンカードの登録のために回ったからすでに知っていると思うが、1階には拾得物の買取センターがある」
「買い取ってくれるのはダンジョンから出たものだけだ。あと営業時間があって朝10時から夕方18時までだ。それ以外は閉まってしまうので注意すること」
「それじゃ2階へいくぞ。2階は武器や防具のレンタルだけでなく、引退したり合わなかったりで使わなくなった装備の中古販売なんかも行っている」
「新品が欲しいなら探索者センター以外でも販売しているところはあるが、店によっては華族様の紹介が必要だったりすることもあるから注意するように」
2階はエントランス部分が吹き抜けになっているが、キャットウォークのように幅広の通路があり、そこにテーブルも用意されている。
2階にも左側に華族棟への入り口とコンビニ、大手喫茶店がある、多分中で1階と繋がっているのだろう。
その奥、1階の拾得物買取所がある場所に中古ショップがあり、武器や防具がショーケースに陳列されている。
平岡先生は生徒を連れてさらに奥、武器・防具レンタルと書かれた店の前まで移動する。
「ここがレンタルショップだ。入学時案内にも明記しているとおり君らは学費を自身で払わないといけない」
「1年の時はそれほどでもないが学年が上がるたびに払う学費は多くなる。中古であっても武器や防具を買う余裕がなかったり、うっかりダンジョンで落としてしまう場合もある」
「次の武器までの繋ぎとして借りることができるのがこのレンタル武器だ。レンタルとは言っても決して悪い品ではないから安心してくれ」
「ダンジョン学園の生徒は特別に無料で借りることが出来るので気楽に利用してくれ。3、4階には簡易宿泊施設があるが、君達には必要ないだろう」
「5階は関係者以外立ち入り禁止区域だ。これで探索者センターの説明は終了する」
「お昼休みのあと実際にダンジョンに入るからな。今のうちに武器が無い人はレンタルしておくように」
「あと着替えもな、ダンジョン向けに作られたジャージが支給されているはずだ」
「基本学園に通うのは探索者ばかりだから、制服が多少汚れたりほつれたりしても文句をいうものはいないが、そういう所で見下してくる華族もいるから嫌な思いをしたくなければ制服でダンジョンに入るのはやめるように」
「それじゃ13時に1階のラウンジに集合するように! 解散!」
…………………………
レンタル武器は雑な造りだ。
武器なんてものは剣身と柄があれば事足りるとばかりに柄はそのまま鉄パイプだ。
申し訳程度に滑り止めを目的とした溝が掘られている。長さは10cm、30cmの2種類があり、前後にそれぞれネジが切られていて連結できるようになっている。
剣身は60cm程度の片刃、30cm程度の斧、15cm程度のナイフタイプの3種類が用意されている。いずれも柄と同じようにネジが切られている。
これらに10cmの柄を連結させれば、片手で振り回す刀や斧になるし、2本繋げて延長すれば両手で振り回せるようになる。
30cmの柄を何本か連結させれば槍やバトルアクスにもなる。自分で組み合わせられるのは通常の武器には無い魅力だろう。
学園生は無料である代わりに剣身は1つ、柄は3本までがレンタルできる限界だ。
柄は200円、400円、刃は片刃短い方が2,000円、長い方が3,000円、斧も3,000円でレンタルできる。
結構高いが普通の武器を買おうと思えば最低でも10万はかかることを考えれば割安の値段だ。鞘も1,000円で借りることが出来る。
盾もレンタルが可能でこちらも簡素な造りである、飾り気のない鉄板に握りと腕を固定するベルトを付けただけの物だ。
わずかに歪曲しているのは探索者のためというよりは盾自体を長持ちさせるためだろう。明らかに修繕と思える跡がある物もある。
「俺はやっぱショートソードとバックラーかなぁ」(加藤)
「さすがに弓はないですか」(千鶴)
「アモが必要なのは難しいデショウ」(メリッサ)
「たまにはナイフでも使ってみるかの」(美々)
「もちっと長くて厚みがある剣がほしいんだがなぁ……」(黒田)
「む……無理。重くて持つだけで手一杯っす」(陽子)
「う~んハルバードや鎌みたいなものはないのか」(皆川)
「さすがに工場生産だろうから無理でしょ」(長谷川)
「でも同じように見えて結構細部にばらつきがあるにゃんね」(ミーナ)
「多分規格だけ揃えて色々な工場に発注してるんじゃないかな?」(七森)
皆思い思いの武器をレンタルしていく、臨時のアルバイトと思われる人が数名働いていた。
ショートソード:加藤、黒田、ミーナ、七森、小町
槍:千鶴、皆川、楓
片手斧:長谷川、須藤、メリッサ
バックラー;加藤、皆川
ナイフ:美々、陽子、白雪
気がついたら他のクラスメートは皆昼食に向かっていて加藤達のグループは最後のようだ。
「昼はどうする~?」(長谷川)
「作りたいのは山々だけど時間がさすがにないわね」(小町)
「学食あるらしいし行ってみるか」(黒田)
「いよいよこの時がきてしまったか。一応伊織ちゃんで確証はあるけど……」(白雪)
白雪は探索者センターの中で手袋を外して白くほっそりとした指を蛍光灯に照らす。
しばらく様子を見てから今度は恐る恐る探索者センターの影から陽の下に手を出していく。
一瞬だけで日の光の下に出したかと思ったらすぐにひっこめ、そのまま指先をくまなく観察する。
そして意を決したかのように陽の下に「えいっ」と掛け声のもとに一気に手を突き出した。
はたから見たら何をやっているかって感じだが、白雪は真剣だ。
「お……おぉ……おおぉぉぉ。なんともない。なんともないよ……」(白雪)
とうとう白雪はフードを開けゴーグルを取る。露わになった顔は非常に美しかった。人形のように、否人形でもここまでの造形はできないであろう美しさがあった……
DRDで見慣れたはずの加藤だけでなく、女性も思わず見ほれるほどの美しい顔の眼からは涙が筋を作っていた。
「うっ、うっ……痛くない……全然痛くない……」
「とは言ったけれど、私生まれてこのかたそこまで陽の光を浴びた経験ないからわかんないや」
「おぃぃぃ」(加藤)
身体パラメーターの項目は母国語になる。そのためメリッサはハーフだが英語表記になっている。
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