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#8

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 ――その後。食事の片付けをしながら、アルバスが口を開く。


「しかしあれだな。本格的に魔王討伐に向けて旅を続けるってなると、装備は整えたいところだな」


「そうね、アルの装備も会った時からずっとボロボロだわ」


 そう言いながら、エルは片付けをするアルバスの姿を一瞥する。

 アルバスが身に着けているのは軽い革鎧。それはアルバスの“相手の攻撃を回避してカウンターを叩き込む”という戦闘スタイルに合わせた、可能な限り身軽にし、俊敏さを上げる為の選択。

 アルバスにとって重い鉄の鎧は不要な物だ。

 

 しかし、その装備は長い期間、それこそ最後にパーティが壊滅した頃からずっと使用している装備品ばかり。

 その間アルバスは無茶な戦いを一人で続けて来た所為も有り、もうボロボロで穴の空いている箇所も見える。


「元々俺一人分しか用意してない物もあるし、魔法使いが何を必要とするかは知らんが、エルの装備品も買い揃えた方がいいだろう。あと食料だな、次の国までは保つが、そろそろ尽きてくる頃だ」


「そうね。なら、ひとまずそれらが揃えられそうな、大きな国を目指すべきね。ここからだと――」


 そう言って、エルは地図を開いて、指を添わせながら周囲の国々を探す。


「――やっぱり、王都ね」


 そうしてエルが指した場所。

 それはアルバスがお触れを受けて、勇者として初めて訪れた国。

 我らが西の大陸の王都だった。

 

 元々ゴーフ村の方へ行くか、それとも王都へ行くかと言った進路を進んでいたので、当然の帰結だ。

 しかし、分かってはいてもアルバスはその名を聞いて、反射的に少し表情が曇る。


「なに?渋い顔して」


「いやなに、ケツの青い頃の自分を思い出して、げんなりしてただけだ」


 そう言った後、それを誤魔化す様にアルバスは手を一つ叩いて、


「よし、じゃあ目的地も決まったし、明日に備えてゆっくり休め。見張りしててやるよ」


 野党や魔獣に寝込みを襲われては堪った物では無い。

 二人以上でパーティを組んだ際は順番に休息を取り、必ず誰かが見張りをする。

 旅の野宿の鉄則だ。


「わかったわ。お言葉に甘えさせてもらうわね。おやすみ、アル」


 そうして、エルは先に寝袋に入り、目を閉じた――。



・・・



「――んんっ」


「おう、起きたか」


 数時間程経った後、エルが目を覚ました。

 辺りはまだ夜闇に包まれているが、程なくして日も登って来るだろう。


「ごめんなさい、少し寝過ぎてしまったかしら」


「いいや、構やしないさ。美人の寝顔を見てたら一瞬だったよ」


「人の寝顔を観察しないで頂戴」


 エルは可愛らしくぷくりと頬を膨らまし、抗議の意を示す。


「なんだよ、冗談だって。それじゃ、俺も寝させてもらおうか」


 そう言って、アルバスが寝袋広げていた時、徐にエルが口を開く。


「ねえ、アル。あなた、ちゃんと眠れているかしら?」


「というと、どうしてまた?」


 アルバスには心当たりが有った。しかし、気恥ずかしさと見栄から、あえて素知らぬふりをした。


「今日も先に見張りをしていてくれたし――、それにね、宿で眠る時も、あなたいつもうなされているわ」


 他人に寝顔を観察するなと言っておきながら、どうやらエルもアルバスの睡眠の様子をきっちり観察していたらしい。


「ああ……悪いな、心配させて。大した事は無い。ただ、夢に見るんだよ。昔の仲間たちのことを」


 アルバスは目線を彷徨わせながら、手で頭を掻いてみたり、顎髭を触ってみたりと、所在無さ気だ。

 そうやっていると、


「アル、こっち来て」


 とエルに呼ばれたので、アルバスは「おう」とそのまま二つ返事で頷き、言われるがままエルの傍まで寄る。

 そのまま立っていると、「ん」と隣を指し傍に座る様に促されるので、やはり言われるがまま隣に腰を下ろす。


「はいっ」


「これは、一体どういう……?」


 そのまま何となくエルに言われるがまま流れに身を任せていると、気付けばアルバスの身体は無理やり倒される形で、頭はエルの太ももを枕にして横になっている。


「分かるでしょ。わたしの膝貸してあげるわ、だから、おやすみ」


 所謂膝枕という物だ。

 何故エルが突然そんな奇行に走ったのか、アルバスには理解が出来なかった。

 しかし、その柔らかな誘惑には抗いがたく、文句の一つも口からは出て来なかった。


「はぁ……。じゃあ、ありがたく……」


 エルの手の平が視界を覆い、目を閉じる。やがて、優しく暖かな微睡に包まれて行った。

 その日、アルバスは夢を見なかったという。

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