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#10


「埃臭いところね……」


 アルバスと別れた後、薄暗い路地裏を一人進むエル。

 一応路地の壁には街灯としての役割を果たす蝋燭立てが有ったのだろうが、もはやそれは有ったという過去形でしか表現することが出来ない。

 

 この辺りはあまり人が利用していないからか、誰も手入れや修理をしていないのだろう。

 誰も火を灯さなくなり、もはや割れて灯りの灯らぬ“だった物”が寂しくぶら下がっていた。


 エルはまだ光で辺りを照らす魔法を有しては居なかった。

 それ故に、この昼でも薄暗い路地裏も視界は悪いまま。

 

 この世界には火を起こしたり、光で辺りを照らす魔法も存在する。

 エル程の実力を有する魔女ならば、一度その魔法を目にすれば模倣する事も出来るだろうが、生憎魔女や魔法使いと出会える機会の方が少ない。

 しかし、魔道具屋へ行けばそれらの魔法が記された魔導書が手に入るだろうし、それが叶えば今後の旅の中でも大いに役に立つ事だろう。


 辺りのどこか不気味な雰囲気に、エルは僅かな不安と心細さを覚えた。

 アルバスに付いて来て貰えば良かったかな、なんて考えが一瞬頭を過るも、それをすぐさま振り払う。

 

 実際にそんな事を言えば、付いて来てくれはするだろう。

 しかし、それでどれだけからかわれるかなんて想像に難くないだろう。


「ああ、ここね」


 そうやって何度か角を曲がり、奥まで進んで行くと如何にもな店構えが目に入る。

 変な植物の蔦に覆われ、窓から漏れる中の明かりが無ければ一見では廃屋の様に見えるだろう。

 しかし、おそらくそこが目的の魔道具屋だ。


 エルが店に入ろうと、駆け出そうとする。しかし、僅かな違和感。

 その瞬間だった。

 店の方に気を取られ、背後の気配に気づかなかった。


「んん!んーーーっ!!」


 いつの間にか接近していた何者かに背後から襲われ、エルは口元を布で塞がれてしまった。

 咄嗟の事、混乱で魔法も上手く発動出来ない。

 

 生成されかけた『結晶』の矢は指向性を失い、漏れ出た魔力が小さな欠片となって辺りに散らばる。

 自身を押さえつける腕に爪を立て、必死に身体を暴れさせ、抵抗を試みるエル。

 しかし、非力な女性の力では敵わない。

 

 そして、口を塞ぐ布にはおそらく何かの薬品が沁み込まされていたのだろう。

 そのままエルは意識が遠くなって行き、やがて意識を手放した。



・・・



「んっ……」


 がらんがらんという大きな音と、そしてがくんと身体を揺らす感覚にエルの意識は起こされた。

 どうやら荷馬車の上らしい。先程の大きな揺れは荷馬車が止まった時の揺れだった様だ。

 揺れの感覚と車輪が地を擦る音に覚えが有った。


 身体を動かそうとするエル。

 しかし、ジャラリという金属音。音の方へと視線をやると、自分の手足には枷が嵌められていた。

 先程の金属音はそれらを繋ぐ鎖の擦れる音だ。

 

 身動ぎすると、ころんと何かが足元に落ちる。

 自身の袖口から『結晶』の欠片が漏れ出ていた。


 そういえば、と思い出す。

 路地裏の魔道具屋の前で襲われた際に、エルは反撃しようと魔法を使い損じた。

 その際に魔力の蓋が開いたまま意識を失った所為で、じわじわと中途半端な『結晶』の魔法が漏れ出てしまっていた様だ。

 エルはその欠片を一つ指でつまみ、一つため息を吐いて、ぽいとその辺りへと投げ捨てる。


 枷自体は魔法でどうにか壊す事も出来そうだが、状況把握が先決だろうと、今すぐに身体を動かす事は諦めて周囲を見渡す。

 どうやらここは檻の中の様だ。

 

 檻には大きな布が目隠しとして降ろされていて、檻の外を見る事は出来なかったが、陽が落ちていて今はもう夜だという事は理解出来た。

 それ程の間エルは気を失っていた様だ。


 荷馬車に積まれた檻。

 つまり荷物は自分。

 どうやらエルはあの路地裏で人攫いにあったらしい。


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