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#0 プロローグ


 それはある日、突如この世に産まれ落ちた。

 『魔王降臨』――その一報は瞬く間に大陸中へ広がり、人々を震撼させた。

 

 腕に自身の有る冒険者や魔法使い、勿論国お抱えの軍なんかもその魔王討伐に駆り出された。しかし、その誰一人も魔王の元へ辿り着く事無く、膝を折った。

 

 ある者は道半ばで命を落とし、ある者は恐怖のあまり逃げ帰ったなんて話も聞く。

 それ故に、誰一人魔王の全貌すら把握できないままに、数年の時が過ぎた。

 

 魔王は人間だ、魔王は獣だ、魔王は概念だ、魔王は不死だ、魔王は、魔王は――、そんな根も葉もない噂だけが独り歩きしていた。


 その間にも少しずつ、じわりじわりと魔王の侵攻は進んで行く。この世界を内側から蝕んで行く。

 

 汚れ――魔王が存在する限り世界中に放たれる黒い泥。それによって土地は汚され、作物は育たなくなって行く。飢餓が民を苦しめる。

 

 汚れは人の心をも蝕んで行く。汚れた心は争いを産み、争いは更なる争いを産む。

 世界は混沌の渦に呑まれて行った。


 もはや打つ手無しだろう。しかし、だからと言ってこのままされるがままに世界の終焉を受け入れる事など出来なかった。

 

 ある時から、西の大陸、王都の王よりお触れが出る様になった。それは勇者の排出という試みだった。

 民の中から選ばれた一人が勇者の称号を賜り、魔王討伐の為に旅に出るという物だ。


 魔王にされるがまま降伏なんて王の面子に関わる、打つ手が無いからと言って何もしない訳にはいかなかった。

 それは如何にも「やってますよ」というアピールの為だけの勇者という存在。分かりやすく言ってしまえばそれは生贄、人柱だ。


 そんなお触れがもう何度も出た。勇者が死ぬ度に、また新たな勇者が選ばれる。つまり、これまでに多くの者がが勇者として選ばれ、そして死んで来た。

 

 ある者は屈強な力自慢、ある者は剣術に長けた者、ある者はまだ幼い子供、またある者は非力な女性、またある者は――。

 

 戦えるかどうか、腕力は有るのか、脚力が強いのか、剣の腕に長けているのか、魔法に長けているのか、知略に長けているのか、そして運が良いのか、もはやそんな事は関係が無い。

 

 最初は本当に魔王を討つ為に選ばれていたかもしれない。しかし、今はただ勇者という肩書を背負い、死ぬ。

 それで民に“自分たちは魔王に抵抗する為に頑張っているんだ”という仮初の安心感を与えるだけの存在になり果てていた。



 そして、また新たなのお触れ。新たな勇者。


「――アルバス、其方を勇者に任命する。仲間を集め、旅に出よ。そして魔王を討ち果たすのだ」


 王は玉座に深く腰を下ろし、眼前に跪く青年を見下ろしながら、もう幾度も繰り返した同じ台詞を、もはや作業の様に吐く。


 彼の名は『アルバス・ヴァイオレット』。

 名も無き小さな村で産まれた青年だ。

 

 アルバスは片膝を付いたまま顔を上げ、王を見上げる。


「しかと承りました。必ずや魔王を討ち滅ぼして見せましょう」


 この時のアルバスの目にはまだ光が有った。

 

 村の者たちにも祝福され送り出された。

 国から旅の資金として今まで見た事も無い枚数の硬貨と、綺麗な装備品を貰った。

 

 純粋だったアルバスは自分は選ばれたのだと、認められたのだと、そう信じていた。

 自分は今までの勇者とは違う、自分こそが魔王を討つのだと。

 その強い意志と大義を胸に、アルバスは旅に出るのだった。

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