格下オーラに中てられて【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「ああ、悪りぃ。土日当たったんだけど、やっぱアウトだった」
翌月曜の一時限休み、バツの悪そうな仕草で隼一が利治の教室に現れた。
「気を落とさないでよ、水城くん。アウトなのは君だけじゃないんだから」
「――って事は、そっちもか?」
「まあ‥‥ね。ソフトボール経験者まで敷居を下げたんだけどさぁ」
ふぅ、とため息を吐く利治。
「‥‥それはともかく、風当り強すぎだろ」
アウェイだからという理由ではなく、校内ヤバい奴ランキングのトップ2揃い踏みという状況に向けられた、白く冷たいオールレンジ攻撃がチクチクと突き刺さる。
二人を爆心地とした半径三メートル圏内には誰もいないという明らかな避けられっぷりに、思わずボヤキ節が隼一の口からこぼれ出た。
「あははっ、ホント、電車の中のゲロ状態だよね」
「イヤな喩すんなよ」
言い得て妙だが気分は悪い。
「とにかく、今日も休み時間にいろいろ当たってみるよ」
「俺もクラスのヤツに二周目掛けてみるわ」
「うん、頼むよ。
――地波くんが何人か見つけてくれてるといいんだけど」
強気な利治も、さすがに校内で探すのは望み薄と感じているのだろう。
「う~ん‥‥地波頼みってのも、なんつーか、心もとない話だよな」
「なに言ってるの? 地波くんはすごいんだよ」
「え?」
あのバリバリの格下オーラに中てられていた隼一には利治の台詞が理解出来なかった。ここ数日の練習を見る限り、真摯さ以外で特に評価出来る点はないように思えたからだ。
「なあ、あいつとはどういう知り合いなんだ?」
「小学生の頃からの知り合いだよ。
学区が違ってたから学校もチームも別々だったけど、放課後とか、よく一緒に練習したんだよねぇ」
「ふうん。――で、そのすごさって――」
残念、核心部分を訊こうとしたところで時間切れのチャイムが鳴り響いた。
● ● ●
そして放課後。扶士宮中のグラウンドには、この日も何の成果も挙げられなかった凸凹コンビがキャッチボールをしていた。そこへ、
「‥‥つ、連れて、きた、よ」
鉄弥の声に振り向くアボット&コステロ。
「よお、久し振りじゃねーか、仁敷、だったか?」
大俵中のジャージに身を包んだ五分刈り頭の大柄で太目な男子がニヤつきながら声を掛けた。
「ひとり、ふたり‥‥七人か! すげぇじゃねぇか!」
頭数問題が一気に解決した事で浮かれる隼一。
だが、利治の表情はそれとは対照的なものだった。
「――なんで?」
いつもより低いトーンで鉄弥に問う利治。
「ニ、ニッキー‥‥あ、あのね‥‥」
「あいつらはダメだ!」
いきなりのダメ出しに凍りつく一同。
「おうおう、俺らのどこがダメだっつんだよ、ああっ!?」
利治に詰め寄ってくる五分刈り頭。
「僕は知ってるから! 君たちが地波くんをチームでハブにしてた事!」
噛みつかんばかりのその形相に、隼一は自らの体温が二度下がったかのように感じた。
(――こいつもこんな顔するのか)
本能的に怖さを感じた隼一とは逆に、五分刈り頭の動物的感覚は劣化していた。
「ハブだあ? へへっ、お前、勘違いしてるぜ。
単に実力がねぇから試合に出られなかっただけだ。――なっ、地波?」
「‥‥え? ‥‥う‥‥うん。‥‥ご、権田くんの、言う事、ほ、ホントだよ」
努めて明るく答える鉄弥。それを耳にした権田はニィと笑い、
「だとよ。――なあ、仲間に加えろよ」
利治の首に太い腕を回す。
「俺たち、勉強漬けでストレスが溜まってんだよ」
権田一派のサブリーダー的なポジションにいる田沢が続いた。
「そっちの事情は聞いてるぜ。土曜日までだったら付き合ってやるよ」
弱みに付け込んでか、上から目線な台詞を吐いたのは茶髪頭の中里だ。
――が、
「ヤぁだね!」
権田の腕をはね除けると牡羊座はあっかんべー。
「――はあっ!?」
耳と目を同時に疑う一同。
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