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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第二章 ロボット教師、渡六號は大人からの至言を言った
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ロボット教師、渡六號は大人からの至言を言った【Cパート】

「ちょ‥‥ちょっと待ってください! こっちはまだ人数が!」


 あまりにも一方的! あまりにも理不尽!

 言いたい事は山のようにあったが、隼一(しゅんいち)の口から真っ先に出てきた言葉はそれだった。


「今日を入れて一週間以上あるが?」


「いや、でも!」


「ならば、大人からの至言を言ってやろう。

 『一週間で出来ない奴は、ひと月掛けても出来ない!』」


 頭の中に響き渡る大人からの至言に、がっくりと膝を落とす隼一と鉄弥(てつや)


「‥‥た、確かに‥‥」


 弱々しい声で鉄弥がつぶやいた。これまで何人に誘いを掛けた事か。


――『はあっ? 野球ぅ? バカか?

 そんなん、小学生で卒業しろっつーの』――


――『お前さぁ、ンな事ばっか言ってるから、ぼっちなんだよ』――


――『うわっ、マジうぜぇ!』――


――『キメぇな、近寄んじゃねーよ!』――


 断られ際の罵詈雑言が脳の中で再生される。


「集まる(わき)ゃねぇ‥‥」


 自分がこの仲間に加わるまでのタフなイベントを思い出した隼一が苦しそうにつぶやく。

 だが、その中で一人、トンパチ野郎だけが挫ける事なく立っていた。


「大丈夫だって! 一人当たり、二人連れてくればいいだけの話なんだから」


 一応、計算は合っている。合ってはいるが――


「お前、今までに何人に断られてんだよ!? まだ三人しかいねぇんだぞ!」


 利治(としはる)の胸ぐらを掴み吼える隼一。

 だが利治は微笑み、


「うん、立てたね、水城(みずき)くん」


 その言葉に、二度と立ち上がれないと思うまでの衝撃を受けていた自分の足が、大地に立っている事に気付いた隼一。そしてバツが悪そうにその手を放す。


 利治は六號(ろくごう)に顔を向けると凛とした表情で、


「先生、この勝負、受けて立つよ!」


 確かに出された提示を呑まざるを得ない状況ではある。受けなければ、今ここでバッドエンドなのだから。


「どうやら、お前には現実というものが見えていないようだな。

 この場で野球を放棄していれば、恥を掻かずに済むものを」


「ははっ、先生、相手が悪かったね。僕は牡羊座だよ! 信じた道しか見えてない!」


 理解不能な答えが返ってきた。


「僕たちは必ず勝つ!」


 恐れを知らない牡羊座は力強く天に向けて拳を突き上げた。

 それを見て、今まで無表情だった六號の口端(くちは)が上がる。


「フッ、その意気や良し! お前らのチーム、楽しみにしている」


「はいっ、こっちも首を洗って楽しみにしてますから!」


「洗っちゃダメだろ!」


 すかさず隼一のツッコミが入った。


 六號が立ち去り、その場に残った三人は自然と顔を向き合わせた。そして開口一番、


「さぁて、どうすべね?」


 利治はペロリと舌を出し、曲川(くまがわ)弁丸出しで解決策を丸投げしてきた。


「――って、無策かよ!?」


 呆れた事に、目の前の牡羊座はその場のノリで売られたケンカに勝利宣言までしくさったのだ。全力でツッコミを入れるなという方が無理な話だ。


「‥‥み、水城くん‥‥し、知り合い、いない?」


「おいおい、こっちに越してきたばかりの俺に()くか、それ?」


 藁にもすがらんばかりのダメもと質問は敢えなく(つい)えた。


「‥‥だ、だよね‥‥」


地波(ちなみ)の方こそ――」


 口から出始めた言葉に隼一はブレーキを掛けた。

 さんざん声を掛けてきた結果がこの有様である事は容易に想像出来る。加えて、人付き合いの幅が極端に狭そうな鉄弥にこれ以上先の台詞(せりふ)を聞かせるのは酷というものだろう。


「大丈夫だよ、二人とも! 当てがないのは僕も同じだから!」


「おめーは慰めてるつもりか、ええっ!?」


 隼一の三沢式の顔面締め(フェイスロック)が綺麗に極まった。


「‥‥と、とりあえず、土曜日を、乗り越え、よ?」


「ん? ――ああ、そうだな。一週間だけ付き合ってくれる奴だったら、少しは見つかる可能性があるか」


 鉄弥の言葉に我に返った隼一は技を解く。



 三人はこの日の練習を早めに切り上げ、メンバー集めに奔走する事になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『一週間で出来ない奴は、ひと月掛けても出来ない!』 身に詰まる言葉ですね。
[良い点] 『一週間で出来ない奴は、ひと月掛けても出来ない!』 確かに!
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