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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第二章 ロボット教師、渡六號は大人からの至言を言った
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ロボット教師、渡六號は大人からの至言を言った【Bパート】

「‥‥‥‥‥‥」


 言葉も出ない利治(としはる)たちに向け、六號(ろくごう)は更に言葉を続ける。


「先の大戦で敗北した日本は連合国から多額の賠償金を請求された。それは戦争で疲弊しきっていたこの国にはとても払い切れないまで法外なものであった。

 その賠償金を国に代わって支払ったのが邑久地(おくち)財閥だ。以後、日本は実質、邑久地の支配下に置かれ、あらゆる企業が株式会社日本の子会社となった。そして、その総帥であった邑久地賢三(けんぞう)が戦後打ち出した国家プロジェクトのひとつが遺伝子解析だ。

 驚異的な進歩を遂げたその技術は八十年代に入ると各個人の才能を生後間もなく判定出来るまでとなり、それに応じた教育が義務化された。現在の日本の発展はその教育がもたらしたものと言っても過言ではない。それに背くなど愚の骨頂だ」


 教科書どおりの解説だった。


 三人ともこの事は学校へ上がる前から教えられてきていたが、特に選民思想に近い教育を叩き込まれてきた隼一(しゅんいち)はぐぅの()も出せなかった。


「でも先生、わからないんですよねぇ。それがどうして部活禁止につながったんだか」


 六號は真顔で問う利治からおもむろに隼一に視線を移すと、


水城(みずき)、答えてみろ。

 国立(こくりつ)(すめらぎ)大附属の野球部クラスで教育を受けてきたお前なら答えられるはずだ」


 と問う。


 ―無駄だから―


 だが、隼一の常識の中にあったその答えは、昨日、利治によってぶち壊されていた。


「わかりません!」


 思いの丈を胸を張り堂々と答える隼一。


「――そうか。ならば俺が教えよう。

 各個人に無駄な時間を過ごさせない為だ。

 実る可能性がない努力、そんなものは個人の思い出作りに他ならない。

 国益にならないものは極力排除する、それが邑久地が出した結論だ」


「俺は! 俺たちは家畜じゃありません!」


「その反論は正しい。

 だが、一財閥に買われた国に生まれてしまった以上、その主張は通らない。

 ――戦争に限らず、『敗北』とは正義を奪われる事でもある」


 重い言葉が静寂を流した。だが、空気を読まない牡羊座は、


「ねえ先生。先生は教師ロボットなんですか?」


 唐突な質問で重い空気を突き破った。


「――いや、俺の身体(からだ)は介護用として改造されたとデータにある。

 それ以前については不明だ」


 介護士とは利用者本位の職業だ。それがどういう訳だか教師にジョブチェンジしたのだ。余程なものでない限り、受けた質問には答えざるを得ない。


「研修を受けヘルパー資格を得ている」


 証拠にとばかりに、ダークなスーツの胸ポケットに入れていた携帯用の修了証明書を三人に見せつけた。


「ああ、そういや聞いた事あるな。資格が必要な仕事は、ロボットでも試験とか受けなきゃならないって」


 隼一が少ない知識の中から精いっぱい振り絞って発言した。


「へえ、そうなんだ。

 僕はニュースも新聞もスポーツしか見ないからね、全然知らなかったよ」


 荒業を身に着ける為に利治が支払った対価はこのような弊害を生み出していた。


「じゃあ、渡先生はなんで先生に?」


「八年間、とある特別養護老人ホームで働くうちに、俺は自分の中の可能性というものを試したくなった。

 そこで、手続きを踏み、教育大学を受験した。

 が、試験には合格したものの物言いが付いた。――当然だ、ロボットが教員になるなど前代未聞の事だからな。

 だが、意思を持つロボットの可能性は将来的な国益の観点から邑久地(おくち)財閥に支持され、卒業するまでの期間、ロボットである事を隠す事を条件に入学が許可された。

 この事はその当時、ごく一部の者のみ知り得る情報であり、マスコミに対しては情報規制が敷かれた」


 六號は自分の経歴を簡単に話した。


「えっと、つまり、先生が法律を動かした訳ですよね?」


「ん?」


「それなら次は僕たちが動かします!」


 利治は右掌で自身の胸をポンと叩き熱く告げた。


「出来ない事は遺伝子検査が証明済みだ。お前の前に道はない」


 真っ向からの否定。だが、この無鉄砲な牡羊座は、


「じゃあ、僕らが一番乗りですね!」


 挫けるどころか外れた道でアクセルを吹かす。

 更にそのトンパチっぷりは仲間たちにも伝播(でんぱ)し、モチベーションを飛躍的に上昇させた。


「先生には道を外しているように見えるかもしれないかもしれません。

 でも、俺たちにとっては進んでる方向が前なんです!」


「ぼ、僕たちの、後ろに‥‥み、道が、出来ます!」


 三人の熱意に()てられた六號は腕を組み、暫しの沈黙、ヒートアップした脳筋どもの頭を冷やす為の思考を巡らせていた。


「ならば障壁を提示しよう。

 この俺がマッチメイクをしてやる。

 そのチームと試合をし、もし勝つ事が出来たなら顧問になってやってもいい」


 渡りに船、願ってもない提案に顔が(ほころ)ぶ三人。

 が、その直後、このロボット教師は、


「だが、負ける、もしくは拒絶するなら、お前たちから未来永劫、一切の野球を剥奪する。

 試合は来週の土曜十五時、荒川河川敷のグラウンド。――どうだ?」


 血も凍らんばかりのマイナス・インセンティブを提示してきた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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