天然の人たらし【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「どうぞ、遠慮なく。好きな場所に座ってください」
錫木邸の応接室の電灯を点けた桜花が勉強合宿に参加する面々にそう告げた。
「へえー、意外とシンプルなんだね」
何の躊躇もなく利治が先陣を切って入って行った。
「虎とか熊の剥製なんかがあるかと思ってたんだけど」
「ありませんって、そのような成金趣味な物は」
桜花がしれっと失礼な事をこいた利治にツッコミを入れた。
「お邪魔します。
この部屋は初めて入ったけど、質実剛健って感じだな」
続いては隼一。
「ええ、お爺様の趣味ですから」
「――の割にゃあ、バカでっけぇテレビがあんじゃねぇか。
ゲームはねぇのか、ゲームは?」
零美がきょろきょろと首を動かしながら歩を進める。
「ありません!
――でもまあ、プレゼンを見る為のパソコンはありますから、しようと思えば可能なんでしょうけど」
「んじゃ、格ゲーやろうぜ、格ゲー」
「しません。
あなた、ここに何しに来たか忘れた訳ではないですよね?」
「宿題だろぉ? ンな事、わーってるって。
ほんの軽~いジョークだってぇの」
「冗談には聞こえませんでしたよ」
「あンだと、コラ」
「えーと‥‥まあ、二人とも落ち着けって」
この場は零美の後に入った玄夢が止めざるを得なかった。
「あれ、紫電くん、なんでいるの?」
中央のソファーにどっかと座った利治が今更な質問を投げ掛けてきた。
「ちょっ、お前、それひどくね?
俺だってだな、合宿に参加したかったんだよ!」
両手をわきわきさせながら反論する玄夢。
「勉強教えられんの?」
「うっ! ‥‥それは‥‥」
固まる玄夢に冷たい視線を送る利治。
直後、その左肩にポンと手を置く隼一。
「仁敷‥‥国立の野球部クラスにいたヤツが勉強できると思うか?
察してやれ」
「それもそうだね、あはは、ゴメンゴメン」
「‥‥いや、謝らんでくれ。余計にミジメな気分になる」
自身の背景に縦線が入った玄夢ががっくりとうな垂れた。
「それはそうと、厄斗さん、あのおどおどした方はどうしました?」
桜花が普段影の薄い鉄弥がいない事にやっと気付いた。
「迎えの車には乗らなかった。帰ったのではないか?」
「なんでぇ、付き合い悪りぃな。
昔はそんなんじゃなかったのに」
憮然とした表情で吐き捨てた零美は両手を腰に当てる。
「そう言わないでよ。
地波くんはお母さんに食事を出さないといけないみたいなんだよね」
「お袋さん、病気なのか?」
「そういうんじゃないよって言ってたから、当番なんじゃないかな。
わかんないけど」
「わかんねぇのかよ!?」
隼一、零美、玄夢がユニゾンでツッコんだ。
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