ロボット教師、渡六號は大人からの至言を言った【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「予め言っておく。俺はロボットだ」
黎和五年四月十四日、日本史教師、渡六號は曲川市立扶士宮中学二年二組の教壇で自己紹介をした。
挨拶の後の静寂。そして堰を切ったかのように起こる爆笑。
「なに言っちゃってんですか、先生。マジ受けるんですけど~」
「もしかして、電波とか入っちゃってますぅ?」
「いっくら新任の先生でもロボットはないっしょ、ロボットは」
生徒たちが信じないのは当然だった。
若々しくも精悍な顔立ち、一九十㎝を超える逞しい体躯《たいく》、黒く艶のある短髪、その身体は人間以外の何物でもない。
「ならば今、証拠を見せよう」
そう告げると、六號は自らの顎に両手を掛け、無造作にメキメキと表皮パーツを外す。
次の瞬間、生徒たちのざわめきが悲鳴へと変わった。
(マジかよ‥‥)
隼一も心の中でつぶやかざるを得なかった。
● ● ●
放課後、グラウンドには三人の姿があった。
「――てな事があったんだけどよ、お前たちのクラス、もう日本史の授業やったか?」
素振りをしながら隼一が、隣りで鉄弥とキャッチボールをしている利治に尋ねた。
「うん、今日の四時間目にね。うちのクラスでも驚いてたよ、みんな」
「だよなぁ。3Kの仕事なんかじゃ実用化されてるって話だけど、――教師だぞ?」
「す、すごいね、ロボットの、先生なんて。ぼ、僕の学校には、いない、よ」
「いや、フツーいないから。第一、教員免許、取れんのか、ロボットって」
そんな三人の背後から近づいてくる足音がひとつ。
「お前たち、何をしている?」
噂をすれば何とやら、六號であった。
「はい、練習です」
臆する事なくにこやかに答える利治。
「練習だと? 法律上、公立中学における部活動は原則禁止とあるが?」
「部活じゃないですよ、先生。野球好きの仲間が集まって練習しているだけです。
それに、学年主任の吉田先生からは『勝手にしたまえ』って許可をもらってますし」
(それって許可じゃねぇだろ)
心の中でツッコミを入れる隼一だが、状況的に今は利治に任せるのが賢明に思えた。
「見たところ、本校の生徒ではない者もいるようだが?」
六號の中には全校生徒のデータのみならず、照和二十二年開校以来の卒業生すべてのデータがインプットされていた。
「‥‥は、初め、まして‥‥お、大俵中、二年、ち、地波、です」
「声が小さい!」
「ひゃい!」
六號のダメ出しに鉄弥の声が裏返った。
「お、大俵中の、地波、鉄弥です!」
「やれば出来るじゃないか。
――それで、他校の生徒が勝手に入り込んでいいと思っているのか?」
「え、えと‥‥その‥‥あの‥‥」
今までおどおどしながらも言うべき事は言っていた鉄弥だったが、今回はさすがにしどろもどろになっている。そんな彼に利治からの助け舟、
「大丈夫です。体育の伊佐山先生にも『勝手にしろ』って許可をもらってますから」
悪びれる様子が微塵もない利治に、六號は一瞥すると、
「ならば訊こう。
お前は『勝手にしろ』と言われたら、犯罪を犯してもいいと思っているのか?」
「もちろん犯罪はダメです。
――でも、これは犯罪じゃないですよ? さっきも言ったとおり、部じゃないんですから」
確かに部ではない。が、それは詭弁だ。六號が引き下がる訳がなかった。
「教師として、道を外そうとしている生徒を看過する訳にはいかない」
「道を外そうと‥‥? 誰の事っスか?」
静観していた隼一であったが、六號の言葉に胸の悪さをおぼえ、思わず口を開いた。
「扶士宮中二年三組十四番、仁敷利治、同じく二年二組十八番、水城隼一、大俵中二年、地波鉄弥、以上三名だ」
冷徹に六號は返した。
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