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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第十五章 取り引き
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取り引き【Dパート】

「したっ!」


 夕暮れのグラウンドに練習後の挨拶が響き渡った。


「今日の練習はここまでとするが、お前ら、宿題の方は終わっているんだろうな?」


 六號(ろくごう)の問い掛けに利治(としはる)隼一(しゅんいち)零美(れみ)の表情は強張(こわば)った。


「宿題?」


 引きこもり生活を続けていた桜花(おうか)とゴールデンウイーク明けに転校してくる玄夢(くろむ)がユニゾンで(たず)ねた。


「‥‥二人には、関係ない、けど‥‥僕たちには、たくさんの宿題が出されて、いて。

 ‥‥提出できないと、大変な事に、なっちゃうん、だよ‥‥」


 鉄弥(てつや)が簡単に説明した。


「おいおい、一大事じゃねぇか、それって。

 水城(みずき)にンなモン、消化できる(わき)ゃねぇ」


 玄夢が泡を食ったような表情で言う。


「同感です。隼一くんには荷が重過ぎます」


 桜花が静かな口調で追い打ち。


「おい、お前ら‥‥」


 隼一が二人に対して反論しようとするが繋がる言葉が出てこない。

 見かねた鐘馗(しょうき)が手をパンパンと叩いて注目を引き付ける。


「明日の練習はお休みとして、宿題に割り当てたらどうだい?」


 救い船とも言える提案だ。


「おい、鐘馗博士」


 六號が眉をひそめる。


「まあまあ、いいじゃない。

 トムさんには明日見ておいて欲しいモンがあるしさ」


 鐘馗の企みの表情を察した六號は思考を巡らせる。


「わかった。

 ――いいだろう、一日温情だ。

 その代わり、絶対に明日のうちに宿題を終わらせろ。いいな?」


「はい!」


 利治、隼一、零美が生気を取り戻した目で返答した。


 ● ● ●


 この日の解散後、事情をひと通り聞いた桜花が口を開いた、


「つまりこの数日、宿題をやらないでCS(シーエス)で野球中継ばかり観ていた、と。

 ‥‥呆れました」


 深く息を()く桜花。


「だってさ、縁生(へりうむ)があまりにも野球を知らな過ぎてよ‥‥」


「ちょっと待てコラ、なに人をA級戦犯にしてんだよ!!

 野球を知らねぇのは(ベリリウム)だって一緒じゃねぇか!!

 現に昨日、一緒に試合を最後まで観てたじゃねぇか!!」


 弁明した隼一に対し零美が食い掛かった。


「拙者は鉄弥と初日と二日目で宿題を終わらせている。

 (とが)められる理由は無い」


「ええっ、マジ!?」


 目を丸くして問う零美、利治、隼一。


「‥‥厄斗くん、優秀、なんだよ?

 教えた事、すぐに理解、するし」


 賞賛する鉄弥をチラ見して厄斗は視線を隼一に向ける。


「今夜から合宿だ。

 どんな手を使っても宿題を終わらせろ」


「合宿って‥‥まさか、俺のアパートでか?」


「どこでもいいが他にあるのか?」


「確かに水城(みずき)くんのとこなら親とかいないし、気兼ねないね」


 牡羊座その一は右脳から直接出て来たと思われる言葉を伝えると、屈託のない笑顔を見せた。


「まあ、あたしの施設じゃ泊まりは無理だし、水城ンとこでいいと思うぞ。

 外泊許可が下りるか、まだわかんねぇけどさ」


 牡羊座その二も賛同した。だが――


「ちょっと待ってください!

 男子と女子が一夜を過ごすだなんて、看過できません!」


 桜花が零美の宿泊に難色を示した。


「おや? 一夜を過ごすと何が起こるのかご存知なのかな、むっつりお嬢様」


「誰がむっつりですか!?」


「桜花、心配はいらねぇよ。コイツとは何も起きねぇから」


 隼一に親指で指された零美は一瞬カチンと来た表情を浮かべる。


「最初はその気がなくても夜の気に()てられて、おかしな気持ちになるって事もあるかもしれないじゃないですか」


「その『おかしな気持ち』ってどんなんだよ?」


 ニヘラ笑いを浮かべた零美が意地悪そうに(たず)ねた。


「おかしな気持ちは、おかしな気持ちです!」


 顔をトマトにしながら桜花が真面目に答える。


「じゃあ、どうしよっか?

 錫木(すずき)さんは僕たちが合宿すると縁生(へりうむ)さんとセックスするイベントが発生するもんだって決め込んでいるし」


 利治の右脳からの発言は思春期の群れに沈黙を作った。

 その沈黙を破ったのは――


「安心しろ、オウカ。

 そんなイベントは宿題を全部終わらせるまで俺がさせない」


「な、な、何を真顔で言っているんですか、あなたは!?

 宿題が終わろうが終わるまいが、そんなのは駄目です、不潔です!」


「う~ん‥‥でも困ったなぁ。

 確かに合宿しないと終わらなそうな量なんだよな‥‥」


 隼一が後頭部をガシガシと掻く。


「こ、困る事はありません。

 ‥‥わ、私も合宿に参加します」


「おい、お前の家が許さねぇだろ、ンな事」


「ですから、私の家の応接室で合宿してください」


「ええ――っ!?」


 思わぬ提案は驚嘆の声を召喚した。

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