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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第十五章 取り引き
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取り引き【Cパート】

「端的に言うと、キミが知っている特務兵器六號(ろくごう)に関する情報が全部欲しいんだよね」


 笑い目のまま鐘馗(しょうき)厄斗(やくと)に告げた。


「見返りは何だ?」


「ほう‥‥話が分かる子は好きだよ。

 ――情報に見合った報酬を約束しよう」


 鐘馗は正直こんなに簡単に情報が手に入るとは思っていなかった。


「情報の被りがあると時間の無駄になる。

 そちらの知り得る情報が先だ」


(こいつ‥‥ボクの情報と交換という‥‥。

 なかなかしたたかじゃないか)


 鐘馗は両目を閉じてフフンと一笑、お手上げのリアクションを取る。


「OK。

 ――第二次大戦中に作られた特務兵器六號に搭載されていた頭脳にはボクの曽祖父が関わっていた人造脳という回路が使われている。

 信じられるかい? 今から八十年近く前に学習する人工知能が作られていたなんて」


 そこまで語ると、鐘馗は真剣モードに切り替わる。


「さて、ここからは単なる文献のお話だ。

 ボクもこんな世迷言を信じちゃいない。科学者だからね」


「何だ、世迷言とは?」


 厄斗が目眉を細めて(たず)ねる。


「――ト六號には人造脳の中に人間の魂のコピーみたいなモノを定着させている。

 そして、その魂の持ち主だった青年の姿に似せた外見が作られた‥‥とある」


「‥‥‥‥」


 厄斗は視線を左下に落とし考え込む。


「でも、ボクの父が人骨拾いの調査に渡った時に発見した際、それは既に残骸だけだったそうだ。

 結局、父はそれを復活させる事なくこの世を去ってしまってね‥‥。

 で、ボクがそれを引き継いだってワケ。

 データの吸出しは正直上手くいかなかったけど、苦労したよ、まったく。

 ――とまあ、ボクの知っている情報開示はここまで。

 はい、今度はキミの番ね」


 鐘馗は右掌を天に向けた。


「‥‥これは拙者の師匠、古川(ふるかわ)炭平(たんべい)から聞いた話だ。

 特務兵器六號に使われた記憶データは師匠の同門、烏山(からすやま)忍軍の一人、彩雲寺(さいうんじ)硫黄里(いおり)という人物の人格、思考、記憶が複製され、容姿もまた『彼』に似せて作られたそうだ」


「彩雲寺硫黄里?

 どんな人物なんだい?」


「武芸、体術に優れ、極めて高い技能の(しのび)だったと聞く」


「それで、彼は?」


「六体目の複製中に老衰に似た症状で死んだらしい。

 原因は諸説あるが、複製法に何かしらの欠陥があり、それが死に至らしめたという説が有力だ。

 以降、この特務兵器の開発は凍結され、唯一の成功作、ト六號は烏山忍軍と共に南方戦線に送られた」


「なーる‥‥。

 それで人骨拾いの一件(イベント)に繋がる、と。

 ――ところで、キミは八丈島出身と聞いたけど、古川さんという方も八丈島にいるのかい?」


「特務兵器六號の情報は以上だ」


 厄斗は猟犬のような目で鐘馗を(にら)みつけた。


「おおっと、これは失礼。

 ――で、謝礼は何がお望みかな?」


「ノーベリウムスポーツとのパイプが欲しい」


 間髪入れずに答えが返ってくる。


「野球道具でも不足しているのかい?」


「違う。単に会長と直接話す機会が欲しいだけだ。

 ――可能か?」


「可能か不可能かで答えるのなら可能だよ、ボクのコネクションを(もっ)てすればね。

 ああ、でも少し時間は掛かるなぁ。

 何せ、天下の邑久地(おくち)財閥と直接つながっているノーベリウムだし、ボクも何かと忙しい身の上でね」


「どれくらい必要だ?」


「二か月、かな」


「‥‥一ヶ月だ」


「ずいぶんと急ぐんだねぇ。

 ――んじゃ、ひと月半で何とかしましょう」


「わかった」


 そう伝えると厄斗はグラウンドに向かってゆっくりと走り出した。


(ひと月半とは大見栄(おおみえ)を切ったかな?)


 鐘馗は人差し指で頬をポリポリと掻くと、おもむろに歩を進めた。

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