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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第十三章 女同士の覚悟
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女同士の覚悟【Dパート】

「――ンで、策ってのは?」


 ぶっきらぼうに零美(れみ)(たず)ねた。


「まず一つ目だ」


 厄斗(やくと)(ふところ)からコンビニで入手したと思われる弾けるキャンディ『ドンパッチ』と短いストローを取り出した。

 そしてそのストローに弾けるキャンディの粒を押し込んだ。


「何だよ、それ?」


「チャンスは一度だ。これをアイツの目に向けて吹け。

 素人のお前なら失明まではしないはずだ。

 目に入らなくても汗に濡れている部分に命中すれば一瞬のひるみが生じるだろう。

 その隙を――」


 次の瞬間、厄斗の脳天に唐竹割チョップが炸裂した。


「出来っか、そんなヒキョーな真似!」


「‥‥そうか?

 お前なら出来るキャラクターだと思ったのだが」


「どんなイメージなんだよ、テメェん中のアタシは!?」


 厄斗は零美のツッコミに()い、渋々二つ目の策を提示する事にした。


「――では二つ目だ。

 徹底的に相手を罵倒(ばとう)しろ。

 あの身体(からだ)から発している臭い、おそらく月経で入浴をしていないからだろう。

 引きこもりともなれば腋毛(わきげ)の処理も怠っている可能性もある。

 それをネタに徹底的に揺さぶれ。

 精神的なダメージを負わせれば、必ず隙が生じ――」


「却下だ!

 そんなヒキョーな手しかねぇのか、テメェの策ってヤツは?」


「‥‥仕方がない、最後の策だ。耳を貸せ」


 ● ● ●


「よぉ、待たせたな。とっとと続きをやろうぜ」


 口端(くちは)を上げて闘いの場に戻って来た零美を見た桜花はチラリと忍者装束の男に目をやった。


「どんな策を練ったとしても、あなたの技など通用しません」


「へっ、そいつはどうかな?」


 そう言った次の瞬間、零美の大きく広げた両手が桜花の目の前で叩かれる。

 相撲で言う猫だましだ。

 更にその次の瞬間、ケニー・オメガばりのVトリガーが桜花の顔面目掛けて放たれる。


 だが!


「ふがっ!」


 零美の繰り出した右膝は桜花の左掌で受け流され、逆にカウンターで零美の鼻が右肘で殴打された。

 吹き出る鼻血。


「今は試合中です。猫だましごときで私の目を閉じさせる事は出来ません」


 怒りにも似た形相(ぎょうそう)(にら)みつける桜花。



「もう、ダメ、かな‥‥」


 鉄弥(てつや)(うずくま)って鼻を押さえている零美に向けてタオルを投げ入れようとした時だった。


「ねぇ、厄斗くん。今のってキミの策じゃないでしょ?」


 利治(としはる)が隣りに座る厄斗に(たず)ねた。


「当然だ、リチ。

 拙者があんな正統的な策を与える訳がない」


「じゃあ、どんな策を授けたんだい?」


「実行するかどうかはゼロミ次第だ」



 鼻血を垂らしながら、よろよろと立ち上がる零美。


「おや、まだやりますか?」


「今、テメェはミスを二つ犯した‥‥。

 まず一つ目、倒れているアタシにトドメを刺さなかった事。

 所詮テメェのやってんのはスポーツだ。格闘技じゃねぇ」


 ピクリと動く桜花の右眉。


「ほお‥‥言ってくれますね。

 それで、二つ目は何ですか?」


「猫だましごときでと教えてくれた事だ。

 テメェの目を閉じさせる覚悟をアタシにくれたんだよ!」


 そう言うや否や、零美は猛ダッシュで隼一(しゅんいち)に駆け寄る。

 驚く隼一。

 いや、零美と厄斗を除く誰もが驚いた。


 そして零美は強引に隼一を抱え込むと、その唇を奪った。

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― 新着の感想 ―
これはまさかの作戦ですね。零美、大胆!
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