女同士の覚悟【Cパート】
ズデ――ン!
零美は何度、天井を見た事だろう。
錫木家の敷地内にある総合体育館。
その二階が桜花の祖父が運営している錫木流合気道の道場になっていた。
(何なんだよ、一体‥‥!?)
焦燥感にも勝る屈辱感。
勝負の内容はTKОを含めたノックアウト、もしくはタップを奪う事で決着する喧嘩マッチだった。
零美はネックスプリングで起き上がると、すかさず右の跳び蹴りを道着姿の桜花に見舞う。
(立ち技の打撃が通用しないと踏んで跳び技で来ましたか。
しかし、そのような曲芸、真剣勝負には――)
桜花が零美の右足を払い退けようと出した左手が空振った。
眉を顰める桜花、してやったりの表情を浮かべる零美。
(もらいっ! 右足はフェイクなんだよ!)
零美は空中で本命の蹴りを左足で繰り出した。
――が!
ズデ――ン!
「かはっ!」
天上を見たのはまたしても零美だった。
「少々しつこいので、これからは当て身も入れていきます」
そう言うと桜花は長い黒髪を手櫛で梳いた。
「ロミちゃんが、ここまで、相手にならない、なんて‥‥」
正座で観戦していた四人。そんな中、鉄弥が重い口を開いた。
鉄弥の手には試合を止める為の白いタオルが握り締められていた。
「桜花には元々武道の才能もあったんだ。
俺が野球で国立に行くってんで、ソフトボールを選んだんだが――」
「水城くん、それノロケ?」
利治が空気も読まずにニマニマ顔で冷やかすと、隼一の顔が紅潮した。
「そんなんじゃねーよ。
俺はただ、桜花の土俵で戦っている内は縁生に勝ち目がないって事をだな‥‥」
「隼一の言う通り、今のゼロミの技量ではあいつに勝てない」
厄斗が断言した。
「厄斗くんなら勝てる?」
「当然だ、リチ。代わってもいいなら代わるが?」
「ダーメ。この勝負は縁生さんが勝たないと意味ないからね。
――ああ、でも、作戦の指示を与えるとかくらいだったらいいんじゃない」
「指示‥‥か」
厄斗は思考を巡らせた。
自分が勝つなら簡単だ。桜花の対応よりも速く動けばいい、それだけだ。
だが、零美に百%勝たせる策略を伝えるとなるとかなりの難問だ。
繰り出す技の全てが見切られている。ハッキリ言って格というものが違う。
事実、こうしている間にもカウンターで肘を当てられ続けた零美は、床にその片膝を着かされていた。
「タイムだ」
厄斗はおもむろに立ち上がると、闘っている二人に向けて告げた。
「あンだよ、勝負に水を差しやがって」
不機嫌な表情を浮かべながらよろよろと立ち上がる零美。
そんな彼女に厄斗は指を三本立てて告げる。
「お前がアイツに勝てる策は三つだ」
零美は唾を飲み込むと、桜花に視線を合わせる。
「作戦タイムでしたら、どうぞご自由に」
桜花はツンとした態度で零美に伝えた。
「けっ、後悔すんなよ?」
零美は笑みを作った。
明らかな攻め疲れ、それは自身が一番良く理解していた。
零美は少しでも多くのインターバルを取るべく厄斗の元へとゆっくり歩を進めた。
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