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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第十三章 女同士の覚悟
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女同士の覚悟【Bパート】

「‥‥ん‥‥んん‥‥」


 桜花(おうか)厄斗(やくと)()がせた気付け薬に顔をしかめると、やがてその目をゆっくりと開けていった。


「桜花‥‥」


隼一(しゅんいち)、く‥‥ん‥‥?」


 目を開けた桜花は置かれた状況を察してか、上半身をガバッと起こした。

 途端に走る頭痛に似た症状に、桜花は右手でこめかみを押さえる。


「おい、いきなり無理すんな」


 隼一は咄嗟(とっさ)に片膝をつくと、その左腕で桜花の上半身を背中から支えた。


「‥‥これは一体、どういう‥‥?」


「悪い、桜花。どうしてもお前に聞いてほしい話があってな」


「こんなの強引過ぎるよ‥‥」


「でも、こうするしか手がなかったんだ。

 今の俺たちには時間が限られているからな」


「たち‥‥?」


 桜花はここで初めて辺りを見回した。

 自宅の門前に立つ利治(としはる)鉄弥(てつや)零美(れみ)、そして厄斗(やくと)


「あなたはさっきの!?」


 厄斗が目に入るなり警戒色を強める桜花。

 しかし、そんな彼女の気持ちを微塵も気に留めない男が一人いた。


「はじめまして! 僕は仁敷(にしき)利治(としはる)

 キミと同じ中二だよ。よろしく!」


「え‥‥えーと‥‥はあ‥‥」


 目を丸くして呆気(あっけ)に取られる桜花。

 そんな彼女に対し、利治の言葉は続けられる。


「僕たちは公立中だけど野球部を立ち上げたんだ。

 そして国立(こくりつ)の野球部に勝つ為にメンバーを現在募集中ってところ。

 キミの事は水城(みずき)くんから聞いたよ。

 天才ショートなんだってね。僕と三遊間(さんゆうかん)を組んでほしいんだけど、いいよね?」


 厄斗も強引だったが利治もまた強引だ。


「ちょ、ちょっと待ってください。

 いきなりそんな事言われても‥‥」


「時間、どれくらい欲しいかな?」


「仁敷くん‥‥でしたね。

 どれくらいと言われても、私‥‥」


 桜花は利治から視線を外し、袖口を玩具にしながら答えた。


「じゃあ、一週間でどうかな?」


「えーと‥‥」


 グイグイくる利治に桜花は戸惑いの視線を隼一に向けた。


「おい、水城。

 言っちゃ悪いがコイツはダメだ。(あきら)めな」


 零美が冷たい目線で桜花を見下ろした。


「なっ!?」


 厄斗を除く一同が驚きの声を上げた。


「賢いヤツは使える。バカなヤツも使いようによっちゃ使える。

 でも、グズだけはダメだ。

 ましてやメンタル紙風船の引きこもりちゃんだぜ?

 コイツは使いモンになんねぇ」


 零美は視線を隼一に移すと、右手の親指で桜花を指して告げた。


「あ、あなたにそこまで言われる筋合いはありません!」


 キッと零美を睨み返す桜花。


「あンだよ? やんのか、オラ?

 やる度胸ナシ子ちゃんのクセにイキってんじゃねーよ」


 口端(くちは)を上げる零美。その目は完全に桜花を見下していた。


「先程の言葉の撤回を求めます」


「ふぅ~ん。撤回して欲しけりゃ力づくで来な。

 勝負方法は何でもいいぜ」


 零美は完全に()め切っていた。

 強く出れば桜花は次第に次第にしどろもどろになっていく、そう確信していた。


「もうよせ、縁生(へりうむ)


 隼一が割って入るが、それを制するかのように自身の腕を水平に伸ばす桜花。


「――何でも、と(おっしゃ)いましたね?」


 桜花は黒いオーラを(まと)わせながら零美に問い掛けた。

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