女同士の覚悟【Bパート】
「‥‥ん‥‥んん‥‥」
桜花は厄斗が嗅がせた気付け薬に顔をしかめると、やがてその目をゆっくりと開けていった。
「桜花‥‥」
「隼一、く‥‥ん‥‥?」
目を開けた桜花は置かれた状況を察してか、上半身をガバッと起こした。
途端に走る頭痛に似た症状に、桜花は右手でこめかみを押さえる。
「おい、いきなり無理すんな」
隼一は咄嗟に片膝をつくと、その左腕で桜花の上半身を背中から支えた。
「‥‥これは一体、どういう‥‥?」
「悪い、桜花。どうしてもお前に聞いてほしい話があってな」
「こんなの強引過ぎるよ‥‥」
「でも、こうするしか手がなかったんだ。
今の俺たちには時間が限られているからな」
「たち‥‥?」
桜花はここで初めて辺りを見回した。
自宅の門前に立つ利治、鉄弥、零美、そして厄斗。
「あなたはさっきの!?」
厄斗が目に入るなり警戒色を強める桜花。
しかし、そんな彼女の気持ちを微塵も気に留めない男が一人いた。
「はじめまして! 僕は仁敷利治。
キミと同じ中二だよ。よろしく!」
「え‥‥えーと‥‥はあ‥‥」
目を丸くして呆気に取られる桜花。
そんな彼女に対し、利治の言葉は続けられる。
「僕たちは公立中だけど野球部を立ち上げたんだ。
そして国立の野球部に勝つ為にメンバーを現在募集中ってところ。
キミの事は水城くんから聞いたよ。
天才ショートなんだってね。僕と三遊間を組んでほしいんだけど、いいよね?」
厄斗も強引だったが利治もまた強引だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。
いきなりそんな事言われても‥‥」
「時間、どれくらい欲しいかな?」
「仁敷くん‥‥でしたね。
どれくらいと言われても、私‥‥」
桜花は利治から視線を外し、袖口を玩具にしながら答えた。
「じゃあ、一週間でどうかな?」
「えーと‥‥」
グイグイくる利治に桜花は戸惑いの視線を隼一に向けた。
「おい、水城。
言っちゃ悪いがコイツはダメだ。諦めな」
零美が冷たい目線で桜花を見下ろした。
「なっ!?」
厄斗を除く一同が驚きの声を上げた。
「賢いヤツは使える。バカなヤツも使いようによっちゃ使える。
でも、グズだけはダメだ。
ましてやメンタル紙風船の引きこもりちゃんだぜ?
コイツは使いモンになんねぇ」
零美は視線を隼一に移すと、右手の親指で桜花を指して告げた。
「あ、あなたにそこまで言われる筋合いはありません!」
キッと零美を睨み返す桜花。
「あンだよ? やんのか、オラ?
やる度胸ナシ子ちゃんのクセにイキってんじゃねーよ」
口端を上げる零美。その目は完全に桜花を見下していた。
「先程の言葉の撤回を求めます」
「ふぅ~ん。撤回して欲しけりゃ力づくで来な。
勝負方法は何でもいいぜ」
零美は完全に舐め切っていた。
強く出れば桜花は次第に次第にしどろもどろになっていく、そう確信していた。
「もうよせ、縁生」
隼一が割って入るが、それを制するかのように自身の腕を水平に伸ばす桜花。
「――何でも、と仰いましたね?」
桜花は黒いオーラを纏わせながら零美に問い掛けた。
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