門前払い【Bパート】
「あ、えーと‥‥国立で幼稚舎から一緒だった水城と言いますが、桜花さんはいらっしゃいますか?」
隼一は脳内で幾度となくシミュレートしてきた台詞をマイクに向かって発した。
「桜花お嬢様にどういったご用件でしょうか?」
矢継ぎ早に女性の声が想定通りの質問を返してきた。
「今度、曲川に越して来たもので、久しぶりに挨拶にと思いまして」
隼一の思惑ではここで少々お待ちをという言葉を返され、暫く待たされた後、門が開けられる予定だった。
しかし、現実は甘くはなかった。
「誠に恐れ入りますが、お嬢様は誰にもお会いになりたくないとの事ですので、お引き取り下さい」
交渉する前に門前払い。これには隼一も焦った。
「えっ、ちょっと待って下さい! 桜花さんとは昔馴染みで――。
隼一‥‥水城隼一が来たと言えばわかってもらえると思います!」
頭の中が真っ白になりながらも懸命に食い下がるが、
「お引き取りを」
マイク先の女性は冷酷な言葉を繰り返した。
「隼一、ここは拙者に任せろ。
このような脆弱な門、爆破する事など容易い」
どこから取り出したのかは不明だが厄斗の手にはプラスチック爆弾らしき物が握られていた。
「こらこら、問題を大きくするな!」
隼一のお咎めで厄斗は危険なアイテムを引っ込めた。
「開けろっつんてんだよ、このヤロー!」
その脇では短気な天然危険物が門をゲシゲシと蹴っている。
「おいコラ、やめろ、縁生!」
「や、やめて、ロミちゃん!」
隼一と鉄弥が二人掛かりで零美を門から引き剥がした。
誰もが門から離れた隙を、どストレート・ネゴシエーターが見逃すはずがなかった。
「ああ、すいません、お姉さん。一つ伝言いいですか。
僕たちと野球をしないかと桜花さんに伝えて下さい」
マイクで話す利治。
聞いてしまった以上、伝える他は無い女性は、
「伝言につきましては承りましたので、どうかお引き取りを」
と答え、一方的にマイクを切った。
最低限の条件は呑んでもらえたとは言え、『あまりにも』な対応。
隼一も零美も怒り心頭な利治を想像していた。
だが、おもむろに振り向いた利治はにっこり笑っていた。
「さてと、厄斗くん。ちょっと早いけどキミの出番だよ」
「拙者の?」
利治の発した言葉の意を訊き返す厄斗。
「お姫様をさらって来てくんない」
しれっと大それた指令を出す牡羊座に目が点になる隼一、鉄弥、零美。
「手段はお任せで構わないか、リチ?」
「うん、キミに一任するよ。
――あ、でも、出来れば無傷でね」
「条件は承知した。
行っても構わないか、隼一?」
厄斗にとって仕える主はあくまで隼一だ。
「こうしてても埒が明かないしな。
昔と変わってなければ桜花の部屋は二階の一番奥だ。
かなり荒っぽい手段だがイチかバチか‥‥頼む、厄斗」
「御意」
そう答えるや否や、厄斗は人外の身軽さで軽々と門を超えていった。
「アイツ、すげーな。何だか忍者みたいだ」
零美は呆気に取られたような表情で呟いた。
(えっ、今更?)
六號とのバトルを見ていた利治たちは零美の反応が新鮮に感じた。
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