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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第十二章 門前払い
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門前払い【Bパート】

「あ、えーと‥‥国立(こくりつ)で幼稚舎から一緒だった水城(みずき)と言いますが、桜花(おうか)さんはいらっしゃいますか?」


 隼一(しゅんいち)は脳内で幾度となくシミュレートしてきた台詞(せりふ)をマイクに向かって発した。


「桜花お嬢様にどういったご用件でしょうか?」


 矢継(やつ)(ばや)に女性の声が想定通りの質問を返してきた。


「今度、曲川(くまがわ)に越して来たもので、久しぶりに挨拶にと思いまして」


 隼一の思惑ではここで少々お待ちをという言葉を返され、暫く待たされた後、門が開けられる予定だった。

 しかし、現実は甘くはなかった。


「誠に恐れ入りますが、お嬢様は誰にもお会いになりたくないとの事ですので、お引き取り下さい」


 交渉する前に門前払い。これには隼一も焦った。


「えっ、ちょっと待って下さい! 桜花さんとは昔馴染みで――。

 隼一‥‥水城(みずき)隼一が来たと言えばわかってもらえると思います!」


 頭の中が真っ白になりながらも懸命に食い下がるが、


「お引き取りを」


 マイク先の女性は冷酷な言葉を繰り返した。


「隼一、ここは拙者に任せろ。

 このような脆弱(ぜいじゃく)な門、爆破する事など容易(たやす)い」


 どこから取り出したのかは不明だが厄斗(やくと)の手にはプラスチック爆弾らしき物が握られていた。


「こらこら、問題を大きくするな!」


 隼一のお(とが)めで厄斗は危険なアイテムを引っ込めた。


「開けろっつんてんだよ、このヤロー!」


 その脇では短気な天然危険物が門をゲシゲシと蹴っている。


「おいコラ、やめろ、縁生(へりうむ)!」

「や、やめて、ロミちゃん!」


 隼一と鉄弥(てつや)が二人掛かりで零美(れみ)を門から引き剥がした。

 誰もが門から離れた隙を、どストレート・ネゴシエーターが見逃すはずがなかった。


「ああ、すいません、お姉さん。(ひと)つ伝言いいですか。

 僕たちと野球をしないかと桜花(おうか)さんに伝えて下さい」


 マイクで話す利治(としはる)

 聞いてしまった以上、伝える他は無い女性は、


「伝言につきましては(うけたまわ)りましたので、どうかお引き取りを」


 と答え、一方的にマイクを切った。

 最低限の条件は呑んでもらえたとは言え、『あまりにも』な対応。

 隼一も零美も怒り心頭な利治を想像していた。

 だが、おもむろに振り向いた利治はにっこり笑っていた。


「さてと、厄斗くん。ちょっと早いけどキミの出番だよ」


「拙者の?」


 利治の発した言葉の意を()き返す厄斗。


「お姫様をさらって来てくんない」


 しれっと大それた指令を出す牡羊座に目が点になる隼一、鉄弥、零美。


「手段はお任せで構わないか、リチ?」


「うん、キミに一任(いちにん)するよ。

 ――あ、でも、出来れば無傷でね」


「条件は承知した。

 行っても構わないか、隼一?」


 厄斗にとって仕える(あるじ)はあくまで隼一だ。


「こうしてても(らち)が明かないしな。

 昔と変わってなければ桜花(おうか)の部屋は二階の一番奥だ。

 かなり荒っぽい手段だがイチかバチか‥‥頼む、厄斗」


御意(ぎょい)


 そう答えるや否や、厄斗は人外の身軽さで軽々と門を超えていった。


「アイツ、すげーな。何だか忍者みたいだ」


 零美は呆気(あっけ)に取られたような表情で(つぶや)いた。


(えっ、今更?)


 六號(ろくごう)とのバトルを見ていた利治たちは零美の反応が新鮮に感じた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャラクターの個々の性格が面白く出されていていいですね。
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