門前払い【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「悪っりぃ、遅れちまって!」
五月三日、白いシャツと濃紺のカーゴパンツというスポーティな私服姿の零美が駆けながら既に集合している隼一たちに詫びた。
零美に限らず、他のメンツも皆私服だった。一人だけコスプレ紛いの忍者がいるが。
「あと十分遅かったら置いて行くところだったよ」
利治がむくれた顔をしながら文句をたれる。
「仕っ方ねぇだろ、年下の面倒を見なきゃいけねぇ立場なんだから‥‥」
頭を掻きながら照れくさそうに告げる零美に微笑む鉄弥。
「ロミちゃん、昔っから、面倒見、良かった、よね」
「う‥‥うっせぇ。
――ほら、とっとと行こうぜ」
「隼一、場所はここから近いのか?」
厄斗が視線を向ける。
「いや、近くもないな。ここから歩いて四十分ちょいって感じたからな」
「全然近いじゃん」
「全然、近い、よ?」
「全然近けぇぜ」
「全然近いな」
平然とユニゾンで答える四人に、
「曲川市民と八丈島島民の距離感が異常なんだよ!」
隼一はツッコまざるを得なかった。
故に途中までバスで行こうという提案は喉元に押し込めた。
● ● ●
「ここだよ、錫木ん家は」
隼一は錫木家の前で立ち止まると、ナビで使用していたアプリを閉じた。
「す、すごく、広いん、だね。塀も、高いし」
「まあな。
俺もガキの頃に一度だけ来た事があるけど、そん時は驚いたな。
まるで時代劇のお代官様のお屋敷みたいでさ」
懐かしそうに大きく頑丈そうな門を見つめる隼一。
「庭でキャッチボールが出来そうだね」
「こんな豪邸に住んでるって、親はどんな悪いコトしてんだよ?
きっとドーベルマンとか放し飼いしてんだぜ」
「忍び甲斐があるな‥‥」
好き勝手言っている三人。
「お前ら、目的は引きこもりを立ち直らせて仲間に加える事だぞ。
わかってるよな?」
隼一は緊張した面持ちで釘を刺した。
「おっと、そうだったね。すっかり忘れてた」
おい、牡羊座。
「ああ、アタシも」
お前もか、牡羊座その2。
「んじゃ、ピンポン鳴らすぞ?」
「うん、鳴らしちゃってくんない」
利治がにこやかに呼応する。こいつには緊張感というものが微塵も無いのか。
「じゃあ、押すぞ」
「う、うん、お願い、する、よ」
鉄弥は隼一以上に緊張しているように見受けられた。
「本当に押すからな」
「いいから、とっとと押せっての!」
気の短い牡羊座女は隼一の右手をむんずと掴むと、伸ばしていた人差し指を門柱に取り付けられていたインターホンの呼び鈴ボタンに押し当てた。
が、ピンポーンという音は聞こえない。
「鳴った?」
「うんにゃ、聞こえなかったぜ」
「壊れて、いるの、かな?」
「いや、確かに鳴った。遥か遠方で」
聴力が異常発達している厄斗以外には聞こえなかったようだ。
と、次の瞬間、
「はい、錫木です。どちら様でしょうか?」
インターホンのマイク部分から女性の声が響いた。
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