無理難題【Cパート】
「何か俺に話があるのか?」
六號は取り敢えず話を聞く姿勢を取った。
「野球部の明日の練習はナシでお願いします。
僕たち、新入部員になる子の説得に行かなくちゃいけないんで」
利治の事後報告に、またかという表情を浮かべる六號。
「行くなとは言わん。
学校を無断欠席されるよりは幾ばくかはマシだからな」
六號の答えにガッツポーズをする利治と隼一、零美。
「ただし!」
六號の付け足し台詞に固まる一同。
「もし連休明け、今日出された宿題を忘れて来たら、その週は各教科とも宿題の量を倍にしてもらうからそのつもりでいろ」
「ええ――っ!」
これには蒼ざめる利治と隼一、厄斗。
「ドサッと出されたあの宿題を全部やれってか‥‥?」
宿題をパスする常習犯となっていた隼一はガクリと膝を着いた。
「無理難題だよ‥‥。こんなの脳みそへの暴力だ‥‥」
一拍遅れて利治と厄斗も膝を着いた。
「ご愁傷様。にひひ」
三人を尻目に笑う零美。
「縁生、何を笑っている?
当然ながらこの件は、お前と地波の中学の先生方にも通達しておくからな」
「うげっ!? そりゃねーよ、渡センセー‥‥」
零美も血の気の引いた顔で膝を着いた。
「ではな、俺は帰る。
お前らも遅くならないうちに早く帰れ」
魂の抜け殻状態の四人とあたふたしている鉄弥の脇を通り、六號は曲川駅へと歩を進めた。
「み、みんな、気をしっかり‥‥」
鉄弥が必死に声を掛ける。
「‥‥地波‥‥お前、良く立っていられんなぁ‥‥」
かすれた声で隼一が問う。
「えっと‥‥僕は、宿題‥‥忘れた事、ない、から」
鉄弥の答えに四人の目がギラりと光る。
そして幽鬼のようにゆらりと立ち上がると、
「嘘をつくな――っ!」
鉄弥に対して一斉に指さし、疑惑の声を上げた。
「う、嘘じゃ、ないんだ、けど‥‥」
おろおろする鉄弥。
「宿題を全部こなせるなんて、完璧超人か、お前は!?」
隼一が咆哮した。
「キミは仲間だと思ってたのに、ひどいや!」
利治が錯乱したかのように糾弾する。
「昔っからテメェはいい子ちゃんだったよな」
零美が冷笑を浮かべて腕を組む。
「公立中で出される連休前の宿題についての情報は聞き及んでいた。
――だが、あの物量を終わらせられる人間が実存しようとは‥‥。
拙者にはどうしても信じられない!」
厄斗がギロリと睨みつける。
「ええっ!?
‥‥えーと‥‥じゃ、じゃあ、みんなで、部活の後、集まって宿題したら、どう、かな?
少しなら、僕が、教えられる、かも‥‥」
鉄弥の提案に、暫し呆然とする四人。
沈黙が流れるが、
「よろしくお願いします!」
腰を九十度に曲げた四人の声が夕闇を劈いた。
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