ブランク【Cパート】
「いいぜ。
――だが、一つ条件がある」
玄夢は利治に物言いを付けた。
「何かな?」
「テメェと水城がグルになってる可能性があるからな。
だから、テメェへの打球は俺が出す」
「えっ、いいの?」
利治の言葉に目を丸くする玄夢。
「どういう意味だ?」
「守ったり打ったりしちゃ、疲れちゃうかなと思って。
だって、かなりのブランクがあるんだよね?」
「ブランクだぁ? ヘン、そんなもん、いいハンデだ」
「そうなんだ。すごいね、いい遺伝子ってヤツは」
(そうだ、俺には国が認めた遺伝子がある!
こんなヤツに負ける訳がねぇ!)
玄夢はそう言い聞かせる事で自分を奮い立たせた。
自信! 誇り! 実績!
そう、負ける要素は微塵もない。
そして玄夢は自分の守備範囲の丸を描き終えた。
丸は利治の物よりも明らかに小さいが、それは、
(あんな守備範囲、あり得ねぇ。どうせハッタリだろう。
それに対抗して俺に更にでけぇのを描かせようっていう魂胆が見え見えなんだよ!)
玄夢のクレバーさを物語っていた。
「勝負は一回の攻撃で十球ずつでいいな?」
隼一が二人に問う。
「何球でも僕は構わないよ!」
「俺の方も問題ない。
こんなくだらねぇ勝負、ちゃっちゃと終わらせねぇとな」
「だったらさ、紫電くんが先にノッカーをやりなよ」
利治の提案に玄夢の口端が思わず上がった。
「その言葉、後悔すんなよ?」
「僕は生まれてから一度も後悔なんてした事がないんだよね」
牡羊座は胸を張って答えた。
(フン、でけぇ事を抜かしてられんのも今の内だけだ。
三球だ。三球で終わらせてやる!)
● ● ●
勝負は始まった。
スカ――――――ン!
玄夢が選んだのは木製バット。その乾いた打球音が軟球を鋭く飛ばす。
しかも、コースは玄夢の狙い通り、打者から見て丸の左端。
ブランクを感じさせないその一打に玄夢は思わず口端を上げた。
パシッ!
が、利治はその打球を真正面で捕球する。
(なっ!? あの打球を真正面で、だと!?)
驚愕する玄夢。
「ねえ、早く次を打ってよ。
――それとも、もう疲れちゃったとか?」
利治の言葉にカチンと来る玄夢。
「抜かせ!」
スカ――――――ン!
今度は逆方向に打ち放たれた。それは、またも丸の端ギリギリに入る痛烈な一打。
しかし――
パシッ!
利治は平然と真正面で捕る。
(何なんだ、アイツは!?)
玄夢の背筋に寒いものが駆け抜けて行った。
感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。




