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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第十章 ブランク
32/52

ブランク【Cパート】

「いいぜ。

 ――だが、一つ条件がある」


 玄夢(くろむ)利治(としはる)に物言いを付けた。


「何かな?」


「テメェと水城(みずき)がグルになってる可能性があるからな。

 だから、テメェへの打球は俺が出す」


「えっ、いいの?」


 利治の言葉に目を丸くする玄夢。


「どういう意味だ?」


「守ったり打ったりしちゃ、疲れちゃうかなと思って。

 だって、かなりのブランクがあるんだよね?」


「ブランクだぁ? ヘン、そんなもん、いいハンデだ」


「そうなんだ。すごいね、いい遺伝子ってヤツは」


(そうだ、俺には国が認めた遺伝子がある!

 こんなヤツに負ける訳がねぇ!)


 玄夢はそう言い聞かせる事で自分を奮い立たせた。

 自信! 誇り! 実績!

 そう、負ける要素は微塵もない。


 そして玄夢は自分の守備範囲の丸を描き終えた。

 丸は利治の物よりも明らかに小さいが、それは、


(あんな守備範囲、あり得ねぇ。どうせハッタリだろう。

 それに対抗して俺に更にでけぇのを描かせようっていう魂胆(こんたん)が見え見えなんだよ!)


 玄夢のクレバーさを物語っていた。


「勝負は一回の攻撃で十球ずつでいいな?」


 隼一が二人に問う。


「何球でも僕は構わないよ!」


「俺の方も問題ない。

 こんなくだらねぇ勝負、ちゃっちゃと終わらせねぇとな」


「だったらさ、紫電くんが先にノッカーをやりなよ」


 利治の提案に玄夢の口端(くちは)が思わず上がった。


「その言葉、後悔すんなよ?」


「僕は生まれてから一度も後悔なんてした事がないんだよね」


 牡羊座は胸を張って答えた。


(フン、でけぇ事を抜かしてられんのも今の内だけだ。

 三球だ。三球で終わらせてやる!)


 ● ● ●


 勝負は始まった。


 スカ――――――ン!


 玄夢が選んだのは木製バット。その乾いた打球音が軟球を鋭く飛ばす。

 しかも、コースは玄夢の狙い通り、打者から見て丸の左端。

 ブランクを感じさせないその一打に玄夢は思わず口端(くちは)を上げた。


 パシッ!


 が、利治はその打球を真正面で捕球する。


(なっ!? あの打球を真正面で、だと!?)


 驚愕(きょうがく)する玄夢。


「ねえ、早く次を打ってよ。

 ――それとも、もう疲れちゃったとか?」


 利治の言葉にカチンと来る玄夢。


「抜かせ!」


 スカ――――――ン!


 今度は逆方向に打ち放たれた。それは、またも丸の端ギリギリに入る痛烈な一打。

 しかし――


 パシッ!


 利治は平然と真正面で捕る。


(何なんだ、アイツは!?)


 玄夢の背筋に寒いものが駆け抜けて行った。

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