ブランク【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「結局、お前のお眼鏡に止まるヤツは縁生以外に現れなかったな」
隼一が練習の片付けをしながら利治に語り掛けた。
「そうだね。毎日数人は来てくれるけど、戦力になりそうな人はなかなか、ね。
日曜日の今日なら一人ぐらいいい選手が来てくれると思ったんだけどなぁ」
「ニ、ニッキ―‥‥この際、ハードル、下げ、たら?」
ベースを運んでいる鉄弥が提案する。
「ダメだよ。僕たちの目標は難度が高いんだから、そこで妥協しちゃあ」
「でもよ、とっとと人数集めて、そっから選んだ方が良かねぇか?
だって野球は十五人‥‥だっけ? そんだけいねぇとダメなんだろ? 知らんけど」
今度は野球素人の零美の提案だ。
「ゼロミ、野球は九人で一チームだ。――と、辞書に書いてあった」
厄斗が利治に代わってツッコミを入れた。
「ベンチ入りは二十人までだから十八人は集めたいなぁ。紅白戦も出来るしね。
でも、何か『コレ』っていう技量がない人は入れたくないんだよ」
利治が理想を掲げた。
「――まあ、仁敷の言いたい事はわかる。
何たって国立のヤツらをぶっ倒すんだ、半端な戦力じゃ勝ち目はない」
隼一は体育倉庫に軟球の詰まった篭を運び終えると右肩を回しながら語った。
「ねえ、水城くん。君と、同じ境遇の子って、いないの、かな‥‥?
野球、やりたいのに、辞めさせられた、子」
鉄弥が質問を投げ掛けてきた。
「そりゃあ、いるさ。
多くは故障したか、才能の目が出なかったヤツだな。
――だけど‥‥」
「だけど?」
他の全員がユニゾンでオウム返しした。
「悪い、俺ずっとS級クラスだったからAAA級クラス以下のヤツとは知り合えなかったし、実のところ故障したヤツともあまり接点がなかったんだ」
「そっかぁ‥‥。
地波くんのアイディア、なんかこう、キラッとした光明が見えたんだけどなぁ」
残念そうに呟く利治。
「あ、いや、待てよ。
一人‥‥いや二人、心当たりがある」
「二人も!? どんな子なんだい?」
目を輝かせながら尋ねる利治に、隼一は目線を外す。
「ああ、うん、それが‥‥二人とも難しいっつうか‥‥」
「歯切れが悪りぃなぁ。男ならハッキリ喋りやがれ!」
零美が隼一の背中を景気よくパーンと平手で叩く。
「あ痛てっ! ったく、乱暴だな、お前は」
「乱暴で悪かったな。
――で、そのムズかしい野郎は誰なんだよ?」
「ああ、そうだったな」
隼一は間を取り咳払いを一つ、言葉を続けた。
「‥‥一人は紫電玄夢という男なんだが‥‥」
明らかに隼一は喋りにくそうだった。
「で、どんな選手だったの? ポジションは?」
空気を読まない牡羊座はグイグイと来る。
「学年は俺と同じでポジションはサード。まあ、一学年上に鉄壁の先輩がいたんでレギュラーは取れてなかったんだが、打撃、守備、走塁、どれを取っても申し分のないヤツだった。
だけど‥‥親がアレだったのが発覚して即、退学させられたんだ」
「アレ?」
全員視線が隼一に集まる。
「反社会的勢力ってヤツだよ。ヤツの父親がその一員だったんだ。
国立はそういうのに対して厳しいからな」
「ンなもん、縁を切っちゃえば済む話じゃなかったの?」
利治が首を傾げて問う。
「反社の遺伝子ってモノが付きまとうから、そうもいかないんだよ」
「犯罪者の遺伝子もそうなんだよな、確か‥‥」
零美が神妙な面持ちでトーンを落として言った。
「ああ。何せクリーンな未来を創造するってのがモットーの学校だからな。
なあ、仁敷。お前だって親が反社のヤツを入れるのには抵抗あるんじゃないのか?」
「ううん、微塵も」
間髪入れずにあっけらかんと答える利治に、隼一は拍子抜けした。
更に利治は言葉を続ける。
「だってその子、何も悪い事をしてないじゃん。
それを追い出すなんて、あったま悪いとしか思えないなぁ。
――で、どこにいるんだい、その紫電くんは?」
近場なら今すぐにでも行きそうなオーラを発する利治に、隼一はため息を一つ。
「群馬の多賀碕って所に帰ったって話だ。
住所までは知らないが、携帯の番号なら」
「教えて!」
「ちょっと待て、お前が掛けるのか?」
初対面以前の相手に電話を躊躇なく掛けようとする勇者に隼一は戸惑った。
「欲しいものを手に入れるんだから当然だよ」
隼一は言い出したら聞きそうもない牡羊座に電話番号を教えた。
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