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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第九章 雨上りの夜空の下で
29/52

雨上りの夜空の下で【Dパート】

「あぐっ!」


 二十球目、ビニールボールがロミの顔面に命中する。

 ここまでまだ一球も迎撃に成功していないロミは焦っていた。

 それに加え、もう既に敗北が決定している事もメンタルに大きく影響していた。


「ロミちゃん、も、もう、下がって!」


 耐え切れず鉄弥(てつや)が叫ぶ。


(駄目だよ、鉄。

 ここで下がったらアタシがアタシで無くなる)


 ビシッ!


 ノッカーくんは容赦なく次の球を打ち込む。


「うぐっ!」


 今度は鳩尾(みぞおち)にヒットした。

 さすがのロミも気が揺らぐ。


「どう? ギブアップする?」


 利治(としはる)が彼なりの気遣いを見せる。


「誰が!? 最後までやり通す、アタシは!」


「そう言うと思った」


 そう言い終わるや否や二十二球目が打ち放たれた。


 ● ● ●


 ロミの集中力は完全に切れていた。

 身体(からだ)に蓄積されたダメージ量は規定を超えていたからだ。

 たかがビニールボールと言うなかれ、ノッカーくんによる至近距離から打ち放たれたそれはスイカをも割る程の威力となる。言うなれば丸くて柔らかい鞭のようなものだ。


「次が最後の一球だよ。

 これが捕れなかったら僕たちのパーフェクト勝ちだね」


 利治が敢えて挑発的な言葉を浴びせる。


「パーフェクト勝ちなんか‥‥させるもんか!」


 ロミの闘志が再点火した。


 ビシッ!


 ノッカーくんのバットが二十七球目となるビニールボールを打ち放つ。

 否やロミは不思議な感覚に包まれる。

 その視覚にはボールがあたかもスローモーションで飛んでくるかのように感じられた。

 所謂(いわゆる)ゾーン状態に入ったのだ。


「やあっ!」


 バシッ!


 ロミの左ストレートがビニールボールを捕らえ、弾き返した。


(なんだ、今のは‥‥?)


 当てた当人が信じられないといった表情で左の拳を見つめる。


「あーあ、パーフェクト勝ち、逃しちゃった。

 ――でも、最後はいいパンチだったね」


 利治がロミに歩み寄る。


「なんか覚醒したって感じだぜ」


 ロミはそう言うと目の前の小さな体躯(たいく)に対し口端(くちは)を上げた。


「ねえ、キミは(なん)で強さを求めてるんだい?」


(なん)でって、そりゃあ‥‥なんつーか、国立(こくりつ)に入れなかったモンはスポーツ選手になれねぇって時代にクサクサしてただけだ」


「ならさ、僕たちに手を貸してくれない?」


「えっ?」


 きょとんとした顔つきで利治を見つめるロミ。


「僕たちは、いずれ国立(こくりつ)の野球部をぶっ倒すよ。

 その日の為に公立中で部活をやっているんだから。

 ――でも、なかなかメンツが集まらなくてね」


「公立で部活だぁ?

 正気か、お前? 捕まるぞ、マジで」


 違法アップロード撲滅のキャッチコピーのような台詞(せりふ)でロミは警告した。


「まあ、その辺は上手(うま)くやるさ」


「‥‥国立(こくりつ)のヤツらをぶっ倒す、かぁ。

 ぶっ倒したら気持ちいいだろうなぁ、人生が変わるくれぇに。

 ――お前の目標、でけぇな。うん、でけぇよ!

 アタシには到底思いつかねぇ発想だ」


 ロミは頭の中にあったモヤモヤが吹き飛んだように感じられた。

 そして天を仰ぐと、木々の枝の隙間から星の海が見えた。


「どうかな?」


 ロミは姿勢を戻し、真摯(しんし)な眼差しを向ける牡羊座を見つめる。


「アタシで良ければ力になってやるよ。

 ‥‥まあ、野球についてはド素人だけどな」


「僕は扶士宮(ふじみや)中二年、仁敷(にしき)利治(としはる)

 野球部のキャプテンだよ。よろしく!」


 利治はロミに右手を差し出した。


「アタシは沙羅木(さらき)中二年、縁生(へりうむ)零美(れみ)

 あだ名はゼロミ、もしくはロミだ。よろしく!」


 今、地上で二つの牡羊座の手が合わさった。

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