雨上りの夜空の下で【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「みんな聞いて。昨日の夜、ネットでメンバーを募集したよ!」
四月二十六日、天気は雨という事もあり、部の練習は体育館で柔軟運動をサーキット形式で行われていた。
そんな中で利治が突然の発表をしてきた。
「ネットで?
まあ、地波みたいに他の中学のヤツが増えても問題はないか」
両膝横倒しという運動をしながら隼一が答えた。
「集まる、と、いいね」
鉄弥が続いた。
「リチ、ネットとは何だ?
網を張って掛かったヤツらを部活に引きずり込むのか?」
厄斗が真顔で尋ねてくる。
「あはは、もう、厄斗くんは冗談ばっかり。
ネットって言ったらインターネットの事に決まってるじゃん」
「なるほど、インターネットの事をネットと略すのか。
――奥が深いな、日本語は」
「深いって程のもんじゃないけどね」
利治は運動をヒップアップに切り替えて返した。
「で、どんな募集を掛けたんだ? 内容は?」
「今、僕たちに足りていないのは何と言ってもバッテリーだろ?
だからね、『強い肩、大募集! 現在、我が野球部には最強の男がいます! 我こそはと思う人は曲川市立扶士宮中のグラウンドまで!』ってコピーで」
「おい、最強の男って、まさか俺の事じゃないだろうな?」
「そんなん、決まってんじゃん、水城くんに。
キミのようなオバケ肩、メジャーでもなかなかいないよ」
そこまで言われたら隼一とて悪い気はしない。むしろ、こそばゆいくらいだ。
「‥‥ノーコンだけどな、俺は」
「リチ、メジャーとは何だ?
巻尺で絞りつけて言う事を聞くまで拘束するのか?」
「あはは、もう、厄斗くんはホント冗談ばっかり。
メジャーって言ったらメジャーリーグの事に決まってるじゃん」
「そうなのか。
――やはり奥が深いな、日本語は」
厄斗はそう言うと、運動をハムストリングス伸ばしに切り替えた。
● ● ●
体育館が使用出来る限界の十八時まで存分に筋力トレーニングに励んだ四人は制服に着替えて外へ出た。
雨は依然降り続いている。そんな中、
「ん!?」
何かを感じ取った厄斗が左手を広げて隼一たちを制した。
「どうした、厄斗?」
「誰かいる。しかも、凄い殺気を放って。
テロリストかもしれない」
厄斗が身構える。おそらく今回武器になるのは右手に差している学校指定の黒い傘であろう。
「落ち着け、厄斗。
ここは日本だ。テロリストなんかがいる訳がないだろ」
制する隼一。
その声を掻き消すように、
「――で、誰だい、最強の男っつうんは?」
ウインドウブレーカー姿の人物は暗がりから姿を現した。
声の感じでは女性だが、身長は隼一と変わらないまでの高さがあった。
「もしかして、ネットを見て来てくれたのかな?」
利治が歓迎ムードで声を上げる。
「ああ、そうさ。
その最強の男を倒しにアタシは来た」
殺気をビンビンに漲らせながら高身長の彼女は言い放った。
茶髪のショートボブ、大きな釣り目は見るからに気の強そうなイメージだ。
「えっ、倒す? 倒すってどういう事?
野球部の仲間になりに来たんじゃないの?」
利治が首を傾げて問う。
「仲間? ハッ、冗談は抜きだ。アタシはいつだって一匹狼なんだよ」
「話がまったく以て見えないぞ。
仁敷、お前の宣伝打ったヤツを見せてくれ」
隼一が利治に問い質す。
「ちょっと待ってて。
えーと‥‥ああ、あった。
――はい、これだよ」
利治はスマートフォンを隼一に見せた。
「‥‥おい、『強い肩』の所、『強い方』に誤字ってるぞ」
これでは道場破り大募集だ。
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