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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第八章 荒業は一日にしてならず
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荒業は一日にしてならず【Bパート】

隼一(しゅんいち)、日本円の一億五千万は何パファーグラドルだ?」


 厄斗(やくと)が真顔で(たず)ねてくるが、


「知らないって」


 と返さざるを得なかった。

 当たり前だ、一介の中学生にパファーグラの通貨のレートなどわかろうはずがない。


「ああ、このロボットはね、変化球の回転を付けた球をバットで打ち返すから実戦っぽい感覚で楽しめるんだよ。

 どう? やってみる?」


 二人のやり取りを無視した形で利治(としはる)が提案してくる。

 と、隼一はパワーアンクルをフル装備状態の足をチラ見した。


「いや、ノックは放課後、先生から受けるから俺はいいや」


 残りの距離を走り切る事を考えれば無難な答えだ。


「何かの修行になるかもしれない。拙者は受けてみる事にする」


 厄斗はそう答えると、彼の言うところの兵装(つわものよそおい)を全て外した。


「何かの修行ってお前、野球の練習以外の何物でもないって」


「野球というものが何か――知るには好都合だ」


 厄斗は利治からグローブを借りた。



「じゃあ、二十球連続で行くよ。準備はいいかな、厄斗くん?」


「いつでも構わない。やるからには最高の打球で頼む」


「えっ、僕が受けてるのと同じ打球になるけど‥‥いいの?

 この距離、前進守備よりもバッターに近いんだけど」


「前進守備?

 とにかく良い修行になりそうだ、構わない」


「うん、わかった。

 ――じゃあ、ノッカーくん、始めて」


 利治の声に反応し、ロボットは起動した。


 カキ――――ン!


 容赦なく守備範囲外の打球が初球から飛ぶ。

 これは六號(ろくごう)から受けたノックの比ではなかった。


 スタ――――ン!


 軟球は神社の外壁に当たる。

 厄斗もスタートを切り、人外の速度で追ったが、わずかに届かなかった。


(見てから反応したのではまず捕れない。

 これをリチは真正面で捕れるのか)


 驚愕(きょうがく)する厄斗。

 そんな厄斗に向けて次の打球が放たれる。


 スタ――――ン!


 ● ● ●


 結局、厄斗は一球も捕る事は出来なかった。


「リチ、お前はどうして捕れる?

 拳銃の弾丸なら銃口と相手の目の動きで(かわ)せるが、これはどこに飛んでくるか予測が立たない」


 厄斗はグローブを手から外しながら利治に(たず)ねた。


「拳銃? キミにはそんな経験があるの?」


 牡羊座は平気な顔で質問を質問で返した。


「八丈島では日常茶飯事だからな」


 動揺などおくびも出す事なく答える厄斗。


「へえ、そうなんだ。

 ――ああ、僕がどうやってボールを捕っているか、だったね。

 バットとボールが当たった瞬間に打球が飛ぶ位置へ走れば間に合うんだけど‥‥これは上手く説明出来ないなぁ。なんたって経験だからね」


「経験則か‥‥。

 野球とは奥が深い球技だな」


 厄斗はグローブを利治に返すと(しば)し考え込んだ。


「真似しようとして出来るもんじゃないな、仁敷(にしき)の技術は。

 俺のいた国立(こくりつ)の野球部にもそんな事が出来るヤツはいないよ」


「僕には優れた遺伝子が無いからね。

 国立(こくりつ)の子だったら十の努力で五か六くらいの結果が出せるんだろうけど、僕の場合、百の努力で二ぐらいの結果しか出せないし」


「Тポイントかよ!?」


 思わずツッコミを入れる隼一。


「あはは、そうだね!」


 屈託もなく笑う利治。


(ああ、こいつはТポイントだけで誰にも得られない荒業をゲットしたんだな)


 朝陽が描く木漏れ日の中で、隼一は信念と努力の塊のような利治を(たくま)しく感じた。

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