荒業は一日にしてならず【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「ジョギング? 隼一は何も付けずにいつも走っているのか?」
四月二十五日、朝の日課のジョギングに誘われた厄斗が尋ねた。
「ああ、そうだけど?」
「二十キロ程度の兵装を付けた方が良いのではないか?」
「ツワモノヨソオイ?」
「身体に負荷を掛ける為の装具だ」
隼一は忍者の訓練にはそれぐらい必要なのだろうと解釈した。
「負荷ねぇ。
まあ、パワーアンクルくらいなら持ってるけど」
「厄斗はいつもどれぐらいの重さを付けて走ってるんだ?」
「拙者は総計三十キロ程度だ。
リュックサックに砂袋、両手には訓練用に作られた鉄製の模造刀を――」
「いろいろとツッコミたい事はあるけれど、模造刀は職質を受けそうだからやめてくれ」
「職質? そんなもの振り切れば良いだけではないか?」
「お前は振り切れるだろうけど俺には無理だ、社会的に。
どうしても両手に何かを持って走りたいって言うなら俺のダンベルを貸してやるから」
「ダンベルか‥‥。武器としても充分使えそうだな」
「何と戦おうって言うんだよ? この平和な日本で」
「平和な国があんな高性能な‥‥いや、なんでもない」
厄斗の発した台詞は気になるが、訊いたら大変な事になりそうだと直感した隼一はスルーを決め込んだ。
● ● ●
隼一はスマートフォンのマラソンアプリを使い二十キロのコースを選択、ナビに任せてまだ行っていないエリアに向けて走り出した。
が、今日は厄斗の一件があってパワーアンクルをフル装備で臨んだ為、いつもよりペースが出ない。
走り始めてちょうど中間地点に差し掛かった頃、鷹城神社の境内に到達した。
「へえー、こんな所に立派な神社があったんだな」
隼一が御神木を見上げながら厄斗に言った。
「隼一、裏手の方から何やら物音がする」
厄斗の言葉に耳を澄ます隼一。
「本当だ。なんか金属バットで打つ音に似てるな。
行ってみよう、厄斗」
「御意」
カキ―――ン!
鋭い打球音を発していたのはノック専用と思われるロボットだった。
パシッ!
「まだまだ余裕だよ!」
打球を正面で受け止めた声の主は利治だった。
余程集中しているのだろう、隼一たちには全く気付いていない様子だった。
「おーい、仁敷ーっ!」
隼一が声を掛けた。
「ん? ああ、水城くんと厄斗くん!」
カキ――――ン!
更に鋭い打球が利治の左側に飛ぶ。
しかし、
パシッ!
ハッキリ言って守備範囲外の打球だ。
が、利治はいとも容易く真正面で受け止める。
「ノッカーくん、ストップ!」
利治の声に反応してロボットは行動を停止した。
見た目はしょぼいが音声認識機能は搭載されているらしい。
停止を確認すると二人に駆け寄って来る利治。
「朝のジョギングかい?」
「まあ、そんなとこだな。
そんな事より、お前、いつもここで練習してるのか?」
「うん、そうだよ。
ノッカーくんは自走出来ないから神社の倉庫にいつも格納してもらってるんだよね」
「このロボット、リチが造ったのか?」
「あはは、まっさかぁ。
これはね、四歳の時に頭金百円と出世払いで買ったんだよ」
利治は笑いながら厄斗の質問に答えた。
「出世払いって、仁敷‥‥いったいいくらしたんだ?」
「んー‥‥一億五千万‥‥だったかな?」
「一億五千万!?」
隼一が驚きの声を上げた。
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