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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第七章 六號VS厄斗
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六號VS厄斗【Dパート】

「それにしてもベリリウムくん、すごい運動神経だね。

 この調子なら野球もすぐマスター出来るよ」


 練習帰り、利治(としはる)厄斗(やくと)を褒め称えた。


「そうなのか? 自分では良くわからないが」


 無表情で答える厄斗。

 厄斗は感情を表に出さない。

 そういう教育を受けてきたし、それが普通だとも思っていた。


「あ、でも、すごく、楽しそう、だった‥‥よ」


「楽しそう? 厄斗がか?」


 隼一(しゅんいち)は耳を疑った。

 彼には厄斗が淡々と打球をグローブで捕っては鉄弥に投げ返しているだけのように見えたからだ。


地波(ちなみ)くんはね、どんな人の感情も読み解けるんだよ!」


 これが以前、利治が言い掛けていた鉄弥のすごい所なのだと隼一は直感した。


「何で仁敷(にしき)が得意気なんだよ?」


「いいじゃん、だってチームメイトなんだし」


 屈託のない笑みで答える利治に、ツッコミを入れた隼一はバツの悪さを感じた。


「別に誰も悪いなんて言ってないだろうが‥‥。

 ――ところで、何で感情が読み解けるんだ? 超能力か(なん)かか?

 もしかして、あのロボット教師の感情もわかったりするのか?」


 隼一が興味津々(きょうみしんしん)で鉄弥に直接(たず)ねてきた。


「ははっ、超能力、じゃない、よ。

 僕、いじめられっ子、だったから‥‥他人(ひと)の顔色、ばかり見て、いて‥‥。

 ‥‥渡先生の、表情も、わかる、よ。難しい時も、ある、けどね。

 ロボット、だけど、あの先生には、心がある気が、する、よ」


「へえー」


 隼一と利治がユニゾンで感嘆の声を上げた。


「――では、拙者はこちらに向かう」


 校門で一人反対方向に向かう厄斗。


「じゃあね、また明日、ベリリウムくん」


「‥‥拙者は苗字呼びには不慣れだ。

 これからは厄斗と呼べ」


「じゃあ、僕の事も利治って呼んでよ、水城くんを呼ぶみたいに」


「トシハル? どんな漢字を書くんだ?」


「利口の()に治療の()だよ」


「リ‥‥チ‥‥果物みたいだな」


「八丈島じゃリチって果物があるの?」


「そうだ」


 そう答えた瞬間、厄斗は咄嗟(とっさ)に鉄弥に目を向けた。

 すると、そこにはくすっとした微笑みがあった。


(駄目だ、こいつには心を見透かされる)


 心の中で焦った厄斗は、


「では、また明日だ、リチ」


 平然を装い、三人に背を向けて去って()った。


「リチになっちゃったよ、僕。

 なんか、リチウム電池みたいだね、あははは」


 大らかに笑う利治。


 ● ● ●


 ピンポーン!


 その夜、隼一のアパートの呼び鈴が鳴った。


「ん? 誰だよ、こんな時間に?」


 隼一はテレビの前から立ち上がると玄関へ向かった。



「はい、ただ今――」


 隼一は急いでドアを開けると、その目には厄斗が飛び込んできた。


「えっ、厄斗? どうしたんだ、こんな時間に?」


「事情があって、今日からお前と住む事にした」


「はあっ!? 住む事にしたって、お前‥‥どういう事だよ、それって?」


 隼一は()き返した。

 当然だ、何の前振りもなく押し掛け同居を宣告されたのだから。

 それにアパートの契約上、同居人を勝手に増やす訳にはいかない。


「心配は無用だ、ここの大家には既に許可をもらっている。

 あとは隼一の決断だけだ。

 住むに当たっての生活資金も用意出来た」


 そう言うと、厄斗は札束を見せた。


「そんな大金、どうしたんだ?」


「隼一はニュースを観ないのか?

 一ヶ月前に独立したパファーグラの事を知らないのか?」


「パファーグラ?

 ああ悪い、スポーツニュースしか観ないんだ、俺」


 頭を掻きながら答える隼一。


「そうか、まあいい。

 その新政府が発行した紙幣を日本円に換える事がようやく出来るようになった」


 厄斗は手っ取り早く説明した。

 色々とツッコミを入れたい隼一だったが、取り敢えず質問の優先順位第一位を決めた。


(メシ)はもう食ったのか?」


「まだだ」


「チャーハン、これから作るから上がってくれ」


 隼一は厄斗を招き入れた。

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