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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第七章 六號VS厄斗
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六號VS厄斗【Cパート】

「何だ、(ベリリウム)?」


「教師(わたり)、特務兵器六號(ろくごう)――型式:ト六號を知っているか?」


 手を下ろし、厄斗(やくと)が質問を投げ掛けた。


「第二次大戦中に旧日本陸軍の師団が所持していたという、心を持った人型ロボットか。

 話には聞いている。

 南洋の島の籠城戦(ろうじょうせん)で活躍し、陥落させる事なく終戦を迎えたという。

 ――だが、そんなものは作り話だ。時代考証的にあり得ない」


 六號は否定した。


「似過ぎているんだ、お前の顔が。

 これは拙者の師匠、古川(ふるかわ)炭平(たんべい)から譲り受けた写真だ」


 そう言うと、厄斗はどこからとなくセピア色に変色した写真を取り出した。


「古川?」


 写真には若き兵隊が三名で写っていた。

 その中央にいる者は六號にそっくりだった。


「確かに俺に似ているが、別人だ。

 それに古川炭平という人間にも心当たりがない」


「ならば確かめさせてもらう」


 そう言うと厄斗はコンマ何秒で六號の懐に跳び込んだ。


(もらった!)


 そこから右の掌底をアッパーのように(あご)に向けて突き上げた。

 刹那、厄斗の右手に耐え難い衝撃が走った。

 六號が振り下ろした左の掌底が厄斗の掌底と激突したのだ。


(これは烏山忍軍に伝わる防御打撃技、土竜(もぐら)(つぶ)し!?)


 厄斗は確信した。渡六號は紛れもなくト六號であると。

 記憶は何らかの事情で抹消されたのだろうが、身に付けた体術は防衛本能として残ったと推測した。


「今の技、紛れもなく我が流派。

 師匠は宇都宮(うつのみや)にあった師団から南洋戦線に向かったという。

 そしてト六號に体術を教え込んだとも聞いている。

 教師渡、お前は紛れもなくト六號だ」


 どれ程、決まった台詞(せりふ)でも栃木訛りではサマにならなかった。


「仮に俺がその特務兵器だとして、お前の望みは何だ?

 俺の破壊か?」


「違う。

 拙者の同志たちと共に、この腐り切った株式会社日本を転覆させて欲しい」


 厄斗の目は真剣そのものだった。


「転覆させてどうする?

 そんな事をしてみろ、『アラブの春』の二の舞になるぞ」


「ならない! 転覆させれば健全な日本が再生する!

 師匠の言葉は絶対だ!」


 厄斗はどこまでも(かたく)なだった。


「そうか‥‥。

 ならば、お前に大人からの至言を伝えてやろう。

 『絶対という言葉こそが絶対にない言葉だ!』」


「絶対が‥‥絶対にない、だと‥‥!?」


 六號から放たれた精神的グラビトンは、たちまち厄斗に両膝を地に着かせた。

 この瞬間、決着がついた。


「何も国家を転覆させる必要はない。腐った患部だけを除去すればいい。

 俺がこの部の顧問になったのは、それを実現する足掛かりを作る為だ。

 それにはまず、お前たちを全国大会に出場させる為に鍛えねばならない。

 ――それが理解が出来た奴から守備に就け。

 仁敷はサード、水城はセンター、地波はキャッチャー、鈹はセカンドだ」


 よろよろと立ち上がった厄斗が再び挙手をした。


「発言を許す。言ってみろ」


「教師渡‥‥セカンドとはどこだ?」


 六號は丁寧に場所とこれから行う練習内容を厄斗に伝えた。

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