六號VS厄斗【Cパート】
「何だ、鈹?」
「教師渡、特務兵器六號――型式:ト六號を知っているか?」
手を下ろし、厄斗が質問を投げ掛けた。
「第二次大戦中に旧日本陸軍の師団が所持していたという、心を持った人型ロボットか。
話には聞いている。
南洋の島の籠城戦で活躍し、陥落させる事なく終戦を迎えたという。
――だが、そんなものは作り話だ。時代考証的にあり得ない」
六號は否定した。
「似過ぎているんだ、お前の顔が。
これは拙者の師匠、古川炭平から譲り受けた写真だ」
そう言うと、厄斗はどこからとなくセピア色に変色した写真を取り出した。
「古川?」
写真には若き兵隊が三名で写っていた。
その中央にいる者は六號にそっくりだった。
「確かに俺に似ているが、別人だ。
それに古川炭平という人間にも心当たりがない」
「ならば確かめさせてもらう」
そう言うと厄斗はコンマ何秒で六號の懐に跳び込んだ。
(もらった!)
そこから右の掌底をアッパーのように顎に向けて突き上げた。
刹那、厄斗の右手に耐え難い衝撃が走った。
六號が振り下ろした左の掌底が厄斗の掌底と激突したのだ。
(これは烏山忍軍に伝わる防御打撃技、土竜潰し!?)
厄斗は確信した。渡六號は紛れもなくト六號であると。
記憶は何らかの事情で抹消されたのだろうが、身に付けた体術は防衛本能として残ったと推測した。
「今の技、紛れもなく我が流派。
師匠は宇都宮にあった師団から南洋戦線に向かったという。
そしてト六號に体術を教え込んだとも聞いている。
教師渡、お前は紛れもなくト六號だ」
どれ程、決まった台詞でも栃木訛りではサマにならなかった。
「仮に俺がその特務兵器だとして、お前の望みは何だ?
俺の破壊か?」
「違う。
拙者の同志たちと共に、この腐り切った株式会社日本を転覆させて欲しい」
厄斗の目は真剣そのものだった。
「転覆させてどうする?
そんな事をしてみろ、『アラブの春』の二の舞になるぞ」
「ならない! 転覆させれば健全な日本が再生する!
師匠の言葉は絶対だ!」
厄斗はどこまでも頑なだった。
「そうか‥‥。
ならば、お前に大人からの至言を伝えてやろう。
『絶対という言葉こそが絶対にない言葉だ!』」
「絶対が‥‥絶対にない、だと‥‥!?」
六號から放たれた精神的グラビトンは、たちまち厄斗に両膝を地に着かせた。
この瞬間、決着がついた。
「何も国家を転覆させる必要はない。腐った患部だけを除去すればいい。
俺がこの部の顧問になったのは、それを実現する足掛かりを作る為だ。
それにはまず、お前たちを全国大会に出場させる為に鍛えねばならない。
――それが理解が出来た奴から守備に就け。
仁敷はサード、水城はセンター、地波はキャッチャー、鈹はセカンドだ」
よろよろと立ち上がった厄斗が再び挙手をした。
「発言を許す。言ってみろ」
「教師渡‥‥セカンドとはどこだ?」
六號は丁寧に場所とこれから行う練習内容を厄斗に伝えた。
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