六號VS厄斗【Aパート】
この作品は自分に与えられた遺伝子に不満を持たれている全ての方へ捧げます。
「まさか厄斗がこの学校に転校してくるとは思わなかったよ」
隼一が一時限休みに厄斗に話し掛けた。
「転校の話を聞かされた時には少々驚いた」
厄斗の言葉にはどこか硬さがあり、加えて栃木訛りもあり不思議な日本語に聞こえた。
「ところでお前の日本語、少し不自然な感じがするよな。
それはともかく、先生とか目上の人には敬語ぐらい使った方がいいぞ」
「敬語か‥‥。
母国語には敬語の概念がなかったので難しいが、隼一が言うなら努力してみよう」
「母国語?」
怪訝な表情を浮かべる隼一。
「八丈島の方言の事だ、気にするな」
慌てる節も見せず厄斗は平然とそう答えた。
(気にするなって言われてもなぁ)
隼一と話している為、クラスメイトが誰一人として厄斗に声を掛けられない状況だった。
そんな中、男子集団が厄斗の名を呼び手招きをする。
「少々席を外す」
「ああ」
厄斗は男子集団へ向かって歩いて行った。
隼一にはかつて自分が言われたような事を吹き込まれるのだろうと想像が付いた。
「拙者に何か用か?」
厄斗は男子集団に凛と尋ねた。
「拙者って、それ何のキャラ立てだよ? 中二病ってヤツか?」
「ちゅうにびょう?
何だ、それは? 辞書にはそのような日本語は記載されてなかったが?」
「そりゃあ、お前、辞書には載ってねぇだろうけどさ‥‥。
そんな事より、水城と三組の仁敷ってヤツとは付き合わねぇ方がいいぞ」
「それは何故だ?」
「あいつら、部活をやってんだよ。
一般の学校で、ンなモンやったらどうなるか、お前にだってわかるだろ?」
「どうなるんだ? 転校生である拙者には理解不能だ」
真顔で答える厄斗に男子集団は顔を見合わせた。
「‥‥国家転覆罪で義務教育終了後に北海道と九州にある貧乏農場行きになるんだとよ」
厄斗を手招きした男子が代表して説明した。
「貧乏農場?」
「お前、そんな事も知らねぇのかよ?
日本の食料自給率を上げる為に犯罪者や働き口の見つからない中高年やニートなんかを、高い塀に囲まれた農場に押し込めて、タダ同然で働かせてるんだってさ。知らんけど」
説明を聞き終えた厄斗は口端を上げた。
「――なるほど、部活というものをすればそこに入れる訳か」
「入れるってお前、塀の中に入りたいのかよ?」
「別に」
そう言うと厄斗の目がより鋭く変わった。
そこから発せられる気に、男子たちの誰もが背中にゾクりとした何かが走った。
「とにかく、お前、塀の中に入りたくないなら水城と仁敷からは距離を置くんだ。
――いいな?」
「忠告には感謝する」
そう告げると厄斗は自分の席に戻って行った。
そして、
「隼一、お前が望むのなら『部活』とやらに入っても構わないぞ」
開口一番、堂々と宣言した。
一瞬の静寂。
「ええええええええええええ――――っ!?」
クラス中の視線と驚嘆の声が隼一と厄斗に向けて堰を切った鉄砲水の如く押し寄せてきた。
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