忍者を拾った【Bパート】
「行く当てはあるのか?」
翌朝、乾いた忍者装束に身を包んだ厄斗に隼一が玄関の前で尋ねた。
「当て等はない。
だが、この国には拙者の同志たちがいる。そのうちに――」
そこまで言ったところで、
カァーッ!
けたたましい鳴き声を発して飛んで来た一羽のカラスが厄斗の左肩に留まった。
「早速、連絡が来た」
「そのカラス、お前のペットなのか?」
「ペット? ペットとは愛玩動物の事か?」
厄斗は言い回しが古風だ。
「まあ、そういう意味だけど」
「このカラスは忍烏だ。我ら烏山忍軍の遣いをしている。
故に愛玩動物とは違う」
「烏山忍軍?」
「隼一にだけは明かすが、拙者は実は忍者だ」
え、今更?
「へ、へえ‥‥そうだったんだ」
苦笑いを浮かべつつ、右の人差し指で頬をぽりぽりと掻く隼一。
その間、厄斗は忍烏の足に付けられていた小さな手紙を読む。
「次の指令が来たので、拙者はこれにて。
――隼一、一宿二飯、一風呂、一洗濯の恩義は必ず返す。
ではっ!」
そう言うと厄斗はひらりと二階から一階へ飛び下りると、人間とは思えない速さで疾駆して去って行った。
あまりの出来事に、隼一はしばし呆然と立ち尽くした。
● ● ●
それから一時間後、隼一は彼の母、弘子の見舞の為、バスを使い、曲川市の郊外にある呼吸器センターにいた。
「どう、新しい学校には慣れた?」
ベッドから半身を起こしていた弘子が隼一に尋ねた。
「ん~、まあまあかな」
「今まで野球漬けだったのが、急に勉強漬けになったから面食らったかと思った」
「ははっ、まあ、それはあるかな」
「肩さえ壊さなければ、ずっと続けられていたかも知れないのにね」
「階段から落ちてやっちまったんだから、運命だと思ってるよ。
国立から追い出されたにも関わらず、国が母さんの入院費と俺の生活費を出してくれるんで助かっているよ。まったく優良な遺伝子サマサマだな」
隼一は右肩をさすりながら語った。
● ● ●
その翌日。
「あー、突然だが、今日からこのクラスに入る事になった転校生を紹介する。
――入って来なさい」
二年二組の担任の中年男性教師、小川が朝のホームルームでそう告げると、教壇側の引き戸が開けられた。
(えっ!?)
驚いたのは隼一だった。
転校生として現れたのは学校の制服を着た厄斗だったのだから。
「八丈島から来た鈹厄斗君だ。
――では、鈹君、挨拶を」
「拙者の事は『厄斗』で構わない。よろしく頼む」
浅く一礼した厄斗に向けて拍手が起こる。
隼一は隣りの空いている席に向けて歩を進める厄斗に、何やら因縁めいたものを感じた。
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