表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第五章 勝負の行方
16/52

勝負の行方【Bパート】

「だけど、水城(みずき)さんが捨てられた理由(わけ)はそれだけじゃない」


 矢口(やぐち)はそう告げると、ふっと笑った。


 打席には四番の棚橋(たなはし)が入る。


「来いっ!」


 気合を入れる棚橋。

 と、次の瞬間、隼一(しゅんいち)の様子が一変した。そして――


「うぷっ」


 隼一はマウンド上で嘔吐した。


「うげっ、きったねー」


 気合を削がれる棚橋。


「どーゆー事だよ、矢口?」


 初等部の野球部クラスの一人が(たず)ねてきた。


「水城さんにはトラウマがあるんだよ。

 初等部の時にチームメイトをデッドボールで死なしているんだ、あの人は。

 それ以来、バッターが経つとマウンドで吐くようになってしまったらしい」


「それじゃ、ピッチャーとしちゃあ終わりじゃんか」


「だからセンターに回されたって訳」


 得意満面に説明する矢口。



地波(ちなみ)くーん! エチケット袋は持ってる!?」


 利治(としはる)の問い掛けに、首を大きく横に振る鉄弥(てつや)


「水城、大丈夫か?」


 一塁手(ファースト)の金子が心配そうに声を掛ける。


「‥‥ダメだ、ゲロが‥‥止まらな‥‥うっぷ!」


「水城くん、もしかしたら(すめらぎ)大の子なら持っているかも!

 行ってみよう!」


 利治の提案により、三塁側ベンチまで連れて行かれる隼一。

 一方の皇大附属の面々として、それは迷惑行為以外の何物でもなかった。


「ちょっと誰か、エチケット袋を持って――」


 と利治が言った所で隼一の胃液が吐き散らされた。

 その直撃を受けたスポーツバッグの持ち主はベソをかく。


「ゲロ爆弾くらう前に逃げろーっ!」


 一人が退散すると、我も我もと気が付けば全員が逃げ失せていた。

 あまりの出来事に呆然とする利治たち。


「‥‥(わたり)先生、これって僕たちの不戦勝ですよね?」


 利治がロボット教師に(たず)ねた。


「ルール上ではな」


「じゃあ、僕たちの顧問になってくれますね」


「この勝利はお前たちの望む形のものなのか?

 俺から見れば実にくだらないゲームだった。悪いが、俺は約束を反故(ほご)にする」


「‥‥満足なんかしてない。

 でも、約束を破んのは教育者としてどうなんですか、先生?」


 嘔吐の波がようやく(しず)まった隼一が六號(ろくごう)を問い詰めた。


「ふっ、質問か。

 ――ならば、()えて質問を質問で返してやろう。

 お前たちのやった事は何だ?

 人数を集められなかった上にルールを改竄(かいざん)、不戦勝を盾にした試合の強要。

 挙句の果てに胃液による嫌がらせで相手を退散させるという外道極まりない勝利。

 それは人間としてどうなんだ?」


 六號の逆質問は隼一たちに精神的グラビトンを浴びせた。


「ぐはぁっ!」


 たちまち膝を地に着ける四人。

 だが、精神的グラビトンからよろよろと立ち上がる男がいた。

 利治だ。


「僕たちは野球を続けたい!

 それには先生が必要なんです!

 マッチメイカーとしての手腕がどうしても欲しい!」


 利治は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。


「ほう、それ程までに望むのなら最後のチャンスをやろう」


 六號は極めて冷徹に提示した。


「さ、最後の‥‥チャン、ス‥‥?」


 鉄弥(てつや)が痛む足を押して立ち上がる。


「先生、何ですか、それは?」


 隼一が立ち上がりつつ(たず)ねた。


「このグラウンドを全裸で十周走れたら顧問になってやろう」


 その条件に、四人は絶句した。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ