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キャプテンは牡羊座  作者: 鳩野高嗣
第四章 変則ルール
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変則ルール【Bパート】

「じゃあ守備なんだけど、僕がサードなのは決定として、地波(ちなみ)くんがファースト、金子くんがレフト。ピッチャーは水城(みずき)くんでいいよね?」


 利治(としはる)はそう言うと、ポジションに就こうと背を向ける。


「ちょっと待った!」


 声を上げたのは隼一だった。


「どうしたの? 小学生相手じゃ役不足とか?」


「違う、そうじゃない。」


「じゃあ何?」


「仁敷、このルールだと球は全部お前の所に行く。

 ピッチャーよりもファーストの方が重要だ。

 だから俺がファーストをやる。硬球慣れしてるしな」


「それもそっか。

 ――んじゃあ、ピッチャーは地波くんだね、よろしく!

 やるからには勝つからね!」


「う、うん」


 どこまでも強気な利治に、鉄弥の頬が自然と持ち上がった。


(――ったく、こいつは)


 隼一も利治の怖いもの知らずっぷりに先程の不安が和らいだ。

 すると、初等部の生徒たちがにわかにざわめき始めた。


「あの人って、もしかして、中等部の水城さんじゃね?」


「水城さんって、一年でセンターのポジションを取ったっていう?」


「伝説の百六十メートル遠投の人だよね!」


「なんでこんな試合に?」


「だけど左利きだったっけ? 別人じゃね?」


「バッカ、お前ら知らねーのかよ。

 水城さんは階段から落っこちて右肩、ダメにしちゃって、学校やめさせられたんだぞ!」


 ひそひそ話が徐々にトーンを上げていくと、話題の中心人物は背中に嫌な汗をかいた。


(‥‥やめてくれ、話が筒抜けじゃないか!)


「み、水城くん‥‥」


 事情を察したと思われる鉄弥が憐みの表情で隼一を見つめる。

 覚悟を決めた隼一は、うつむいて小声で、


「――後でキチッと話すから、今は試合に集中してくれ」


「双方、私語は慎め。

 ――質問がないようなら試合を始める」


 威圧感たっぷりの渡の声で試合が始まった。



 この試合、一番を任されたスイッチヒッターの前泊(まえどまり)秀太(しゅうた)は左打席に入ると、改めてルールの周到さを理解した。

 一見広く描かれた丸も、手前にはそれ程広くはない。つまり、セーフティバントが封じられているのだ。


(流し打ち限定って訳かよ)


 野球遺伝子の申し子はその初球、守備範囲ギリギリの二塁(セカンド)ベース方面に狙いを絞った。

 ハッキリ言ってその地点は本来、三塁手(サード)の守備範囲ではない。


 スカ――――ン!


 鉄弥の投げる素直な百八キロのストレートを狙い通りに飛ばす前泊。

 だが、その真正面には利治が既に待ち構えていた。


「なっ!?」


 ライナーで捕球する利治に驚愕する初等部の面々。

 それに加えて隼一もまた驚きを隠せなかった。


(硬球だと打球のスピードが段違い(だんち)だってのに、こいつは!?)


「やっぱ、硬球は打球が速いね。

 でも、水城くんのノックの方がスピードがあったよ」


 利治は嬉しそうにボールを鉄弥に投げ返す。


「なあに、今のはマグレだよ。俺が出塁してやるかんね」


 二番の森口(もりぐち)文一(ふみかず)がそう仲間に告げると、右の打席に入った。

 鉄弥はまたしてもど真ん中の打ち易いコースに投げる。


「こんなおっそい球、初等部の一年くらいなんじゃないの?」


 そう言いながら森口は、思い切りバットを振る。


 スカ――――ン!


 打ち放たれた鋭い打球は三塁ベース脇に着弾する。

 が、またしてもその真正面には利治がいた。

 利治はワンバウンドで打球を(さば)くと、一塁手(ファースト)の隼一に送球。


「アウトかぁ、くっそー!」


 この試合、判定は全てセルフジャッジで行われていた為、森口が叫んだ。


 続く三番、中堂園(なかどうその)佳典(よしのり)は丸のライン外野寄りギリギリに低めのフライを打ち上げるが、これもまた利治に好捕される。


「さあ、次は二回の表だよ! さあ、ジャンジャン来て!」


 利治はグローブに右の拳をバンバンと打ち込みながら小学生たちを(あお)った。

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