変則ルール【Bパート】
「じゃあ守備なんだけど、僕がサードなのは決定として、地波くんがファースト、金子くんがレフト。ピッチャーは水城くんでいいよね?」
利治はそう言うと、ポジションに就こうと背を向ける。
「ちょっと待った!」
声を上げたのは隼一だった。
「どうしたの? 小学生相手じゃ役不足とか?」
「違う、そうじゃない。」
「じゃあ何?」
「仁敷、このルールだと球は全部お前の所に行く。
ピッチャーよりもファーストの方が重要だ。
だから俺がファーストをやる。硬球慣れしてるしな」
「それもそっか。
――んじゃあ、ピッチャーは地波くんだね、よろしく!
やるからには勝つからね!」
「う、うん」
どこまでも強気な利治に、鉄弥の頬が自然と持ち上がった。
(――ったく、こいつは)
隼一も利治の怖いもの知らずっぷりに先程の不安が和らいだ。
すると、初等部の生徒たちがにわかにざわめき始めた。
「あの人って、もしかして、中等部の水城さんじゃね?」
「水城さんって、一年でセンターのポジションを取ったっていう?」
「伝説の百六十メートル遠投の人だよね!」
「なんでこんな試合に?」
「だけど左利きだったっけ? 別人じゃね?」
「バッカ、お前ら知らねーのかよ。
水城さんは階段から落っこちて右肩、ダメにしちゃって、学校やめさせられたんだぞ!」
ひそひそ話が徐々にトーンを上げていくと、話題の中心人物は背中に嫌な汗をかいた。
(‥‥やめてくれ、話が筒抜けじゃないか!)
「み、水城くん‥‥」
事情を察したと思われる鉄弥が憐みの表情で隼一を見つめる。
覚悟を決めた隼一は、うつむいて小声で、
「――後でキチッと話すから、今は試合に集中してくれ」
「双方、私語は慎め。
――質問がないようなら試合を始める」
威圧感たっぷりの渡の声で試合が始まった。
この試合、一番を任されたスイッチヒッターの前泊秀太は左打席に入ると、改めてルールの周到さを理解した。
一見広く描かれた丸も、手前にはそれ程広くはない。つまり、セーフティバントが封じられているのだ。
(流し打ち限定って訳かよ)
野球遺伝子の申し子はその初球、守備範囲ギリギリの二塁ベース方面に狙いを絞った。
ハッキリ言ってその地点は本来、三塁手の守備範囲ではない。
スカ――――ン!
鉄弥の投げる素直な百八キロのストレートを狙い通りに飛ばす前泊。
だが、その真正面には利治が既に待ち構えていた。
「なっ!?」
ライナーで捕球する利治に驚愕する初等部の面々。
それに加えて隼一もまた驚きを隠せなかった。
(硬球だと打球のスピードが段違いだってのに、こいつは!?)
「やっぱ、硬球は打球が速いね。
でも、水城くんのノックの方がスピードがあったよ」
利治は嬉しそうにボールを鉄弥に投げ返す。
「なあに、今のはマグレだよ。俺が出塁してやるかんね」
二番の森口文一がそう仲間に告げると、右の打席に入った。
鉄弥はまたしてもど真ん中の打ち易いコースに投げる。
「こんなおっそい球、初等部の一年くらいなんじゃないの?」
そう言いながら森口は、思い切りバットを振る。
スカ――――ン!
打ち放たれた鋭い打球は三塁ベース脇に着弾する。
が、またしてもその真正面には利治がいた。
利治はワンバウンドで打球を捌くと、一塁手の隼一に送球。
「アウトかぁ、くっそー!」
この試合、判定は全てセルフジャッジで行われていた為、森口が叫んだ。
続く三番、中堂園佳典は丸のライン外野寄りギリギリに低めのフライを打ち上げるが、これもまた利治に好捕される。
「さあ、次は二回の表だよ! さあ、ジャンジャン来て!」
利治はグローブに右の拳をバンバンと打ち込みながら小学生たちを煽った。
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