10月29日 その2
「あ、おかえり。ケーキは?」
「いきなりそれかよ。はいコレ。クリスマスケーキの試作品」
「やった。ハルくん大好きっ。おじさん、さっき仕事行ったよ」
「おばさんは?」
「遅くなるって。なんか人手が足りないんだって」
「へぇ、公務員も大変だよな」
「と言うことで――」
「うわっ。ちょっ、いきなりなんだよ」
いきなり抱き着いてくる琴音にバランスを崩し、危うくケーキの入った箱を落としそうになる俺。そういうとこだよ。琴音さん。
「? どうしたの?」
「あのさ、琴音?」
「なに?」
「とりあえず、離れてくれないか?」
「あ、ごめん」
「その、急に抱き着くのは出来れば止めてくれないか」
「ご。ごめん」
ちょっと冷たくし過ぎたか? 表情を曇らす琴音を見ると少しばかり罪悪感を覚えてしまう。
「ハルくん、こういうの苦手?」
「苦手って言うか、もう少し線引きしてほしいって言うか――」
「そ、そうだよね」
「別に嫌じゃないけどさ、返事聞けるまではセーブしてくるとありがたいかな」
「う、うん。わたしたち“姉弟”だもんね。努力する」
「ケーキ、チョコとクリーム好きな方選んで良いぞ」
「ホント? やった。じゃあ、チョコ! あとクリームも食べたいっ」
「いやどっちかにしろよ」
「どうせ莉子たちと一緒にお店で食べてるんでしょ。だったら両方食べても良いじゃん。あ、冷蔵庫入れとくね」
「はいはい。先にシャワー浴びてくるから」
ケーキの入った紙箱を琴音に託して脱衣所に入った瞬間、俺は大きく息を吐いた。やっぱり琴音と二人きりになると調子が狂う。




