表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/86

82・少しずつ変わっていく

「みなさんに会って、お礼が言いたいな」


 ティサリアは幸せな気持ちで、甘くみずみずしいコンポートの最後のひと口を食べる。


 飛空船での出来事がつい先ほどのようにも、ずっと前のようにも思えるのが不思議だった。


「だけどあの領地を下賜する候補はたくさんいるってお父様も言っていたのに、カル兄が選ばれるなんて……すごいことだよね」


「カルゼ殿は堅実な方だから、パフォーマンスめいたことで人気取りや注目を得ようとはしないけれど、すでにアルノリスタ王国の魔導技師ギルドの会頭として、国から信頼に足る人材だと認められていたんだ。それとティサリアは知らなかったと思うけれど、あのとき甲板とラウンジを繋げるモニターの調整をしたのは、彼なんだよ」


「えっ!」


「飛空船のモニターは欠陥品だったらしいけれど、カルゼ殿が船内にある道具で臨機応変に修理してくれたんだ。他にもフォスタリア殿が魔導砲を使おうとしたことで起こった、飛空船の機能の問題にもいち早く気づいて、正常に保つため尽力してくれたりね。今回の対応力と活躍を目の当たりにした招待客に改めて注目されて、一気に評判が高まったんだ」


(そういえばひいお爺様の邸館で遊んでいたとき、カル兄は壊れた魔導具のランプを楽しそうに修理していたな)


「カル兄ならきっと、素敵な領主になってくれるね」


「そうだね。新領主について知った領民たちは、謙虚なカルゼ殿をフォスタリア殿とは違う気質を持っていると、とても期待しているようだよ」


「うん。カル兄は領民の方とも……それに竜やマルエズ王国とも、仲良くしてくれると思うな」


「もちろん。騎竜隊編制やティサリアを俺の妻として迎えることもあって、マルエズ王国との関係はこれからのアルノリスタ王国にとって重要だからね。そこで『カルゼ殿はティサリアの従兄で、マルエズ王国で竜騎士団長をしていたギルバルト殿のひ孫でもあるから、マルエズの国民にも受けがいい』と、誰かが文官たちに入れ知恵していたみたいだよ」


「誰かが?」


 ティサリアの脳裏にふと、フォスタリアから自分の身辺を嗅ぎ回られていると噂があったときも、にこにこと笑顔を絶やさない父が浮かんだ。


「その方は自分の娘が近い将来住む国の事情を考えて、フォスタリア公爵領がいずれこうなると予想……いや。予定していたのだろうね」


「なるほど……」


 最近の父は「今年のエイルベイズ領内の増産は、アルノリスタの取引に主軸を置いてるよ」「新しい事業の話がいくつか持ち上がっているんだ」と、領地経営に奔走していたが、それはアルノリスタ王都だけでなく、新たにカルゼが管轄する地域を含めての忙しさだったらしい。


(確かにお父様は、昔から大人しくて優秀さが目立ちにくいカル兄のことを、周囲の人よりずっと高く評価していたし、きっと他にもいろいろ……ありえる)


「それと現在、王領では騎竜隊の準備を進めているんだ。その間ヴァルドラは人と暮らす練習もかねて、カルゼ殿の新領で時々お世話になっているよ」


「ヴァルドラが!」


「俺もこないだ会いに行ったよ。少しずつヴァルドラの言葉がわかるようになってきて、『黄リンゴのパウンドケーキが食べたい』『ティサリアに持ってくるよう催促の手紙を送ってくれ』『妥協して他のスイーツでもいいから欲しい』とせがまれているよ」


 その様子が思い浮かんで、ティサリアも笑ってしまう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ