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81・新領主はあの人

 ***


 飛空船での一件から、ひと月ほど経ったその日。


 ティサリアはクレイルドと出会うことができた、あの夜会に誘ってくれた従兄の名前を聞いて、エイルベイズ邸館の談話室に驚きの声を響かせた。


「ええっ! フォスタリア公爵領は、カル兄が引き継ぐことになったの!?」


 ティサリアと向き合って座るクレイルドは、ひとくち楽しんだ紅茶のカップを置く。


「うん。フォスタリア公爵領だった地域は現在、王領となっているけれど、近々カルゼ殿に下賜されて、トルクジア侯爵領に改めることが決まったよ」


 テーブルを挟んでクレイルドと向き合っていたティサリアは、黄リンゴのコンポートを刺したフォークを握りしめたまま、先日カルゼから珍しく届いた手紙に書かれていたことを思い出す。


(『ティサがあの飛空船を守ってくれてから、従兄の僕に色々な話が舞い込んできます。君の父君にもよろしく伝えてください』ってあったけれど。そのことだったのかな)


「だけどそうだよね。フォスタリアさんは、もう北へ発っているし……」


 飛空船での出来事のあと、招待客たちはすぐにフォスタリアの様々な問題を王城へと持ち込んでいる。


 それがきっかけとなり、内政に携わる者たちからすでに煙たがられていたフォスタリアは、爵位とそれに伴う権利をとんとん拍子で剥奪されていた。


「だけどその領地は、借金がたくさんあるんでしょう? 引き継ぐカル兄やそこに暮らす領民の方は大丈夫なのかな……」


「そのことならラウドが珍しく主導を取ってくれたよ。とりあえず領地の財政を圧迫させた補填として、フォスタリア殿が公的、私的に買った生活に不要なものは清算されたんだ」


 それでも足りない分の代価として、フォスタリアは僻地の開拓民として異例の長期で国に雇われ、現在は過酷な労役に服す生活を送っている。


 ちなみに送り込む開拓部隊はザックが選定し、「殺鬼隊長」と呼ばれるほど有名な上司の元を選んだ。


 そして雇用報酬は王領で用立ててすでに返済へあてたり、飛空船の招待客たちもフォスタリア領に対する援助を次々に申し込んでいる。


 そのため、これからの新領主と領民の生活は過酷なものにならない見通しも立っていると聞き、ティサリアは安堵の息をついた。


「すごいね。飛空船で居合わせたあのたくさんの方たちが、そろって協力してくれるなんて」


「それはみんな、ティサリアのことを好きになったからだよ」


「……私を?」


「ティサリアが飛空船で言っていたじゃないか。フォスタリア殿に関する処遇は『困っている人がいたら助けて欲しい』って。君の言葉を、あの場にいた人たちは自分なりに解釈したんだよ。だからあの領民たちが苦しむことがないようにと考えて、力添えしてくれた」


 ティサリアはその言葉を聞き、胸が熱くなった。




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