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8・理想の恋人

 ティサリアはなおも怒りに震えている可愛い妹の背中を、そっと撫でた。


「マイリー、私は大丈夫だよ。カル兄やみんなに会えて楽しかったし、今度は一緒に行けたら良いね」


(でももし一緒に行っていたら、とんでもないことになっていた気がするけど……)


 マイリーンはティサリアに撫でてもらっていることが嬉しいらしく、まだ不満そうではあったが、猛獣が手なずけられたように大人しくなる。


(だけどあの人、私の解呪で身体が弱ったりしていないかな)


 呪いが唐突に取り払われると、それが刺激となって徐々に身体を病んだり、実はわずかに残っていた場合など、思いもよらない変調の可能性も考えられた。


 呪術の師匠から仕込まれた「解くだけなら三流」という言葉がしみついていて、ティサリアは彼の予後が気になっている。


「ところでお姉様、そんな腐れ目玉男よりずっと重要な話を、私はまだ聞いていなかったわ」


「そうなの? もう話せることもないと思うけど……」


「もうっ、夜会で一番大事なことを忘れているのね! お姉様がプロポーズを受けてもいいと思えるような、素敵な男性には出会えなかったの!?」


 マイリーンの言葉に、ティサリアの心臓が跳ねる。


 夜会での出来事は包み隠さず話したつもりだが、会場を出た後のこと、特にクレイと名乗ってきた警備兵風の美形から受けた『相談』については、さすがに言えなかった。


(クレイは私を探していた想い人と誤解して、すごく喜んでいたけど……人違いだってわかってもらえたのかすら、わからないままになってしまったな)


 もっと上手く説明出来れば、納得してもらえたかもしれないという心残りが、ティサリアを時々ちくりと刺した。


「素敵な男性に出会う以前の問題として、私、こんなに人違いにあっていて大丈夫なのかな」


 どこかの誰かと結婚した数年後、「人違いでした」と去っていく夫の後ろ姿を想像すると、全く笑えない。


 引きつり顔のティサリアとは対照的に、マイリーンは甘い恋の話でもしているかのように、うっとりとした表情になった。


「そういえば昔、ひいお爺様の邸館に集まった親戚の女の子同士で、理想の恋人の話をして盛り上がったことがあったわよね。私はまだ小さかったけれど、お姉様が『自分のことを間違えずに見つけてくれる人』って言った時、痺れるくらい甘い感動に襲われて……! あの時から、私は絶対に素敵な恋愛をするって決めたの! ふふ、お姉様って意外とロマンチックなところがあって、その意外性が可愛すぎるのよね!!」


「そうかな……?」


 人違いにあいやすいティサリアは、自分を間違えずに見つけてくれることを恋人に求めるのは、可愛げがないほど現実的だと思えたが、マイリーンは胸をときめかせた様子で自分の世界に浸っている。


「だからお姉様! 他の人が何と言おうと、私はお姉様が納得できる相手ならどんな方でも応援するわ。例え困難のある愛だとしても……いいえ、むしろ困難で辛い時だからこそ! お姉様が望む限り私は味方でいるからね!」


「う、うん。私はそういうの、平凡だといいなと思っているんだけど。でも、ありがとう」


 自分とは少々温度差のあるマイリーンの激励を受けていると、部屋の外の廊下から足音が近づいてきた。


 ティサリアが気づいたのとほぼ同時に、ノックが鳴る。


 返事をすると素早く扉が開き、ティサリアとマイリーンの父が颯爽と現れた。


 珍しく慌てた様子だったので意外に思ったが、父は若い頃からモテたという知的な雰囲気は今も変わらず、ティサリアへ品のある笑顔を向けてくる。



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