74・アミュレットの加護
フォスタリアの背後にいる弓騎士たちが、独り言のように囁き合う。
「クレイ、とは……」
「おそらく我が国の、クレイルド第二王子殿下のことですよね」
「竜騎士様は、殿下と親しいのか」
彼らの言葉を聞き、ティサリアの迫力に気圧されていたフォスタリアは、上の空で繰り返す。
「クレイルド殿下と、親しい……?」
(はっ!)
フォスタリアに言い募り、肩で息をしていたティサリアは今になって、クレイルドの愛称を連呼していたことに気付いた。
(どうしよう。この場で婚約者だって名乗ってもいいのか、よくわからない……。クレイも個人情報を「怪しい人に言わない方がいい」って心配していたし)
黙り込んだティサリアを見て、フォスタリアは徐々に平静を取り戻してくる。
「おや、あなたは殿下とずいぶん仲が良いのですね。クレイルド殿下がマルエズ王国の伯爵令嬢に熱を上げていると、調べはついているのです。あなたですね?」
「わ、私はただの、通りすがりの竜の友達で……!」
「ごまかしても、私を騙すことなどできませんよ? しかし殿下のお気に入りが、邪竜と共に国を荒らす賊だとすれば、都合がいい!」
フォスタリアは勝ち誇ったように高笑いを響かせた。
「我が配下の弓騎士たちよ、あなた達の心は邪竜に支配されていましたが、私の命に従えばあなたたちの家族の未来は保障しましょう。いいですか! 竜騎士を名乗るそこの不届き者に、偉大な一撃を打ち込んでやりなさい! さぁ、今です!!」
船内へと続く出入り口の扉が、派手な音を立てて内側から吹き飛ぶ。
その勢いのまま、金属製の扉はフォスタリアめがけて容赦なく襲いかかった。
「べぶっ!!」
全身でその衝撃を受け取ったフォスタリアは、めりこむように硬い床へ押しつぶれる。
「よし、開いたな」
風通しの良くなった出入口に立つ長身の男が、扉を蹴り飛ばした片足を下ろすと、独り言のように呟きながら歩み出てきた。
「扉が施錠されていたから、とりあえず自己流で開錠したけれど。何かあったのか?」
「クレイ!」
呼びかけられたクレイルドは、兜を取って自分を見つめているその人に気づいて、目を丸くする。
「会いたくて……睡眠薬が残ったまま夢でも見てるのか、俺は」
「睡眠薬?」
「ああ。結構きついの浴びせられてね。でもティサリアとリンが守ってくれたよ」
クレイルドは服の下のアミュレットがある胸の辺りを、拳でとんとん叩く。
「これのおかげで、丸一日は眠りこけているはずの俺が目覚めて、フォスタリア閣下は驚いているだろうけれど」
言いながら周囲を見回していたクレイルドは、自分が壊した扉の下で、フォスタリアが白目をむいて失神していることに気づいた。
「……」
その原因に思い当たり絶句していると、弓騎士たちが泣きつくように駆け寄る。
「「「殿下、助けに来てくださって、本当にありがとうございます!!」」」
「……なるほど。だいたいわかった」




